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【失敗しないローカライズ②】グローバルを目指しすぎていませんか?海外展開で成功するローカライズの3つの型
「グローバルを目指し過ぎていないか?」
グローバルブランディングを主軸サービスにしているbtraxの社員がそんなことを言うのは、少し矛盾しているように聞こえるかもしれない。
海外市場で売上が伸びない。ブランドの存在感が出ない。
そんな課題を抱えるクライアントと話すたび、よく聞く言葉がある。
「海外展開するならやっぱり、”グローバルっぽい”デザインにしないとダメですよね?」
しかし、その”グローバルっぽさ”とは、一体何だろうか?
多くの場合、それは「英語で書かれている」「ミニマルで洗練されている」「配色がシンプル」など、”海外サイトの見た目”を真似るだけの表層的な手法にとどまっている。
私自身も、米国市場のWebサイトの傾向を以前こちらの記事にまとめたことがある:
しかし、実際に私たちが米国のUXやグローバルブランディング案件に多く携わるなかで強く感じるのは、”それっぽさ”だけでは市場に刺さらないという現実。
「世界観を馴染ませる」ことは、時にブランドの輪郭をぼかしてしまう。
「世界基準の正解」に合わせすぎると、ローカルの個性が失われる。それは、届けたい相手に“何も残らない・伝わらない”というリスクにもつながる。
製品・サービスの特性によって決まる、ローカライズの3つの型
海外展開で成果を出すための鍵は、製品やサービスの特性に応じて、適切なローカライズのレベルを見極めることにある。
私たちがこれまで手がけてきた案件を分析すると、成功するローカライズ戦略は大きく3つのパターンに分かれる。
① 原型活用型:「日本らしさ」をそのまま武器にする
適用製品:エンタメコンテンツ、カルチャー商品 など
戦略:現地に寄せず、日本の文化や価値観をそのまま押し出す
アニメ・マンガ
『SPY×FAMILY』や『鬼滅の刃』がNetflixで世界ランキング上位に入るたび、SNSには世界中のファンの反応が溢れる。共通しているのは、「彼らが日本のカルチャーを”そのまま楽しんでいる”」という点だ。
アニメのキャラは目が大きく、服装も非現実的で、背景文化は極めて日本的。それでも、フランスのパリジェンヌも、ニューヨークのZ世代も、同じキャラを”推し(ちなみに、英語圏では「推し」は”Husbando” や”Waifu” と呼ばれる)”として愛し、自分なりの文脈で楽しんでいる。
KAWAIIカルチャー
株式会社サンリオ – ハローキティが良い例だ。1974年の誕生以来、日本特有のKAWAII文化をそのまま世界に展開。現在130カ国以上で愛されており、各国のライセンシーと協力しながらも、キティちゃんの基本デザインや世界観は一切変更していない。アメリカでは年間売上8億ドル(約1,200億円)を記録。
人は、ときに”異質なもの”や”自分たちにないもの”に惹かれる。日本人にとっての「懐かしさ」が、海外では「エキゾチックで新鮮」「洗練されたミニマリズム」に映ることもある。

(左:『鬼滅の刃』 中:『SPY×FAMILY』右:サンリオ)
② 中間型:「日本発」の文脈を活かしつつ、海外ユーザーに配慮する
適用製品:テック系スタートアップ、D2Cブランド、ライフスタイル商品 など
戦略:ブランドの核となる価値観は守りながら、UI/UXや表現方法を現地向けに調整
無印良品(株式会社良品計画)
「徹底したローカライズによるグローバライズ」を戦略とし、「用の美(単に美しいだけでなく、実用性があってこそ価値があるという考え方)」という日本的な美意識を保ちながら、各国の生活様式に合わせて商品ラインナップを調整。
現在24カ国・地域に展開し、全世界の店舗で共通するマニュアル「MUJIGRAM」も各国の習慣や環境に合わせてローカライズを実施している。
資生堂(株式会社資生堂)
「日本の美意識」や「おもてなし」の精神を製品コンセプトの基盤としながら、世界6ヵ所の研究拠点による「マルチハブ体制」で現地ニーズに対応。
質感・香り・パッケージデザインは地域の嗜好に合わせて調整し、現地法人トップには各市場を熟知したローカル人材を配置することで、ブランドの核となる価値観を保ちつつ現地適応を実現している。
③ 完全ローカライズ型:現地仕様に大幅カスタマイズ
適用製品:金融サービス、医療機器、BtoBサービス、法務関連、一部デジタルサービス
戦略:現地の法規制や商習慣に完全適合し、ブランドの表現も現地基準に合わせる
メルカリ(株式会社メルカリ)
米国市場では「ゼロベースでのブランド再設計」を実施。日本版で確立したブランドやUI/UXを一新し、ロゴ・カラー・コピー・操作フローなどを現地ユーザーに合わせて再構築。
「スピーディーで簡便な取引」を重視する米国の利用者に対応し、文化的期待に適応した設計と機能により現地化を推進。商品写真の撮り方やサポート体制、売上金の扱いも現地仕様に最適化されている。
どの型を選ぶべきか?判断基準の3つのポイント
まず、傾向として以下のような判断基準がある。
1.業界特性と商習慣
規制の有無だけでなく、業界の構造や流通チャネル、現地のビジネス慣習がどの程度標準化されているか。自由度が高い領域でも、ユーザーが期待する“当たり前”に合わせることが必要なケースも多い。
2.文化的な差異への依存度とデザインの翻訳度
商品・サービスが特定の文化的背景に強く依存している場合、それを“異質な魅力”として活かせる原型活用型が有効になる。
一方で、普遍的な価値を提供する場合や文化依存性が低い場合は、現地ユーザーの直感や期待に沿った体験が求められ、現地適応型の方が受け入れられやすい。
3. 競合との差別化ポイント
現地に類似サービスが多数存在する場合、「日本発」であることを差別化要因にする中間型が効果的なケースが多い。逆に、機能的な優位性が明確な場合は、完全ローカライズ型で現地基準に合わせる方が良い傾向にある。
実際の判断はもっと複雑
ここまで紹介したのはあくまで整理のための3つの傾向にすぎない。実際には、進出タイミング、現地パートナーの有無、マーケット成熟度、社内の意思決定体制、予算配分など、複雑な要因が絡み合う。
たとえば、btraxが支援した日本の自動車メーカーの米国市場向けプロジェクトでは、日本とは価値観や生活スタイルが異なる米国ユーザーの文化的文脈を起点に、ブランドストーリーを再構築した。
単に既存のブランド表現を翻訳・転用するのではなく、現地のライフスタイルや価値観を深く理解したうえで、「誰に・何を・どう伝えるか」を再設計。
短期間で複数のデザインスプリントを実施し、プロトタイピングとユーザーテストを通じて仮説検証を重ねた結果、言語や文化の壁を越えて響くブランド表現を確立することができた。
完璧な戦略を練ることに時間をかけすぎて実行が遅れてしまうのは避けたい。
重要なのは、仮説をもとにまず動き出し、実行・学習・改善を繰り返すこと。つまり、PDCAを回すことだ。
また、自社だけで完結しようとせず、現地に足を運ぶ・現地の人と対話する・知見ある外部パートナーと協働することが、成功への近道になる場合も多い。
過剰なローカライズはブランドの個性を失わせ、不十分なローカライズは市場とのミスマッチを引き起こす。ローカライズとは本来、「その土地の人たちに最も効果的に価値を届ける」ための戦略的な行為なのだ。
btraxが手がける、製品特性に応じた戦略的ローカライズ
btraxはサンフランシスコと東京に拠点を持ち、日米両市場の知見を持つチームで構成されている。
私たちの強みは、単なる言語翻訳でも、表層的なデザイン調整でもなく、製品特性と市場環境を総合的に分析して最適なローカライズ戦略を設計すること。
これまでも、アニメIPの海外展開支援(原型活用型)、日本発スタートアップの米国市場参入(中間型)、企業向けシステムの現地展開(完全ローカライズ型)など、それぞれの特性に応じた戦略設計を行ってきた。
グローバル展開の”正解”は、製品ごとに異なる。「原型活用型」「中間型」「完全ローカライズ型」という3つの型を参考にしながらも、市場環境、競合状況、進出タイミング、組織体制など、多角的な検討が必要だ。
あなたの製品・サービスにとって最適なローカライズ戦略を、私たちと一緒に見つけてみませんか?btraxを、最適なローカライズ戦略を見つけるパートナーとしてぜひご活用ください。
まずは気軽にお問い合わせいただければ、貴社に合わせたご提案をさせていただきます。