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AI時代に淘汰されるデザイナーと進化を続けるデザイナーの分岐点
最近はAIやデザインツールが進化しすぎて、新人デザイナーが下積みをする機会が無い。
日本やアメリカでデザイン会社を経営する複数の友人が口を揃えて語っていた。自分の手を動かす経験が得にくく、スキル習得が容易ではない。
確かに、レイアウトもUIも、プロンプト入力やボタンひとつでできてしまう時代に、自分の目と手を使って、感覚を身につける機会を得ることはどんどん少なくなってきていると感じる。
アメリカではデザイン科卒の学生が就職難
先日、サンフランシスコで開催されたデザインイベントシリーズ、SF Design Week に参加し、デザイン業界の方々や、デザインに興味のある人たちとのお話をする機会があった。その中でも、最も印象的だったのが、学生達との会話。
今年卒業見込みの学生何人かと話したのだが、なんと彼らはウィスコンシン州やジョージア州などの、他の州から仕事を探しにサンフランシスコに来ているのだという。地元では仕事が見つからず、よりデザイナー需要の高い場所を探しての就活である。
新卒デザイナーの仕事探しが難しくなっているという噂は本当のようだ。

サンフランシスコで開催されたデザインイベントの様子
AIを味方にするか、AIに置き去りにされるか?
確かに生成AIをはじめとするツールは、経験の浅いデザイナーが “基礎練習” を積む前にアウトプットを量産してくれる。だがそこで止まれば、AIに置き換えられる側になりかねない。
「AI を味方につけられるデザイナー」と「AI に置き去りにされるデザイナー」を分けるものは何か。最新調査データと実例を交えつつ、AI 時代を生き抜くデザイナーの違いを考えてみよう。
いま、AI はどこまでデザイン現場に浸透しているのか
そもそも、「AIが仕事を奪う」とか言われているが、一部のテクノロジーに詳しい人たちだけが利用してるのでは?と思う方もいると思うので、実際の現場ではどのくらい浸透しているのだろうかを、実データとともに紹介する。
- 99designs の 2024 年調査では 52% のデザイナーが生成 AI を日常業務に利用している。 さらに 24% が「近日中に導入予定」と回答し、合計 76% が AI 活用を前提としている (参照元)
- 米 ThinkLab(2025)の業界ベンチマークでも「AI を積極活用中」が約 3 割、「導入予定」が約 3 割 (参照元)
- マッキンゼーの最新グローバル調査では 78% の企業が「少なくとも 1 部門で AI を利用中」と回答 (参照元)
⠀そう。もはや「AI を使うか否か」ではなく、「どう使いこなすか」が競争軸になっている。
「AIに仕事を奪われました」
この画像を見てほしい。これは、フリーランサーと案件をマッチングさせる「fiverr」という海外サービスの広告。

fiverrによる「AIに仕事を奪われました…」キャンペーン
大胆にも “AI TOOK MY JOB” と大きな文字で書かれている。これだけだと「AIに仕事を奪われました」という意味になるのだが、その下の小さな文字で書かれた “TO THE NEXT LEVEL” を加えると、「AI のおかげで仕事のレベルが上がりました」の意になる。
そう、AIによって仕事を奪われたかのように見せかけて、AIを使ったことで、仕事の幅が広がったというキャッチコピーなのだ。
米国ではソフトウェアエンジニア職が壊滅的になってきている
ここで話は変わるが、デザイナーと同じく「技術職」であるエンジニアに関しての話題。下記は米国求人サイトのIndeedが発表した、アメリカのソフトウェアエンジニア職の求人数のグラフ。ここ2年ちょっとで、見事なほどに下降線を辿っている。
これは相当衝撃的。エンジニア一人のキャパシティーが爆上がりしてるから、必要な頭数が減ってると思われる。

米国で激減するエンジニア職の求人
デザイナー職も無傷ではいられない
では、気になるデザイナー系の職はどうだろうか?こちらがそのグラフ。
2022年の春頃をピークに激減してる。コロナ明けで増えたと思ったら、AIの影響なのか、直後から急激に減って、まるで富士山のようなグラフになってる。
そう、米国では、エンジニアもデザイナーも、絶対的な求人が激減しているのだ。

デザイナー職の求人も減少気味
AI に置き去りにされるデザイナーの 3 タイプ
では、「AIによって仕事を奪われる」タイプのデザイナーはどんな要素を持っているのだろうか?おそらく、下記の3つが当てはまると思われる。
- 指示待ち型 – 依頼内容をそのまま実行し、“Why” を掘り下げない
- テンプレ依存型 – 汎用テンプレートを当てはめるだけで文脈を無視
- 課題回避型 – デザイン “する” ことだけにフォーカスし、解決するべき課題に向き合わない
上記の3つのタイプにハマってしまうと、勝ち目はない。AI は「速く・安く・それなりに良い」アウトプットを量産できる。それと同レベルの仕事しかしていないなら、代替は時間の問題だ。
というか、下手するとAIの方が積極的に、クリエイティブに、そして課題解決を考えてくれたりもする。
AI の得意領域と不得意領域を見極める
AIに取って替わられないようにするいちばんの方法は、AIが得意なことと、苦手なことを見分ける。そう、敵を欺くには、まずは敵を知ることからだ。
AI が得意なこと
- 見栄えの生成 & 微調整
- ラピッドプロトタイピング
- 単純作業の自動化
- 既存パターンの反復
AI が苦手なこと
- 複雑な人間関係の解像度
- 相反する要件の調停
- ビジネスインパクトの優先度付け
- 不確実な場で信頼を築く
お分かりいただけただろうか、AIが苦手なことは全てかなり「人間臭い」内容なのだ。
言い方を変えると、デザインスキルというよりも、それ以外のソフトスキルが求められる。そんな、「人間だからこそ価値を発揮できること」を高めていく。これが生存戦略の第一歩になる。
ケーススタディ:AI と協業して成果を最大化した実例
AIが得意なことと、人間が得意なことを仕分けたなら、その良いとこ取りをすることで、かなりの成果を生み出すことが可能になる。いわゆる「人間とAIの協業」の実現である。
- Arc’teryx – 生成 AI でバリエーションを大量生成し、プロトタイプ制作期間を 40% 短縮。デザイナーは素材選定とユーザーテストに集中
- Adobe Firefly 利用チーム – マーケティングバナーのコピー&ビジュアル生成を自動化。従来 3 日かかった AB テスト素材を 6 時間で作成し、CTR を 1.5 倍に改善
- btraxデザインチーム – Yanmarのアニメ作品「未ル」のビジュアルの方向性を決める際に、生成AIによるコンセプトアートを活用し、プロジェクト工程を1/3短縮
生き残るデザイナーが身につけるべき 5 つのスキルセット
じゃあ、これからのデザイナーには、具体的にどのようなスキルが求められるのだろうか?ここでは、デザイン会社の経営者の視点で5つほど考えてみた。
- Context Framing – 問題の背景を言語化し、何を解くべきか定義する力
- Facilitation – 部門横断の利害調整を行い、意思決定を前に進める力
- AI-Augmented Prototyping – AI で量を捌きつつ、人間の洞察で質を担保するコラボ型プロトタイピング
- Storytelling with Data – 定量・定性を統合し、意思決定者の腹落ちを促す資料化能力
- Continuous Learning – 93% のデザイナーが AI トレーニング受講済という調査結果が示すように、学習は前提条件。常に学び続ける力
これからの時代もデザインの重要性は高い
ここまで散々AIによるデザイナーへの脅威を書いてきたが、実はデザインの価値はこれからもどんどん高まると考えられる。それを象徴するのが、OpenAIによる、ジョニー・アイブが設立した人工知能(AI)ハードウェア開発企業「io Products(アイオープロダクツ)」の買収だろう。
たった50人程度の企業が64億ドル(約9200億円)の評価額という、シリコンバレーでも珍しいレベルの巨額の金額で。AIの時代に入ったからこそ、デザインの重要性がより高まった一つの印である。

サンフランシスコデザインウィークでのセッション
まとめ:AI を恐れるな、空いた時間で“人間にしかできない価値”を磨け
ここまで読んでいただければわかると思うが、「AI によってデザイナーの仕事が奪われる」のではなく、「AI を使いこなすライバルに置き換えられる」 のだ。だからこそ、AIを恐れるのではなく、AI を味方に付け、学び、試し、AIドリブンなデザイナーになろう。
デザイナーの市場価値は、ビジュアルを作る手の速さではなく、「何を解くべきかを定義し、人と組織を前進させる力」 にある。同時に、我々のようなデザイン会社の価値も、人と企業、そして社会に対してのポジティブインパクトをアウトプットではなく、アウトカムとして提供することにある。
ぜひAIと人間がコラボし、結果を最大化するbtraxのデザインチームで、エキサイティングなプロジェクトに取り組み、共に“次のスタンダード”を創ろう!