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3つの業界に見る米国イノベーション事例まとめ
- 5Gの拡大でAR/VRや自動運転など「技術」が注目されがちだが、サービスの価値は「ユーザーが抱えている問題を解決することで初めて創造される」ということを忘れてはいけない
- 2019年ユーザーに価値を与えたイノベーション事例をリテール、ヘルスケア、ペットケア分野に分けて紹介
今年も残すところあと僅か。2019年のアメリカは第5世代移動通信システム、「5G」がついに解禁され、VR/AR市場の拡大、自動運転の可能性など、今までは想像もできなかった技術革新がさらに加速した年でもあった。
例えば、Alphabet Inc.の傘下で、自動運転車開発企業のWaymo LLCは2018年、アリゾナ州の一部地域で、全米初となる自動運転タクシーの商用運用を始め注目を集めている。
しかしながら、こうした技術はまだ実証実験の段階、もしくは限定的なリリースなことが多く、市場への馴染みという点においては発展途上という印象である。
また、こうした取り組みは、技術の高さに注目されがちだが、技術の真の価値は、技術力の高さで評価されるのではなく、「ユーザーが抱えている問題を解決することで初めて創造される」というのを忘れてはいけない。
そこで今回は、「2019年、ユーザーの抱えている問題を実際に解決し、イノベーションを起こした」と注目された3つの施策・サービスを事例を交えて紹介する。
この機会に各分野の動向をチェックし、自社の次なる新規事業開拓のヒントに繋げて頂けたら幸いだ。
リテール
近年、大手E-commerceサイト、Amazonに代表される、「無人レジ店舗」の普及、大手スーパーマーケットチェーン、WalmartやTargetが実施している、「BOPIS (Buy Online, Pick-up in Store)」の台頭、「全く新しい形のデパートメントストア」というビジネスコンセプトで店舗展開している、Neighborhood Goodsなどのように、実店舗での購買体験をより豊かにするモデルが活発になっている。
WalmartのBOPIS。Official Websiteから転載
関連記事:Amazon Go型の無人レジ店舗の普及を目指す2つのスタートアップ企業
消費者が実店舗での買い物中に感じる苦痛体験は多い。商品を選び、レジに並ぶのが面倒、なかなか欲しいものが見つからない、店員からの押し売りを受けるなど、実店舗での買い物がとても面倒で、足を運ぶこと自体が億劫になる要素が多く挙げられる。
「無人レジ店舗」や「BOPIS」は、店員との交流を極力なくし、レジでの待ち時間を削減する、といった悩みを解決する素晴らしい体験設計がなされている。
また、不便を解消するだけでなく、実店舗での買い物をより楽しく、また足を運びたくなるような仕掛けをすることで問題解決に取り組み、イノベーションを起こしているビジネスモデルがある。
事例:「実店舗での買い物をより楽しい体験に」Neighborhood Goods
テキサス州プレイノ市にて、2017年に創業したNeighborhood Goodsは、「新しい形のデパートメントストア」というコンセプトの下、テキサス州とニューヨーク州にそれぞれ店舗を展開している、スタートアップ企業だ。
店頭の外観写真。Official Websiteから転載
店頭には、洋服やアクセサリーはもちろん、生活雑貨や化粧品など、多様で良質な商品が数多く陳列されている。そしてNeighborhood Goodsの最大の魅力となっているのが、実店舗での購買体験をより楽しくするためのデザインである。
レストランとバーが併設されている店内では、食事を楽しみながら意見交換を行えたり、新作発表の際はゲストスピーカーを招いたイベントが毎週のように開催されていたりと、インタラクティブな工夫が多い。
イベントの様子。Official Websiteから転載
ただ単に商品を販売する場としてではなく、こうしたコミュニティー形成の工夫は、顧客の「店舗に足を運ぶのが億劫」という苦痛を和らげ、「実店舗での買い物が楽しいもの」というモチベーション向上に繋げているのだ。
ヘルスケア
世界でもトップクラスに医療費が高額なことで知られるアメリカ。手術や入院をすることになれば、例え医療保険に加入していたとしても、相当な負担額となる。そうした背景は、歯科治療に対しても例外ではない。保険のプランによっては、歯科矯正の費用が負担されず、自費治療となることもある。
そんな中、アメリカでは「白い歯」、「綺麗な歯並び」を保つのは1つのステータスとして捉えられる為、時間と労力を掛けて治療する人が多く存在するのも事実だ。
大手オーラルケアブランドのOral-Bが行った調査によると、アメリカでの歯科矯正にかかる費用は、おおよそ$4,000〜$8,000との指標だった。治療には、1年程度の期間を要し、クリーニングや通院など、患者にとってストレスな体験であるが、この問題を解決したビジネスがある。
事例:「綺麗な歯並びで自信溢れる笑顔を」Smile Direct Club
2014年に創業したSmile Direct Club(SDC)は、自宅でできる歯列矯正キットを販売している。今年の9月には、ナスダックへの上場を発表するなど、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けるスタートアップ企業だ。
SDCキット。Official Websiteから転載
仕組みはいたって単純。①SDCのオフィスor自宅にて歯並びを画像診断。(データが矯正歯科医に転送される。)②データに基づいたキットが送付される。③指示に従い、マウスピースを約6ヶ月間装着し終了。
気になる価格は、一括払いで$1,895、分割払いで$85/月と、かなり良心的な価格設定となっており、既に75万人以上の治療を行ってきた。
SDCは価格も良心的かつ、非常に簡単に矯正治療が完了する。一方、従来の病院で行う治療の場合、まず自分が信頼できる歯科矯正医を探すところから悪戦苦闘が始まる。そこから、何度も通院を繰り返し、心地悪い矯正器を1年以上も付け続けなければならないため、患者の苦痛は壮大である。
良心的な価格設定、通院不要、取り外し可能なマウスピースでの治療は、ユーザーの抱える苦痛体験に徹底的に着目して、問題を解決しているサービスである。
関連記事:【医療テック×UX】スタートアップが変えた私達のヘルスケア体験
ペットケア
アメリカのペット産業が好調だ。American Pet Products Associationが発表した指標によると、昨年度のアメリカでのペット産業の市場規模は$72billion(約7兆円)以上との結果が出ており、2020年までに、10兆円を超えることが予想されている。
最近では、ペット専用の健康食品が数多く販売されていたり、ペットの健康状態をアプリ上で管理できるようにまでなった。「飼い主とペット」という関係性から、より一層「ペットは家族」として認知されつつあるのだ。
ペットの健康状態をアプリで管理可能にする、FitBark。Official Websiteから転載
しかし、夫婦共働きが多いアメリカで、ペットの世話をするのは容易な事ではない。実際、アメリカで生活をしていると、ペットを飼っている家庭が多く見る一方、世話をし切れず、動物保護施設に助けを求めたり、里親を募集している広告を見ることも少なくない。
代行サービスを利用するにしても、人との相性が合わなかったり、犬が迷子になるなどと言った問題が多々起こるなど、飼い主の頭を悩ます要素は多い。
こうした飼い主の不満に着目し、サービスを提供している企業がある。
事例:「信頼と安心で飼い主に喜びを」Rover.com
2011年に創業したRover.comは、飼い主とドッグシッター(犬の預かり・散歩などの世話を行う人)のマッチングサービスを展開しているペットケアスタートアップだ。
2017年には、競合他社であった、DogVacay社と合併手続きを完了し、現在は全米50州をはじめ、イギリスやフランスなど9ヶ国でサービスを拡大している。
ドッグシッター分野では、ライバルのWag!が圧倒的勢力を誇っているが、Rover.comの差別化ポイントは、ドッグシッターの質の高さにある。現在までに、同社に登録をしているドッグシッターの数は、30万人を超えているが、その内、97%は最高レビュー数の「五つ星」を獲得している。
また、ユーザーがこのサービスを通して体験できるメリットとして、以下のポイントがあげられる。
- 大切な愛犬がどんな環境で預かってくれるか、事前に知ることが出来る
- 預けている期間中も逐次情報共有がされるので、状況が把握でき、安心
- 評価制度は、預ける側、預かる側、双方に導入されており、信頼できる
これらは見事にユーザーのドッグシッターに対する「不安・心配」という問題を解決している。
安心して”家族の一員”をシッターに預けられるRover.comは、日々仕事で忙しく、プライベートを有意義に過ごせていないユーザーにとって、とても有難いものである。海外旅行や出張など、長期間自宅を離れる場合であっても、Rover.comのサービスを利用している人は多い。
まとめ
今回は、日本でも馴染みの深い、リテール、ヘルスケア、ペットケア産業における、米国最新イノベーション事情について、事例を3つ用いて紹介をした。
5Gに代表される技術革新は、未来へのワクワク感を惹き立てられる一方、解決策ありきの施策やサービスは、なかなかユーザーの課題解決に繋がらず、いつまで経っても実証実験から抜け出せないという事象が多々起こる。
技術を磨くのも大事だが、技術の価値を創造するには、「ユーザーの抱えている課題は何なのか」をしっかりと考え・明確に定義する必要がある。
上記、3つの例は、それを実際に行い、イノベーションを起こした代表例であるが、どの分野・サービスであっても応用可能である。
btraxでは、ユーザーの抱えている問題に着目し、サービスの価値を創造するマインドセット習得のためのプログラムを提供している。ユーザーのニーズや課題にフォーカスした新規事業開発プロセスに興味のある方は、ぜひこちらまで問い合わせ頂きたい。
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