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デザイン会社のCEOが考える「デザイナー不要論」と5つの生存戦略
先日LinkedInを見ていたら、こんな投稿が流れてきた。
「I’m out. After 22 years as a UX Director.」
– 元ポスト
22年UXひと筋。スタートアップでUX部門のトップまで務めた人が、デザイン業界から足を洗うという。理由を読んで、ちょっとドキッとした。
AIに仕事を奪われたから、ではない。AIのせいで、会社がデザイナーに求めるもの自体が変わってしまったから、だという。
AIで制作スピードは一気に上がった。アウトプットの量も増えた。そうなると会社は、もっと速いリリース、もっと多くの機能、目先の数字を求めるようになる。ユーザーの話をじっくり聞いて、本当に必要な体験を考える。UXで一番大事なはずのその時間が、「非効率」扱いされ始めていると言う。
ユーザーの満足とビジネスの成長。その両方をつなぐのがUXデザイナーの仕事だったはず。なのに、そのバランスが崩れてきている。
正直、他人事じゃない。僕はサンフランシスコでデザイン会社を20年以上やってきた。ここ数年で「AIがあるんだから、もうデザイナーいらなくない?」という声を本当によく聞く。
さらに最近は「デザインハーネス」という概念にも注目が集まっている。デザインハーネスとは、AIがデザインを作るだけでなく、会社のルールに沿って作り、品質チェックまでやってしまう仕組みのこと。
ここまで来ると、人間がやってきたデザイン業務のかなりの部分が自動化されてもおかしくない。
じゃあ、デザイナーは本当にいらなくなるのか?
今回は、デザイナー不要論が広がっている本当の理由と、AI時代にデザイナーが生き残る5つの方法について考えてみたい。
デザイナーは、進化するたびに自分の仕事を減らしてきた
そもそもデザイナーって何をする人なのか。
昔は答えがシンプルだった。グラフィック、イラスト、プロダクト。目に見える表現やモノの形を作る専門職。
それがデジタルの普及とともに、Web、UI、UX、サービスデザイン、さらにはビジネスや戦略のデザインへと広がっていった。見た目を作る人から、体験やビジネスそのものを設計する人へ。デザイナーはずっと進化してきた。
ただ、ここに一つ皮肉な話がある。
デザイナーが自分の仕事をラクにするために作ってきたツールや仕組みが、巡り巡ってデザイナー自身の仕事を自動化し始めているのだ。
その象徴がFigmaだと僕は思っている。
Figmaは、デザイナーの仕事を便利にしすぎた
僕がデザインの仕事を始めた頃は、IllustratorやPhotoshopで画面を一枚ずつ手で作っていた。
スマホアプリなら、画面サイズを決めて、ボタンやナビを置いて、余白やレイアウトを細かく詰めていく。それなりの知識と技術がないとできない仕事だった。
Figmaが出てきて、これが一変した。
用意されたUIコンポーネントをドラッグ&ドロップすれば、短時間でそこそこの画面ができる。デザインシステムやテンプレートが整えば、複数のデザイナーが同じ品質で量産できる。
素晴らしい進化だ。でも、初めてFigmaを触ったとき、僕は便利さと同時にちょっとした不安を感じた。
「こんなに簡単にできちゃって、大丈夫か?」
デザインをコンポーネント化、テンプレート化するというのは、人間のデザイナーがやっていた判断や作業をルールに落とし込むことだ。そして、ルール化された仕事はAIが一番得意な領域でもある。
効率化すればするほど、AIに置き換えられやすい環境を自分たちで整えている。なんとも皮肉な話だ。
特にUIデザインは、AIに置き換えられやすい
デザインの中でも、僕が一番自動化が進むと思っているのがUIデザイン。
理由はシンプルで、優れたUIには、ある意味で個性がいらないから。
もちろんブランドらしさや見た目の魅力は大事。でも最優先は、ユーザーが迷わず、ストレスなく目的を達成できること。
以前、ビートラックスの社内でちょっとした実験をしたことがある。普段使っているInstagramやTikTokの画面を、何も見ずに紙に描いてもらった。
これが意外と描けない。ロゴは覚えていても、ボタンの位置やナビの配置を正確に思い出せる人はほとんどいなかった。でも、実はこれこそ良いUIの証拠でもある。本当に使いやすいインターフェースは、存在すら意識させない。考えなくても使える。
裏を返せば、UIの多くは既存のベストプラクティスを理解して、うまく組み合わせれば作れてしまう。パターンを学んで組み合わせるのは、まさにAIの得意技。
複雑な利用シーンや、まったく新しい体験の設計には、まだ人間の判断がいる。ただ、標準的なUIを作ることだけで食べているデザイナーやデザイン会社には、かなり厳しい時代が来ると思っている。
デザインハーネスで、ゲームのルールがまた変わる
AIでデザインを生成すること自体は、もう珍しくない。
でも、AIに「いい感じのサイト作って」と頼んだだけで、その会社のブランドやユーザー体験にぴったりのものが出てくるわけじゃない。
そこで出てきたのがデザインハーネスという考え方やその仕組みを提供してくれるサービス。ざっくり言うと、AIが自分でちゃんとしたデザインを作れるように、ルールや判断基準、必要な情報、チェックの仕組みをあらかじめ用意しておくこと。
たとえば、こんなものが組み込まれる。
- ブランドガイドラインやデザイン原則
- UIコンポーネントやデザイントークン
- ターゲットユーザーの情報
- 過去のデザイン判断やUXリサーチの結果
- アクセシビリティやユーザビリティの評価基準
- AIが作ったものを検証して直すプロセス
これをAIエージェントが使えるようにしておけば、デザイナーが毎回細かく指示しなくても、一定の品質と一貫性でデザインが量産できる。
デザインシステムが「人間のための共通ルール」だったとすれば、デザインハーネスは「AIが実行して、自分でチェックまでできるルール」。
ここに、デザイン業界の大きなパラドックスがある。
Figmaもデザインシステムも、デザイナーがより良い仕事をするために育ててきたもの。それがAIにも理解できるレベルまで洗練された結果、デザイナーが手を動かさなくてもデザインが生まれるようになってしまった。
そうなるとどうなるか?
そう、もうお気づきだと思うが、デベロッパーやプロダクトマネージャー(PdM)、マーケターなどが、デザイナーがいなくてもプロダクトのUIを作成できてしまう。まさに、「Designer! Jump」が実現する。
デザイナーが積み上げてきたノウハウが、デザイナーのいらない仕組みを作っている。これは結構インパクトのある変化だと思う。
デザイナーは「作る人」から「仕組みを作る人」へ
じゃあ、デザインハーネスが完成したらデザイナーは用済みなのか。僕はそんな単純な話じゃないと思っている。
画面を一枚ずつ作る、ボタンの位置を調整する、デザインシステムに沿ってレイアウトを組む。こういう仕事はかなり自動化されるだろう。
でも、そこで逆に重要になるのが「AIに何を作らせるか」を決める役割。どんなユーザーを想定するのか。どんなブランド体験を届けたいのか。何をもって「良いデザイン」とするのか。
この基準を決められなければ、AIがいくら大量にデザインを出してきても、ビジネスの価値にはつながらない。
- これまでのデザイナー:自分のスキルと経験で、良いデザインを作る人
- これからのデザイナー:良いデザインが生まれるルールと環境を設計し、AIを使いこなしながら、体験の品質とビジネスの成果に責任を持つ人
プレイヤーからディレクターへ。さらにはデザインプロセスそのものを設計するアーキテクトへ。そんな変化。
ただし、もう一つ考えておきたいことがある。
前出のように、デザインハーネスが充実するほど、デザイナー以外の人でもそこそこのデザインが作れるようになる。PMがAIで新機能の画面を作る。マーケターがブランドに沿った広告を作る。エンジニアがUIをそのまま実装する。今までデザイン部門に頼んでいた仕事が、他部署だけで完結してしまう。
そうなると、ツールを使いこなせるだけでは足りない。
ルール通りのデザインを効率よく作ることと、誰も見たことのない体験を生み出すことは、まったく別物。前者はどんどんAIの仕事になる。後者には、常識を疑い、新しい問いを立て、まだ存在しない価値を想像する力がいる。
AIが「既存の正解」を高速で再現できる時代だからこそ、その正解を疑えるデザイナーの価値が上がっていく。僕はそう思っている。
AIのせいで、デザイナーが「清書係」になりつつある?
もう一つ、最近、広告やエージェンシー界隈でよく見る現象がある。クライアントがAIで作ったデザインを、そのままデザイナーに渡してくるパターン。
画像生成AIで広告ビジュアルを作って、デザイン会社に送ってくる。そして一言。
「これ、もっといい感じに仕上げてください」
一見すごく合理的。昔はクライアントが頭の中のイメージを言葉で説明したり、PowerPointでラフを作ったりしていた。当然ズレるので、修正が何度も発生する。デザイン業界でファイル名に「_Final.」のあとに「_Final2.」「_Final3.」「Final_Final.」が増えていくのは、もはやお約束だった。
AIで先にビジュアルを作ってもらえば、このズレは減る。
でも、これには大きな落とし穴がある。デザイナーがクライアントの想像を超える提案をするチャンスがなくなる。
クライアントが作った画像をきれいに再現するだけなら、デザイナーはただの清書係になってしまう。本来デザイナーの仕事は、クライアントが思いつかなかった可能性を見せることだったはず。言われた通りに作るだけなら、確かにAIで十分かもしれない。
さらに最近は、マーケターがAIで広告クリエイティブを作って、そのまま配信ツールで回すケースも増えている。制作、配信、効果測定、改善まで自動で回るなら、デザイナーが入る余地すらない。
これが、デザイナー不要論の裏にあるもう一つの大きな変化だと思う。
それでもデザイナーが必要な5つの理由
ここまで読んで「デザイン業界、詰んでない?」と思った人もいるかもしれない。じゃあ、デザイン会社を経営している僕はどうするのか。もちろん指をくわえて見ているつもりはない。
むしろAIが広がるほど、価値が上がるデザイナーの役割がある。僕が考えているのは次の5つ。
1. クライアントも気づいていない「本当の課題」を見つける
デザインで一番大事なのは、頼まれたものを作ることとは限らない。時には、その依頼自体が正しいのかを疑う必要がある。
僕の友人がやっているデザイン会社で、こんなことがあった。
ある食品メーカーから「売上を伸ばしたいのでECサイトを立ち上げたい」と相談が来た。ところがヒアリングを進めるうちに、友人は気づいた。この会社に本当に必要なのは、ECサイトじゃなくてオフラインでの販売強化じゃないか、と。
そこで彼は、ECサイト制作のコンペを辞退した。そして、オフラインでの販売施策を提案した。
結果、その案件自体は取れなかったけど、同じクライアントが後になって彼の会社に戻ってきたそう。
AIに「ECサイト作って」と頼めば、立派なECサイトを作ってくれる。でも「そもそもECサイトいる?」と問い直せるのは人間だけ。この価値は、これからむしろ上がっていく。
2. デザインを売上につなげる
デザインの価値は見た目の美しさだけじゃない。会社の売上や事業成長にどれだけ効くか。ここがこれからのデザイン会社の勝負どころになる。
以前ビートラックスで、自動車メーカーの新型車に関するデザイン企画に関わったことがある。そこで考えたのは、車の見た目をどうするかだけじゃなかった。
北米のユーザーにとって、この車の魅力は何か。どんな価値を打ち出せば競合と差別化できるか。最終的にどうやって販売拡大につなげるか。
デザインをビジネス戦略の一部として考えるアプローチの立案をクライアントさんと一緒に行った。
AIはかっこいい車のデザインをいくらでも出せる。でも、どの市場で、誰に、どんな価値を届けるのか。この問いには、ビジネスを深く理解していないと答えられない。
3. 人を巻き込んで、プロジェクトを前に進める
デザイナーというと、PCの前で黙々と何かを作っている姿をイメージする人が多いと思う。でも実際は、かなりの時間をコミュニケーションに使っている。
ヒアリング、社内の議論、プレゼン、関係者との調整。
良いデザインは、天才が一人で突然生み出すとは限らない。立場の違う人たちが知識や経験を持ち寄って議論するなかで、誰も想像していなかったアイデアが生まれることも多い。
特に複数の部署や会社が絡むプロジェクトでは、デザイナーがファシリテーターになって議論を整理し、認識を揃え、前に進める役割がめちゃくちゃ大事になる。
AIはアイデアは出せても、人間関係を作って、組織を巻き込んで、合意をつくるところまではできない。
4. AIを「使う場面」と「使わない場面」を見極める
意外と見落とされがちなのがこれ。AIを使えることと、AIを使うか使わないかを判断できることは、まったく別の能力。
広告ビジュアルをAIで作れば、コストも時間も大幅に減る。でも、ブランドによっては逆効果になる。
実写だと思っていた広告がAI生成だとわかって、がっかりされる。商品の魅力を伝えるはずの画像が、なんだか不自然に見える。最悪の場合、ブランドの信頼を失う。
ビートラックスでも、アイデア出しやコンセプト開発、プロトタイピングではAIをガンガン使っている。一方で、最終的なクリエイティブは、ブランドへの影響や品質を考えて、AI生成物をそのまま使わないのを基本にしている。
AIを使うこと自体を目的にしない。一番いい結果を出すためにテクノロジーを選ぶ。
デザインハーネスが進化するほど、この判断は重くなる。AIが大量に自動でアウトプットを出す世界では、一つひとつ手で直すのではなく、「何を基準に作らせて、何を基準に評価するか」を最初に決めておく必要があるから。
5. 最後に責任を取る
個人的には、これが一番大事だと思う。AIは責任を取ってくれない。
AIで作った広告が炎上したとする。AIを使ったせいで機密情報が漏れたとする。そのとき、クライアントに「AIがやったので仕方ないです」と言っても通用しない。品質、ブランドへの影響、著作権やライセンス、セキュリティ。最後に責任を負うのは、人間であり会社。
だからこれからのデザイナー、特にシニアデザイナーやクリエイティブディレクターには、今まで以上の判断力が求められる。AIのアウトプットを評価して、必要なら直して、品質を保証する。そしてその結果に責任を持つ。
ここに、人間のプロとしての存在価値が残ると僕は考えている。
AI時代、デザイン会社は何で稼ぐのか
ここまでの話をまとめると、一つの方向性が見えてくる。
デザイン会社はこれまで、主に成果物を売ってきた。ロゴ、Webサイト、アプリのUI、広告クリエイティブ。
これらがなくなるわけじゃない。でもAIで制作コストが下がれば、「作る」だけで高いお金をもらうのはどんどん難しくなる。
じゃあ何でお金をもらうのか。
僕は、「何を作るかを決めること」と「それでビジネスの成果を出すこと」に価値が移っていくと思っている。
たとえば新しい市場に参入したいクライアントがいたら、いきなりサイトや広告を作るのではなく、まず市場のニーズとユーザーの課題を理解する。そのうえでプロダクトの価値を定義し直し、ブランドのポジショニングを考え、顧客体験を設計する。そして必要なクリエイティブを作って、実際の市場で結果を出す。
この一連の流れにこそ、デザイン会社の本当の価値がある。
さらに、デザインハーネスを作ること自体が、デザイン会社のサービスになる可能性もある。クライアントのブランドやデザイン原則を整理して、AIエージェントがそれに沿って制作できる環境をつくる。AIの成果物の品質を継続的にチェックして、ルールやプロセスを改善していく。
デザインを一個ずつ納品するのではなく、良いデザインを生み出し続ける「仕組み」を売るビジネスだ。
ただ、ここにも落とし穴はある。ハーネスの構築や運用が当たり前になれば、それ自体もいずれ自動化される。だからこそ、仕組みを作るだけで終わらず、その仕組みでどんな顧客体験やビジネス成果を実現するのかまで考え抜けるかが勝負になる。
ビートラックスがやっているような、国や文化をまたぐビジネスでは特にそう。ある国で当たったデザインが、別の国でも当たるとは限らない。現地のユーザーを理解して、文化の違いをつかんで、ブランドの魅力を一番伝わる形で届ける。
AIはこのプロセスを大幅に効率化してくれる。でも「どんな体験なら人の心が動くのか」という最後の判断には、人間の洞察と経験がどうしても必要になる。
まとめ:デザインはなくならない。でも「今までのデザイナー」はいなくなるかもしれない
以前、「デザイナーという職業がなくなるかもしれない」という記事を書いたことがある。
それは、デザインがいらなくなるという意味じゃなかった。むしろ逆。デザインの重要性が高まって、誰もがデザインの知識やスキルを使えるようになれば、デザイナーという専門職の境界線がぼやけていく。そういう話だった。
当時はAIがここまで来る前だった。でも今、その変化が一気に加速している。
Figmaで制作プロセスが標準化され、AIでアウトプットが自動化され、デザインハーネスで判断基準やチェックまで仕組み化され始めた。「作ること」だけを専門にするデザイナーの需要が減るのは、ある意味自然な流れ。
でも、それはデザインの価値が下がるという意味じゃない。デザインの本質的な価値が、今まで以上に問われる時代になったということ。
何が問題なのかを見つける。誰に、どんな価値を届けるのかを考える。人を巻き込んで、新しい可能性をつくる。AIがちゃんとしたものを作れる仕組みを設計する。そして結果を評価して、最後に責任を持つ。
AIで「作れること」の価値は下がる。その代わりに「何を、なぜ作るのかを決められること」の価値が上がる。
これから必要なのは、デザインを作れる人じゃない。デザインで価値を生み出せる人になってくる。
デザイナーという職業がなくなるかどうか。答えはまだわからない。ただ一つ言えるのは、今までと同じやり方を続けているだけでは生き残れないということ。
そしてこれは、デザイナーだけの話じゃない。デザイン会社を経営している僕自身にも、突きつけられている大きな課題になっている。
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