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エシカルデザインとは – 時間と環境と生活に優しいデザイン
デザイナーの仕事の一つが、ユーザーが夢中になるプロダクトを作り出すこと。UXデザイナーを中心に、提供側のビジネスゴールを達成するために様々な“仕掛け”が施され、ユーザーが無意識のうちに夢中になっていることも多い。
我々が頻繁にインスタをチェックしたり、Amazonで必要のないものをついつい買ってしまったり、Netflixを延々と見続けてしまうのも、優秀なデザイナーによる数々の仕掛けのおかげだろう。
これは同時に、プロダクトがどのようにデザインされるかによって、それを使う人々の行動や思考パターンをかなり支配できるということにもなる。
大きな視点で見ると、ユーザーの人生をある程度左右するレベルの役割を担っていることにもなる。
倫理的側面からデザインを考えてみよう
利益を優先する過程でユーザーの生活に対して必ずしもポジティブな影響を与えない状況が生まれる可能性がある。
デザイナー本来のユーザーニーズに対して最適なソリューションを届け、彼らをハッピーにするという役割の一方で、所属企業やクライアントのことも喜ばせるためにより“粘着性”の高い体験のデザインを急ぐばかり、倫理的な部分が失われることも起こる。
より多くのユーザーの時間を占有し、より多くの売り上げを達成することに気がとられ、自分たちがデザインする体験が倫理的に正しいかどうかを忘れがちである。
そして、ふと振り返った時「果たしてユーザーの人生にポジティブな影響を与えているのか?」という疑問が湧き上がってきてる。
エシカルデザインとは?
Wikipediaによると、エシカル (ethical) とは、「倫理的」「道徳上」という意味の形容詞である。
この倫理的 (エシカル) な観点からプロダクトやサービスを見直そうという考え方がエシカルデザインである。提供側の利益だけではなく、ユーザーの人生をより豊かにするためのデザインを施そうというのがその趣旨。
無駄にページビューを増やしたり、アクティブ率をアップさせることよりも、ユーザーが喜ぶ仕組みは何か?利用頻度が下がったとしても、結果的に使っていて良かったと思わせるアプリとは?などの問いを含めたデザインプロセスを取り入れている企業も出てきている。
海外で高まるエシカルブランドへの支持
ノンデジタルの業界においても、より環境に良い製品や、動物実験を行わないことで支持を集めたブランドが話題になることが多かった。その動きはより加速している。
アメリカ・カリフォルニア州では2020年以降動物実験を行う化粧品の販売、輸入が一切禁止されている。他の地域でも同じ動きが進み、EU、インド、イスラエル、ノルウェーをはじめ28ヶ国で動物実験を経て製造された化粧品の輸入および販売の禁止が義務づけられている。
そして、消費者の意識にも変化が現れ始めている。例えば、アメリカのミレニアル世代の73%がサスティナブルな取り組みをしているブランドの商品を購入したいと答えている。
情報やモノが少なかったベビーブーマー世代は「良いものを買って自分のステータスを高めたい」という強い欲求があった。それに対しミレニアル世代は、すでにモノに溢れた世界を生きており、モノ自体への執着が少ない。
それよりも、より倫理的な考慮がされているプロダクトやブランドに人気が集まっている。
日本でも広がるエシカルデザインの波
日本でもそのトレンドは広がっている。例えばダウンジャケットも、実は一つのジャケットを作るために複数の鳥から羽毛を採取する必要があり、その工程で鳥に心身の負担を与える可能性が示唆されている。
この問題に対するアプローチとして、ダウンジャケットと同レベルの防寒性を植物から採取される繊維を利用して生み出した、カポックノットというファッションブランドがある。
ジャケット内に自然の木の実を加工した繊維を利用することで、ダウンジャケットの暖かさを保ちつつ、エシカルな視点から格段に動物や環境に優しいプロダクトデザインを行っている。
このブランドでは、プロダクトをデザインする初期工程からエシカルデザインの観点を最優先し、短期的な利益ではなく、長期的な持続性の実現を目指している。
海外で一般的になってきている考え方が、日本のブランドも取り組み始めているのが非常に嬉しい。
デザイナーにとってエシカルデザインが重要な理由
では、デジタルサービス系はどうだろうか?
今日のデジタルサービスはこれまで以上に我々のつながりを保ち、世の中の情報格差を格段に減らした。これらはすべて、テクノロジーの普及がもたらした価値ある成果だろう。
しかし同時に、Facebook、Google、Appleのような企業の製品に対して倫理的懸念も叫ばれ始めている。特にユーザー体験面では、ダークパターンのような、意図的にユーザーを欺くようなデザインを施した場合、ユーザーからの信頼が一気に下がり、ブランドとしての価値も失墜してしまう。
したがって、デザイナーは、プロダクトが提供するユーザー体験が倫理的であり、ユーザーのブランドに対する信頼に応えるものづくりを行う必要がある。
しかし、新しい製品をデザインしたり、古い製品を再デザインしたりする際には、考慮すべきことが非常に多いため、エシカル的側面が見落とされる可能性がある。
さらに、多くのデザイン思考やUXデザインの研修プログラムやビジネス環境では、倫理的配慮が強調されていないことが少なくない。
最近では、王者Googleの検索エンジンですらプライバシー的懸念で利用したくないというユーザーも出てきている。
ユーザーが知らないところで個人情報を収集したり、あえて紛らわしいデザインでクリックを誘発するようなデザインは今後どんどん淘汰されていくと考えられている。
ビジネスゴールの達成とユーザーメリットのバランス
これまではビジネス的な結果を出すためには、どうしてもユーザーメリットをある程度犠牲にする必要があるという概念が存在していた。これはまるでシーソーの両サイドを上げることは難しいという考え。しかし、デザインの仕方ひとつで、その両方が達成できるのではないかと思う。
もちろん、ユーザーが喜んで利用するプロダクトの多くは企業によって作られており、どの企業もお金を稼ぐことを目標の一つとしているだろう。
当然のことながら、そこでのデザイナーの仕事は企業が望むものを提供することだと感じるかもしれない。しかし、これは倫理性を欠いて良いなどという理由にはならない。
デザイナーはプロジェクトのビジネス要件を盲目的に受け入れるべきではない。もし倫理的な懸念が含まれているのであれば、要求事項を押し返し、疑問を呈することもデザイナーの仕事になる。
そして、最終的にはエシカル的な観点から、ビジネスゴールの達成とユーザーメリットのバランスが取れる解決策を導き出す必要がある。
もちろんエシカルデザインはデザイナーだけの仕事ではない
当然のことであるが、デザイナーだけがプロジェクトのデザイン決定に責任を持つチームメンバーではない。多くのプロジェクトには、プロジェクトマネージャー、アートディレクター、ソフトウェアエンジニア、他のチームメンバー、ビジネス関係者が関わってくる。
複数のメンバーが参加するプロジェクトにおいて重要なのは、他のメンバーに対してエシカルデザインの側面での見解をしっかりと伝えることだろう。特にUXデザイナーの役割は、ユーザー体験に直接影響を与えるので、周りのメンバーを上手に巻き込むことが求められる。
エシカルデザインにおける3つの要素
では、具体的にどのような倫理的観点からエシカルデザインを行っていく必要があるのだろうか?おそらく下記の3つの要素が考えられる。
1. ユーザーの時間への配慮
テクノロジーの進化に伴い、時間の使い方に大きな変化が訪れた。統計によると現代においては人と人が接する時間よりも、人とデバイスが接する時間の方が多くなっている。
ここ10年ほどでユーザーがスクリーンを見ることに費やす時間がどんどん増えている。例えば、ユーザー1人につき、平均で1日スマホの画面を150回見ているという。
サービス提供側からすると、どれだけ多くの時間を占有できるかの熾烈な戦いが繰り広げられ、他のサービスだけではなく、睡眠時間までもが競争相手になっている。
もし必要以上にユーザーの限られた人生における大切な時間を必要以上に奪ってしまっているとすれば、倫理的に見直す必要があるかもしれない。
2. ユーザーを取り巻く環境への配慮
前半部分で触れたエシカルブランドが最も配慮しているのが環境に関してのインパクト。具体的には、そのプロダクトが生まれる背景や、届けられるプロセスにおいてどのような影響を与えるのか。
エシカルデザインにおいて、この環境というのは必ずしも地球環境だけではなく、ユーザーの周りの人々なども含まれる。
例えば、過度なのめり込みを誘発するギャンブル性の高いゲームなど、ユーザー自身がハッピーだとしても、周りの人々にネガティブな影響を与えるプロダクトに対しては、デザイナーが倫理的観点を検証する必要性がある。
3. ユーザーの生活への配慮
家庭、仕事、通勤、娯楽、食事、睡眠など、我々の生活スタイルは取り巻くプロダクトによって大きく左右される。より豊かな人生を送るには、日々の生活が豊かである必要がある。
もし提供するサービスがユーザーの生活に対してマイナスな影響が出る場合は、倫理的な問題があると思われる。
例えば、スクリーンのパートナー化問題。
多くのことがパソコンやスマホの画面を通して行うことができるようになり、その上リモートワークや遠隔教育がどんどん進んできたことで、家の外に出る機会も減ってきているだろう。
それ自体問題にならないとしても、日々の生活で最も密接な“パートナー”はスクリーンになってるユーザーがどんどん増えていると思われる。人生のそのほとんどがスクリーンを見ることで終わってしまうのではないか、という危惧さえも生まれてくる。
日々の生活の積み重ねがユーザーの人生になるとすれば、そこにおけるデザイナーの役割は大きい。
エシカルデザインを実践するためのマインドセット
実際にエシカルデザインを進めるには、理解しておくべきいくつかのマインドセットがある。これらはデザイナーだけではなく、プロジェクトメンバー全員に共有することをおすすめする。
- デザイナーの最も重要な仕事の一つがユーザーからの信頼に応えられる体験を設計すること
- 可能な限りビジネス利益よりもユーザーメリットを優先する
- ユーザーを犠牲にしなければらないゴールがある場合は調整する
- デザイナーの意図が善意であったとしても、ユーザーにデメリットを与える可能性があることを理解する
- 倫理的に検討するべきなのは、ユーザー時間、ユーザーを取り巻く環境、ユーザーの生活
- デザイナーは、自分の価値観や道徳感をデザインの決定の指針とする
- ユーザーを欺いて製品に必要以上の時間を奪ったり、意図した以上の個人情報を不用意に共有させないようにする
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筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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