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ヤマハとコニカミノルタが語る「経営におけるデザインの役割」とは【DFI2018】
btraxでは毎年デザインと経営の融合をテーマにしたカンファレンスDESIGN for Innovationを開催し、3年目となる今年は10月11日(木)にFiNC有楽町にて行われた。
当日は様々な切り口でデザインと経営に関する基調講演やパネルディスカッションが行われたのだが、その中の一つではヤマハ発動機の長屋明浩氏とコニカミノルタの平賀明子氏をゲストスピーカーとしてお招きし、日々経営やビジネスに対してどのようにデザインの価値を取り入れているのかお話を伺った。
お二人ともデザイナー出身でありながら執行役員という立場でまさにデザイン経営の最先端を行かれており非常に興味深い内容であったので、freshtraxでもセッションの内容を抜粋して紹介したい。
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ゲストスピーカーのご紹介
長屋 明浩氏(ヤマハ発動機株式会社/執行役員デザイン本部長)
1960年名古屋市生まれ。83年愛知県立芸術大学卒業。同年トヨタ自動車入社。初代レクサスLS400やセルシオ、マークⅡなどのデザインを担当。2003年米国・バークレー大学でMBA取得。03年レクサスブランド企画室長に就任し、グローバルでレクサスブランドを牽引。10年トヨタデザイン部長に就任、全てのトヨタ車の製品デザイン開発を指揮。12年テクノアートリサーチ代表取締役。14年ヤマハ発動機デザイン本部長就任。15年より同社執行役員。
平賀 明子氏(コニカミノルタ株式会社/グループ業務執行役員 ヒューマンエクスペリエンスデザインセンター/センター長)
高校時代に芸術的思考の力を産業に活かす仕事に付きたいと、大学で工業デザインを専攻。学士卒後、現コニカミノルタ(株)の前身である旧小西六写真工業㈱入社。プロダクトデザイナーとして主にカメラのデザインに携わる。企業統合後は、コニカミノルタのR&Dである開発統括本部下部組織としてデザインセンター長を経たのち、2015年に社長直下の組織として独立。現在のHXデザインセンターは全社横断組織の位置づけ。2016年にグループ業務執行役員に就任。
まずは経営トップがデザインにコミットすることが重要
金子:両社ともまさに経営トップ自らがデザインにコミットしている点が他の企業と比べて異なる印象がありますが、具体的にトップはどのようなことを仰っていて、お二人はどのような期待を受けて活動されているのでしょうか?
長屋氏(以下敬称略):ヤマハ発動機は会長の柳が2013年のインタビューで『「ヤマハらしさ」とは3つあり、まず新しいトレンドをつくるコンセプト、そして高性能を実現する技術力、さらにデザインだ。性能につながる技術は各社で勝ったり負けたりの競争が続くが、コンセプトとデザインだけは譲れない。』と明言しておりまして、これが今日言われている「デザイン経営」のベースですね。
そういうことを言ってもらってるので、私の方でも『デザインが経営と直結している企業、それがヤマハ発動機』と捉えて、『デザインは事業の根幹、販売に直結するファクターであり、それをマネージすることはきわめて重要。経営・組織・ブランドとデザインを有機的につなげていくこと、すなわち経営デザイン。』と言っています。
具体的には、”デザインのやり方”をデザインする。”デザインの意味”をデザインする。”デザイン力”をデザインする。この3つを旗印に掲げてやっています。
“デザインのやり方”とは、仕組、プロセス、全体目線、合理性、全体最適、みたいなことです。デザインの対象そのものにとりかかる前に、まずはやり方を作ることが大事です。
”デザインの意味”とは、前のめり、コンテクスト、先行を指し、そのデザインが持つ意味とは、お客さんに何のメリットがあるのか、やる必要があるのかということで、そもそもその事業の存在意義みたいなことですね。”デザインする力”は、人的リソース、組織、設備を含めてどのように人材育成していくかということです。
また、私がデザイン本部長に就任してから、イノベーションセンターを作ってこの中でいわゆるデザイナーとエンジニアのコラボレーションを強化し、前のめり、先行開発に繋げていこうと考えています。
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平賀:私の場合は、社長の山名から直接、「経営をクリエイティブにしたい」と言われまして、この時からこれが私の最初のミッションになりました。
私はいわゆる一般的な大企業と言われるインハウスデザイン部門に所属した、プロダクトデザイナー出身なのですが、近年になって、既存ビジネスがディスラプションされる社会変化が起き始め、どうもデザインの仕事が変わって来たなという直感がありました。
ちょうどその頃、これからのデザインの役割とは、を自分なりに整理し、実行できる組織の姿を描いて社長の所へ行った時に「世の中ではデザインシンキングという考え方が出てきていますがご存知ですか?」と聞いたら、トップのほうが既にご存知でした。
話を進めるうちに、これまでよりももっと経営に関わる役割を持った部署にしていこうということになったのです。その場で「じゃあ、部署の名前は何にする」ということで、二人であれやこれや話し合いましたが、人・社会の進化のために価値を創出し続ける企業と言っているのだからと、人間社会という広い視点から考え、最終的にヒューマンエクスペリエンスデザインセンターという、おそろしく長い名前に決まりました。
元の環境に戻さないようにする仕掛け作りが必要
金子:トップからのコミットメントがあったとしても、周りにデザインを浸透させていくには相当なハードルがあるのではないかと想像しますが、どのような点に一番力を入れて取り組んでいらっしゃいますか?
平賀:社長から「デザイン思考を広げていきたい」という風に面と向かって言われたということは、私がやらなくちゃいけないんだなと感じました。これはデザインセンターだけの問題ではなくて、会社をクリエイティブにしたいということは、会社全体のという意味だと理解しまして。
デザインセンターだけではなくて、会社全体に対してデザイン思考をいかに育成していくかを考えた結果、「デザインシンカー増殖ビジョン」というものを作り、社内全体でワークショップを始めました。
要するに会社の中のそこかしこに、デザインシンキングが理解できて実践できている、当たり前に実践できている風土と人を増やしていきましょうと。そうすれば自然にデザイン思考、要するに人間中心でモノゴトを考えて、プロブレムの特定から始まり、課題を提起していくという、そういう自然な行動が取れるようになるんじゃないかと言って始めたんです。
具体的には3階層に分けて実施しました。まずは弊社の各部署の若手の期待層。次に彼らの上司と本音の対話のワークショップをやって、皆の前で直接の上司に向かって「今のままではだめです」という話が出来るかどうかを試して頂きました。それは何故かと言うと、職場に戻ると元に戻るんです。元の文化が変わってないところに、いくら学んでもまた元に戻ってしまうんですね。
もう一つ事業部長クラスを集めてワークショップを実施しました。やはり経営層が変わらなければ会社は変わらないので。この3階層をまとめて実施しました。
長屋:イノベーションセンターを作った理由の一つも、まさに職場に帰ると元に戻ってしまうという話に関連します。
ほんとに、結局、属している空間とか、所属、ドメインとかいうところの影響って非常に大きいので。最後の3番目に”デザイン力”をデザインするとありましたけど、まさにそこに通じる部分でして。そういうのをどうやって断ち切るか、変えていくか。要は普通の人を普通の人に戻さないっていうことが新しいプロセスをやっていく上ではとても大切なところなんですね。
先程のデザインシンキングの話ですが、人間をいわゆる観察媒体だとしか捉えてないと、絶対人間的な答えって出ないじゃないですか。人間って単なる被験体ではなくてそれは人間なんですよ、ってところに戻ったんですね。それだけのことなんだと思うんです。
だからいかに普通の人を普通じゃなくするというか、そういった状態に落とし込むというのが、デザインマネジメント、あるいはブランディングマネジメントにおいては、非常に大きなポイントで、最初に超えなきゃいけない壁だと思っています。
複数の専門性を持つ人材を育てていくことで組織の幅が広がる
金子:長屋さんはプロダクトの観点からブランディングに関わられていたり、平賀さんももともとプロダクトデザインからサービス開発の領域まで幅広くやられていて、デザインが受け持つ範囲が広がっており、求められるスキルとかも全く異なってくるのではないかと想像していますが、その中でどのようにデザイン組織を組み立てたり、人材育成をしていらっしゃるのかをお伺いしたいです。
平賀:そこは逆に、もう皆さんに教わりたいぐらい、私も悩んでいるところです。さっき長屋さんは、部員の方の半分がデザイナーで半分はそうではないと仰ってましたが、うちはそうなってないんですね。
本当はそうなりたいと今とても思っています。なぜならば、やはりデザイナーは本来ものが作りたい、きれいなものが作りたいということが、本質的にあるじゃないですか。それがやりたいんだけど、うちに来るとちょっと観察に行ってとか、リサーチに行ってとか、プレゼンテーションしてきてとか。
そういうことをやってると、どうしても限られた時間のやりくりの中で、つまり本来のクラフトマンシップのところが片手間にならざるを得ない状況になるわけで。やはり集中できないというジレンマがあって。デザイナー以外の職種というか、スキルを持った人達が欲しいなとは思ってます。
長屋:これは逆に我々も羨ましい部分もあるんです。というのは、うちは2012年にデザイン本部が出来ていますが、最初は寄せ集めの状態から始めました。
私が呼ばれて、ここで何をすべきかと考えたときに、マネジメントだと思ったんですね。デザイナーがいなかったというのを、逆にそのネガティブをポジティブに変えてやろうと。
時代の流れの中で、結局デザインというのはシステムを作っていくことになってますから。そのために有利に働くように持っていこうと考えました。
一方で、結果的にはすごく良かったと思ってるんですね。というのは、例えばうちには広報出身のプロがいますし、エンジニア出身の人もいます。経歴の中でデザイン以外のことをやってる人がほとんどなんですよ。
結局、自分の専門を二つ以上持っていると、視点を切り替えることができます。これは実は人材育成をやっていく上ではとても重要で、幅が広がっていくわけですよね。そうすると視点が全然変わっていきます。
よくしたもので、人づくりのところで私が非常に大事だと思っているのは、使えない人はゼロってことなんです。才能のない人はいないと思った途端に、全てが宝石のように輝く。この感覚を開発のチーフになる人が持った途端に、組織が変わります。その感覚をもたせることが組織づくりではとても重要だと思います。
日本企業はイノベーションにどのように取り組んでいくべきか?
金子:今日是非お二人にお伺いしたいと思っていたのは、我々も様々な日本の大企業のサポートをさせて頂いていますが、日本の会社は技術視点から始まることが多く、なかなかユーザー視点、人に着眼するということを上手く両立できないことが多いのかなと感じています。お二人はその辺どのようにお考えですか。
平賀:質問の答えじゃないかもしれないですが、経営側の立場になって本当につくづく思うのは、やっぱり経営者は業績の責任がありますしコミットメントもしてますので、どうしてもその数値は絶対出さなきゃいけないものなんですね。
でも、特に新規事業はいきなり大きな数字は追えないはずだと思うのですが、やっぱり会社は外のステークホルダーに対して数字を発信するじゃないですか。それを言ってしまったら、今度は絶対達成しなければならないので、どんな新しいものでも規模を追うという、どうしてもそういう発想になってしまって。
それがリスクを負える負えないということに関係してくるのかもしれないですけど、やはりそこは小さい成功をいかに確実に積み上げていくかというところを、経営層がしっかりフォローする体制を作って責任を取るという覚悟が大事なんじゃないかなと思うんですね。
そうじゃないと、現場の人達が判断できないんですね。こんな小さな事業を続けていってもダメだから、と力も入らないし。認められない、という風になってしまったり。
だから私は、失敗を許容する会社に絶対なりますから、ということはよく言います。小さくていいからとにかく成功してみましょうと。小さいという意味には、尖らせる、という意味があるとも言っています。
つまり、尖らせることで人・社会にとっての価値は研ぎ澄まされたものになり、それをグローバルに応用し拡げていけば規模も出てくると。そこにみんな一緒に努力しましょうと。そういうようなマインド、風土を根付かせたいなと考えています。
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金子:なるほど。長屋さんは「プロダクトイン」という考え方を提唱されていましたが、その辺りは如何ですか。
長屋:マーケットインかプロダクトアウトかというような議論がよくありますが、極論すればどちらも大事ですが、総じてマーケットインというのは美談として美しく語られるわけです。
でも実際に起こってるのはほんとにお客さんの声かというと、販売店の声であって、お客さんの声じゃないかもしれないですよね。ではどこまで声を聞けばいいか、結局堂々巡りだと思います。
一方で好き勝手物を作れば売れるかというと、売れないわけですよ。特に弊社の場合はそういう失敗をいっぱいやってまして。結局どっちもダメだということになって、ではどうすればいいのかということになってくるわけですけど。
特に、これは当社に限っての部分もあるかもしれませんが、尖ったものを作るのがヤマハであるということを僕らはブランディングの中でも定義してます。尖った物を作るのだけどお客さんがきちっとそれを認めて買っていただける、尖っているのにある程度の量が出ていくという物をとにかく開発していくんだということを象徴したのが、プロダクトインという考え方です。
大切なのは「自由、人間、愛」
金子:最後に今日来て頂いたオーディエンスの方に実際にビジネス、経営にデザインを取り入れていく上での助言をいただければと思います。
平賀:私はデザイン思考の説明をする前に、「自由になろう」という話を言っています。とにかく構想力というのは主観が大事だと思ってるんですね。自分がどこに向かいたいかが最後決めることだと思いますので。そこに自由にならなければいけないということが言いたい。
長屋:大事なのはやはり日本であり人類でありというスパンを忘れないことだなと思ってます。困ったら人間に戻る。人間愛に戻る。
そういう意識でやっていけば、別に出来ないことはないし、おそらく日本人はその点では慈愛に満ちてるし、神経が細やかだし、とても優れていると思うので、これからの時代はそこが強みになってくるのではないかと思います。
セッションを終えて
経営・ビジネスというとどうしてもロジック先行になりがちだが、改めて最後のアドバイスにもある通り、お二人とも従来のビジネスの感覚やロジックを超えて人間の本質に立ち返るような感性・フィロソフィーを持って事業に取り組まれており、それゆえ経営トップからの信頼も厚く頼りにされているのではないかと感じた。
今の日本企業に必要なのは、お二人が話していたような経営とデザインをハイブリットした人材を増やしていくことなのかもしれない。btraxとしても今後も引き続きDESIGN for Innovationを通してビジネスシーンにおけるデザインの重要性を伝えていきたい。
なお、コニカミノルタ様のデザインに関する取り組み、「コニカミノルタのデザイン」はこちらからご覧いただけます。
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