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デザインスプリントとは? 基本のプロセスとその効果
デザインスプリントをご存知だろうか?米国グーグルで生まれたデザインスプリント(以下、スプリントとも表記)は、たった5日間で、デザイン、プロトタイピング、ユーザーへのアイデア検証を行い、ビジネス上の問題に答えを出すためプロセスのこと。オンライン上では「黄金メソッド」などと呼ぶ謳い文句も目にする。
スプリントは、FacebookやAirbnb、Blue Bottle Coffeeをはじめとするサンフランシスコ・ベイエリアの最先端企業から、国際機関、非営利組織、学校などでもすでに採用されており、大きな効果を上げているようだ。
また日本でも、23か国で世界的なベストセラーとなった考案者の1人であるJake Knapp氏の著作『SPRINT』の邦訳が今年出版され、彼自身が来日してイベントも行われた。またネット上ではスプリントに関する日本語記事も多数見つけることができる。
しかし、実際にはどんなものなのか、どんな効果が期待できるのか、あまりピンとこないという人も多いのではないだろうか。
筆者は、最近クライアントと共にスプリントを経験したばかりだが、話題のデザインスプリント!という手軽なイメージとは裏腹に、とても泥臭く、想像以上に体力も気力消費するストレスフルな5日間であると感じた。
だが、チームメンバーと共に、限られた時間内でグッと集中して問題の解決に突き進むプロセスからは、言葉では表し難い達成感と普段の業務スタイルでは経験できないような思考回路を経験できたように感じる。間違いなく、スプリントを行うことによって得られるメリットは大きいだろう。
今回はbtraxで実践したデザインスプリントを通して感じたことを交えながら、その概要や活用方法について説明したい。
そもそもデザインスプリントとは?
デザインスプリントは、行動科学やデザイン思考などの考え方を体現したプロセスで、月曜日から金曜日のたった5日間で、検証すべきビジネスの問題(例えば、どのようなアプローチで新規事業を始めるべきか、新規顧客の離脱を防止したいなど)に対してデザインの観点から答えを導くプロセスだ。
5日間の基本構成は以下のようなプロセスになっている。
DAY 0 Preparation(調査して準備する)
DAY 1 Mapping(自分たちの成し遂げたいことをマップアウトしながら、今回取り組むべき課題を共有する)
DAY 2 Sketching & Deciding(解決策を書き出し、決定する)
DAY 3 Storyboarding & Prototyping(ストーリーボードを使ってプロトタイプをプランする)
DAY 4 Prototyping(プロトタイプをつくる)
DAY 5 Test(ユーザーテストをして学ぶ)
最後にユーザーテストをすることによって、課題解決方法を検証することからもわかるように、あくまでUXに特化したものに有効なフレームワークであるということができる。
また、上記に示したプログラムはとても大まかなものだが、実際には分単位で区切られたフレームに沿って、セットしたタイマーの針とにらめっこしつつ、頭をフル回転させながらそれぞれの課題に挑んでいくイメージだ。
デザイン思考と何が違うの?
「アイデアを考え、それを元にプロトタイプを作って、ユーザーテストを行い、仮説を検証する。」この大まかな流れだけを聞くと、デザイン思考と何が違うのだろうと感じる人も多いだろう。私もその1人だった。
実は、デザイン思考とデザインスプリントは、言うなれば親子のような関係であり、デザイン思考を実践に移すための方法の1つとして、デザインスプリントが存在する。
つまり、デザイン思考が問題解決のためのマインドセットであることに対し、デザインスプリントは、特定の問題を解決するためのアイデアをチームで共有し、それを試して学びを得るとを5日間という短時間で効率的に成し遂げることに特化したフレームワークであるという違いがある。
また、筆者の体感としては、スプリントはデザイン思考のプロセスの中でも、特にプロトタイプからテストの部分に比重を置いたフレームワークであり、デザイン思考のファーストステップになる。ユーザーに共感し本質的な問題を探り定義するというエンパシーのプロセスは割合軽めに通るイメージだった。
そのため、デザインスプリントは、ある程度取り組みたい問題が明確になっている場合に、より効果を発揮するフレームワークであると言えるだろう。
デザインスプリントの凄さとは?
デザインスプリントは、その5日間という短時間でスピーディーに課題に対する解決策を探索していくということに特化している。そのために、いくつか特徴的な仕組みが存在するのだが、その中でも筆者の体験から特に印象的だった5点を挙げて紹介したい。
1. タイマーが必需品!短い制限時間内で最大限の力を発揮させる
プロトタイプを作成するのが1日だけというのもさることながら、スプリントでは、各日のスケジュールも短く時間で区切られているのが特徴的だ。
前半の1日目、2日目では、各メンバーが持つ情報をチーム全体に共有したり、アイデアを練り上げたりする時間があるが、それらも15分から30分と細かく設定されている。
常にタイマーをセットし、メンバーは刻々と近づく制限時間の終了までに今の自分が出せる最大の力を出し切らなくてはと頭をフル回転させる。これを1日中続けるのは、なかなか過酷だったが、その環境こそがスプリントの重要なポイントであり、普段の業務のやり方では成し遂げられないような効率を生み出すように感じた。
そんな短時間では逆に焦って何もできなくなってしまうのではないかと不安に思うかもしれない。
しかし、その時間内に最大限貢献するために、「今この中で自分が出せる最高のアイデアは?」「最高の情報は?」とアイデアも情報も直感的に取捨選択し、自分が1番重要だと思うものから順に自然と超効率的に動いていることに気づく。
筆者自身、スプリント中の時間がない中で、ふと思い出した情報をとっさに調べて、周りに共有したことがあったが、そのときの思考回路の回り方はいつになく速く、自分でも驚いたことを覚えている。
2. 部署をまたいだ少人数のチーム編成
スプリントでは、チーム編成がとても重要だ。CEOや財務、マーケティング、カスタマーサービスなど部署や役割をまたいでメンバーを集めるのが良いとされており、デザイナーだけ、エンジニアだけ…という偏ったチーム編成はスプリントではご法度である。
どんなに素晴らしい人でも全てを見ることはできない。様々な役回りのメンバーが集まることで、問題や課題に対して様々な角度からの見方を共有し、把握することができるのである。
こうすることで、スプリントを通して社内に共通認識が生まれ、政治的などんでん返しも防ぐことができ、その後もスムースにことが運びやすくなるそうだ。
今回経験したスプリントでも、これまであまり一緒に働いたことのないメンバーが一堂に会し、それぞれ別の角度から意見を共有できたからこそ、生まれた気づきなども多かったように思う。
3. アイディエーションは個人作業で、意思決定は集団で
多様なアイデアを持った様々な人たちと議論することは、思いもよらないイノベーションを生み出す。そういったことを説くスピーチやオンライン記事などを最近よく目にする。しかし、スプリントはそのトレンドとは一見逆行するようなプロセスを踏む。
スプリントは、個人個人が制限時間の中で別々にブレインストームし、それを共有していくというスタイルをとっている。確かに、集団で複数の人が一緒に話し合いながらアイデアを練っていくプロセスは、1人で何かを考えるときにはないものを生み出す可能性が高い。
しかし、「集団でのブレインストーミングはときに機能しないことがある」とKnapp氏が言うように、皆が意見を言い合うことに終始してしまい、何も生まれないことも多々あるだろう。
特に限られた時間で効率的に集団からアイデアを生み出すというときには、それぞれが考え抜いたアイデアを別々に共有するというのは、とても効率的に感じたし、同じ時間を全員でのディスカッションに使っても出てこなかっただろうアイデアがそれぞれから共有されたため、とても新鮮に感じた。
また、スプリントでは最初から最後まで個人ワークというわけではなく、それぞれから出てきたアイデアにみんなで投票し、さらに様々な既存の解決策たちの良いところをミックスさせながら、1つのものに落とし込んでいくプロセスも踏む。
そのため、個人ワークの効率性を重視しながらも、チームでのワークの要素も組み入れることで、決して独りよがりではないアウトプットに仕上がっていく。
4. カレンダーは5日間スプリントで完全ブロック!
そして、これが最大の特徴とも言えるのだが、5日間のスプリント時間中は、基本的にデジタルデバイスの電源オフ、メールも外出中の自動返信設定、全ての会議などをその週からは外させてもらうという環境設定のもと、スプリントだけに完全コミットするというルールが存在する。
こうすることで、他のことに一切気を取られず、集中して、最大限の力をスプリントに注ぐことができるようになっている。筆者は、このルールに反してスプリント中に別のクライアントとのミーティングに出かけてしまったことがあった。
短期集中的なスプリントの性質上、その間にあまりに重要なことが多く進んでしまったため、状況についていくことができず、そのあとの貢献量が著しく下がってしまったという失敗を経験し、このルールの重要性を痛感した。
普段業務をしていると、様々なプロジェクトが同時進行していたり、横から人に話しかけられたりと、なかなか1つのことを集中して考え抜く機会は少ない。
しかし、完全にスプリントにだけ向き合い、ある意味、極限状況に自分たちを追い込んで、課題解決に挑む本気さは、それぞれのメンバーの能力を最大限に発揮させると感じた。
また、そこからチームの団結力や信頼関係も強固になると強く実感した。
5. 既存のアイデアから盗め?ゼロからイノベーションは生まれないという発想
最後にもう1つ、スプリントで印象的なのが、既存の解決策から学び盗る「Remix and Improve 」のプロセスである。実はスプリントのアイディエーションでは、全く新しいアイデアを、ゼロの状態から生み出すというわけではない。
スプリントが始まる前に調べた競合や既存の課題解決方法をチームでシェアし、それらをリミックスしていくという方法でプロトタイプするアイデアを決定していく。まさに、「Fake it, until make it!」 の実践である。
これまでに存在しない新しいものを作りたい、イノベーションを生み出したい!と先走りがちな私たちは、既存のアイデアを寄せ集めるなんて…と抵抗を感じるかもしれない。
事実、筆者自身、初めてのスプリントでは、そのプロセスを頭で理解しようとしても、なかなか抵抗感がぬぐいきれず、終わってしばらくするまでなんとなく納得できない思いがあった。
しかし、イノベーションはゼロからは生まれない。素晴らしいイノベーションは、既存のアイデアの上に積み重ねられることの方が多いとKnapp氏も言及している。
例えば、iPhoneは私たちの生活を大きく変えた発明品として、誰もが疑わないだろうが、携帯電話はそれ以前にも存在していた。それまでの失敗や成功があったからこそ生まれた発明品だったのである。
更に言えば、短時間で最大の効果を生み出そうとするスプリントの性質を考えても、このプロセスはなんとも合理的だ。筆者にとって、これは最も意外に感じたが、他の事例から学び、新たなものに作り上げていくプロセスには発見がとても多かった。
最後に
スプリントの最大の凄さは、この超濃密な短期集中決戦を一度のみならず、何度か繰り返しながらビジネスの問題をクリアしていくという点にある。
あまり本文では触れなかったが、スプリントを始める前の準備における、競合や既存アイデアなど検証したい課題に関するリサーチ量は、スプリントの成功を大きく左右すると感じた。
それらを踏まえて、限られた時間でチーム全員が本気で取り組むスプリントは、精神的・体力的にもタフである必要がある。
問題発掘のための共感のプロセスより、解決策のプロトタイピングとテストに比重を置くのがスプリントだと感じた。すでに成し遂げたいことが明確であり、チームで効率的にアイデアを共有して、それを試したい!というときには、スプリントを開催することを検討してみても良いかもしれない。
普段の業務や役割の垣根を超えたチームによる短期決戦的なスプリントのプロセスからは、通常では生まれない効果や結果を期待することができるだろう。
btraxでは、デザインスプリントを活用したプロジェクトも行っているので、自社の課題解決にスプリントを活用したいと思われる方は、ぜひお気軽に弊社まで問い合わせいただきたい。
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