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アパレル業界の未来を予測!知っておくべき6つの現象【前編】
音楽や映画と並び、ファッションは「時代を映す鏡」としての役割を担ってきた。川久保玲氏や山本耀司氏がパリコレデビューし全身真っ黒のカラス族が現れたのは80年代であり、藤原ヒロシ氏らによって裏原系と呼ばれるジャンルが誕生したのは90年代だ。
「A BATHING APE / アベイシングエイプ」や「NUMBER (N)INE / ナンバーナイン」などの人気ブランドが次々と誕生し、国内のファッション業界に最も活気があった時代ともいえる。
そんなファッション業界は2000年代に大きな転換期を迎えることになる。
その起爆剤となったのは、より早くかつ安い洋服の製造・販売に成功したファストファッションブランドの誕生である。ユニクロの打ち出した1900円のフリースは、ファッション業界人だけでなく、多くの消費者にも衝撃を与えた。
ユニクロを始めとしたファストファッションブランドは、ストリートの様子だけではなくファッションに対する価値観そのものを大きく変えたのだ。
では、これから続く21世紀・22世紀において、ファッション業界はどのような歴史を刻んでいくことになるのだろうか。
今までの常識が塗り替えられるような「イノベーション」が様々な業界で起こると予想されている時代において、ファッション業界にはどのような変革が起こるのだろうか。それを紐解く手がかりになりそうな6つのトピックをまとめた。
その前半となる今回の記事では近い未来にファッション業界で起こるであろう、3つの言葉の再定義に注目する。
【 1. ウェアラブルデバイスの再定義 – テクノロジーが”溶け込んだ”服 】
人間とWatson – 2人のデザイナー
毎年ニューヨークで開催され、ファッション界のアカデミー賞とも称されるのがMET Galaだ。COMME des GARÇONSのデザイナーである川久保玲氏も2017年に取り上げられ、日本のメディアでも大きく取り上げられたことは記憶にも新しい。
そんな2016年のMET Galaのセレモニーパーティーにおいて、錚々たるデザイナーが作り上げたドレスの中に、1つだけ”人間とAIの共同作業”によって作られたドレスを身に纏ったモデルが居たことはご存知だろうか。
コグニティブ(認識する)ドレス
英ブランドMarchesaによって初めて発表されたこのドレスは、「コグニティブ(認識する) ドレス」と呼ばれている。最大の特徴はLEDライトが取り付けられていることである。もちろんただのLEDライトではない。
ライトの色はIBMのAIであるWatsonがその場観客のリアクションに応じて変更することが出来るのだ。人工知能であるWatsonは視覚を持っている訳ではない。しかし、データを感情に変換することで人の気持ちを汲み取ることが出来るようになったと言えるだろう。
↑ 超一流デザイナーの作り上げたドレスの中でも際立つ”人間とAI”によってデザインされたドレス
欠点は明らかな”テクノロジー”感
しかし、そんな最先端の技術を駆使して作られた”コグニティブドレス”であるが、最先端であるが故の欠点が1つある。それは明らかに”テクノロジー”であるということだ。大きな祭典の場では話題性を持って受け入れられるかもしれないが、日常生活では着ることはとてもじゃないが難しい。
テクノロジーに気付かなくなる現象
これからテクノロジーの存在はもはや当たり前に時代になる。そんな時代においては論点はテクノロジーの存在に有無ではなく、そのテクノロジーをいかに生活の中に溶け込ませるかにあるのではないだろうか。
Apple の iPad Pro のCMはまさにこの例だといえるだろう。以前の記事(社会への問題提起を行ったブランドプロモーション4選)で、AppleはこのCMで「コンピューターが私たちの生活に完全に溶け込んだ世界」を描いている可能性があることを示した。
このテクノロジーが生活に溶け込む現象について、Xerox のパロアルト研究所のマーク・ワイザーは自身の論文の中で、「最も革新的なテクノロジーとは消滅するものである。日常生活に溶け込こんでいき、次第に生活の一部として当たり前の存在となる。」と説明している。
↑このCMに付けられた名前は『Your next computer is not a computer』
GoogleとLevi’sが提案する未来の洋服の形
この「テクノロジーに触れていることに気付かなくなる現象」は今後様々な業界で起こることになるだろう。もちろんファッション業界も例外ではない。
GoogleがLevi’sと共同で取り組んでいるプロジェクトが「Project Jacquard」である。作っているのは一見普通のデニムジャケットであるが、もちろんただのジャケットではない。使われている織り糸にセンサー機能を持つ極細のコードが紡がれているのだ。
これにより服をウェアラブルデバイス化することが可能となる。スマホとBluetoothで繋げば、スクリーンだけではなく服もスマホ操作の際のインターフェイスになるのである。
例えば、服を触るだけで、聞いている音楽を操作したり、かかってきた電話に対応したりすることが出来る。スマホをいちいち取り出すという手間が省ける為、特に自転車に乗っている時などに便利だろう。
これはよくあるプロモーションムービーのような「将来的にこうなります」といった類いのものではない。先日ついに一般にも販売が開始され、誰でも購入することが出来るのだ。遠い未来の話ではなく、既に実現されていることなのである。
テクノロジーが衣服に「溶けている」状態
注目すべき点は、これは一見普通のデニムジャケットにしか見えないことである。IBMによる「コグニティブドレス」と比較するとその差は明瞭だ。両者とも最先端のテクノロジーを用いているのにもかかわらず、GoogleとLevi’sによって開発されたこの服は「テクノロジー感」は皆無だと言っていい。
これはつまりテクノロジーが衣服に「溶けている」状態の1つであると言ってもよいだろう。この「Project Jacquard」により、GoogleとLevi’sは全く新しいウェアラブルデバイスの形を示した。Fitbit等の今までのウェアラブルデバイスと比べても、ガジェット感は弱く、より生活に溶け込んでいることがわかる。
現在はシンプルな操作のみしか行えないが、この技術を応用することで実現可能なことはどんどん増えていくことは間違い無い。近い未来に、心拍数からカロリー消費まで、あらゆる身体データを取得出来る服が開発されてもおかしくない。
そうなれば、自転車を乗る人に限らず、ダイエット中の人から持病持ちの人まで、あらゆる人にとって、今までの服には無い価値を持つものになっていく。
何かしらのテクノロジーが埋め込まれている衣服の方が当たり前になる時代が来るのかもしれない。もっともそんな時代では、それはもはやテクノロジーという呼び名では呼ばれていないだろう。
【 2. 実店舗の再定義 – D2Cブランドが生み出した新潮流 】
ファッション業界を席巻するD2Cブランド達
様々な業界において店舗数の削減に踏み切る企業が後を絶たないことはご存知だろう。もちろんファッション業界も例外ではない。大手百貨店チェーンの Macy’s はここ数年で63店舗を閉鎖し、1万人以上の社員を解雇した。
Ralph Laurenは4年前にオープンしたばかりのニューヨーク5番街にある旗艦店の閉店を発表。Abercrombie & Fitchも60店舗の閉鎖を決定した。
そんな重苦しい状況の中、ファッション業界を中心に消費財全体を席巻しているのが、Direct to Consumer (D2C) と呼ばれる新しいビジネスモデルである。以前の記事(Direct to Consumer (D2C) 躍進の理由と大企業のジレンマ)で紹介したように、その特徴は自ら企画・製造した商品をどこの店舗に介すことなく主に自社のECサイト上で販売していることだ。
↑ファッション業界を中心に消費材業界でD2Cブランド達の勢いが止まらない
ロイヤリティ構築の為だけの店舗
D2Cブランドの成長において大きな役割を担ったのが「実店舗の再定義」である。従来の商品を販売するという役割はECサイト上で代替し、販売場所ではなくブランドロイヤリティの構築場所として実店舗の再定義を行ったのである。
従来考えられてきた実店舗の役割を大きく以下の3つにわけられるだろう。
- 商品の購入場所としての役割
- 広告としての役割
- 顧客とのロイヤリティ構築としての役割
このうち、購入場所としての役割は消費者行動の変化により拡大したEC市場により代替され、広告としての役割はSNSがその役割の一部を担うようになった。これは私たちの生活の中でも実感できる。
Instagramについ先日から追加された、商品にタグ付けをすることでダイレクトにオンラインサイトへ行ける機能はこの動きを象徴している。日本への導入も時間の問題だろう。
しかし、そんな2つの役割とは裏腹に代替が難しかったのが、顧客とのロイヤリティ構築としての役割である。基本的にロイヤリティは顧客とのコミュニケーションと通して構築される。
そのコミュニケーションにはSNSやニュースレター等すべてのタッチポイントが含まれるのだが、いくらテクノロジーが進化しようとも「直接会って話す」ことよりも優れたコミュニケーション方法は今のところ存在していない。そこで行ったのが、ブランドロイヤリティの構築場所としてリアル店舗の出店だったという訳だ。
↑ Bonobosは自らの実店舗を販売を一切行わない「Guide Shop」として出店。予約すれば担当のスタッフがコーディネートの相談に乗ってくれる。
店舗数の削減を余儀なくされているファッションブランドであるが、もしECサイト売上げの比率の上昇に対応して店舗を減らしているのだとすれば、それは不十分だろう。ただ単純に売上げ比率の比重をECサイトにもってくるだけではなく、戦略的な店舗の役割を再定義をする必要があるのではないだろうか。
それには根本的な仕組みの変革までもが必要になるだろう。確かに、既存ブランドであれ、D2Cブランドであれ、ECサイトのデザインはオシャレでカッコ良い。しかしそれはあくまで表面的でしかなく、一番の違いは仕組みの部分にあるからだ。
大企業のジレンマ
しかし、これは歴史の長いブランドであればあるほど難しいものなのかもしれない。私たち消費者からすれば洋服という大きなくくりで見れば作っているものは一緒である。しかし同じファッションブランドであっても、D2Cとラグジュアリーブランドでは、サプライチェーンや収益のモデルが異なる。
真似しようとするのであれば、すべてを変えてしまうか、全く参考にならないかのどちらかになってしまうだろう。一部だけを取り入れようとしようものなら、過去のやり方と現在のやり方が混在した複雑で負担の大きいシステムになってしまう可能性が高い。
更に仮に改革を決めたとしても、現在のブランドの上に積み重ねる以上は、ブランドイメージとの兼ね合いに細心の注意を払わなければならない。下手に改革を進めてしまうと、今まで築いてきたブランドさえも損なってしまうかもしれないからだ。
このような状況では、例え変化が必要なのはわかっていてもその決断は難しくなる。これこそが現在大手ファッション会社が抱いているジレンマではないだろうか。
治外法権を与え従来の管轄権から離した組織
ではそんな大企業はどうすればよいのか。その1つの答えとなるのが、従来の管轄の範囲から外し、治外法権のような権利を与えた組織を作ることだろう。治外法権とは、ある国の領土にいながらその国の統治権の支配を受けない特権のことである。
つまり大企業においての文脈において翻訳すると、大企業の中に所属しながらその会社のしがらみや風習・仕組み等の支配を受けない特権ということになる。こ
れにより、予算の使い道を細かく稟議回に通す必要や、イノベーションの種になるような画期的なアイデアが中間管理職達によって潰される可能性が低くなる。
その結果、大企業の抱えるジレンマに取り憑かれることなく、自由にその時代に最適な仕組みを作ることが出来るようになるのではないだろうか。
そしてここサンフランシスコやシリコンバレーはそんな治外法権を与えられた部門の集まりである。例えばAmazonの本社はシアトルであるが、Amazon Lab126 と呼ばれるラボはベイエリアにある。
これは本社と組織的にも距離的にも離すことで、比較的自由な裁量権を与えることが狙いだろう。
現在は自動車や家電製品のメーカー企業に特に多いように見受けられるが、このような流れはこれからファッション企業にも生まれてくるかもしれない。21世紀や22世紀は様々な産業で既存の当たり前が壊される時代である。
もちろんファッション業界も例外ではなく、また店舗の再定義はその当たり前の一部でしかない。
【 3. ラグジュアリーの再定義 – シェアリングエコノミーブーム後の世界 】
現代はシェアリングエコノミー全盛期
世界中でシェアリングエコノミーが業界を席巻している。シェアリングエコノミーとは、基本的には供給者と需要者を結びつけるプラットフォーム提供のサービスのことである。代表的な例はAirbnbとUberだ。
Airbnbは空いている部屋を旅行者に貸し出すというサービスを始め、その領域は今や旅行先での体験全体まで広がっている。Uberも同様だ。その領域はタクシー業だけに留まらず、公共交通機関全体に及んでいる。
いかに時代に受け入れられているかは時価総額を見れば明瞭だ。Uberに対しては680億ドル(約7兆円)、Airbnbに対しては310億ドル (約3兆5000億円) もの値段が付けられている。日本企業全体を見ても、時価総額が7兆円を超えている会社は両手で数えられる程度しかない。
このシェアリングエコノミーは空いている部屋や座席だけに留まらず、所有物のレンタルという新しい潮流をも生み出している。今やサンフランシスコでは定番となったGetaroundは所有している車を他人に貸し出せるサービスであり、Armaiumではスタイリストがその人に向けて選んだ洋服やバッグをレンタル出来る。
とてもじゃないが購入出来ない憧れの高級車やブランド品も、レンタルであれば気軽に使用することが出来る。この流れは業界を問わずあらゆる分野で加速することになるだろう。
シェアリングエコノミーが浸透し切った後の世界
では、いったいこのようなシェアリングエコノミーが世の中へ浸透し切った後の世界はどのようなものなのだろうか。1つ言えることは何もかもシェア出来る時代においては「所有する」ということに対しての価値は今よりも薄れるということである。
以前のような高級車・高級ブランドバッグ=ステータスという概念は消え去るどころか、「お金の使い方が微妙」とさえ思われる可能性さえもある。
更にそのような時代において、ラグジュアリーという言葉の定義が見直されることになるだろう。何でもシェア出来る時代において、シェア出来るもののブランド価値は薄れていくだろう。ブランド構築において希少性には大きな役割を果たす。
シェアが当たり前になれば、その希少性はおのずと下がり、その結果ブランド価値が薄れるという訳だ。
では一体どのようなものがラグジュアリーと呼ばれるものになるのだろうか。それは「シェア出来ないもの」である。では「シェア出来ないもの」とは一体なにか。その人の為だけに作られた製品、はその象徴的な例だろう。
ラグジュアリー = シェア出来ないもの
そんな「シェア出来ないもの」の販売に挑戦している例がスタートトゥデイのプライベートブランドである「ゾゾ(ZOZO)」である。大きな話題となった採寸用のボディスーツである「ゾゾスーツ(ZOZOSUIT)」は、着用者の身体の詳細な採寸データを数値化することが出来る。
これにより従来のS・M・Lのサイズ展開ではなし得なかった、その人だけの為の洋服を作り上げることが出来るのである。現在はTシャツとデニムだけの展開であるが、その数はどんどん増えていくことになるだろう。
今までラグジュアリーの意味してきたものとは、素材や機能、デザイン性に優れた商品であった。高級車や高級ブランドバッグ等がその例である。しかし、これからは「シェア出来るものはシェアする」時代である。
ミレニアル世代やジェネレーションZ世代の「所有しない”贅沢”」という価値感も合わさり、所有することに対する価値はどんどん薄れていくだろう。そんな時代においてのラグジュアリーとは、「決して他人にシェア出来ないもの」になる。
まさに、ラグジュアリーの再定義が起ころうとしているのだ。
今回の記事では「ウェアラブルデバイス」・「実店舗」・「ラグジュアリー」という3つの言葉の再定義に注目した。後半では、労働搾取や大量廃棄といった長らく抱えているものから、プラットフォーマーとの協業という近年に急速に重要性が高まってきたものまで、ファッション業界が抱えている問題について注目したい。
参考
・Cognitive Marchesa dress lights up the night
・JACQUARD AND LEVI’S. A PERFECT FIT.
・Uber’s latest valuation: $72 billion
・Company value and equity funding of Airbnb from 2014 to 2017 (in billion U.S. dollars)
・ZOZOSUIT
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