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老舗自動車メーカー VS 自動運転時代 〜メルセデス, BMW, GMが起こす改革とは
自動車業界は変革期にさしかかっている。ヨーロッパではEV化への波が押し寄せているし、世界的にはAIの進化に伴って自動運転技術の開発も急速に進んでいる。多くの自動車メーカーにとってEVや自動運転技術の開発に舵を切らなければ生き残れない時代となったのだ。
そんな中、このEVと自動運転の両方で強い存在感を放っているのがアメリカの新興勢力であるテスラである。製造数では圧倒的にBIG3(GM, フォード, クライスラー)に劣るものの、アメリカのEV分野におけるテスラのプレゼンスは独走状態である。
自動運転技術でもBIG3がテスラの後塵を拝しているのは否めない。さらにテスラは量産型のモデル3の投入により、量でもBIG3に迫ろうとしている。筆者はサンフランシスコ・ベイエリアで4年間生活しているが、この間に街を走るテスラの台数がみるみる増えていることを実感している。
自動車産業は歴史が長く、企業としても十分な実績と規模を持つ会社が多い。そんな会社にとって、大きく方針を転換することは簡単なことではない。
しかし、テスラがすさまじい勢いで台頭してきていることからもわかるように、現在のシェアや企業価値が高いからといってこの先10年も同じ状況が続くとは限らない。で
は、彼らは大企業としての強みを活かしながら、どうやって時代の変革に対応しているのだろうか。今回は、ドイツとアメリカの“老舗”自動車メーカーのマインドセットを3つ紹介したい。
Mercedes-Benz
2015年にロサンゼルスで発表された『F 015』は衝撃的だった。ハンドルもなければ窓もなく、4つのシートが向かい合っていて、自動運転される様はまさに近未来と呼ぶに相応しいものだった。
銀色の流線型のフォルムに包まれたこの車を覚えている人も多いのではないだろうか。伝統という言葉がよく似合うこのブランドが、なぜこのような最先端のテクノロジーを応用したコンセプトカーを発表できたのだろうか。
その答えは、現在のダイムラーの取締役会長及びメルセデス・ベンツ・カーズの社長を務めるディーター ・ツェッチェにある。現在64歳のツェッチェは、45歳から要職を歴任してきた生え抜きのエリートだ。
その彼の根幹にあるのはエンジニアの魂である。彼は工学博士号を持ち、そのキャリアをリサーチ部門でスタートさせた。
ツェッチェの話によると、驚くべきことに、メルセデス・ベンツは1980年代にすでに自動運転の実験をしていたと言うのだ。1980年代といえば、ようやくノートパソコンが誕生し出した頃である。
当時、ディベロップ・エンジニアの責任者だったツェッチェもその実験に関わっていた。しかし、実際にドライバーをサポートする運転技術がメルセデス・ベンツの市販車に使われたのは約10年後だった。
さらに時が経ち、AIの進化とともに自動運転が市販車にも応用されようかという時、はるか先を行っているはずだったこの伝統的車メーカーは他の自動車メーカーと同じようにいつ自動運転車を出すかを競っていた。
2006年にダイムラーCEOに就任したツェッチェは、この危機的状況を打破すべく、再び技術開発に注力するとともにシリコンバレーのスタートアップ文化を巨大なダイムラーにも取り入れるという大きな変革を実行した。
その際にツェッチェが目指したのはダイムラーを動物のサイのようにすることだったという。サイは大きいが動きは遅くはないことから、大組織でありながらスピード感のある体制づくりを目指したのだ。
サイは大きいが、遅くはない
シリコンバレーを訪れたツェッチェはドイツに戻った後に、反対意見もあったがドレスコードを撤廃することを決定した。これは単なる服装の変化ではなく、企業文化全に影響する動きである。
目に見える部分を変えることで、自由な雰囲気をグループ全体に与えようとしたのだ。ツェッチェ自身も普段はジーンズにスニーカーで働いていると言う。
他には、官僚的な構造を簡略化して意志決定プロセスを速くしたり、150名ほどの社員(ほとんどが一般社員)に新しいリーダーシップのアイデアを考えさせたりした。
さらにはシリコンバレーのエンタープライズ・ファンディングから“コーポレート・ファンディング”と称するシステムを採用し、部門ごとにアイデアを募集して利益に繋がるか分からないものでも積極的に受け入れた。
昨年には何百人ものエンジニアを集めてスカンクワーク・チームを作り、自動運転技術の開発やライド・シェアリングや自動運転タクシーのための研究をさせている。
BMW
昨年にBMWは、Intelとカメラによる運転補助ソフトウェアを開発するMobileyeと連携して、完全自動運転車のプラットフォームを開発していくと発表した。
これは、2021年までに発表される予定の完全自動運転車、iNextモデルのためだ。今年に入って、フィアットもこのアライアンスに参加を表明した。
サンフランシスコ/シリコンバレーのテックカンパニーだけでなく、ヨーロッパの自動車メーカーがAIの開発に多額の資金を費やす現状に対し、BMWの役員クラウス・フレーリッヒは「ヨーロッパはもともとAIの開発の最先端ではなかったが、AIは自動運転車を作るには必要だった」と語った。
得意な分野ではないが、AIなしでは自動車業界で生き残れないと気づいた自動車メーカーが必死にキャッチアップしようとしているのだ。
セールス&マーケティング・チーフのイアン・ロバートソンは、自動運転車の開発プロジェクトについて、「BMWは月面着陸の“アポロ計画”に例えて “i2.0計画”と呼んでいる。我々はデジタル化のとてもとても序盤にいる伝統的な技術会社だったが、テックカンパニーへと生まれ変わろうとしている」
BMWの他社との差別化のポイントはレベル5を目指しているところにある。ただハンドルから手を離すことができるだけでなく、“見なくてもいい”(レベル3)さらには“考えなくていい”(レベル4)レベルに持って行くことでドライバーが車で過ごす時間をくつろいだり仕事をしたりする時間に変えることができる。
そしてその先をBMWは見据えている、“ドライバーがいなくていい”(レベル5)レベルである。多くの企業が想定される範囲内での自動運転(レベル4)を目指す中、「BMWは1台1台が人間のように考えて運転する車(レベル5)を作ろうとしている」とデジタル戦略ディレクターのベルント・ムスターは語った。
あえて難しい選択をするのには訳がある。BMWは自動運転車市場のリーダーになるには、V2V(Vehicle-Vehicle: 車同士が情報をやり取りする)やV2I(Vehicle-to-Infrastructure: 車とインフラに備えられた通信設備が情報をやり取りする)のスタンダードを他の自動車メーカーや政府が設定してくれるのを待っていては遅すぎるからと考えているからだ。ムスターは「車だけなら5年かかるが、インフラを必要とするなら20年はかかる」と説明した。
General Motors
General Motors (GM)は自動車業界のBIG3の一角で、キャデラックやシボレーを展開している。2009年に一旦破産したが、未だにアメリカ最大の自動車生産量と世界3位の自動車製造売上高を誇る。彼らは、自分たちの強みである“圧倒的な規模”を活かして自動運転を実現させようとしている。
GMの自動運転の歴史は2012年に開発が始められた電気自動車であるシボレー(GMのブランドの1つ)のボルトEVとともにあるのかもしれない。これまでオイルとエンジンを扱ってきたエンジニアにとってEVは電気とバッテリーという全く異なるものだった。
そこで、彼らはEV技術の開発にあたって、多くの専門家に意見を聞くことになる。時代の流れと会社外部からもたらされる情報によって、GMはガゾリンから電気への移行は小さな変化であって、その次にくる“自動運転”と“車を所有しない時代”への変化の方が自動車業界を変えると気づいたのだ。
GMは自動運転を用いたライド・シェアリング・サービスのプラットフォームの構築に力を入れており、ライド・シェアのサービスを提供するブランドを2016年に作り、自動運転技術開発をGMの事業の柱の1つに位置付けた。
さらに、Uberらとライド・シェアリング市場で争うLyftの株式取得のために5億ドルを投資した。自分達がテクノロジーのイノベーションに乗り遅れていると理解した上で、足りない部分を投資によって急速に追い上げているのだ。これで、車とライド・シェアのためのプラットフォームが整った。
最後のAIのピースを埋めるために、彼らはさらにCruise Automation (Cruise)と言うサンフランシスコにある自動運転用のAIを扱うスタートアップを買収した。しかし、GMはCruiseと意図的に距離をとりスタートアップ特有のオペレーションの速さを損なわないようにしている。
具体的には、GMは自動運転のための車の製造のハードの部分に、Cruiseはシステムをコントロールするソフトウェアの開発と精度の向上に努めている。
ある役員の1人はこの方針について、「取り残された自動車産業にとって、シリコンバレーのテクノロジーを持ったパートナーとより建設的に協力していけるようにするために必要な変化だった」と語った。
そんな2社が現在取り組んでいるのが、世界初(になる予定)の量産型の自動運転車である。見た目は、既存のシボレーのボルトEVだが、中身の40%は新たな部品でできている。ソフトウェアと法の整備が進めば、いつでも完全自動運転が実現できるそうだが、現在も実験を重ねている。
まとめ
歴史ある大手自動車メーカーが時代の流れにどう対応しているかを紹介した。伝統とは常に、革新の積み重ねの上に築き上げられるものである。伝統と言う形だけを重んじ同じことを繰り返していてはいかに大企業と言えどもイノベーションの波には抗えない。今回紹介した3社は、どれも時代に取り残される危機感を感じ変化に迫られていた。
そして、大企業としてのリソースをフル活用しながらイノベーションとのギャップを縮めてきた。アメリカでは、AI用のソフトウェアを扱うスタートアップと協力しながら。
ドイツでは、「車の国」である誇りを守り続けるために革新を迎え入れた。つまり、歴史ある大企業であろうとイノベーションを避けながら進むのではなく、追い求めて行くマインドセットがなければならないのであろう。
参照:
“Daimler Is Adopting Silicon Valley Tactics to Fight Its Upstart Rivals”、“THE LACK OF A TIE BECOMES A SYMBOL OF ORGANIZATIONAL CHANGE”、“BMW Group, Intel and Mobileye Team Up to Bring Fully Autonomous Driving to Streets by 2021”、“Inside BMW’s Effort to Deliver a Self-Driving Machine for 2021”、“GM reportedly spent over $1 billion on a tiny startup that holds a key to the future of driving”、“GM lets its autonomous unit be autonomous”
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