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スティーブ・ジョブズに学ぶ7つのメディアPR戦略
先週サンフランシスコでにてAppleの年次開発者イベントWWDC14が開催され幾つかの新製品やアップデートが発表されました。そしてその発表後直後から多くのメディアがその様子を記事としてリリースしています。その一方で、創立者、故スティーブ・ジョブスの現役時代に匹敵するレベルの意外な発表は少なかった気もします。
その理由の一つとして、イベントでのリリース前より製品に関する情報が一部のメディアに漏れたり多くのユーザーの予想と大きく異なる内容ではなかった事があげられるでしょう。iPodやiPhoneが最初に発表された際には大きな注目とその意外性から発表直後から実に多くのメディアにその内容が取りだたされていました。
今回の発表は恐らくジョブスが現役時代程のインパクトは正直得られたかった感じがします。同じ製品でもその見せ方やタイミングで、消費者が受け取る価値に大きな差が生まれます。
その当時からAppleの製品が注目されていた裏には、そのラインナップだけではなく、実はジョブスによる卓越したメディア戦略が隠されていたのです。ジョブズは、敏腕なビジネスマンであっただけでなく、すべてをショーのように”魅せる”ことにおいて天才的な才能を発揮していました。
そして、彼のメディアPR戦略の優れている所は、メディアに対しての期待値のコントロールです。彼は新製品を発表するその瞬間まで、情報を一切漏らすことはありませんでした。そして、誰も知らなかったAppleのイノベーションがジョブズの手によって公開されたその瞬間から瞬く間に世界中にその情報が一気に広がる。
この情報公開のスピード感の裏側には、実は緻密に計算されたジョブズのメディアPR戦略があったのです。
メディアでのPRを成功させることは、ビジネスにおいて非常に重要なポイントです。潜在的な顧客の関心をひきつけ、売り上げに向上につながり、熱心なファンをつくることで長期的な成功につながるからです。ジョブズはそれを誰よりも理解していました。では早速、Appleがジョブズのもとで大きな成功を手に入れた裏にあった7つのメディアPR戦略の正体に迫ってみましょう。
1. 秘密主義
Appleはジョブズのもと世界中で最も秘密主義の会社であると言われています。誰が何を公言していいかという決まりがあっただけでなく、業界でもまれに見られる厳格すぎるまでの情報漏洩に関する非公開の同意が従業員に求められていました。世界中に、非公認の情報漏洩がないか探し出す忠誠なチームを持っているとまで言われています。
どんな手法をとっていたかを一旦おいておくとしても、Appleの秘密主義を守り抜く信念はずば抜けています。マスメディアがどんなに大多数の人の興味をそそる未公開の最新のニュースを探し求めていても、彼の秘密主義は徹底していました。
しかし、何事もバランスが大切です。秘密主義といってもその裏に何もなければ、それがいずれ明らかになった時、笑い者になってしまいます。一方で、今どんなことが社内で起きているのかという全ての情報を外にもらしてはいけません。詳細な情報を公開する準備が整うまでは、最新の情報は内に秘めておくものです。そうすることによって競合他社に有利になる情報を与えてしまうこともなくなるでしょう。
2. 気の合う記者を選ぶこと
Appleとジョブズ自身にはお気に入りの特定のニュース番組と記者たちがいました。例えば、ウォールト・モズバーグ(当時ウォールストリートジャーナル社)、ジョン・グルーバー(ダーリングファイヤーボールというブログの記者)は常に信用されていました。ジョブズは彼が成し遂げようとしていることを理解出来る賢明な記者を見つけ、その出会いに感謝して、Appleとその記者たちとの関係を深めていきました。
Appleは全てのマスメディアにどんな情報も提供していた訳ではなく、気の合う記者を見つけ、会社が成し遂げようとしていることを正確に伝達することに努めていたのです。
二つめのお気に入りは、内部情報やスクープをとらえるチャンスを待ち望んでいる記者たちでした。彼らは忠誠心は少ないけれど、よりAppleに共感的にふるまったからです。彼らは個人的なキャリアにおける競争力のために、Appleの内部情報を入手できなくなることを恐れ、こぞってAppleに近づこうと努力していました。
全ての記者があなたが書いてほしいことを記事にしてくれるわけではないことは、心に留めておかなくてはいけません。中にはただ関係を深めて情報を集め、彼らの書きたいことを書くだけの記者も多いのです。
3. 協力的ではない人は排除する
Appleとジョブズは誤った報道には非常に厳しく対応していました。特にAppleが強調したいことに焦点を置かず、公にしたくない情報ばかりを報道するようなものです。たった一つの報道で致命的な結果を招きかねないからです。このような誤った報道を見つけた際は、その後のAppleに関する情報へのアクセスを断ち、他のメディアに先に情報を与えるようにしました。もしくは、Apple自身がその記者の報道を否認するプレスリリースを発表し、水をかぶせることもありました。
これは危険な方策でもあります。誤った報道への仕打ちを明らかにすることは、その敵を他の競合他社の味方に突然かえてしまうこともあり得るからです。
4. 情報漏洩を徹底的に制御すること
Appleほど、メディアの情報漏洩を制御することにおいて右に出るものはいないでしょう。Appleの前任経営者ジョン•マルテヤノは、技術者がどのように情報漏洩を制御するかという記事まで書いています。要約すると、経営幹部がメディアと交流の深い現場の従業員にメディアに伝えるべき情報をさりげなく促すことで、書面を直接シェアすることなく自然に情報が伝わるようにしていました。
自社内で確保された重要な情報が書いてある書類は、実際の報道と照らし合わせ、消費者のApple社製品の機能、値段、政策に対する反応や、競合他社、近日公開される予定の製品のお披露目イベントに対する関心を判断するのにとても役立ちました。
5. 現実的な嘘をつくこと
”現実的な嘘をつく”ということは少し聞き慣れないですが、この場合、お気に入りの記者に統制された機密情報を渡す、もしくは経営陣が意図的にむき出しの情報を流すことや、会社が露骨に正確でない情報や誤解しやすい情報を発信することをさしています。典型的な例は、ジョブズがApple社は携帯電話の製造にのりだしていないと発表したときです。
この発言は競合他社を安心させ、彼にもっと戦略を練る時間をもたらしました。他の例でいうと、VerizonがついにiPhoneを取得したという噂が広まった時のことです。実際に取得完了しており、この噂はアンドロイドがiPhoneの代わりに話題になるのを防いぎました。
6. 完璧なプレゼンテーションをすること
マーケティングやPRの世界では、観衆を惹きつける力が全てである。ジョブズはこの点において多くのファンがいるほど才能を発揮していました。どんなプレゼンテーションでもスムーズに首尾が一貫した、人の心を動かすような完璧なものでなくてはなりません。
つまり、新しい商品の発表から、会議におけるステージ上のインタビューまでの全てがアピールするチャンスなのです。記者たちはいつも、彼らを息をのむほど引き込ませるようなプレゼンテーションや、彼らの目を覚まさせ考えさせるような話を聞くことを期待しているからです。
7. 取り上げられる価値のあるものを提供すること
これは最大のトリックです。上記の全てのテクニックはメディアがあなたのことを取り上げるアクションを起こした時にどのように対応すればよいかという段階の話です。それ以前に、メディアに取り上げられるための理由付けが重要になります。顧客から熱望されるような製品やサービスを作り上げられれば、より多くの記者たちがこぞってあなたのことをメディアに取り上げるようになるでしょう。
まとめ:
いかがでしょうか。ジョブズのとても細かく厳しい性格の一面が大いに発揮されているととれるでしょう。このような7つの戦略によって、Appleは記者とのやり取り、公開する情報の取捨選択やタイミングをはかることを芸術的なまでにやり遂げてみせました。
ジョブズはApple社の成功を徹底的に追求するために、ある時は社員を激励し、ある時は怖がらせながらも細心の注意を払ってメディアを活用していました。彼のたぐいまれなるセンスだけでなく、細部までこだわり抜いて自分にも他人にも厳しくルールを守らせる姿勢がAppleの製品の魅力を最大限に引き出したともいえるでしょう。
今回のジョブズの例から、メディア戦略はただ情報をより拡散させるだけではなく、メディアコントロールの重要性とその影響力を利用するべきであるということがよく分かります。アメリカにおいて、どの情報を、誰から誰に、いつ、どのように伝えるのかということを戦略的に行うことがメディアPRの極意と結論付けられるでしょう。
組織が大きくなればなるほど細部の情報までコントロールするのは難しくなりますが、その重要性を組織全体で理解し、注意を払うことです。いかなる状況であれ、全ては情報をどのように操るかです。状況を見極めて使い分ければ非常に効果的な結果を生み出すでしょう。
海外でのメディア戦略サービスに関しては、お気軽にビートラックス、tokyo@btrax.comまでお問い合わせ下さい。
photo by Ben Stanfield