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CES 2026で見えた日本企業の存在感低下 -「主役の座」からの距離
毎年1月、世界中のテクノロジー企業がラスベガスに集結するCES。今年も2026年1月6日から9日の日程で開催された(メディア Dayは1月4-5日) 。
そこで、メディア向けセッションに参加し、会場を歩いていて感じたのは、かつての日本企業の存在感が驚くほど薄くなっているという現実だった。
かつてのテクノロジー大国 Japan
CESといえば、かつて日本の技術ブランドが世界に向けて大きく号砲を鳴らす舞台だった。
ソニーのウォークマンやプレイステーション、パナソニックのテレビや家電、TOYOTAのWoven City構想、カシオの時計など、日本発のプロダクトやガジェット、未来へのコンセプトはCESの展示パネルやキーノート、そして国際メディアのヘッドラインを賑わせた。

2025年には豊田章男氏がWoven 構想をプレゼン (画像元: TOYOTA)
日本企業が一気に “引いた” CES 2026
しかし最近のCES、特に今年のCES 2026では、その存在感はほとんどないと言っても過言ではない。
かつて日本企業が席巻していたこの場で、今や米国・韓国・中国勢の勢いが際立ち、日本はかつての「テクノロジー主役の座」を譲ったように見える。
というのも、メディア向けセッションの定番であったPanasonicによるセッションはなくなり、毎年イベントパスに記載されていた “SONY” の文字がAFEELAに置き換えられた。(AFEELAも日本企業ではあるが…)。
そして、極め付けは、過去12年間続いていた、CESにおけるノベルティの定番 Nikonによる「イエローバッグ」が、今年は中国企業のInsta360に置き換わってしまったのだ。

伝統のNIkonのバッグがInsta360になってしまった…
数字が語る残酷な現実
そして、一番驚いたのが、国別の展示数のデータ。
なんと、日本企業は全体の2.5%しかないのだ。これは、かつての状況を考えると、かなり信じられない。そのぐらい、日本企業の「存在感」は減ってきてると言わざるを得ない。

日本企業の展示数は全体の2.5%
これは、”今”の日本を象徴する現象
この現象は単に展示数や製品の目立ち方の違いだけではない。グローバルな技術潮流の変化、企業文化の差異、そして日本社会全体の構造的特性が絡み合った結果として浮かび上がっている。
そして、イノベーティブなプロダクトやコンセプトを表彰する CES Innovation Awards 2026の受賞数を見ると、その差は一目瞭然だ。韓国が200件以上を受賞したのに対し、日本はわずか7件。
参考: CESで見た「技術立国」日本の陰り アワード数はわずか7件、韓国
しかも、7社のうち、受賞した4社は、メイン会場ではなく「Eureka Park」というスタートアップ専用エリアに展示していたスタートアップ企業だ。

スタートアップが展示される 「Eureka Park」内の Japanパビリオン
中国と韓国の圧倒的存在感
そして、メインホールを占めているのは、中国と韓国の企業だ。LG電子やサムスン電子は家事ロボットやAI家電を大々的に展示し、膨大な人だかりを作っている。
かつてサムスンが抜けたスペースを、中国の総合家電メーカーTCL, DREAMEやメガネ型ディスプレイのRokidが埋め、ロボット掃除機やヒューマノイドロボットといった「今年のトレンド」分野では、中国企業が会場を席巻している。

以前までサムスンが展示していた会場のど真ん中のスペースにはTCLが
CESにおける日本企業衰退の構造的要因
なぜ、こんなことになってしまったのか。
ひとつは、CESそのものが「家電の見本市」から「テクノロジーの祭典」へと変化したことだ。かつては完成品を展示し、流通業者や小売業者に売り込む場だった。しかし今は、AIプラットフォーム、フィジカルAI、自動運転といった「技術スタック」を競い、提携戦略を発表する場へと変貌している。
つまり、「製品」を作るだけでは意味がない。どんなビジョンを持ち、どんなエコシステムを構築し、どんなパートナーシップを組むのか。そこが問われる時代になった。そして、プロダクト自体だけではなく、どのようなエンタメ要素を通じて、オーディエンスを惹きつけるかが、勝負になってきている。
韓国企業のサムスンは、Wynnホテル内に特設展示エリアを作り、韓国から新進気鋭のK-Popアイドル、Riizeを連れてきて、コラボしたことで、大きな話題を集めた。

K-Popスターとコラボするサムスンの展示会
スピードが武器の中国企業
残念ながら、日本企業の多くはCESに求められる変化に乗り遅れた。根本には「意思決定の遅さ」という構造的問題がある。
“ゆっくり” 動いている日本企業に対して、中国企業の強みは「スピード」だ。
トレンドになりそうな技術を見つけたら、すぐに製品化して市場に出す。この圧倒的な速度感に、日本企業はもはや太刀打ちできない。韓国企業も2022年と比較して出展数を2.2倍に伸ばし、中国は7.9倍に急増させた。一方で日本は、むしろ減少傾向にある。
韓国のサムスンやLGも、経営判断が速い。中国企業はさらに速く、失敗を恐れずにどんどん市場に製品を投入する。日本企業は会議と稟議を重ね、完璧な製品を目指すうちに、市場のタイミングを逃してしまう。
「LOVOT」が中国にパクられる時代
日本企業の強みと言えば、キティーちゃんやくまモンなどの、「カワイイ」キャラを活用したプロダクトやプロもー0ションだった。しかし、それも脅かされ始めている。
例えば、日本の癒し系ロボット「LOVOT」にそっくりな製品が、中国企業のブースに並んでいた。「カワイイ」は日本のお家芸だったはずが、今や中国企業がその文法を学び、より速く、より安く製品化している。
技術だけではない。デザインも、コンセプトも、あらゆるものが模倣され、改良され、より大きな市場に投入されていく。日本が誇りにしていた「ものづくり」の優位性は、完全に失われつつある。
日本企業の「最後の砦」
唯一の明るい話題は、スタートアップの躍進だ。ジェトロが支援するJapanパビリオンからは、AI、ヘルステック、空間コンピューティング、宇宙・素材といった多様な分野から31社が出展し、4社がCES Innovation Awardsを受賞した。
総務省も13社のICTスタートアップを支援し、「Launch IT」や「CES Unveiled」といったプレイベントへの出展をバックアップしている。これらの若い企業には、かつての日本の家電メーカーが持っていた「世界を驚かせる」という気概がまだ残っている。
問題は、彼らが成長したときに、日本に留まるかどうかだ。資金調達環境、規制の柔軟性、市場の大きさ、どれをとってもアメリカや中国に分がある。優秀なスタートアップほど、海外に拠点を移す可能性が高い。

多くの人々で賑わう Japan パビリオン
日本企業が「勝ち筋」を描くために考えるべきこと
では、今後どうしたら良いのか? CESにおける存在感の低下=グローバル市場における日本企業のプレゼンスの低さに対しては、次の視点が必要だ:
1. ハードウェア × ソフトウェアの新しい価値創造
課題の一つが、「ハードウェア」と「ソフトウェア」を会社単位や部署単位で分けてしまっている状態。これが、時代に合わなくなってきている。家電も、ガジェットも、自動車も、そしてロボットも、ハードウェアとソフトウェアがあたり前に融合する時代。
その点において、物理デバイスの優位を活かしながら、データとサービスで収益を稼ぐモデルへの転換が不可欠だ。これは単に製品にアプリを添えるレベルではなく、オープンなプラットフォーム戦略を持つということだ。そう、2000年代初頭に一瞬話題になった「ユビキタス家電」の失敗に学び、自前主義から脱却する必要がある。
2. プラットフォーム・APIと標準化への関与
これからのCESで存在感を持つ企業は、優れた製品を作る企業ではなく、業界のルールを定義できる企業だ。国際標準、API、データ仕様、通信規格。これらの基盤レイヤーを握った企業が、エコシステム全体の主導権を握る時代に入っている。
日本企業の多くは、標準は「誰かが作るもの」、自分たちは「その上で良い製品を作る側」という発想から抜け出せていない。しかし現実には、標準を作れない企業は、必ず標準に支配される。
製品開発と同じレベルで、国際標準化団体への関与、APIの外部開放、エコシステム設計を経営課題として扱う。それこそが、次の10年の競争力を決める分水嶺になる。
3. 広報・PR・プレゼンテーション力・エンタメ要素の戦略的強化
そして、最も重要なポイントがこれ。今の時代は、技術や製品そのものの優位性だけでは、もはや世界は振り向かない。
CESのようなグローバル舞台では、「何を持っているか」よりも、「それをどう語り、どう見せ、どう魅せ、どう体感させ、そして、どう理解させるか」が評価を大きく左右する。
多くの日本企業は、優れた技術や完成度の高いプロダクトを持ちながら、
- ストーリーが弱い
- メッセージが内向き
- ワクワクする要素が少ない
- プレゼンが仕様説明に終始している
といった理由で、国際メディアや投資家、パートナーの記憶に残らないケースが少なくない。
これから必要なのは、単なる広報ではなく、「戦略的PR」と「国際水準のプレゼンテーション能力」だ。
まとめ: CESとは何か、日本企業の未来はどこへ
CESはかつて「世界を驚かせるガジェットの祭典」だった。しかし今、未来を形作るテクノロジーの思想や価値基準が議論され、AIやプラットフォームが中心となる場へ変貌した。
日本企業が再び存在感を取り戻すには、製品力の誇示を超え、価値創出の構造そのものを再定義する必要がある。
CESのステージは単なる展示会ではなく、「未来の価値基準」が作られる場だ。そこに立つための挑戦を、日本企業は再び始めなければならない。それに対して、我々 btrax もできる限りの協力ができればと思っている。
2026年1月29日(木)、CES 2026 振り返りセッション開催!
2026年1月29日(木)、世界最大級のテックイベント CES 2026 を「AI」という視点から読み解く、振り返りセッションを開催します。
見逃せないAIトレンド、注目スタートアップ、日本企業の現在地まで、リアルな視点で深掘りします。さらに特別講演として、別所哲也 氏による『俳優がAIになる時』も予定。