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ミッションを売れ! 薄利多売から抜け出すためのD2C戦略とは
D2C(Direct to Consumer。直販型)ブランドは小売業界からだけでなく、スタートアップ界隈からも注目を集め続けてきた。彼らは独自のビジネスモデルを採用しているという点だけでなく、その商品やブランディングについても注目されており、freshtraxでも幾度となく紹介してきた。
このような注目を集める一方で、D2Cブランドは既存のマーケットから集客獲得と増え続ける振興D2Cブランドとの競争も激化している為、D2Cとして成功し続けることは簡単な道のりではない。商品の改善、ブランディングの確立と、当然ながら売上を立てることが求められる。
特に商戦期と呼ばれる時期に売上を獲得することは、D2Cだけでなく、小売業界で競争を勝ち抜く為の1つの鍵となるのだ。
アメリカで消費者の購買意欲がもっとも高くなるシーズンの1つに、11月のサンクスギビングから年末までのホリデーシーズンがある。ブラックフライデーセールやプレゼント需要などが高まり、重要な商戦期と言われる。
この時期にD2Cブランドが行っていた施策に注目してみたところ、ただ単に売値を下げるようなセールではなく、より自分たちのミッションに沿う売り方をしていた。
またそこには自分たちのブランドを強化し、ファンを育てるための施策を戦略的に選択していることが見受けられたのだ。
そこで今回はいくつかのD2Cが行っている販売施策について取り上げる。
すでに正当な価格をつけているので値引きは最適解ではない
D2Cが受け入れられている理由の1つが、ブランドのサステイナブルでイシュードリブンであることあげられる。これが特にミレニアル世代といったターゲット層の生態や嗜好と合致していた。
多くのD2Cブランドのミッションは既存業界の労働問題を解決できる仕組みを作ったり、誰にでも平等に商品が行き渡る取り組み作りをしていたり、環境を破壊しない製法でより良いものを作ったりと、問題解決を起点にしたものばかりだ。決して会社のCSR的な取り組みとして行っているのではない。
そしてD2Cブランドはこの問題解決のため、高品質の商品を適正な価格で売ることを重視している場合が多い。例えばアパレルD2CのEverlaneは高品質かつエシカルな製法を保証しつつ、それを実現する為のコストと自分たちの利益などを開示している。
価格のロジックはもう十分に考え抜かれ、これ以上下げてしまうとブランドのミッションに反することにもなりかねないのだ。言い換えれば、一般的なブランドのように「値引き=販売促進の特効薬」という考え方がそれほどなく、むしろただ値引きだけすることがブランドにとって最適解にはならないのだ。
ミッションの為に従来のような値引きを選択しないD2Cの施策とは
では単なる値引きをしないD2Cは、特に年末などのセールシーズンをどのように戦うのか。彼らが実際に行った施策は以下の通りである。そこにはあくまでミッションを中心に考えた、一貫した取り組みが見られた。
事例1:Allbirds 限定の新商品をセール期にリリースする
Allbirdsはニュージーランドの羊の毛から作られた高品質ウールを使ったシューズブランドだ。質や履き心地だけでなく、シンプルなデザイン、サステイナブルな素材を自ら研究開発している。彼らの企業評価額は10億ドルを超えると言われている。
彼らはローンチ当初から値下げを行わないということを言ってきた。すでに高品質な価格を適切な値段で提供しているからだ。
昨年のブラックフライデー・サイバーでは筆者もAllbirdsがどのようなキャンペーンを打つのか注目していたところ、セールではなく、サイバーマンデーの日に限定の新色をリリースした。
Allbirdsの売れ筋商品であるWool Runner(ウールのスニーカー)の、サンフランシスコの各エリアにちなんだ5色で、ソーシャルやニュースレターで発表をしていた。
サイバーマンデーはEコマースにとってセールの正念場になる日だ。多くの消費者がオンライン上のお得情報を探している中、限定品というトリガーでAllbirdsの商品が気になっていた人を狙ったと考えられる。
また、すでにAllbirdsを持っている既存ファンにも限定商品は販売意欲促進の起爆剤となる。コレクターのようなファンにはさらにロイヤリティを高めるような要素になったのではないだろうか。
詳しい売上などはわかっていないが、2018年11月26日(サイバーマンデー)に発売されてから、年明けにはほとんど売り切れていた(2019年2月現在、売り切れ)。
事例2:ThirdLove 売上の一部を寄付する
女性下着D2CのThirdLoveは、1人1人パーソナライズされた下着を販売している。ブラックフライデーの時期には値引きしている商品も一部あったものの、一番大々的に押し出していたのはBuy One, Give One(Buy One, Get One=1点購入につき1点無料が通常だが、1点購入につき1点寄付するということ)というキャンペーンである。
ちょうど2018年のブラックフライデーの時期に、カリフォルニア州ではキャンプファイヤーと呼ばれる山火事が起こっていた。14万エーカー(約566平方キロメートル)が焼け、多くの家や建物が失われた。
ThridLoveはこのキャンペーンを行う前から寄付を行っており、家を失って避難を余儀なくされた人たちに、2,500のThirdLoveのブラジャーを送り届けた。
さらに復興の手助けをする為、またThirdLoveが全ての女性に向けた下着を提供するというミッションを達成する為に、このようなキャンペーン実施に至った。
消費者にとって何も見返りはないという受け取り方もできる。また「ThirdLoveを通して寄付できるので購入しよう」と言った購買意欲の掻き立て方が見られる訳でもなく、それよりは、ThirdLoveの理念を再認識させ、さらにに共感してくれる人たちを増やすような施策と見受けられる。
事例3:Everlane 消費者に価格設定を委ねる
ここサンフランシスコにも店舗を構えるサステイナブルアパレルD2CブランドのEverlaneは、消費者に購入金額を選ばせるという施策を打っている。
Everlane曰く、これはセールではないという。Everlaneが過剰生産してしまった一部商品を選び、消費者は3つの価格帯から購入金額を選ぶ。
通常販売している全て商品の価格内訳を全て開示しているが、このChoose What You Payキャンペーンも最低限の製造コストは抑えられる金額になっているという説明書きが付いている。3つの金額の違いはEverlaneに入る利ざのみ。
つまり、1番高い価格を選んだ際はその分Everlaneへ投資ができるということになる。
透明性のあるサステイナブルなアパレルブランドを追求するEverlaneならではの販売施策ではないだろうか。
まとめ:ミッション起点の売上向上施策を
ただ売値を下げるという値引きだけが売上向上の戦略ではない。むしろ一時的に売上が伸びたとしてもブランドのファンが増えなかったり、ロイヤリティが下がってしまっては意味がない。その点、D2Cブランドはミッション起点の売上施策に非常に優れている。
売上獲得の為の施策をただ売上という数字を立てるだけに行うのではなく、自分たちのミッションは何かということに立ち戻り、それぞれに合った施策を打っている。
言い換えるのであれば、商戦期に行うキャンペーンがそのブランドらしい行動になっているかが重要だ。
それこそが、ブランドとして成長し、長く支持される戦略なのではないだろうか。
btraxではユーザーのインサイトに基づいたD2Cブランドのグローバル進出をサポートしている。サンフランシスコのアーリーアダプターを中心としたプロダクトマーケットフィットの仮説・検証からウェブサイトのデザインと構築、新規顧客獲得など一貫したマーケティング戦略立案を行っているので、ご興味のある方はぜひお気軽にお問い合わせを。
参考:
・Allbirds has dropped a limited-edition sneaker for Cyber Week — and it’s selling out quickly
・Buy One, Give One: How ThirdLove Is Doing Black Friday
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