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世界中から多様な人材を集め、企業のイノベーションエンジンであり続ける ーbtrax CEO インタビュー
日本の若い起業家、起業家志望者に向け、より多くの成功事例を見せる事により、世界進出の夢を与えたい
趣味はなんですかという問いに「クーパーと遊ぶこと」と笑いながら答えるCEOのブランドン(クーパーとはブランドンが飼っている愛犬の名前)。ここでインターンを始める前、彼が書くブログの記事から受けた印象は実際のそれとは全く違うものだったということをまず伝えたい。
そんな彼がbtrax (ビートラックス)を立ち上げてから9年目の今、東京オフィスのオープンや新規サービスのリリースを控え、会社は転機を迎えている。その折を踏まえ、今回はこのブログ初のCEOインタビューをお送りしたい。
この記事では、いつものブログ記事を通した少し厳しそうな彼とはまた違った印象を受け取ってもらえるだろう。毎年開催されるJapanNightに懸ける思いやブランドン視点の日本とシリコンバレーの違い、さらには今後の展望の話を聞いてみた。
btraxは2004年にサンフランシスコにてweb制作会社として業務を開始した。それ以来、数多くの米国企業をクライアントとして抱え、日本向けのローカリゼーションを行なっていた。その後サンフランシスコのスタートアップコミュニティとの関係を深め、日米のスタートアップ支援を行い、最近は日本企業の海外進出に関するブランディング及びマーケティングを手がける会社に成長した。
これだけを読むと今まで順調に成長し続けてきたように思える。しかし、このインタビューを通して彼の経歴や考えていることを聞いているうちに、そうではなかったことに気付いた。決して平坦ではなかった今までの歴史が、今のbtraxとCEOのブランドンを強く支えていた。インターンを始める前に、こんな記事を読み感銘を受けたことをふと思い出した。
今紹介した記事よりも前の話も含まれるが、ブランドンさんの今までの経歴を「5秒でわかるブランドンの今まで」として以下にまとめてみた。
5秒でわかるブランドンの今まで
- 高校までほぼ日本で過ごしたが、小学校時代より副教科(美術や音楽、図工)だけが得意で、日本の大学に入るのが厳しかった。なので入試のないアメリカの大学に入学する。
- アメリカに来たのがちょうど第一次ドットコムバブルの時期で、これからはwebやコンピューターに詳しい人材のニーズが増えると言われ、何の疑いもなくwebデザインやプログラミングの勉強を始める。ピンクの髪と舌ピアスがよく似合う教授が担当していた「マルチメディア」という教科が、今まで得意だった副教科の全て(音や映像、画像、3D等)を使って表現できるものだったため、この業界に生涯を捧げていこうと決意する。
- 大学2年次よりフリーランスのwebデザイナーとしての活動を始める(その当時の時給はなんと5000円以上)。学生とデザイナーの二足のわらじで忙しい日々を送る。その後、よりデザインを詳しく学ぶためデザインを専攻する。ところが卒業を間近に控えた頃にドットコムバブルがはじけ、就職はおろかwebデザイナーとしての仕事が一切無くなってしまう。
- 「働く会社がないなら自分で作るしかない」という思いのもと、web制作会社を起業。6年目までは仕事において日本企業との取引はほとんどなく、主にアメリカのクライアントをターゲットに事業を展開する。
- 日本のweb関連のイベントにネット経由でライブビデオ出演したことをきっかけに交流が本格化し、日本からのインターンも実験的に受け入れ始める。インターンたちから日本のweb業界の話を聞き、本格的に事業を展開していこうと決心する。
※さらに詳細なプロフィールはこちらを御覧ください。
“アメリカに来る日本の学生はとても優秀”
−学生時代も含めたブランドンの今までを聞いてきたわけですが、この流れを踏まえて前から気になっていたことを一つ。二十数名いるスタッフのうち、常に一割程度はインターンがいると聞いたのですが、なぜ日本からのインターンをここまで積極的に受け入れておられるんでしょうか?
いくつか理由があって、まず一つがアメリカにインターンしにこようっていう学生は優秀な人が多いってこと。非常に考え方がしっかりしてる人も多くて、すごいなあなんて感心してたんだけど。ある日、日本の企業の方と話をしていた時に、実際日本にはそういう学生が多いのかって聞いたらそうでもないとおっしゃってたんですよ。
でもうちには自然と優秀な人が集まっているので、そういう面ではすごくメリットがあると思ってます。
あとは僕のスタートアップ好きが高じてってのもあるかな。学生インターンってみんなスタートアップみたいな感じじゃないですか。まだまだ不完全ながらも、あらゆることに情熱を持って前のめりで取り組んでくれる。社内カルチャーとして、サンフランシスコらしい「スタートアップさ」みたいなものは僕も大事にしたいと思っていて、
ある程度軌道に乗った会社でありながらも、インターンが持ち込んでくれるスタートアップのような勢いを持ちあわせていられることは会社にとっていい刺激になるんですよね。labtraxっていう社内ベンチャーみたいなのもインターンが作ってくれたしね(学生インターンながらもCTOを務める安野氏の発案)。若い子の意見って面白いですし。
−JapanNightの設営にもインターンは積極的に関わっていますよね。実は大赤字だって聞いたのですが、今まで第5回続けているのは何か特別な理由があるのかなあと以前から気になっていました。(※SF Japan Nightとは、日本のスタートアップがサンフランシスコのweb関係者に英語のピッチを行うイベントのことである。詳細はこちら)
そう、アレ大赤字なんだよね(笑)始めたきっかけは、もともと僕はサンフランシスコのスタートアップ関連のイベントとかに出るのが趣味なんだけど、ある日遊びに行ったイベントで、フランスのスタートアップが6社ぐらい集まってプレゼンしてるのを観て、それがけっこう面白かったんですよ。
そこでこれの日本版やってみても面白いんじゃないかなと思って、オーガナイザーに声かけてみたら「一緒にやろうよ」ってなって。だから、何か達成したい目標があったっていう感じじゃなくて、きっかけはけっこう“ノリ”だったんだよね(笑)
それで2010年の秋に第一回を開催したんだけど、いざやってみたらこっちのオーディエンスの人たちも「日本のスタートアップのプレゼンなんて滅多に観れないから面白いよ」ってけっこう喜んでくれた。もちろん日本のスタートアップの人たちもそれがキッカケで色んなチャンスに恵まれたりだとかもあって、「あ、これはやる価値あるな」と。それで今まで続けてきてる感じですね。
“限界に挑戦して攻めまくってる感じがたまらなく好き(笑)”
−先ほどインターンについて伺った時もおっしゃってましたが、普段からブランドンさんを見ていてスタートアップ大好き具合がヒシヒシと伝わってくるんですけど、そんなに取り憑かれてしまう魅力ってなんなんですか?
はは、そんなに伝わってますかね(笑)うーん。そうだなあ…例えていうなら、自動車を作る会社がレースに出るのと似ていると思っていて。自動車レースってお金はかかるけど儲からない、だけど最先端の技術力を持ち寄って競い合うみたいな感じなんですよ。で、その結果とかデータを自分の自動車会社にフィードバックするみたいな感じなんだけどスタートアップもまさに同じでやったことがないことをどんどん実験的にやってみていけそうだったら本当のビジネスとして成り立たせる。なんだろう、限界に挑戦して攻めまくってる感じ(笑)その感じがたまらなく好きなんですよね。
あとは、スタートアップが好きっていうのは、実はスタートアップの文化が好きっていうことでもあって。スタートアップの文化ってそもそもアメリカの文化にすごい近いんですよ。どんなに奇抜で変なことを言いながらやっていても否定されないっていう、これはアメリカ人的感覚なのかなと思います。まあくだらないのももちろんあるし、しょうもないのもあるんだけど、まずは相手を否定せずにどこまでできるか見守ってあげるっていう「開拓民的考え方」っていうのがありますね。
新しいものを創りだすことに対して、よっぽどのことがないと当たらないのもわかってるのに、それをよしとする文化。どこの馬の骨かもわからないようなやつが変なアイディア出したとしてもまず否定されない。もしかしたらそれが成功するかもしれない可能性がある。こういう既存の概念に全くとらわれない型破りな感じがあるんですよね。他の人が今まで全く考えつかなかったようなことをやってみて、信じられないようなお金が入ってくるっていう、このエキサイティングな感じ。
“日本には「やっても無理でしょ」みたいな、挑戦者に対して冷たい風潮があるように感じるんですよ”
−よくIT界隈ではシリコンバレーと日本のスタートアップ文化の違いが話題になりますが、そのあたりはブランドンさんから見てどう思われますか?
文化の違いってのはものすごく感じますね。投資がもらえるとかいうお金の事情の違いもあるんだけど、文化って部分が1番違うと僕は思う。っていうのも、そもそも「スタートアップ」っていう存在の世の中における価値が全然違う。
簡単に言うと、アメリカではスタートアップってすごくみんなが憧れるものなんだよ。新しいものを創りだして成功すれば目立てるし一攫千金、いわばアメリカンドリームみたいな。「アメリカ」っていう国にとっては、イノベーションとか「開拓する」ってのがもはやフィロソフィーとしてすごく崇高なものになってる。かたや日本のイベントとかに行ってみると、まず肩身が狭い。関わってる人たちがそもそも少ないし、その人たちも世間から見ると「ネット好き」とか「技術オタク」の仲間内でやってるって感じで、ちょっとマニアックに映ってるのを感じるしね。で、色んな年代や性別の人が関わってるアメリカに比べて、日本では学生とか若い男性が明らかに多い。
−なるほど。たしかにまだまだメインストリームに食い込めていない感じはします。
僕ね、日本に「やっても無理でしょ」みたいな、挑戦者に対して冷たい風潮があるように感じるんですよ。アメリカはアメリカンドリームとして認識されるぐらいだからすごくオープンな世界なんだけど、日本だとそもそも社会的地位が低いから、やっぱりどうしても文化的には暗くてクローズドで先が見えないっていうイメージで、一部の人たちだけがやってて一部の人たちしか知らずに終わっちゃうっていうケースが多い。
アメリカでは、そうやってスタートアップからのし上がっていった企業としてGoogleとかAppleがあるけど、日本にはそういう実例が少ないので、周りがどうしても「どうせやったってダメでしょ」みたいな空気になっちゃうんだと思うんだよね。だから、昔JapanNightに出場した企業が今でも頑張っていたりして、そういうのを見るとやっぱり嬉しくなりますよね。このイベントに関わってくれた企業の方々が、将来「成功例」と呼べるぐらいまで成長していってくれることが、僕にとって何よりのイベントを開催するモチベーションですね。
“Creating business results through smarter design”
−全然儲かってないというJapanNightのお話を伺いましたが、逆にbtraxを成立させているメイン事業について詳しくお話を伺いたいです。
具体的には、グローバルブランディング、そしてそれに合わせてグローバル市場向けのマーケティング。あとはwebやモバイルデバイスを中心としたUIやUXのデザインの三つですね。この三つはそれぞれ独立して行なっているのではなく、「デザインの力を利用したビジネスソリューションを提供すること」がbtraxがクライアントの皆様に果たせるバリューの一つ。それを表すbtraxのモットーとして“Creating business results through smarter design”というのを掲げています。
あと、btraxをやっていく上で重要視していることが全部で三つあって。一つ目は、自分たちにしかできないことしかやらないということ。二つ目は、スタッフはプロフェッショナル集団で構成するということ。もう一つは、会社としてのカルチャーです。
異なるバックグラウンドや文化を持ったスタッフがいるというのはbtraxの大きな特徴であり、おそらく強みにもなりうると思っていて。みんな異なる国から来ていて面白い経験をしてきているので、この要素をビジネスに繋げていくことで、他にはないユニークな提案ができるのでは、と考えています。
btraxがメインとして掲げている「ビジネス」「デザイン」「クロスカルチャー」という三つの要素を上手く融合することが、クライアントの皆様にユニークでかつ最高の結果を提供し続けてこれた要因だと思うし、これからもそれは心がけていきたいですね。
−では、会社の今後の展望としてブランドンさんが最も達成したいことってなんですか?
組織の大きさとかお金の規模は全く気にしてなくて、僕が気にしてるのは、サービスモデルとか会社の価値とか、そういう部分でしかないんだけど。さしあたっての目標としては今までもやってきてる” Creative for Business”っていうのを徹底していくってこと。これから先はそれをさらに推し進めていって、企業のためのイノベーションエンジン的な存在になりたいなと思っていて。
「企業」っていうのはその性格上、時間が経って組織が大きくなればなるほど、イノベーションが起こりにくい体質になっていくんですよ。組織が細分化して一人の社員が動く範囲がどんどん狭まってきて、さらに今まで積み重なってきてる収益を守りながらっていう体裁もあって。
そうするとどうなっていくかっていうと、表面上はすごく安定してるように見える企業でも、目に見えないところで少しずつ死に始めていくんです。今まで積み重ねてきたものを守るだけで手一杯になっちゃってるから、“新しさ”という面で疎くなってしまっている。
新しいことをやらないことで、時間が経つにつれて企業の価値が下がっていくんですよ。それは売り上げには出ず表面にはわからないので、たいてい気付かずに続けていくんですけど、それがあるきっかけでいきなりバーンと破裂しちゃったりするんですよね。その危険があるから企業ってのは常にイノベーションを起こし続けていかないといけない。今後のbtraxはそういう部分でも日本企業のヘルプになれるような会社にしこうと。
今までにない新しいものを作るとか、新しい組織の形とか、今のところそういうのはサンフランシスコ・シリコンバレーの専売特許なので、日本にはないこの土地柄を活かして、「日本の企業に、世界のイノベーションメソッドを。」というコンセプトのもと、新規事業の立ちあげ準備も進めています。詳細は近日公開!
−最後に個人的に今後の目標があればお聞かせください。
個人的な目標としては、日本の若い起業家、起業家志望者に向け、より多くの成功事例を見せる事により、世界進出の夢を与えたいっていうのがずっと言ってきていることです。あとは今後も積極的に世界中から優秀なスタッフを集めることを考えていきたいですね。
インタビュー/文: Roy Muto
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