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澤円x越川慎司激論!日本企業がイノベーションを生み出す組織になるには【DFI 2019】
- イノベーターとは要素の組み合わせができる人や、足し引き掛け算ができる人は、イノベーターになる可能性は十分にある
- 芽を育てるマインドセットと前進が見られる失敗には評価を与える制度を
- イノベーションできないことの言い訳をするのではなく、「当たり前を疑う」こと。お互いに不得意なことを補い合える人を見つける
「イノベーション」や「グローバルマインドセット」。口で言うことは簡単だが、依然として横並び意識が色濃い日本の企業で実行に移すハードルは高い。
なかなか躍動できない若手や、そんな若手たちをどう扱うべきかわからないマネージメント層、その板挟みになっているミドル層。今や日本企業に属する全員が共通して抱いている課題と言っても過言ではないだろう。
この課題に対して今回は、2019年11月5日にFiNCにて開催された「DESIGN for Innovation 2019」にて繰り広げられた澤円氏と、越川慎司氏によるセッションからヒントを得たい。
本セッションのQ&Aは、多くの参加者から質問をいただき、大変盛り上がりを見せた。会場で上がったリアルな疑問の声をベースに、澤氏、越川氏にお答えいただいた企業内のイノベーターの原石を見つけ、育てていくためのマインドセットやチームビルディングについてのポイントをご紹介する。
ゲストスピーカー紹介
澤 円 圓窓代表 外資系大手IT企業業務執行役員 琉球大学客員教授 btraxアドバイザー
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、大手外資系IT企業に転職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。最新のITテクノロジーに関する情報発信の役割を担う。2006年よりマネジメントに職掌を転換し、ピープルマネジメントを行うようになる。直属の部下のマネジメントだけではなく、多くの社内外の人たちのメンタリングも幅広く手掛けている。数多くのイベントに登壇し、プレゼンテーションに関して毎回高い評価を得ている。2015年より、サイバー犯罪に関する対応チームにも参加。2014年4月、日本アンガーマネジメント協会公認ファシリテータとなる。
越川 慎司 株式会社クロスリバー代表取締役CEO
国内外の通信会社を経て、WebExの創業メンバーとして参画。2005年マイクロソフト入社し、最高品質責任者やOfficeビジネスの業務執行役員。2017年に独立し、528社16万人の働き方をスイッチさせながら、デザイン思考で17件の新規ビジネス開発し62億円の新規売上を生み出した。オンライン・アシスタント・サービスであるCASTER BIZを利用し、全メンバーが週休3日を実践している。 最新自著 『超・時短術』はAmazonカテゴリー1位を獲得しベストセラーに。
Q.そもそも企業内でイノベーターは育てられるものなのか?
イノベーションや新規事業に取り組んでいる方に共通する問題意識として、イノベーターはやはり先天的なものに依るのではないか?という声が上がった。この問いに対し、越川氏は、後天的にも、イノベーターたるポイントを身につけることはできるとの回答だ。
越川氏:
「イノベーション」という言葉は「技術革新」と翻訳されましたが、誤訳だと思います。シュンペーターは「新結合」としました。「新結合」は、今ある要素を組み合わせて化学反応を起こすこと。つまり、要素の組み合わせができる人や、足し引き掛け算ができる人はイノベーターになる可能性は十分にあるということです。
関連記事:イノベーション=技術革新はもう古い!新たな価値を創造した9事例
芽を摘まないマインドセットとそれに見合う評価制度を
澤氏:
日本は、同質性や異なるものの芽を摘んでしまう性質がある。芽が大きく育つ場を与え続けない、その代わり、大きなミスもしなければ、定年まで養うという考えがずっと続いてきた。この考えも終わりが近いのではないかと。イノベーション人材育成のためには、投資や仕組みのアップデートだけでなく、「芽を育てる」というマインドセットが重要です。
越川氏:
イノベーションは、異質の組み合わせでしか生まれないため、異質を避けない文化をいかに作るかが大切です。仕組みの話で言えば、評価の基準となるジョブディスクリプションと評価制度は重要だと思います。失敗しても前に進んだ人には評価を与え、成果を残した人にはさらに評価を与える制度を作るべきです。
澤氏:
シリコンバレーは失敗を許容するカルチャーだと言われますが、失敗を許しているのではありません。ただ、失敗はつきものなので、早めに失敗するようにチャレンジを心がけるということ。失敗することを前提にする考えを根付かせることが日本でも求められます。
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Q.若手が新たなアクションを起こすことに対してマネージメント層が尻込みをしている状況で、実際にアクションに移す際に重要なポイントとは?
大企業で働いていると、マネージメント層が持つ失敗へのマイナスイメージが拭いきれていない印象を度々受けるという。
アイディアを出したり、アクションを起こしたりすることの重要性を理解していても、マネージメント層がなかなか腰を上げない。そんな状況では、若手たちも自分たちで実際にどう動いていくべきかわからないというのが課題だ。これに対して、組織としてどのようにアプローチすべきなのか。
当事者としてのマインドセットに切り替える
澤氏:
どれほど大きな企業でも、会議に集まるのは10名程度。つまり実働の単位は、アーリーステージのベンチャー企業サイズと同じだと理解し、このマインドセットがチーム内に共有されていることが重要です。
個人単位で、各人の行動や仕事がどんな変化をもたらすのかを考え、解像度高く物事を捉えることで変わっていきます。
越川氏:
「なぜやらなきゃいけないか」を腹落ちをさせることも大切だと思います。現場で自分たちで考えてイノベーションを起こせと言われてる状況ですが、今までの体制ではこれに対応できません。ここに組織も評価制度も働き方も変える必要性があります。この必要性がマネージメント層にも現場にも理解されていないといけない。
関連記事:上司が若手を育むための5つのマインドセット【DFI 2019】
澤氏:
今は世界中の多くの人がモバイルデバイスを持ち、情報に簡単にアクセスできる時代です。要するに、何もかもが「バレる世界」になっています。そんな世界では、従来のように「考えなくても上手くいく」ということが、もはや通用しないこともバレてしまっています。
その他の大きな変化として、テクノロジーの進化で今までのアプローチでは太刀打ちできない競合や、優れた技術と対峙しなければいけなくなっている状況があります。ほんの数年でここまでの変化が起きているので、マネージメント層だけでなく、全社員に目を向けた組織づくりが必要です。
関連記事:AIに負けない新しい価値を生み出すために必要なマインドセットとは?
Q.リソースが限られている場合、小さな組織の中でもやっていかなくてはいけない場合のケースとは?
上記の質問は比較的大企業によくある疑問とその対策だ。一方、規模の小さい組織でも、リソースという点でも大きなアドバンテージがある。彼らがイノベーターを育て、イノベーションを作り出すためにはいかに動くべきなのだろうか?
当たり前を疑う
越川氏:
当たり前を疑うことから始めると良いと思います。とある人手不足に悩むベンチャー企業は、あることをしたら、応募が月に1000人来るようになりました。
それは、完全リモートワーク制を導入したこと。優秀な人は都市部に飽和している一方、地方では余っている状況に目をつけました。時間に融通を効かせ、場所も自由にした結果、大成功。働く時間と場所という当たり前を見直したら採用の仕方が変わった例です。
「アベンジャーズ」を目指す
澤氏:
困ったら助けてもらう相手を探し、自分のできないことをコンテンツ化し、アウトプットをして仲間を募る視点も重要です。人それぞれ得意不得意がある中で、お互いに不得意なことを補い合える人を見つけることで、新結合ができ、イノベーションに繋がるかもしれません。
全てに長けるのではなく、部分的に長けている人を探すための時間を取り、お互いの足りないところを埋めていく、アベンジャーズのようなチームができると良いですね。
越川氏:
26社のクライアント企業で上位5%のエース級の人たちの行動や思考を調べた結果、面白かったのは、全員弱みを見せていたこと。弱みを見せて人を集めることは、どんな企業でもできると思います。
Q.そもそもマインドセットが未熟な人にはどうコミュニケーションを取って変えるべきなのか?
リソースが不足している以前に、そもそもイノベーター的マインドセットが未熟な人に対しては、どのように働きかけるべきなのだろうか?また、どんな行動から始めるべきなのだろうか?
澤氏:
ネガティブな発言は、言い方を変えることです。「できない」のではなく「どうすればできるのか」。「難しい」ではなく「達成するためには何が足りないのか」。マルバツの言い切りで終わらせず言い方を変えて考えさせる。足りないことを理解し、次の思考に進めるようにすることがイノベーターの思考です。
時間を作り出し、行動する時間として使うことが重要
越川氏:
意識より行動を変えることの方が簡単です。「動機づけ」と「能力」と「きっかけ」が組み合わさった時に「行動」が生まれます。日本の企業で働いている人に足りないのは「きっかけ」、その中でも「時間」です。
例えば、会議、メール、資料作成に割く時間のムダを個人レベルで削減をすると、1週間の稼働時間のうちの12%以上の時間が生まれます。時間を作ることが勝ちパターンです。
澤氏:
アクションを起こすとなった時に、「何から始めればいいですか?」という質問があるのですが、僕はやめることを決めてくださいと伝えています。
僕は、自分のチームミーティングをやめ、ミーティングに出ることもやめました。次に、メールを見ることをやめました。未読件数は15000件を超えました。それでも何も起きていません。こういったことをした結果、時間ができたので副業という形で自分のやりたいことをやるようになりました。
越川氏:
時間を減らす方法で成功する3つのパターンがあります。まずは、アジェンダが24時間前に決まっていない会議を禁止にすること。そして、会議を45分にすること。45分にするとアイデアも出るし、時間通り終わる確率が3倍に上がります。あとは、メールのccのルールを各部門で決めること。これだけで労働時間は18%減ります。
Q.トップダウンでの変革がない限り、日本企業で組織を変えることは難しいと思いますが…。
社内に仕組みや働き方の変革の動きはあるものの、その取り組みが通常の仕事に上乗せをする形になり、むしろ圧迫しているという本末転倒な状況もあるようだ。
さらには、その動きがマネージメント層に届いておらず、実際にはワークしていない問題も。ここには、トップダウンとボトムアップという考え方も大きく影響するが、お二人はどう考えるのか。
マネージメント層の許容力と、若手のチャレンジ、両軸のバランスを取る
澤氏:
これはまさに、やらないことを決めるのではなく、足し算をしてしまっているケース。まずは、やらないと決めることから始めるべきです。
越川氏:
僕は、トップダウンは必要ではあるけど十分ではないと思います。トップダウンとボトムアップの両輪のバランスが重要です。しかし、上手くいっている企業は、確実にボトムアップが強いです。
ボトムアップ成功の秘訣は、自分たちがやってみてワークしたというチャレンジを繰り返すこと。例えば、会議や資料やメールを減らすのは、トップじゃなくて現場。現場がやり、数字の成果を出し、それを見せてトップを動かすという流れです。
関連記事:日本企業が直面する課題へのデザイン思考の活用方法とは【dely CXO 坪田氏 x btrax CEO Brandon対談】
澤氏:
日本で続いてきた新卒採用は、経験値ゼロの状態で雇い40年をかけて育てるまさに「子育て」。子供にとって最大のリスクは「怒られること」。子育てのような仕組みの中で働いてきた社員も「怒られること」を恐れます。
怒られないようにすると、失敗をしないように、100%の力を発揮することを目指さなくなってしまい、80%の力でやろうとする。これではイノベーションが起こるわけがありません。
日本のマネージメント層の育成にかける時間は、世界で最少と言われる一方で、新卒に対する教育コストは世界最多と言われています。このアンバランスさは問題です。若手の失敗をマネージメント層は怒らない、若手は安心して失敗する、この構図ができると良いですね。
最後に: ネットワークはイノベーターにとって不可欠
越川氏:
1週間のうち、自分がコントロールできる時間は平均で18%。その18%の使い方を考えてみると良いと思います。また、独立して思うのは、ネットワークは大切だということです。働き方改革は、時間の再配置。必要なことに時間を費やすとすれば、人脈は大切です。
澤氏:
イノベーター人材になりたい方は、1週間を振り返り、仕事以外のシーンで新たに出会った社外の人が何人いるかを数えてみましょう。外に出て違う価値観に触れる機会を作り、アウトプットをすることを心がける。仕事は苦役ではなく、幸せになるためにするものですから。人との繋がりは単純に楽しいですし、楽しむべきですね。
終わりに
会場の参加者の方との質疑応答ベースで繰り広げられた本セッションでは、実際にイノベーションに取り組まれている方や、その一歩手前で苦戦をしている方から赤裸々な意見をいただきつつ、澤氏と越川氏にイノベーターのマインドセットや行動を身につけるためのヒントを語っていただいた。
日本企業とイノベーション。今回のセッションの質疑からもわかる通り、多くの方が様々な課題を抱えている。そしてその課題やその解決先は、日本企業や日本人のマインドセットに通じる部分が多かったように思う。小手先の「政策」などでは、本当の意味での真のイノベーター、イノベーションは起こらないだろう。
ゆえにイノベーションや新規事業を起こしたいとお考えの方は、イノベーティブなマインドセットのインストールから始めるべきだと考える。
また「DESIGN for Innovation 2019」当日の様子や、本記事でも取り上げさせていただいたbtraxのアドバイザーでもある澤円氏含む、btraxメンバーからのイベントに込めるメッセージ等を納めたビデオもYouTube上で公開中です。こちらより、ぜひご覧ください!
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