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大企業が導入する3つのD2Cモデルとそれぞれのメリット
近年、ビジネスのトレンドとなっているD2C。アメリカを中心に始まったこのムーブメントは、日本国内でも大きな注目を集め始めている。そして、現在ではスタートアップだけではなく、多くの大企業もその取り組みを開始し始めた。
D2C (Direct to Consumer) とは
その名前の通り、自ら企画、製造した商品をどこの店舗にも介すことなく販売するビジネスモデルのことである。同じような形態であるSPA(Speciality store retailer of Private label Apparel)と違うのは、店舗を持たず自社運営のECサイト上でのみ販売している点だ。
中間業者を極力省くことで工場から店舗までのよりシンプルなサプライチェーンを実現したSPAをベースに、店舗を運営する際にかかる費用も削減することで、質の高い商品を更にリーズナブルな値段で売ることが出来る。EC版SPA、オンラインSPAとも称されるこのビジネスモデルをベースにするスタートアップが急激に増えてきている。
D2Cブランドが既存ブランドを凌駕し始めている
有名な事例として、創業4年程度のD2C寝具ブランドCasperが、3,300 もの店舗を持つアメリカ最大手の寝具マットレスメーカーMatress Firmを追い抜いた。
Casperは、Mattress Firmが長年抱えてきた購買体験の欠陥をテクノロジーで解決し、共感を生む世界観を構築することで急速にそのシェアを奪っていき、最終的には破産まで追い込んだ。
これは伝統的な販売ビジネスの崩壊を意味し、長い小売歴史の変革期であることを表している。
D2Cブランドと聞くとスタートアップ企業のイメージが強いが、最近では大企業のなかでもD2C的な取り組みをするところが増えてきている。この記事では大企業がD2Cをどのように取り入れることができるのか考えてみたい。
D2Cブランドがアップデートしたこと
D2Cブランドとは、単なる直販を行うブランドではなく、デジタルを駆使して、直接顧客にプロダクトと共に純度の高い体験を提供する、メディア機能を含んだブランドのことである。
SNSなどのオンラインチャネルを通じて顧客と直接繋がり密なコミュニケーションをとることで、データを集め、それらを分析し、常にユーザーにとって心地いいブランドへアップデートを重ねていく。
また、D2Cブランドの多くは、高品質で充実したコンテンツを雑誌やポッドキャストなど、ユーザーにとって有益な情報配信するコンテンツマーケティングの概念と非常に近い取り組みを通じ、ファンを獲得している。
プロダクトブランドというよりはライフスタイルブランドと言えるだろう。
ファンと密接にコネクトするのがD2Cブランド
D2Cブランドが伝統的なブランドと明確に違うことは、ブランドと顧客が心理的にコネクトしている点だ。
ブランドと顧客の繋がり方は「お客様からファンに変わっていく」ものであり、さらに言うと、売り手と買い手を区別せず、顧客はブランドをともに育て上げる仲間(コミュニティ)となっていく。
しかし、このようなデープな顧客との信頼関係は、規模が小さいが故に成立しているケースが多い。では規模が大きい企業ではどうしたらいいのか。
大企業がD2Cモデルを取り入れるための3つの手法
様々な大企業のD2C活動をリサーチしたところ、大きく3つの型があると考える。ここからは、その3つの型について、大企業のD2CモデルやD2C的な要素を取り入れた活動やそのメリットを中心に、事例を取り入れながら紹介したい。
- 新規立ち上げ型
- 買収・提携型
- シフト型
1. 新規立ち上げ型
既存のブランドとは別に新規事業として、D2Cブランドを立ち上げる方法である。スタートアップのD2Cブランドとは違い、既に持っているアセットを活用できるため、従来のブランドイメージを継承しながらも、新たな価値観を発信することができる。
大企業では、すでに数多くの商品を保有しており、それぞれの商品にファンがついていることはあるが、この方法はブランド自体にファンを作るのに有効なものであり、R&D要素の強い取り組みとして実践している企業が多い。
コクヨ KOKUYO THINK OF THINGS
文房具・家具メーカーであるKOKUYOが行っているTHINK OF THINGSという取り組みは、リアルな店舗とECによる直販だが、その店舗ビルの中で企画・開発・販売・検証を一貫して行うものづくりのサイクルに顧客を巻き込むモデルになっている。
ミツカン Mizkan ZENB
食品メーカーであるMizkanのZENBは、植物を可能な限りまるごと使用したサステナブルな食生活を提案する事をテーマに生まれたD2Cブランド。新規事業の取り組みの中で開発された加工食品が起点 (もともとD2Cブランドを立ち上げるつもりで始まった事業ではなく、最終的にD2Cという形になった背景がある)。
自社ECのみで商品の販売を行うことで、ブランドのビジョンや背景をきちんと伝えることができるため、ブランド全体への思い入れを強めることができ、ユーザーとのより深い関係構築が可能になる。また、このブランドを通じてミツカンが目指す方向性を共有する企業ブランディングとしても機能している。
2. 買収・提携型
自社の取り入れたい特定のセグメントに強いD2Cブランドを買収・提携する方法。資金力のある大企業がより短期間でD2Cブランドが保有するデータとマーケティングの知見を得る選択肢である。また、これまでリーチできていなかった顧客やファンとの繋がりを作るのに有益である。
資生堂: Drunk Elephant
資生堂が人体にも環境にも優しい“クリーンビューティ”市場に進出するために買収したアメリカの新興スキンケアブランドであるDrunk Elephant。ハイポテンシーな攻めの処方、決して安くはない価格帯、ポップな色使いのパッケージが特徴のブランド。Drunk Elephantの顧客層は従来の資生堂のものとは異なる属性である。
この買収により資生堂は新たな顧客を取り入れると同時に、ソーシャルメディアを上手く活用したユニークで共感性の高いコミュニケーションで得られたD2Cマーケティングの知見やノウハウを得ることが可能になった。
P&G: Walker & Company Brand
世界的な消費材メーカーであるP&Gが買収したWalker & Company Brandは、有色人種向けに健康および美容製品を提供するブランドを保有する企業である。
これによりP&Gは、有色人種というセグメントに特化した知見を持つチームを手に入れ、自社の商品ラインナップを充実させている。また多文化共生社会に共鳴している企業という評判も得ることで、ブランドに対する高いロイヤリティを手に入れることができた。
3. シフト型
今まで築き上げてきた自らの事業を2Cモデルにシフトしていく方法。いきなりビジネスモデルを全てを変えるのは、従来の販売モデルを大改革しなければならなため、時間と労力、またリスクが高い。
その解決策として、一部のチャネルを試験的にD2Cモデルへ展開することにより、比較的手軽にチャネル検証を行うことができる。
その結果を元に、もし主力の事業をD2Cにシフトすることができれば、利益構造から変えることができる。シフト型は、ブランドシステムが最適化されるインパクトの大きい方法だ。
NIKE: SNKRS
NIKEが運営するキュレーション型のスニーカー専用ECサイトSNKRSは、デザイン誕生秘話やスニーカーの販売情報といったコンテンツに加え、欲しいモデルを見逃さないための通知機能や人気モデルの発売時にはアプリから抽選ができる。
また、インスタグラムのストーリーのような独自機能やファンが熱狂するゲーム機能が組み込まれているため、スニーカー愛好家のコミュニティーになっている。
Pepsi: PantryShop.com
アメリカの食品・飲料水メーカーであるPepsiが運営する、時間帯や活動を中心に構成された食品をセットで購入できる直販サイトPantryShop.comは、新型コロナによるステイホーム向けに「親和性研究に基づいてキュレーション」されている。
Eコマースチームによってゼロから構築された機能を活用して、30日以内に完全に社内で開発されたスピーディーな取り組み。
大企業が顧客と向き合う姿勢を改めて考えるマインドセットが第一歩
大企業がD2Cモデルの取り入れている方法を3つに分類したが、必要に応じて掛け合わせで取り組んでいる企業が多くみられた。自社に適した方法を見極めて取り組んでいく必要がある。
そのためにはまず自社理解が重要である。自社が今すでに持っているアセットを知り、現状を把握した上で、目指すべきブランド像を明らかにし、それを実現するための適切な選択をするべきだ。
米国ではすでにD2C企業が多数登場するあまり、従来のSPAモデル(H&MやZARAのように卸売りをせず、自社製品を自前の小売店で販売する)企業同士の低価格競争と同じ構図になりつつある。
日本では未だプレイヤーの数は比較的少ないが米国同様、数年以内にD2Cが当たり前の時代になっていくことが考えられる。
今までD2C的な取り組みをしていなかった企業も、変化する市場に合わせ、オンラインとオフライン双方のチャネルを活用し、ブランドを共創していく姿勢や仕組みを持つことが求められているのではないだろうか。
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