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CEOが自ら語った「イノベーションを起こすためのGithubの哲学」
人材の移動の激しいスタートアップ業界にいながらも殆どの従業員が辞めないことが話題となっている、ソーシャルコーディングサービスGithubのCEO、Tom Preston Werner氏が「イノベーションを起こすためのGithubの哲学」について先日のOpenCoSFというイベントで語った。
「イノベーションとは新しく何かをはじめることだ、たとえ他の人がそれをクレイジーだと思っていても」
サンフランシスコはイノベーションを起こすには最高の場所だ。何か新しいことをすることはリスクだ。何が起こるかわからない。イノベーティブになるには勇気がいる。
他の人が「こんなもんクレイジーだ!」って言ったとしてもこれをやるぞという強い意思が必要だ。実際にスタートアップはとても高い確率で失敗する。でもサンフランシスコの文化ではたとえ失敗したとしてもまったく問題ないんだ。
実際にたくさんの起業家が失敗しているし、新しいことに挑戦しない方がむしろ問題だ。
世界中の他の都市は全く逆で、例えばアイルランドには『出るポピーは切られる』っていう諺があるらしいね(訳注:日本にも似た諺があるね!)。つまり、高く成長しようという強い意思を持った花がいたら、その花は真っ先に切られる。
だからあなたは何もせずにそこにとどまらなくちゃいけないし、みんなとペースをあわせなくちゃいけない。それが世界中の他の都市の哲学だ。でもサンフランシスコは違う。
この街の「何もせず何も学ばないことだけが失敗だ」という姿勢から、イノベーションが次々に自然に生まれている。街が失敗の恐怖を取り除き、より多くのチャレンジを後押ししていて、実際に多くのものすごいことが起きている。
良いアイデアを手に入れる最高で唯一の方法は、たくさんのアイデアを持ち、それらのアイデアを上手くいくか実際に試してみることだ。
サンフランシスコで何が起きているかというと、無数の起業家が「なんでも試す」ことによって、実際に上手くいく、「イノベーション」と呼ばれるアイデアを「検索」をしているんだ。
イノベーションについて考えた時に面白いのは、たくさんの人々が、イノベーションというのは「新しいプロダクトを作ること」だと思っていることだ。
でも僕はイノベーションっていうのはそれ以上の何かだと思っている。僕はイノベーションを文化や環境、哲学というようなもっと深い観点から考えている。そういうことが、本当にすばらしくて印象的なイノベーションを生み出すのだと思う。
だから今日はGithubの哲学について話したいと思う。そしてそれは、他の会社とはちょっと違うかもしれない。
幸せに最適化しろ
会社の目的はなんだろうか?会社の目的はお金を生むことだろうか?もしお金を生むことが会社の目的なんだとしたら、「ビジネス」ってものは壊れてると思うし、世界にとってとっても悲しいことだと思う。僕にとって会社の目的は幸せを生むことだ、お金じゃない。
幸せに最適化するっていうのは別に自分の社員に素晴らしい労働環境を提供し、色々なものを買い与えればいいというわけじゃない。Githubに関わる全ての人、つまり株主や、たくさんのユーザー、同じIT業界にいる人、それぞれのバランスを取りながらみんなを一緒に幸せにしていかないといけない。
その為には私たちの会社と他の世界をつなぐ「インターフェース」であるプロダクトをよりよいものにしていかないといけない。
良いプロダクトを作るには良いカルチャーを作るところから始めなければいけないだろう。実は良いカルチャーがあれば、あくせく働かなくったって良いプロダクトはできる。
なぜなら良いカルチャーは良いプロダクトが自然に生まれてくるフレームワークだからだ。殆どの社員には働く時間は決まっていないし、どこで働いてもいい。バケーションのリミットもない。必要な時に休んでリフレッシュしていい。
どれだけの価値を出したかに責任を持つべきであって、どこで働いたかやどれだけ働いたかということは問題ではないんだ。
Githubではメールやチャットルーム、ありとあらゆるツールで世界中でリモートで働いている人たちが仕事が出来るようになっている。Github teamと呼ばれる内部システムを作り、世界中のリモートの社員が常につながり、アイデアを共有できたり、どのようなプロダクトを作っていくか議論したり、インターナルなフィードを見れるようにしている。これによって階層構造の組織が無くても会社が機能するようになっている。
あとマネージャーに関して言えば、本当にいない。これは自律性があるということだ。会社をコントロールする機能をなるべく現場のメンバーに持たせるようにしている、これは殆ど全ての決断が現場で行われているからだ。
これらの試みは、私達が早い段階から考えていた「ビジネスミニマリズム」というコンセプトからはじまっている。本当に物事がよりよく進むように、絶対に必要なプロセス以外は全部なくすんだ。そしてひどい官僚政治をなくすんだ。実のところ官僚政治で世の中を形作るのはほとんど不可能に近い。
もし幸せに最適化したら、良いプロダクトは自然と生まれて、利益は後からついてくる。
大原則からはじめろ
全ての会社はユニークだ、だから他の会社がやっているからと言ってそれをコピー・ペーストして導入するということをGithubはしない。全てのことは大原則からはじめる。「何が解決すべき問題か?」から考える。
他の人たちがどうやっているのかを見たら、次に自分の会社でどうすれば一番良いかを考える。そして色々なやり方を掛けあわせて、最も自分たちに合ったやり方を作り出していく。
例えばセールスの人たちにはコミッション(報酬金)が無い。これはとても普通じゃないことだ。コミッションを導入したらセールスは可能な限り多く売ろうとするだろう、それもプロダクトに釣り合わないようななるべく高い値段で。
これはよくIT業界で起きていることなのだけれども、セールスは顧客にプロダクトを売ろうとして、エンジニアに本当は導入すべきではないような機能を実装することを要求したりする。
これは最初は製品が売れるという意味で良いかもしれないが、長期的にはプロダクトをダメにしてしまう。それはプロダクトがエンジニアが作りたいものでも、世界中のユーザーが使いたいものでもなくなってしまうからだ。
だから、セールスの人たちにはコミッションを導入する代わりにエンジニアと同じように高い給料とストックオプションを支払い、「良いプロダクトを作ろう」というビジョンを共有することで団結するようにしている。
マネージャーはいない。では一丸となって動く組織を作るためには何が必要だろうか。Githubでは最近できたコンセプトとして「ビジョンネットワーク」というものがある。
組織はチームでもマネージャーでもなく、ビジョンステートメントによってまとまっていくというものだ。「一人で働くよりも簡単に、共同で働けるようにしたい。」という大元のGithubのビジョンから、より小さな問題に分岐する。
そうするとその小さい問題に対して共感した人々は自然に集まり、つながりあうようになる。結果、同じビジョンやゴールを共有した人たちの間で自然にチームが生まれるというコンセプトだ。
単純に他の会社を真似するのではなく、こういう仕組みを作ることに我々は心血を注いでいる。
熱狂的なファンを作れ
ユーザーがいないとGithubは成り立たない。だから熱狂的なファンを作ることはとても重要なことだ。Githubではサンフランシスコでもその他の世界中の場所でも、カンファレンスやいろんなイベントで、開発者の人に「会いに行く」ようにしている。
実際にGithubの何が好きか、逆にどこが嫌いかなどについて直接聞くことによって、Githubはより深く顧客とつながることができる。それは良いフィードバックを得ることにつながり、よりよい決断をすることができるようになる。
これはちょっと奇妙なことに聞こえるかもしれないけれども、どれくらいのファンがいるかを図る重要なメトリクスとして、「どれくらいの人がGithubのTシャツを買うか」という指標がある(訳注:Github:shopというところでGithubはグッズを販売している)。
本当に好きなブランドじゃなければTシャツは買わないから、これはしっかりとしたブランドの指標になるんだ。またここから地理的に世界のどこでGithubのブランドが受け入れられているかということも知ることが出来る。おどろくべきことに実はグッズから$100,000くらいの売上があるんだ。
熱狂的なファンはツイッターなどであなたの会社をアンチから守ってくれる。実際、ツイッターは批判に満ちているので、何か議論を巻き起こすかもしれないようなアクションを取る時に、批判的な意見を言う人達に対して「ちょっと待ってくれ、Githubはあなたの思っているようなものではなく、こうこうこういう理由があってこうしているんだ。」と発信してくれるファンがいることはとても重要だ。凄いファンというのは時に我々を守ってくれさえする。
Githubがどれだけの人々を驚かせ、喜ばせられたかを測るために、Githubのサポートチームがやった僕の大好きな方法がある。彼らはその度合を、サポートリクエストの返答の文章中に含まれている「!」マークの数で測ったんだ。これはとてもクールだ。誰かをサポートの返答によってとても興奮させるっていうことは、とても特別なことに違いないからね。
「ぼくらの人生はこれからどんどんソフトウェアに消費されていく」
facebookだってtwitterだってソフトウェアだし、僕が今喋っているマイクもソフトウェアで制御されて音声を配信している。このペットボトルだって何らかのソフトウェアを使って作られた。これからぼくらの人生はどんどんソフトウェアに費やすようになっていく。そんな中でより良いソフトウェアを作れるソフトウェアを作るっていうのは、とても重要なことなんだ。
世界中のソフトウェア開発者はコードで世界をよりよい場所にしようとしている。僕たちはそのコラボレーションの仕組みを根本的に変えて、ソフトウェア開発のスピードを上げることによって、素晴らしい未来の到来を早めているんだ。
Q.Githubの対象とするものはコードだけか?
A.最近では本を書いたり、翻訳したり、フォントを作ったりということにも使われているよ。ドイツの法律も実はGithubにアップロードされている。これによって、どの部分がいつ変更されたか?その変更は何故行われたのか?という議論が簡単に追えるんだ。
Q.マネージャーがいないというけど、どうやってデッドラインに間に合わせるようにしているの?
A.答えはこうだ、デッドラインは無い。
Q.あなたたちは本当にスタートアップなの?
A.スタートアップには色々な定義があるけれど、例えばポール・グレアムはこう言ってる。「めちゃくちゃな勢いで成長するのがスタートアップだ。」ってね。だからGithubもスタートアップだ。
筆者:Takahiro Anno @takahiroanno