デザイン会社 btrax > Freshtrax > Apple社で12年間働いた女...
Apple社で12年間働いた女性が語る イノベーションを起こす組織の秘訣
常に急速で予測不可能な変化を遂げる今日において、イノベーションは経営に絶対不可欠な要素として知られる。
ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ教授は、著書『デザイン・ドリブン・イノベーション』で「技術の急進的な革新」に加え、商品・サービスがもたらす「意味の新たな生成」という2つの次元で捉えることが「イノベーションの枠組みを拡張する」ことにつながると指摘する。
今回は、ロベルト教授の指す「意味の新たな生成」の観点から、会社全体にイノベーションをもたらす秘訣を現オール・アクセス・グループ社CEOのケリー・リチャード氏のアップル社勤務時代の経験に基づいて述べる。
彼女は12年間アップル社で働き、音楽分野における初期の革新的なブランドを打ち出してチームを成功に導いた。彼女が語るイノベーションを起こす3つのポイントと、それを生み出す組織文化とは何かを説明していく。
ケリー氏が働いていた1980年終わりから2000年初頭は、アップル社にとってデジタル音楽への大きな過渡期であった。
MP3, iPodなどApple Musicの代表的な数々の製品が生まれる前、ケリー氏が属していたプロジェクトチームは戦略立て、マーケティングの主導権獲得、そしてコンテント・クリエイターと、iTunesとそれ以降のアップル社の様々な革新的なイノベーションが地盤を築くことになる音楽、映画、そしてテレビといったメディア会社との関係構築に必死だった。
以下、ケリー氏の友人であり同僚でもあるデイブ・ウルマー氏の著書『イノベーターの消滅』をもとに、ケリー氏がアップル社勤務時代で得た経験と、今日に至るまで彼女が長年教訓にしている、イノベーションを起こすための3つの秘訣を見てみよう。
「全員が同意するのを待つことほど、仕事のスピードを減速させるものはない」
1. チーム全員の同意を待つ必要はない
アップル社の自由裁量範囲が非常に広かったことが、自らの思慮分別を持って大物アーティストやスターたちとの良い関係構築ができた要因だとケリー氏は語る。
実際に、大物アーティストやスターたちなど個性あふれる人材をうまくコントロールできる経験や人脈・直感力を持った上司がいなかったため、ケリー氏の自由で臨機応変な態度に社内の反応はかなり好意的だったようだ。
他に具体的な例を挙げると、アメリカの大物ミュージカルスターとして知られるフレッド・アステアの画像について、ケリー氏がある企画で使用する権利について未亡人のロビン・スミスと交渉した際も、契約には本当に困難を極め得る瞬間が多々あった。しかし、彼女が芸能人の要求する傾向と彼らとの仕事のし方を心得ていたために、契約を無事締結したと言う。
このように、アップル社のマネジメント手法は、誰もが「ハッピー」でいられるようにしようとしたケリー氏のやり方を信頼してのものだった。チームそれぞれが持つ異なる意見を、数回の話し合いで簡単に一つにまとめることは非常に難しい。そしてそれは時に話し合いを重ねても収拾がつかないこともある。
その場合は行動してしまった方が分かりやすい。異なる意見を持ちあわせているのがチームであるからこそ、それぞれがお互いを信頼して、一人一人が働きやすい方法でそれぞれをマネジメントする方が効率的なのだ。
「自らの判断で主導権を握る」
2. プロジェクト途中にアドバイスを求めるな
2つ目に、ケリー氏は革新的なアイデアを実験的に行うとき、誰かに承認を求める必要はないし、求めるべきではないと語る。このアドバイスを求める行為そのものが、イノベーションを妨げる要因となるのだ。
大きな進歩や新しい発見というものは、途中経過で一旦止めたり、ああすればよかったと終わったことを批判したりしているようでは起こらない。
ただ彼女は完全に無干渉が良いといっているわけではなく、これにはイノベーターたちが彼らの業務を完結するまで責任を持ってやりきることを信頼して見守る組織の文化が求められる。
ケリー氏はアップル社で様々な部署と横断的にマーケティングキャンペーンに取り組んだ際、特に他部署の同僚それぞれの専門分野と関連するものに対してフィードバックを与えさせるよう、会社全体で同僚たちと話し合ったと語る。
当時はアップル社でこのような部署間の横断的な協力体制は当たり前のことではなかったため、同僚は「発言権・投票権」があるというだけでわくわくさせ、モチベーションを上げる要因となっていたようだ。
この結果、 一連の企画がより具体的になっただけでなく、社内におけるより深い、長期的な関係が構築されたのだ。
ケリー氏が経験した例を挙げると、彼女は音楽・映画・テレビ業界を対象とした企画を作った時に、マネジメント部署からの事前の承認を得ずに作成途中の資料をマーケティング・技術チームに手渡したところ、彼らはその製品のポジショニングを喜んで取り組んだ。自身の判断で主導権を取って行ったこの行動は社内全体で好評だったという。
3. 世間の常識に対して、常にアンテナを張る
目まぐるしく変化する世界の動きに敏感にならないと、革新的な発想は生まれない。一見当たり前のようだが、アメリカで一時期は90%のフィルム・85%のカメラ業界のシェアを誇ったコダック社の失敗が、まさにその常識を覆す必要性を教訓として伝える良い例だろう。
デジタルカメラという世紀の大発明を行った同社であるが、企業内部の現状に適応しようとしなかったことで、いつの間にか市場の外へ追いやられてしまった。
「チームを不完全な情報しかない状況でも進んで行動させる文化を作る」
あなたの属する組織におけるチームがもし世間の常識を疑わないなら、疑うように仕向けなければならない。ケリー氏によると、不思議なことに彼女にとって音楽とエンターテインメントが特に重要な市場であったアップル社の権力者たちを説得することは至難の技だったようだ。その後スティーブ・ジョブスがアップル社に戻り、iPod・iTunesサービスを開始され、両製品が持つ影響力は現在非常に計り知れないものとなっている。
組織内でイノベーションを起こすためには?
現状に対し批判・反対意見を持つことは、一般的な企業環境において困難なこともある。そこでイノベーションを起こしにくそうなチームに属している場合にどうすれば良いのか、組織内でイノベーションを起こすための戦略を幾つかご紹介する。
- 新しいチャンスを求めて、現在の戦略・やり方のリスクを予測する。すでにわかっている傾向を分析し、現時点では予測できないが、同時に避けられない傾向があることを認識し、現状維持がどれくらいそれに対するリスクを増やすことになるのかを考える。
- 自分の主張する方法が、いかに投資するリターンが大きいかを示す。上層部の経営者たちへ影響を及ぼすようにROI(投資対効果)を明確に示す必要があることを十分認識する。
- 「決断しないこと」の重要性と、チームが不完全な情報の中で行動することにもっと慣れるよう取り組むべきであることを強調する。「決断を下す前に、知っておくべき情報はどれだけか?」と常にたずねるのがポイントだ。
- 会社を抑制させてしまう「縄張り争い」を上手に解決する。新製品が古いビジネスを飲み込んでしまう可能性がある時、躍起になってしまうのはやむをえない。しかし、それでもやはり外部の競合他社に利益を与えてしまうよりは、内部の部署にイノベーションを起こさせる方が良い。
企業は停滞し続けてはいられないわけで、イノベーションの重要性を認識し、そして即実行することが重要なのだ。イノベーションこそが企業の成長を加速させる最大要因であり、同時に、イノベーションを生み出さない企業に未来はないといえる。
参考資料
- The All Access Group http://allaccessgroup.com , Accessed on May 25, 2016
- 徳重桃子、「イノベーションは、最初は不格好で成功しそうに見えない」http://diamond.jp/articles/-/80432 Accessed on May 25, 2016
- 会田秀和、「イノベーションを促進する組織文化とは」http://www.dhbr.net/articles/-/3071 Harvard Business Review Accessed on May 25, 2016
written by Tamaki Y
【イベント開催!】Beyond Borders: Japan Market Success for Global Companies
日本市場特有のビジネス慣習や顧客ニーズ、効果的なローカライゼーション戦略について、実際に日本進出を成功に導いたリーダーたちが、具体的な事例とノウハウを交えながら解説いたします。市場参入の準備から事業拡大まで、実践的なアドバイスと成功の鍵をお届けします。
■開催日時:
日本時間:2024年12月6日(金)9:00
米国時間:12月5日(木)16:00 PST / 19:00 EST
*このイベントはサンフランシスコで開催します。
■参加方法
- オンライン参加(こちらよりご登録いただけます。)
- 会場参加(限定席数) *サンフランシスコでの会場参加をご希望の方は下記までお申し込みまたはご連絡ください。(会場収容の関係上、ご希望に添えない場合がございます。予めご了承ください。)
- 対面申し込み:luma
- Email(英語):sf@btrax.com
世界有数の市場規模を誇る日本でのビジネス展開に向けて、貴重な学びの機会となりましたら幸いです。皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。