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シリコンバレーが注力する女性活用施策の中身とは ー時代は徹底的能力主義へ
社内でのセクハラ問題など不祥事が多発する米配車サービス最大手のウーバー・テクノロジーズは、騒動後に男女間の賃金格差をなくす動きに出たようだ。Uberは地に落ちた評判をなんとか挽回しようと必死だ。
こちらの各著名テック企業の男女比率によると、シリコンバレーで働く人の30%が女性、Googleでは33%、Metaでは37%、Appleでは34%を女性社員が占めており、各大手テック企業における女性の割合はまだ低い。
各社にとって優秀な人材を確保することが最優先であるなか、「女性だから」という理由で優秀な人材を取りこぼさないよう、サンフランシスコ・シリコンバレーではアンコンシャス・バイアス(潜在的偏見)を取り除く採用方法を取り入れたり、女性が働きやすい環境を作るための施策を導入するなど本気の取り組みがなされている。この記事ではその一部をご紹介したい。
1. 採用フェーズでの努力:ブラインド・インタビュー
近年、シリコンバレーにおける多様性のなさに注目し新たな産業が生まれているという。それはダイバーシティコンサルティングだ。各企業、様々な施策を考案し実行するもののなかなか結果が出ない。
そこで外部の専門会社を積極的に活用する流れへとシフトしてきている。今回、そのようなコンサルティング会社の一つ、ギャップジャンパーズのアン・グレゴリー氏に話を聞くことができた。
Ann Gregory
Founding Team Member and Director of Customer Success, GapJumpers
Director of Customer Successとして、求職者と企業を繋ぐだけではなく、関係構築やポートフォリオの制作等の最適化を行う。また、ギャップジャンパーズと大学や大学コミュニティ、プログラミングのブートキャンプの関係を構築する役目も担っている。
能力重視の採用プロセス
ギャップジャンパーズは偏見によって書類選考を通過できなかったなどのキャリア上のチャンスを逃したと感じる3人によって2014年に創業された。提供しているのは「ブラインドインタビュープラットフォーム」と呼ばれるものだ。
これは、企業が採用判断をする際に、性別、人種、出身大学、経済的バックグラウンドなどから来る潜在的な偏見が影響を及ぼすことを防ぐ目的で、応募者を能力のみでスクリーニングする求人プラットフォームである。ギャップジャンパーズにログインすると様々な求人がある。
求人情報に応募すると、まずその求人に関連するスキルを試すテストが課される。そこで応募者は能力のみによるスクリーニングを経たのち、次に面接に呼ばれるというプロセスになっている。
実際の対面の面接の代わりではなく、最初のステップとしてレジュメではなくスキルを図るテストを用いることで潜在的な偏見を取り除こうという目的だ。現在ファイアーフォックスを提供するモジラを始めとして多くのテック企業がこのブラインドインタビューを採用している。
優秀な人を見分ける一手段
企業がブラインドインタビューを使う目的は、これまで取り逃がしてしまっていた優秀な人材を見つけだすためだという。例えばある企業が優秀なソフトウェアエンジニアを雇うためにギャップジャンパーズを活用した。
するとある応募者が一次試験のコーディングテストで抜群の成績を収め、その後呼ばれた面接でもその場で即採用となった。
実はその応募者はヒスパニック系の女性だったのだが、これまで4回もその会社によって不採用になっていたことが後から判明した。この件を踏まえこの企業は潜在的な偏見によって優秀な人材を取り逃がしている現状に気づいたという。
また、従来の方法では募集要項に細かい要件が書かれているため、それが結果的に優秀な人材を逃すことにもつながっているようだ。昔と違い、2つの全く異なるキャリアを同時に歩む人もいる。
このような人材の出現から、企業は多角的に彼らを評価する必要が出てきた。彼らは必ずしも伝統的な経歴ではいないかもしれないが優秀だ。こんな人を取り逃がさないためにもブラインドインタビューは非常に効果的だという。
データで見るから続けられる
ダイバーシティへの取り組みは長期間に亘る投資のため結果が見えづらく、継続のモチベーションを持ちづらい。
実際、大手テック企業では潜在的な偏見をなくすためのトレーニング等を積極的に行っているが効果の測り方がわからず困っているという。
その点、ギャップジャンパーズではこれまで書類選考で落としていたであろう人材が面接に呼ばれることもあるので目に見て変化がわかる。
これまでの採用実績をデータ化して偏りがあることにも気づける。有効な方法を模索するダイバーシティ担当者にとって、ギャップジャンパーズは目に見える結果を出してくれる点で重宝されているという。
女性活用は経営判断
このブラインドインタビューを活用しているのははテック業界の会社が多いが、最近小売業界も増えてきているという。また、ギャップジャンパーズ社はアメリカだけでなくグローバル企業のアジア太平洋支店にもサービスを提供している。
利用する企業に共通するのはトップダウンの経営判断としてギャップジャンパーズを活用することになったという点だ。より多くの企業が現状の採用プロセスが完璧でないこと、それによって取り逃がしている人材の貴重さに気づき始めている。
2. 長く働いてもらうための努力:福利厚生施策
意外かもしれないがアメリカでは有給の産休や育休などが整備されている企業は少ない。しかし、サンフランシスコ・シリコンバレーでは貴重な女性社員を引き付けるために様々な施策を打つ企業が出てきている。
この辺りのテック企業というと豪華なカフェテリアやクリエイティブなミーティングルームなどが注目されがちだが、ここは女性を留めるための施策や福利厚生に注目してみたい。
主流になった卵子冷凍保存
2014年にフェイスブックが始めた卵子冷凍保存サービス。社員、もしくは社員の配偶者が卵子を冷凍するコストをすべて会社が負担するという内容の福利厚生だ。少なくとも1万ドルはかかるという。
妊娠、出産をするための期限を気にせずに仕事に集中してもらいたいという思いからこの制度は生まれた。Metaが始めた後すぐにAppleも採用し、現在はGoogle、Uber、Yahooなど少なくとも10以上の企業が福利厚生として卵子冷凍保存を提供している。
子供が生まれてから1年は休み放題!
日本では産休・育休で1年間休みを取ることは珍しくないが(ただし男性にとってはまだまだ珍しいが)、ここアメリカでは珍しいことだ。そんななか、ネット動画配信サービスのネットフリックスは2015年に子供が生まれる、もしくは養子縁組をしてからの1年は有給を取り放題にした。1年間まとまって休むことも可能だが、数か月休んで復帰、その後また休みを取ることもできる。さらにネットフリックスはその間通常通りの給料を支払うという。この制度は導入以来、多くの社員に活用されている。
社員全員の給料をウェブで公開
ソーシャルメディアスタートアップであるバッファは2013年にある画期的な人事制度を導入した。それは、社員全員の給料とその背景(どんな計算式を使ってその金額になったか等)の公開であるこれにより、すべての社員は能力に基づいて評価され、性別等による不当な給与差を出さないという会社の姿勢を明確に打ち出した。
また、募集要項での三人称(He:彼、She:彼女など)を使うことをやめた。バッファはカンパニーカルチャーへのフィットよりもコーディング力に注力するなどデータドリブンな採用判断をすることを心掛けている。
女性エンジニアのための社内クラブ
決済システムのスクエアではエンジニア職の女性はわずか18%しかいない。しかし同社ウェブサイトが昨年の女性の離職率は男性の半分だったと伝えているように状況は良くなってきている。
スクエアでは社内に女性エンジニアのためのWomeg(Women engineer)というグループがあり定期的にイベントを開催し、普段の悩みなどを相談しあったりロールモデルを見つけたりする場として女性社員に活用されている。
まとめ
少子高齢化、人口減少から人手不足が叫ばれて久しい。この状況を乗り切るためには女性の労働力活用は必須だ。毎年世界経済フォーラムが発表するジェンダー・ギャップ指数は女性の地位を経済、教育、政治、健康の4分野で分析しているが、昨年日本は111位(144か国中)にランクインした。
この記事で紹介したように世界をリードするテック・ビジネスのの中心地であるサンフランシスコ・シリコンバレーでは、各企業が優秀な女性獲得のために本気で取り組んでいる。彼らはただPRのために動いているのではない。数合わせを行っているのでもない。
イノベーティブなビジネスを作っていくためには、従来「アンコンシャス・バイアス」によって取りこぼしていた能力のある人材をしっかり確保すること、またそうして集めた人材に長く戦力で居てもらうことが必要だと判断した上での経営戦略なのだ。
男性社会と悪名高いサンフランシスコ・シリコンバレー地域のテック企業がどう変わっていこうとしているのかを知ることで日本の女性がより活躍できる社会になるためのヒントが得られるかもしれない。
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