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アパレル業界の未来を予測!知っておくべき6つの現象【後編】
今までの常識が塗り替えられるような「イノベーション」が様々な業界で起こると予想されている時代において、ファッション業界はどのような歴史を刻んでいくことになるのだろうか。
前半の記事ではそれを紐解く手がかりになりそうなトピックとして、「ウェアラブルデバイス」・「実店舗」・「ラグジュアリー」という3つの言葉が再定義されることについて言及した。
後半となるこの記事では、ファッション業界が抱えている問題について注目したい。労働搾取や大量廃棄といったこの業界が長らく解決出来ずに抱え込んでいるものから、Amazonなどのプラットフォーマーとの協業という近年に急速に重要性が高まってきたものまで、3つの問題についてファッションブランドがどのような答えを出し始めているのかをまとめた。
【4. 社会問題解決こそが次世代のブランディング】
ブランドを構築する3つの要素
それがボールペンのような手に触れられるものであれ、アプリのような手では触れられないものであれ、ブランドを構成する要素は3つである。機能性・デザイン性・ストーリー性だ。
機能性とはそれはユーザーに何をもたらすのか、デザイン性とはそれがどれだけカッコいいのかまた使いやすいのか、そしてストーリー性とはそのモノに一体どんなストーリーが隠れているのか。バランスはそれぞれの製品によってまちまちであるが、この3つがいくらかの形で合わさってその商品の価値となる。
これはアパレル製品の制作においても同じである。こちらのNikeのAIR MAX 1 を例にあげれば、機能性はクッション性が高く足に負担が掛からないソール、デザイン性は名前の由来にもなっているミッドソールに搭載されている空気を可視化した「Visible Air」、そしてストーリー性はNikeが掲げてきた「Just Do It」というスローガンを中心に取り組んできた「保守的な社会への対抗心」や「本当の自分の開放」というメッセージだろうか。
↑Nikeの代表的な製品となったAIR MAXシリーズの第1モデル。
社会問題を解決しているストーリー
今後は、この3つの要素の中でもストーリー性の性質に大きな変化が見られるようになるだろう。興味を引くようなストーリーだけ不十分になり、そのストーリーが社会問題を解決しているかどうかがより重要となる。そして、ストーリー性の重要性が他の2つを大きく上回る時代が到来するだろう。
サステイナビリティーの欠如
そこにはファッション業界が長い間直面してきたある問題が関係している。それがサステイナビリティー(持続可能性)の欠如である。
サステイナブルな状態とは、簡略に言えば需要と供給がマッチしている状態であるが、ファッション業界は大きく2つの面でサステイナブルな仕組みをデザイン出来ていない。労働のサステイビリティーと環境のサステイナビリティーである。
労働のサステイナビリティーの欠如については、死者が1,000人を超えたファッション業界最悪の事故がそれを象徴している。この根本的な原因は、先進国の生み出した大量生産・大量消費あきりにビジネスモデルが経済的弱者である供給側に限度の超えた負荷を与えていたことだろう。詳しくは以前の記事(いまブランドが捉えるべきは“ユーザーの意識変化” – サステイナビリティーが重要視される理由とは)を参考にして頂きたい。
↑『Rana Praza』崩壊は死者1,000人を超えるファッション業界最悪の事故となった
環境のサステイナビリティーの欠如については、ファッション業界は全産業の中で3番目に環境に悪い産業であるとされているのはご存知だろうか。例えば、衣服の製造には大量の水を消費する必要がある。
1つのジーンズを作るだけでも、通常の製法で作るとその量は3,800リットル以上(シャワー53回分)もの水が使われるという。またThe World Bankは世界の20%の海洋汚染が衣服の染料によって引き起こされていると発表している。
↑米ロサンゼルス発のブランドReformationはECサイト上には、環境問題への喚起を促すページがある。同ブランドのキャッチコピーは”Being naked is the #1 most sustainable option. We’re #2. : 一番環境に優しいのは何も着ないこと。私たちは2番目ね ”だ。
購買基準は会社のビジョンが自分と重なるかどうか
今まで見えなかった情報に対する透明性が徐々に高まってきている現代において、以前よりも多くの消費者がこのような社会問題に対して当事者意識を持ち始めている。
またミレニアル世代やその次のジェネレーションZ世代は「その会社のビジョンやミッションが自分と重なるかどうか」をモノを買う際の大きな判断軸にしているという。
問題意識が高い消費者に対して、社会問題を解決しているというストーリー性は機能性やデザイン性よりも重要性の高い項目として評価されることになるだろう。
サステイナビリティーによるブランディング
労働のサステイナビリティーがブランド構築の際に大きな役割を果たしたのが米ブランドEverlaneである。“Radical Trasnparency : 徹底的な透明性”という信念のもと、原価だけではなく値段の内訳をすべて公開している。
このような透明性の他、製品そのものの質や優れたマーケティングにより、Everlaneは今やアメリカにおいて最も人気のあるブランドの1つとなっている。先日サンフランシスコに店舗をオープンしたが、オープン日には店に入るだけでも2時間並ぶほどの大行列だった。
オンライン上と取り扱っている商品はほとんど同じなのにもかかわらず、行列を作る老若男女達の存在が、Everlaneのブランド力を証明していると言ってよいだろう。
↑Everlaneは自社のEC上に世界各地の工場の様子を公開。誰がどのように製造されているのかを確認することが出来る。
環境のサステイナビリティーに挑戦しているのはドイツのスポーツブランドのアディダスである。海洋環境保護団体「Parley for the Oceans」協力のもと、海に廃棄されたプラスチックゴミを利用して作ったランニングシューズの販売を開始した。
更に“Z.N.E ZERO DYE”と呼ばれる、染色をしない素材本来の風合いを生かした新商品を開発。染色をしないことで、出来るだけ水資源を節約することが狙いだという。
これらの例に代表されるように、アディダスは自然環境に配慮した製品づくりを推進し、”サステイナビリティーカンパニー”としてのブランドを作りあげつつある。↑左:Z.N.E ZERO DYE”を使用しているパーカー
右:海に廃棄されたプラスチックゴミを利用して作られたランニングシューズ
21世紀や22世紀において、これらのようなサステイナビリティーに対して強い問題意識を持った消費者の割合は今と比べられない程高くなるだろう。また機能性やデザイン性にも限界が来る。彼らにとって重要なのは、機能性やデザイン性ではなく、社会問題を解決しているというストーリー性だ。
【5. ファッション業界もユーザー中心のモノづくり】
大規模セールが象徴する業界の抱える闇
いろいろな分野で毎年行われる初売りセール。その中でも一番の盛り上がりを見せるのがファッションブランドやセレクトショップによるものだ。多くの人が行列を作り、開店と共に店の中に駆け込んでいく様子はもはや年始の恒例行事である。
しかしこの様子こそがファッション業界が抱えている闇を象徴しているといえる。それが、「大量の売れ残りが前提の価格設定」である。大量に売り残る前提で価格設定をし、定価で売れなかったらすぐセールに回す、という負のサイクルが、この業界において常態的に発生してしまっているのだ。
ラグジュアリーブランドの収益モデルからもこれは明らかだと言える。利益率の低いファッション部門はブランドアイデンティティを訴求する為に使われ、そのブランド力を活用し革製品のような定番商品が多い部門で利益を獲得するモデルが一般的である。ラグジュアリーブランドの革製品がセール対象外になることが多いのはその為だ。
「散弾銃商法」
このように「顧客が必要としていないものを作ってしまう」という問題が発生してしまっている本質的な原因は、そもそもの商品製造の仕組み自体にあるのではないだろうか。「流行を生み出す」という目的に対してとっているアプローチが今の時代とマッチしていないように思える。
現在多くのブランドは、消費者の理解を深めることなくとにかく数を撃てば当たると大量の種類の商品を生産するすることでヒット商品を見つけ流行を生み出そうとしているのではないだろうか。
アパレルブランドのセールが大規模なのは、そのほとんどの”当たらなかった”商品がそのままセールに回されるからだとすれば辻褄が合う。ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長の柳井正氏の言葉を借りれば、「散弾銃を色々な方向に振り回しながら撃っている」状態なのではないだろうか。
衣服もユーザー中心のデザインに
しかし現代は様々なデータが蓄積され分析ができる情報化社会であり、この流れはこれからも間違いなく加速する。そんな時代において、そのような「数を撃てば当たる」というやり方はあまりにも時代遅れである。
これからは消費者のデータを商品化することが求められるだろう。消費者に関する情報を集め、分析し、衣服へと変換していくのだ。いかに「データ」を起点に衣服を作れるかどうかが、これからのファッション業界で生き残れるかどうかの分かれ目と言っても過言ではないだろう。
それはつまり、ファッション業界にもユーザー中心のモノづくりの考え方が必要になってくるとも言い換えられるだろう。これから必要になるのは「アイデア」や「テクノロジー」ではなく、あくまでユーザー起点でのデザインである。「ユーザーのニーズを理解し、研ぎ澄ませた商品だけを生産する」というライフルを撃ち抜くような生産体制を敷くことが重要となる。
必要なのはサプライチェーンの再構築
しかしこれは現在のファッションブランドの体制のままで導入することは難しいかもしれない。なぜなら、企画・構想から実際に棚に並ぶまでに時間がかかり過ぎているからだ。通常の工程で服を生産すれば、実際に消費者の手元に届くのに約2年ほどかかってしまうという。これでは消費者のニーズに刺さる商品の製造は難しい。
その為まずはサプライチェーンの再構築を行い、企画者と生産者の距離を近くする必要がある。しかしだからといって企画までもをOEMへ投げてしまうのは本末転倒だ。その結果起こったのが「タグだけ違って他はほぼ一緒」のチェックシャツが様々なセレクトショップで販売されたことである。
あくまで必要なのは、ブランドのアイデンティティを保持しつつより早くスピードで商品を生産出来るサプライチェーンを整えることではないか。
サプライチェーンの再構築に挑むGucci
この重要性を認識し変革に動いているラグジュアリーブランドがある。それがAlessandro Michele体制になってから絶好調のGucciである。Gucciを傘下に収めるKeringのCEOであるJean-Marc Duplaix氏によると、グループとして最も優先順位が高いのはGucciのサプライチェーンの再構築だと話す。
その試みの1つとして、同社はGucci Art Lab を今年中にオープンする予定だ。イタリアに建設予定のこのLabでは、革製品の製造だけではなく、顧客トレンドの調査や新しい素材の開発を行う機関になる。製品開発の上流工程から下流工程までの距離を短くし、発表出来るコレクションの数を多くすることが狙いだという。↑イタリアに建設されているGucci Art Lab の様子
セールが無くなりファッションショーのあり方が変わる
この流れがアパレル業界全体に浸透すれば、大量の売れ残りが減るだろう。その結果、「セール前提の価格設定」が見直され、正常なプロパーの価格で売られることになる。それに伴いセールの規模も縮小されていくだろう。
またこの仕組みの変革はファッションショーのあり方をも大きく変えることになるかもしれない。オートクチュールのコレクションは例外的な扱いで継続されるだろうが、より大衆向けのプレタポルテのコレクションは現在と同じ体制でずっと行われるとは考えづらい。
2〜3月に来年の秋冬、9〜10月に来年の春夏に店頭に並ぶコレクションを行い続けるのは、21世紀・22世紀においてはあまりにも時代とのすれ違いが大き過ぎるだろう。
【6. プラットフォーマーと協業せざるを得ない時代】
ファッションブランドにとって長らく議論が続いていたのが、「Amazonのようなプラットフォームは協業すべき味方なのか、それとも競争相手になり得る敵なのか」である。
しかしこの議論の論点は今後変わることになるだろう。もはや議論すべきは、プラットフォームと協業するかどうか、ではなく、どのようにプラットフォームを協業するかになる。
プラットフォームとの協業によるデメリット
プラットフォームとの協業は様々な面でデメリットが生じることは事実である。その中でも特に顕著なのは、ブランディングへの影響だろう。ブランドを築くこととは顧客との関係性を築くことに他ならないが、プラットフォームに卸してしまうと、顧客との接点を減らしてしまうことになる。これはブランディングの観点から見ると大きな機会損失に他ならないだろう。
更に顧客データの蓄積という面でも大きなデメリットがある。以前の記事(これからの企業に不可欠な三種の神器とは)でも紹介したように、21世紀における良い企業と素晴らしい企業を分ける一つの指標がデータの取得量と活用方法である。柳井正氏がこれからの産業について「すべての産業は、情報を商品化する新しい業態に変わる」と話すように、ファッション業界も同様にデータの重要性は日に日に増していくだろう。
↑GAFA (Google, Amazon, Facebook, Apple) は膨大なユーザーデータを武器に従来の産業分類の枠を超えたビジネスを展開し始めている。
プラットフォームに販売を委託するということは、そんな重要な顧客データの取得のいくらかを諦めることになる。裏返せば、Amazon等プラットフォームにとっての大きな武器とはそのデータである。この状況はファッションブランドにとっては、決して歓迎されることではない。
これからはプラットフォームと「どのように」協業するのかという時代
しかし、そのようなデメリットを考慮したとしても、やはりこれからはプラットフォームと”どのように”協業するのかという時代に突入しているように思う。その理由はプラットフォーマー達が築き上げる圧倒的な規模と顧客へのリーチ、そしてただのプラットフォームではなく、ブランディングプラットフォームへと変革しつつあることだ。
プラットフォームの代表格がAmazonである。Whole Foods Marketの買収やAmazon Goのオープン等生鮮食品に力を入れていると思われがちであるが、ファッション分野の成長も著しい。アパレル業界において、売上げトップの座を守り続けてきたのが、大手百貨店チェーンのMacy’sであった。
しかし、2018年にその座はAmazonに明け渡すことが決定的になっている。また成長率に関しても、Amazonのファッション部門が30%近いのに対してMacy’sは-4%が見込まれている等、両者の差はどんどん開いていく一方だろう。↑長らく売上1位を維持してきたMacy’sが遂にその座をAmazonに奪われる。ECサイトが百貨店よりも服を売る時代を誰が想像出来ただろうか。
1日で約3兆円の取り引き
アメリカや日本よりも、オンライン上での購入に対して抵抗が無いとされている中国では、プラットフォーマーの影響力は更に大きいと言えるかもしれない。中国版アマゾンとも呼ばれているAlibaba が毎年11/11に行う Single’s Day Sale はたった1日で、約2.7兆円もの取り引きが発生したという。これは2018年現在、世界中で最も大きなオンラインショッピングイベントである。
↑Single Day Sale に合わせて開催されたイベントの様子
このようなプラットフォーマー達の圧倒的なサプライチェーンと顧客へのリーチは、単独のブランドだけで築き上げるのは難しい。今後消費者達は何か欲しいものがあるととりあえずAmazonやAlibabaを開くことが増えるだろう。そのようなプラットフォームで自社の商品を扱ってもらうことは、多くのブランドにとって魅力的であることは間違いない。
ラグジュアリーブランド専用のオンラインプラットフォーム
しかしいくら多くの顧客にリーチ出来るとはいえ、多くのラグジュアリーブランドにとっての悩みの種は、プラットフォームで購買可能になることによるブランド力低下である。現在もAmazonで購入出来る洋服は比較的カジュアルで安いものが多い。
そこで生まれたのがラグジュアリーブランド専用のオンラインプラットフォームである。そこで扱われている商品は高級百貨店で扱われているようなブランドばかりであり、近所のモールに入っているブランドと混合されることはない。これならラグジュアリーブランドも、ブランドイメージの低下を気にすることなく扱ってもらえる。
ブランド力の低下どころか、このようなラグジュアリーブランド専用のオンラインプラットフォームとの協業がブランディングの一貫になっているケースもある。例えば、そのようなプラットフォームの代表格であるFafetchはGucciとパートナーシップを結び、「Store to Door in 90 Minutes (90分配送サービス)」を提供している。
FarfetchでGucciの商品を購入すると90分でユーザーのもとに届けられるのである。これはGucci単独ではなし得なく、Farfetchのような強力なサプライチェーン網を持つプラットフォームとのパートナーシップでだからこそ実現出来たサービスだと言えるだろう。
長らく議論になってきたファッションブランドとプラットフォームと関係性であるが、確かにブランディングや顧客データの面でデメリットはある。しかし圧倒的な規模と成長速度、またブランディングプラットフォームとしての役割を担いつつあることを考えると、協業しない手はないだろう。プラットフォーム上に取り上げられないデメリットが協業するデメリットをはるかに凌ぐ時代はすぐそこまで迫ってきている。
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