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コロナショックがこれからスタートアップに与える影響
- レイオフ、バリュエーション低下、コロナショックがスタートアップに与える多大な影響
- VC側も投資を減少せざるを得ない状況、スタートアップの死活問題
- 人材獲得の易化と本質的な課題の露呈、コロナショックはコロナチャンスになりうる
コロナショックが世界を震撼させてから、1ヶ月ほどになる。生活やビジネスなど、様々な事柄に影響が出始めているが、スタートアップに対してはどうだろうか?2019年までは、ユニコーンやデカコーンブームや大型IPOなど、華々しいトピックが踊ったスタートアップ 界隈も、今回の状況で受ける影響な少なくないだろう。
シリコンバレーの起業家や投資家などへの調査を中心に、今後コロナショックがスタートアップに与える影響を考えてみたい。
起業家と投資家たちが感じているコロナショックの影響
NFXが286社のシードもしくはシリーズAステージの起業家と114社のVCに対して行った意識調査でも、コロナショックに対する強い懸念がみられる。
コロナショックへの懸念レベル
コロナショックは起業家たちにどのような懸念を与えているのか
具体的な懸念としては、VC投資の枯渇、売り上げの低下、社内雰囲気への影響、スタッフ解雇などが挙げられる。
起業家が感じる具体的な懸念 (1から10の尺度)
リモートワークに欠かせないツール達
リモートワークがどんどん進む中でどのようなツールが利用されているのか?日本でもお馴染みのZoomやSlackに加え、Google Meetやプロジェクト管理ツールのAsanaが挙げられた。
リモートワークに役立つツール
コロナショックを乗り切るために起業家たちが行っていること
困難を乗り越えるため、起業家たちが行っている行動には、コネクション作りやエクササイズ、睡眠や読書が含まれる。
現在のタイミングで行っている活動内容
スタートアップが行っているコスト削減策
コストを減らすために、オフィス、マーケティング費用の削減、契約の見直しやスタッフのレイオフを進めているケースも見られた。
スタートアップがコスト削減のために行っていること
どのくらいの割合のスタートアップがレイオフをしているのか
では、具体的にどのくらいの割合のスタートアップ企業がスタッフのレイオフを行っているのか。VCに対して投資先のレイオフ状況を聞いてみたところ、41.2%の回答者が、投資先の21-40%の企業がレイオフをしていると答えた。
VCの投資先がレイオフをしている割合
スタートアップ企業のバリュエーション低下に対する影響
60.5%がバリュエーションが下がっていると答え、39.5%は変化がないと返答している。既存企業の場合は回答者の約半数近くがバリュエーションが20%下がったと答え、アーリーステージに対しては、43%がバリュエーションが30%減少していると答えている。
既存スタートアップに対するバリュエーション低下率
アーリーステージスタートアップのバリュエーション減少率
投資家側から見るコロナショックがスタートアップに与える影響
500 StartupがVC (全体の40%) とエンジェル投資家 (全体の35%)を含む、139の投資家に対して行った意識調査によると、80%以上の回答者が、コロナショックが投資活動に対して、何かしらの影響があると答えている。
回答者の53%がコロナショック前に予定していたのと同じラウンドに対して投資をする予定だと答える中、大多数は、コロナショックが投資活動にネガティブ (32%)、もしくはややネガティブ (36%)を与えると考えている。
投資先としては、ヘルスケア (47%) やリモートワーク関連ツール (42%) などの領域のスタートアップへの関心が高まっている。
起業家への主なアドバイスとしては、コスト削減、ランウェイの延長、消費者に焦点を当てることを挙げている。
数ヶ月前にすでに影響が出ていた中国のケース
現在コロナショックは世界中に広がっているが、数ヶ月前までは中国国内で主な影響が出ていた。
Startup Genomeが提供するレポートによると、中国のVC案件は、今年の最初の2ヶ月間に危機が発生して以来、世界の他の地域と比較して50~57%縮小している。
この状況が世界規模に広がった場合の影響
このような落ち込みが世界的に起こった場合、わずか2カ月間であっても、スタートアップ向け投資額が約280億ドルも現象し、企業に劇的な影響を与えることになる。
また、投資の下落が2ヶ月を超えて、さらに続いた場合はより影響が大きくなる見込み。2000-2001年のドットコムバブル崩壊と、2007-2009年のリーマンショックのデータをモデルに計算にすると、コロナショックの影響で、世界的なVC投資の減少率は21.6-29.3%で、金額にすると約864億ドルになると予想される。また、テクノロジー系のスタートアップのIPO率も90%減少すると見込まれている。
VC投資が減るのはスタートアップにとっては死活問題
この状況がスタートアップがどの程度のインパクトを与えるかを予想するのは難しいが、スタートアップは12~18ヶ月ごとに資金調達を行う必要があり、クロージング時には3~6ヶ月分の現金が必要となるため、半年間のVC案件の枯渇は、スタートアップの大部分を一掃する可能性がある。
コロナショックが与える投資家やVCに対しての具体的な影響
PitchBookの調査によると、プライベート市場の投資家はコロナウイルスの発生を様子見の姿勢だが、すでにかなりの部分が今年は投資規模をを縮小すると予想している。
3月31日と4月1日に実施されたこの調査では、パンデミックによる大規模な経済混乱が、ベンチャーキャピタル (VC) やプライベート・エクイティ (PE) 業界に与える影響を示している。383人の回答者からの回答は、コロナショックの影響を見極めようとしている投資家が保守的になっていることを示唆してる。
投資縮小および停止などのネガティブな影響
具体的には、来年の投資予測について尋ねたところ、35%以上のジェネラル・パートナー (GP) が、総資本の展開が少なくとも10%減少すると予想していると答えた。約12%のGPは、投資額が最大10%減少すると回答している。
また、リミテッド・パートナー (LP) の回答者の約29%が、今後6ヶ月間のコミットメントを一時停止すると回答している。2割以上が1%以上の配分削減を予定していると回答し、その過半数が10%以上の配分削減を予定していると回答した。
中にはポジティブな回答も
対照的に、ポジティブな回答として、37%のLPがプライベート市場への既存の資金配分に変更はないと考えており、約14%のLPはコミットメントの引き上げを計画していると回答している。
GPの約28%が投資ペースを上げると回答しており、その大半が10%以上の上昇を予想している。GPの約24%が「今のところ変化はない」と回答している。
行動制限が与える投資プロセスへの影響
資金調達に関しては、投資家は、移動が制限されたり、パートナーが電話やオンラインでの会議を余儀なくされたりしている。閉鎖中には、プロセスが大幅に妨げられる可能性があると述べている。全回答者の中で、大多数の投資家が移動制限が資金調達に対して大きな、あるいは中程度の障害になっていると回答している。
ベンチャーキャピタルでは、GPの32%が渡航制限が資金調達の大きな障害になっていると回答したのに対し、LPでは22%にとどまった。プライベート・エクイティ・ファームのGPでは約25%のGPが大きな障害と考えている。
全回答者の約38%が行動・渡航制限はほとんど支障がないと回答している。
行動・渡航制限が資金調達活動に与える影響
どれほどの影響が出るかは未だ未知数との見解も
これらの調査結果を踏まえ、PitchBookのシニアアナリストで元機関投資家向け投資マネージャーのHilary Wiek氏は、一部のLPは、VCやPEファンドのジェネラルパートナーの投資ペースが遅くなることを予想しているため、コミットメントを下げることを期待しているのではないかと述べている。
しかし、ほとんどの大口投資家にとっては、来年の計画をどの程度見直す必要があるかを判断するには時期尚早であると、Wiek氏は付け加えている。
さらに、このような決定を行う投資委員会は、早ければ4月下旬まで、このような問題を検討するために会合を開くことはほとんどないだろう、と同氏は語る。
スタートアップにとってはコロナショックであり、コロナチャンスでもある
危機は複数の意味でチャンスを生む。過去2回の景気後退期には、投資額は減少したものの、資金調達を受けた企業は増加した。これは、キャッシュ効率を高めることができる企業は、不況後には、バリュエーションや調達資金総額は減少したものの、資金調達を行う可能性が高くなることを示唆している。
2007年から2009年の不況期にスタートしたテックユニコーンは50社以上あり、その価値は総額で1,452億ドルに上るという。これらのユニコーンには、Asana、Quora、Airbnbなどがあり、創業者が家賃の支払いに困っていたことからスタートした。今回の危機から生じる機会は、これまでの危機の時とは明らかに異なるだろうが、まだ存在するだろう。
さらに、フォーチュン500社の半数以上の企業が不況や弱気市場で誕生したという事実もある。また、下記のグラフを見ても分かる通り、2009年はリーマンショックの影響によって投資が減少したが、その後2年ほどで、それまで以上に投資が増えるV字回復をしている。
人材獲得の絶好のチャンス
2020年4月の時点でアメリカでは、2000万人近くの人が失業保険を申請し、その数は毎週増えていることもあり、人材獲得の面では、スタートアップを始めるには絶好のタイミングとも言える。これまでは、エンジニアやデザイナーを中心に、スタートアップが優秀な人材を獲得することは非常に困難を極め、人件費も高騰していた。
おそらく、今回のコロナショックで市場にはレイオフになった人材が増え、より低いコストで優秀な人材を獲得しなすくなると考えられている。これも、リーマンショック後のスタートアップがその後台頭した一つの理由でもある。
一時的な対策と長期的なプランの両方を
コロナショックの渦中では、とりあえずビジネスを救うための生き残り策を最優先しがち。その一方で、今後のユーザーニーズの見極めや、それに対してのビジネスモデル構築のためには、一時的な対策と長期的な戦略の両方を検討する必要がある。
今回の状況を踏まえると、今後人々の行動パターンが大きく変化していくとも予想される。具体的には、買い物、旅行、交流、仕事の仕方などが変化することで、そこに求められる新しいタイプのサービスがどんどん出てくるだろう。それを踏まえ、長期的なサービスモデルを考えてみるのも良い。
投資家選びは慎重に
スタートアップにとって、この危機を乗り切るための最も重要な方法の一つが、資金調達だろう。その一方で、投資家やベンチャーキャピタリストは常に自分の利益を優先し、生き残りのための試作を進め、自分たちの投資やビジネスモデルの結果に対して非常にシビアになり始めている。彼らにとって最も重要なのは投資に対してのリターンの確保であり、スタートアップの存続ではない可能性もある。
VCもLPからの資金調達を行わなければならず、厳しい戦いを強いられるかもしれない。場合によっては、これまでとは異なり、投資先のスタートアップと利益の相反もあるかもしれない。投資家選びは今まで以上になってくると考えられる。
課題があるところにビジネス機会も現れる
そして、最も重要なのが、今回のような時代の大きな変革期には、今までなかった課題が現れ、それに対して新しいソリューションが求められる点。ここ数年間のスタートアップ界隈は、ある意味バブっており、起業家側も投資する側も、ある意味本質を見失い、浮ついていた。その結果が評価額市場主義のユニコーンブームだった。
これからは、市場規模ありきのマネーゲームではなく、より多くの人々に対して本当の意味でポジティブな価値を生み出せるスタートアップが生き残っていくだろう。
苦しい試練に思えるものは、しばしば神からの賜り物である。- オスカー・ワイルド
苦しい時ではあるが、我々も日々クライアントの方々と共にサービス開発に取り組み、変化の局面を乗り越えてイノベーティブなサービスを創出しようと試みている。ご興味のある方はこちらからぜひお問い合わせください。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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