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ビヘイビアデザイン Part2 ~ユーザーをあなたの思い通りに ~
前回の記事「ヒット商品の裏に隠されたデザイン力 ~ビヘイビアデザイン Part1~」でご紹介したように、人の行動や習慣というものは、”モチベーション、能力、引き金”という3つの要因により構成されており、それを上手く活用することで人の行動や習慣をある程度、思い通りにすることが出来るのではないだろうか。
しかし、モチベーション、能力、引き金はどれも一言で説明こそ出来るものの、実はそれぞれいくつかのタイプに分けられる。例えばモチベーション1つとってみても、美味しいものを食べて快感を得られるというようなモチベーションもあれば、社会からの承認を得たいとった承認欲求など様々なモチベーションが存在する。
そしてこれらのモチベーションの特徴や引き出し方はそれぞれ異なる。そこで”モチベーション、能力、引き金”の詳細をそれぞれご紹介する。
ビヘイビアデザインを作る3つの要因の図
縦の軸はモチベーション(動機)の高さを示す。モチベーションが高いときは、モチベーション点が上に位置され、低いときは下に位置される。横の軸はアビリティー(能力)の高さを示す。
能力が高ければ高いほど、右に点が位置され、低いほど左に位置される。能力の高さは、ユーザーによるターゲット行動( = ユーザーにしてほしい行動)の達成しやすさでもある。
そして、縦軸のモチベーションの点と、横軸の能力の点が複合したポイントが曲線よりも左側にあれば、ターゲット行動は発生しないと言われている。反対に、そのポイントが右側にあるとき、適切な引き金さえあればユーザーはターゲット行動を行う。
要因①モチベーション
モチベーションは、ユーザーによるターゲット行動を決定するための要因の1つである。ではいったい何がユーザーにとってのモチベーションとなるのか?ターゲット行動につながるモチベーション3種類をそれぞれ2つの側面から紹介したい。
重要な3つのモチベーション
1. 快感と苦痛
快感や苦痛のモチベーションは、例えば食欲や性欲、生理的なものなど人の瞬間的な本能によるものである。
例えば、マッサージを受けに行くときの目的は、快感を求めて体を癒しに行くことではないだろうか。しかし、もし気持ち良いものであるべきサービスが、痛いだけであるなら誰も行かないだろう。
ゲームをする人は、ステージをクリアしたり、ボスを倒したりすることにより、快感を得られるからプレイするのである。また、夏のとても気温が高いときに上着を脱ぐといった行動は、暑さの苦痛に耐えれず行う行動である。
快感と苦痛はパワフルなモチベーションである。デザイナーは、ユーザーのモチベーションのレベルを高めたいときに、どのように快感と苦痛が取り入れられているかを考えると良い。
このタイプのモチベーションは、理想的なアプローチではないかもしれないが(特に苦痛)、モチベーションの徹底的な分析によって、快感と苦痛はユーザーにとって、効果的なモチベーションであると認められている。
2. 希望と恐怖
希望と恐怖は、将来への予測に関するモチベーションである。そしてこれらのモチベーションは”快感と苦痛”よりも比較的強いモチベーションになりがちである。
例えば、毎年インフルエンザの予防注射を受ける人は少なくないだろう。どうして、わざわざ病院に行って、お金を払って苦痛を伴う注射を受けるのか?その理由はシンプルで、インフルエンザにかかるかもしれないという恐怖が、注射を受けることによる苦痛よりも上回っているからである。つまり、ここでは恐怖は苦痛よりも強いモチベーションとなりうるのである。
希望と恐怖が効果的なモチベーションである例をもう1つあげると、出会い系サイトに参加する人は、パートナーを見つけられるかもしれないという希望がモチベーションとなるだろう。反対に、ウイルスソフトのアップデート行う人は、コンピュータがウイルスに感染するかもしれないという恐怖がモチベーションとなりアップデートを行うのである。
3. 社会的な承認と拒絶
今、ソーシャルテクノロジーのおかげで、社会的な承認や拒絶を使って人のモチベーションを上げる方法が発達している。Facebookは、実際にこのモチベーションのおかけでユーザーに大きな影響を与えることに成功した。Facebookユーザーの多くが、ウォールに自分のプロフィール写真や日記などを投稿するところから、彼らが社会的な承認を得たいという欲求のために行動しているということがわかるだろう。
このモチベーションは、あなたの着る服から使用する言語まで、社会的な行動や習慣の多くをコントロールする。ほとんどの人にとって、社会に受け入れられる(承認される)ことがモチベーションになるということは明白である。しかし、それよりも社会から拒絶されることを避ける方が、もっと高いモチベーションになるかもしれない。
昔話やおとぎ話などでよく出てくる話だが、所属するコミュニティーから追放されることは人間にとって厳しい罰である。動物の場合でも、群れから追い出されるということがすなわち死を意味することもある。
上記の3つのモチベーションを意識してプロダクトやサービスに取り込むことによって、ユーザーのモチベーションを変化させることが可能となる。もし、ユーザーが、興味をもって使いたいと思うような商品を作りたければ、これらのモチベーションのどれかを使ってみると良いかもしれない。
要因②能力
2つ目の要因は能力である。ただ、何がユーザーの能力を上げるためのベストな方法なのだろうか?
ユーザーの能力を上げるということは、何か新しいことを教えたりトレーニングをさせたりするということではない。人は基本的に怠け者で、そのような努力を必要とすることに抵抗してしまう生き物である。結果、複雑なことを考えなければならないプロダクトやサービスは失敗しやすい。
例えば、機能がたくさんついているコンピュータを買った人がいるとする。しかし、全ての機能を紹介する説明書はとても分厚く、理解するのには膨大な時間を必要とする。それは全然シンプルだとは言えず、むしろ複雑すぎてユーザーは説明書を読むことを諦め、コンピュータを使いこなせないかもしれない。
ビヘイビアデザイナーは、ユーザーの能力を上げるために簡単な行動や習慣を必ず作り出さなければならない。最もわかりやすい例として、Amazonの1-clickショッピングがある。これはAmazonの商品をたったのワンクリックで注文ができるというもので、これによって買い物がより簡単でシンプルになり、ユーザーはたくさんの商品を購入するようになった。
ハードルを下げることはターゲット行動を起こす上で、人の能力を高めることを可能とした重要なものである。
アクションに対する6つのハードル
ユーザーに対するターゲット行動( = ユーザーにしてほしい行動)を考えるとき、6つのハードルがユーザーの能力を決定づけると言っても過言ではない。これらのハードルを1つでもユーザーが乗り越えられなければ、ユーザーがターゲット行動を起こすことは難しいであるだろう。
1. 時間
もしターゲット行動が時間を必要とし、ユーザーがその時間を確保できなければ、そのターゲット行動のハードルは高い。例えば、もし私がオンラインで何かの申込書を入力する時に、100個の項目を埋めなければならないとしたら、それは私にとって厳しいハードルである。そんなことをするくらいなら他の必要なことに時間を費やしたいからである。
2. お金
経済的に制約がある人にとって、お金のかかるターゲット行動というのはシンプルではない。反対に、裕福な人のお金に対するハードルはほとんどない。実際、お金を使うことで時間を節約して生活をシンプルにする人もいる。なぜなら、時間とお金はトレードオフ( = 一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ない) の関係だからである。裕福な人は、家政婦などを雇ってお金で時間を節約している。
3. 身体的な努力
身体的な努力を必要とするターゲット行動というのはハードルが高い。例えば、もし私が東京に行きたいときに、新潟県から歩いて行かなければならないといったターゲット行動はハードルが高い。しかし、もし私が飛行機を使えるなら、身体的な努力をする必要はないので、それはもっとハードルが低くなるだろう。
4. 脳のサイクル
もし、ターゲット行動がユーザーに必死に頭を使わせるものならば、それはシンプルではない。これは特に、ユーザーが色々なことを考えるのに精一杯のときに発生する問題である。考えることがとても得意で好きだという人にとっては、これによってシンプルのチェーンが壊れることはほとんどないだろう。
しかし、どれくらい多くの人が思考好きかということを考慮すると、深く考えることや、新しい方法で思考させるようなターゲット行動というのは難しいのかもしれない。
5. 社会的逸脱
社会的逸脱とは、常識という概念に対抗して社会のルールを破ることである。もし、ターゲット行動が社会的逸脱を求めるなら、それはもはやシンプルではない。例えば、パジャマを着て街に繰り出した後、そのまま重要な会議に出席するというのは、ほとんど何の努力や労力も必要としないかもしれないが、あなたはそのことによって社会的犠牲を支払わなければならない。
6. 習慣
人がある行動を見てシンプルだと思う傾向があるのは、それがすでに何回も繰り返している習慣や、アクティビティであるときである。習慣でないような行動に直面したとき、人はそれをシンプルとは思わないだろう。基本的にシンプルを求める上で、自分の習慣に固執する人は多い。
例えば、ガソリンを給油するときに、毎回、同じガソリンスタンドで買うといったようなことだ。そのような人はたとえ、他のガソリンスタンドで給油する方が安いとしたとしても同じところで買う傾向がある。
ハードルを下げるためのポイント
たくさんの時間を持っている人、お金をいっぱい持っている人、脳みそに投資できる人もいれば、どれも持っていない人もいる。これらのどの要素を持っているかは、人によって変わるだけでなく、環境によっても変化する。例えば、もし私が財布を家に忘れたとき、スーパーでお金を必要とする行動は決して単純ではないのである。
そして、このシンプルさの話をするときに注意しなければならないことがある。それは、9歳児にとってのシンプルと55歳の人にとってのシンプルは異なるということである。なぜならば、彼らがそれぞれ異なる知識や時間、お金などの資産を持っているからである。何をデザインするにしてもデザイナーが覚えておくべきことは、ある人にとってシンプルであることが、他の人にとってもいつもシンプルであるとは限らないということである。
そのため、リサーチャーとデザイナーは、ユーザーのためにどのシンプルのパーツを補うのかを追求するべき。それは時間なのか?それは思考するための能力なのか?それはお金なのか?と。そして、シンプルの6つの要素を占めることにより、ターゲット行動をするための障害を減らすことができる。
一般的に、モチベーションを上げようとするよりも、行動をシンプルすることに集中した方が良い。
要因③引き金
3つ目の要因は引き金である。引き金とは、ユーザーに対して今この瞬間に、ターゲット行動をするように伝えるものである。よく見落とされるが、引き金はプロダクトやサービスをビヘイビアデザインする上で、とても重要な側面である。事実、モチベーションと能力が十分に高いとき、最後に必要なのは引き金だけである。
重要な3つの引き金
3つの重要な引き金、それは誘発、促進、合図である。誘発はモチベーションを活用する引き金である。促進は行動をより簡単にする引き金である。そして、合図とはターゲット行動の合図とリマインドをする引き金である。
1. 誘発
これは低いモチベーションしかないが、能力は高いユーザーのために、モチベーションとともにデザインされるものである。例えば、誘発は恐怖を目立たせるような「文章」から、希望を与えるような「ビデオ」といったような引き金である。この引き金を考える上で、すでに上記で取り上げた3つのモチベーションをもう一度、確認してほしい。
3つのモチベーションを何倍もの効果まで引き上げるのがこの引き金の特徴である。
2. 促進
促進は、高いモチベーションを持っているが、低い能力しか持っていないユーザーに使われる。この引き金のゴールは、ターゲット行動を簡単にすると同時に、ユーザーにその行動を引き起こさせることである。促進は、誘発と同じように文章やビデオ、写真などに取り入れられる。
効果的な促進の引き金とは、ユーザーにターゲット行動が簡単で、要求することはほとんどないということを伝えるものである。例えば、ソフトウェアアップデートをするとき、ワンクリックですぐに終わりますと画面表示して、難しい操作が不要なことを伝えることによってユーザーの承諾を得ることが容易になる。そして最近、多くのソーシャルネットワークサイトが、ユーザーにアドレス帳のアップローダーを提供して、早いスピードで成長している。これを使うとユーザーは、自分の友人とSNSでつながるために数クリックしかしなくて済むので、簡単にそのSNSを使えるからである。
3. 合図
合図は、人のターゲット行動に対するモチベーションと能力が両方、高いときに使われる。合図はモチベーションを高くしたり、タスクをシンプルにしたりするためにあるのではない。ただ、リマインダーとしての機能を果たすのである。このとき、誘発や促進の引き金は不要である。これらの引き金は、邪魔になるだけである。
わかりやすい合図の例は、道路に設置されてある赤、黄、青に変わる信号である。信号は特に、人のモチベーションを高めようとなどはせず、ただシンプルに適切なタイミングで色を変えることで、人にターゲット行動をさせている。
つまるところ、全ての引き金の目的は、それが引き金であると認識されて、ターゲット行動と関連性を持ち、ユーザーが行動を起こす瞬間に現れるということである。
引き金の重要性
人の行動や習慣を導くようなテクノロジーの到来により、引き金はより重要なものになっている。現在、多くのターゲット行動はコンピュータを使っているときに行われる。例えば、広告をクリックしたり、何かをシェアしたり、新しい商品を購入したりといったことであるだろう。それらの行動はすべて、いずれかの引き金が作用することにより行われている。
今まで、TVや新聞のような伝統的なメディアに対して、ユーザーがすぐさま反応するといったことは不可能だった。雑誌の広告やラジオを聞くなどして、引き金にめぐりあうことは可能ではあるが、そのターゲット行動を行うためには、環境を変えければならないといった問題があった。
例えば、近くのスーパーで安売りをしていることが広告によってわかったが、スーパーまで運転しなければ欲しいものを購入することができない。そのために家からスーパーまで移動して、環境を変えなければターゲット行動を起こせないということである。しかし今、私たちはコンピュータによってその買い物をすぐに行うことが可能である。
引き金は私たちに衝動を与えて、ターゲット行動を起こさせることもある。例えば、Facebookで誰かが私をタグ付けしたというお知らせメールを受け取ったとき、私はすぐにその写真を確認するために、メールのリンクをクリックする。このような引き金と行動のカップリングは、今まで以上にとても強くなっている。
行動や習慣を導くビヘイビアデザイン
このビヘイビアデザインのモデルは、リサーチャーやデザイナーが人の行動について考えることを助けるモデルである。モチベーションや能力、行動を起こさせる引き金について戦略を考えるときのお助けツールになる。さらに、プロダクトやサービスをビヘイビアデザインすることに失敗したときの問題を特定するためにもこのモデルを使える。
さらに、ビヘイビアデザインによる新たなテクノロジーを生み出すときに、クリエイティブなエネルギーをもっと効率よく使えるようになる。例えばもし、自社のプロダクトやサービスにユーザーのモチベーションが欠けていると気付いたときチーム全体でモチベーションの部分だけに集中することができ、核となるモチベーションを取り入れることができる。
このモデルの別のメリットは、アカデミックとビジネスどちらの分野でも、プロジェクトチームのメンバーがシェアできるフレームを作れることである。チームのメンバー全員がビヘイビアデザインをしようと考えているとき、同じ方法で行えるのでプロジェクトはさらに効率良く進むだろう。この効率化は、共通のボキャブラリーを持てることから生まれ、チームがもっと明確にコンセプトを共有できるのに役立つ。
そして、どのようにビヘイビアデザインのコンセプトが仕事以外のところで自分の生活を変えているのかというところに注目してみると面白い。
スーパーで買い物をしていようが家族と話をしていようが、私たちは、行動を導かれるような世界の中で生きているのである。行動を変えようとしているような試みに囲まれながら、私たちは生きている。
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