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ロボットハンバーガー店Creatorで感じたUXの改善点
2018年6月27日、サンフランシスコにCreatorと呼ばれるレストランがオープンした。ここは主な調理工程の最初から最後までを自動化した世界初のレストランで、完全にロボットによって作られたハンバーガーを$6で提供している。
Alex Vardakostasによって2012年に設立され、以前はMomentum Machinesとして知られた同社は、今年ついにここサンフランシスコに最初の店舗を出したのだ。
オープン当初は招待制だったこのレストランだが、3か月後の9月25日、ついに一般客の利用が可能になった。そこで筆者はbtraxの同僚2人とともにその「ロボットが作るハンバーガー」を体験することにした。
未来のハンバーガーレストランに潜入
店に入ると左側に食材と2台のハンバーガー製造ロボット、右側にテーブル席がある。小さなレストランであるうえ、営業時間が限られているためか、席を探すカスタマ―や歩き回る店員などで混みあっていた。雰囲気はカジュアルで、明るい色使いと木のアクセントが親しみやすさを出している。
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The Creator のメニュー
程なくして店員が我々に気づき、ロボットのある場所まで案内してメニューを渡してくれた。ハンバーガーは5種類、フライドポテトなどのサイドメニューや飲み物もある。注文内容を決めると、店員はその場でスマホ端末を使ってオーダーを処理し、そのまま支払いとなった。どうやら調理以外の部分は人間が担うようだ。

店内の様子
待つ間に、実際にロボットがハンバーガーを作る様子を見ることができた。注文したハンバーガー3人前とフライドポテト2人前が出来上がるまで10分位だっただろうか。調理が終わると店員が機械から取り出し、ボックスに入れ、トレイに置く。名前が呼ばれて受け取ったあと、セルフサービスで飲み物を入れ、テーブルについた。食べ終わると店員がトレイを下げにやってきて、アンケートへの協力を呼びかけていた。
ハンバーガーを作るロボットとは
では実際にロボットがどうやってハンバーガーを作っているのかをご説明しよう。まず、こちらがCreatorのハンバーガー製造ロボットだ。
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ハンバーガーロボット
写真の通り、このロボットは「オールインワン」で、パンをトーストするところからトマトのスライス、ミートパティを焼くところまで、ハンバーガーづくりに必要な工程すべてを順序通りに行う。全長14フィート(4.3メートル)で、20のアクチュエーター、350のセンサー、20のコンピューターにより自律的に考えて動くことができる。
また搭載されたAIにより、カスタマーのリクエストに応じて材料を追加したり省いたりすることが可能で、店ではそれの様子を実際に見ることができる。このロボットは店のメイン部分に設置され透明なガラスで囲われているので、カスタマーはすべての工程を見ることができ、まさにこれから口にするものが作られる様子を見ることができるのだ。
ハンバーガーができるまで
上部にはエアチューブが3本あり、焼き立てのブリオッシュ・パンが入っている。オーダーが入ると、パンを押し出し、振動ナイフでカット、トーストしたあとにバターを塗り、ベルト上に置かれたペーパートレイの上に載せる。
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工程1
パンを載せたトレイが各材料が入ったガラスチューブの下を通る前に、決められた量のソースとスパイスをパンの上に塗る。その後玉ねぎ、トマト、ピクルスを各場所でスライスして載せ、その後レタスとチーズを載せる。
この間、ロボットはパティとなる肉を機械の内部で調理し、焼き上がると他の材料が載ったパンの上に落としてハンバーガーの出来上がりだ。
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工程2
人間の役割は?
ハイテク色満載のCreatorだが、すでにお分かりのように人間を排除しているわけではない。むしろ人間もチームの一員として活躍している。『ロボット・アシスタント』という役割名を与えられた人間は、オーダーを取ったり、出来上がったハンバーガーを運んだり、テーブル席の片づけを行ったりと結構仕事がある。
また機械に不具合が出た場合の対応や材料の補充も行っている。なお、ハンバーガーの調理自体はロボットが行ってはいるが、ソースの配合やレシピ開発は未だ人間によって行われている。
もう1つ特筆すべき点として、このレストランの営業日は水、木、金のみだ。その他の日は何をしているのかと言うと、エンジニアが機械を点検し改良するのに充てられているのだ。どうやら人間不要になる日がすぐに来るというわけではなさそうだ。
食事中、ロボットアテンダントの1人である女性と話すことができた。6月のオープン時から働いている彼女はこの仕事がとても気に入っているという。
彼女の説明によると、アテンダントは機械にそれぞれ各材料を補充する役目を与えられていて、ハンバーガーを作るのに必要な材料が切れないようにしている。それが終わったらランチの混雑時間に備える。営業時間が終わると清掃して翌日の準備と、ロボットへの補充以外は普通のレストランのスタッフと仕事内容はあまり変わらなさそうだった。
ロボットが調理する唯一のレストラン
調理工程という面において一般的なハンバーガーレストランと比べると大きく異なる。通常のハンバーガーレストランでは、人間が機械を使ってハンバーガーを作っており、グリルやフライパンは常に稼働状態だ。一方Creatorのロボットは感応式フライパンを備えており、オーダーが入ったときのみスイッチが入る仕組みだ。
そのためカスタマ―が少ないときに機械をアイドリングするというような無駄な電力消費が発生せず、そうして節約したお金を食材に回すことができる。実際彼らは高品質のオーガニック材料を使うことにこだわっていて、カスタマーも健康的な食事を摂っているという満足感を得ることができるのだ。
サンフランシスコにはZume Pizza、Eatsa、Café X Coffee Barなど、ロボットが活躍しているレストランが他にもある。Zume Pizzaでロボットが担うのは、ピザを作る工程において繰り返し発生する簡単な作業の部分だ。Eatsaでは人間が調理するが人間を介さずにオーダーとピックアップができるという仕組みだ。
Café X Coffee Barでは三菱製のロボットアームがコーヒーを作って提供してくれる。しかしいずれの店でもロボットが自力で食材をカットし、それらを合わせて調理し、またオーダーによって材料を変えるようなことは見られない。ここにCreatorのすごさがわかるだろう。
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UXに改善の余地あり
ミレニアル世代のカスタマ―の1人として筆者が気に入ったのは、Creatorが推している透明性というコンセプトと健康的な食事を提供しているという点だ。他よりも健康的なハンバーガーだと知りながら食べるのは満足感があったし、実際の調理場面を見ることができたのもよかった。
ロボット自身がパンをトーストし、バターを塗り、材料をスライスしてそれらを1つのハンバーガーにしていたことにも感動した。
ただ、他のハンバーガーレストランでのエクスペリエンスと大きく違うかと言ったら実はそうは感じなかった。接したのは人間で、ロボットと何かやり取りしたわけではなかったからだ。唯一のロボット体験はハンバーガーが作られている場面を見たことだけだった。
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一緒に行った同僚(男性、X世代)もあまり感動した様子ではなかった。曰く、「ハンバーガーが特別おいしいかというとそうでもないし、ロボットもちょっと子供だましっぽい。
人間がまだ多くの部分を担ってるし、オーダーのプロセスについても列に並ぶわけではなく、たまたま居たアテンダントが対応してくれたという感じでちょっと違和感があった」とのこと。ただ店の雰囲気は気に入ったようだった。
もう1人の同僚(女性、ミレニアル世代)は非常に楽しんでいた。「キレイでおしゃれなハンバーガー屋さんのちょっとロボット化したバージョンですね。ロボットのデザインもいいと思います。ロボットの活用は効率性やコストカットのためだけではなく、カスタマ―や従業員をハッピーにするべきものだと気付かされました。」
ただ少し不満もあったようで、ロボットの動きがスローすぎて待ち時間を長く感じてしまったとのこと。また、ロボットが作っているハンバーガーのうち、どれが自分のオーダー分かわからないこともマイナスポイントとして挙げていた。
彼女はユーザーにとってロボットの活用が常にベストソリューションになるわけではないと指摘し、Creatorがテクノロジー起点ではなくもっとユーザー起点になるともっとよくなるだろうと言っていた。
しかし彼女は店員がアンケートを取っていたことにも注目しており、「アンケート結果に基づいてサービス改善をしようとしていることはわかるので、また今度来てみたい」とも言っていた。
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The Creatorのハンバーガー
Creatorは健康志向・透明性重視・省エネでありながら、新しいエクスペリエンスを生み出すために日々改善に取り組んでいる。
カスタマ―に受け入れられるかどうかはわからないながらも、オールインワンのハンバーガー製造機を作ったこと、そしてロボットの可能性をこういう形で我々に見せてくれたこと自体は素晴らしいことだと思う。
今後のUX面での改善に期待し、引き続き注目していきたい。
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シリコンバレーの最前線でイノベーション支援を手がけるbtraxによる、経営幹部、事業責任者、本部長・部門長・部長などの部門責任者向けの実践的イノベーションプログラムを提要しています。サンフランシスコの地で、先端技術やトレンドに直に触れながら、デザイン思考やスタートアップマインドを体得できます。
btrax CEO ブランドン K. ヒル、元・日本マイクロソフト株式会社業務執行役員 澤 円氏をはじめとする日米エグゼクティブの知見や実践的ワークショップを通じて、組織変革とイノベーション創出に必要なスキルを5日間で習得します。
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