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ピボットとは? スタートアップサービスにおける方向転換の美学
失敗率が80%とも90%とも言われるスタートアップにおいては、最初のアイディア通りにうまくいくことの方が少ない。
プロダクトを作っているその過程や、資金調達のプロセス中、そしてリリースした後も、周りの反応を見ながら「方向転換」を行うのが一般的。
逆に考えると、いつまで経ってもポジティブな反応が得られないプロダクトやビジネスモデルを進めていてたとしても、良い結果が出ずに失敗してしまう可能性が高い
ピボットは最高の「失敗回避策」
日本はアメリカに比べて起業家やスタートアップの数が少ない。
その理由として、日本は失敗に厳しく、アメリカは寛容である。本当にそうなのか?
実はそんな事はない。アメリカだろうが、シリコンバレーだろうが、失敗に対して良いイメージはないし、本人も嬉しいわけはない。
そんな時に便利なのが「ピボット」という言葉。
例えば、始めたサービスのユーザー数の伸びが芳しくない時にも、「サービスを終了しました」と言うよりも、「ピボットすることにしました」と言う方が、ダメージが少なく感じる。
そう、あくまで方向転換であって、失敗ではないと。
ピボットの種類
では、具体的にビボットとはどんなものなのか?
実は、その内容に応じて、Plan AからZまで、いくつか種類があるので見ていこう。
Plan A: 現状維持
当初のアイディアそのままに進められるケース。厳密にはピボットではない。
ターゲットとしたユーザー層の伸びが想定通りか、それ以上で、ビジネスモデルとしても成立する見込みがあるため、方向転換をしなくてよかった状態。
例: Google Search
Plan B: ターゲットを変える
Plan Bは、サービスの名前と内容をあまり変えずに、ターゲットとなるユーザー層を変えるケース。自分たちの想定していないユーザーたちからの人気や、ニーズに合致した際に行う。
ライドシェアの代表であるUberは、2009年のリリース時には、リムジンの時間貸しサービスとしてスタートした。
アメリアでのリムジンは、基本的に1日ごとのチャーター。かなりのコストになる。しかし、VIP客の送迎などで、その時だけでも高級車両と優れたサービスを利用したいと言うニーズに対応したサービス。
当然、価格もタクシーよりも割高で、富裕層向けの存在だった。
そしてUberはリリース後、数年経った2011年にピボットを行い、一般ユーザー向けにライドシェアという概念でのサービスをスタート。それが軌道に乗り、現在に至る。
例: Uber
Plan C: サービス価値を変える
同じようなサービスでも、それぞれによって少しずつユーザーが受け取るサービスかちが異なる。もし自分たちが提供しようとしている価値がユーザーが求めるものと異なる場合は、その提供価値自体をピボットする必要が出てくる。
日本でもおそらく多くの方々に利用されているフォトシェアリングアプリのインスタグラムもまた大きくピボットしたサービスの一つ。
初期バージョンは “Burbn” と呼ばれるチェックイン機能をメインの価値とした、SNSアプリとしてリリースされた。
その後、ユーザーの利用パターンを分析したところ、チェックイン機能よりも、写真をアップロードするケースの多いことが判明。そこでピボットを決断し、一度サービスを停止してから、インスタグラムと言う名前で再リリースし、現在に至る。
同じようなサービスでも、その価値を変えることで、一気に人気が得られることもある例だ。
例: インスタグラム
参考: インスタ12周年 – パクリサービスから世界一のSNSへの道
Plan Z: 勇気ある撤退
ターゲットを変えても、サービス価値を変えても、サービス自体を変えても、どうしても求められる結果が得られなさそうだった場合はどうしたら良いのか?
そんな時は Plan Z を適用しよう。
Plan Zとは、勇気を持って一度事業を撤退する作戦。でも失敗ではない。何がうまくいかないかを学ぶことができた事自体に価値があるし、今後の展開に役立てるための「一時的な」終了でしかない。場合によっては、姿形を変えて再リリースされることもある。
このタイプのピボットの例としては、Google Glass が挙げられる。
Google Glassは、2013年にリリースされた AR グラス。ファウンダーのセルゲイ・ブリンが常時着用してたこともあり、その当時はかなりの話題となっていた。
しかし、思ったほどのトラクション獲得が出来ず、2015年に一般販売を終了した。
その後、2017年にパイロットや医療従事者向けなど、産業用デバイスとして利用されることが発表された。
参考: アメリカのトップVC: リード・ホフマンに聞いた起業家としての心得
事業内容をピボットして成功した企業 5選
さて、上記の事例で紹介したサービス、プロダクト以外にも多くの著名企業が、創業当時は現在とは全く異なる内容の事業を展開していた。その後、時代の変化に合わせ、見事にピボットをし、成功している。
おそらく多くの方々も知らないであろう、事業ピボットで成功した5つの企業を紹介する。
YouTube: マッチングサービス
皆さんもご存知、世界最大の動画サイトのYouTube。実は最初はマッチングサービスとしてスタートしている。ユーザーが自身の動画をアップ・視聴して、好みの相手にメッセージを送り、デートに繋げるのがコンセプト
それも当初は「Tune In, Hook Up」という、かなりチャラいコンセプトで展開していた。
このサービス自体は成功しなかったものの、そこで得られた優れた動画とアップロードプラットフォームをもとに、現在の動画シェアリングサービスとしてピボットした。
TOYOTA: 紡績業
世界のTOYOTAは、豊田自動織機製作所としてスタートし、その後自動車製造に業務をピボットしている。
その歴史は、豊田自動織機製作所の創業から始まる。
当初は豊田紡織として1918年に設立され、自動織機を利用して綿製品の製造・販売を行っていた。1923年の関東大震災を契機に、自動車が実用品としての価値を認識され始め、それまで贅沢品と見られていた自動車の公共性と利便性が再評価される。
この背景を受け、1933年9月1日には豊田自動織機製作所内に「自動車部」を新設し、自動車製造へと業務を拡大。自動車製造への本格的な参入は、1936年に「トヨダ・AA型乗用車」を発売することで現実のものとなり、翌1937年にはこれを更に推し進める形でトヨタ自動車工業が設立された。
こうして、元々は織機製造からスタートした企業が、自動車産業へと事業を転換し、現在では世界的な自動車メーカーとして知られるトヨタ自動車の礎が築かれていった。
ローソン: ミルク販売店
国内コンビニTop3に入るローソンは、元々オハイオ州が発祥。1939年に酪農家のJ・J・ローソンが乳製品工場で、ミルクを販売するための店を始めた。当時の名前はローソンズ・ミルク・カンパニー。
当時はミルクを家庭に配達するのが一般的だったのを、お店で売り始めたのが新しかった。ちなみに、ローソンのロゴに牛乳の瓶が描かれているのも、ミルクストアから始まったのが由来。
その後順調に店舗を増やし、食品や日用品を販売するコンビニエンスストアに成長。オハイオ州外を含め、700店舗まで拡大した。
その後、本国では消滅したが、日本でのビジネス展開が開始され、現在では誰もが知るコンビニチェーンの一つにまで成長した。
アバクロ: アウトドア器具ブランド
アバクロンビー&フィッチ、日本では親しみを込めて「アバクロ」と呼ばれるこのブランドは、スポーツショップとしてその歴史をスタートした。
創業当初からキャンプ用品、釣り具、その他アウトドアグッズの製造販売を手掛け、冒険心あふれる男性たちに必要な無骨な商品を提供していた。実際、冒険家であり作家であるアーネスト・ヘミングウェイが顧客の一人であり、洋服や釣り具を購入していたことはよく知られている。
この時代のアバクロは、男性客が全顧客の85%を占めるなど、明らかに男性向けのブランドとしてのアイデンティティを確立していた。女性客は主に男性に同伴する形で店を訪れ、女性自身が自分のために何かを選ぶというよりは、男性の購入を支える役割が主であった。
しかし、1988年に買収された後、ブランドは一新され、若者向けのヴィンテージ風カジュアルファッションブランドへと変身を遂げた
特に20代前半の若者をターゲットに設定し、これまでのアウトドアやスポーツ用品のイメージから、よりファッショナブルで若々しいスタイルを提案するブランドへと生まれ変わった。
任天堂: 花札製造
現在は誰もが知るゲーム機メーカーの任天堂であるが、元々は花札やカルタを製造する企業であった。1889年の創業時には、カルタや花札を製造する企業としてスタートした。その後、タクシー、食品、ラブホテル、玩具など多岐にわたる事業を経てゲーム業界に参入した。
どの時代においても「人々を楽しませる」というビジョンは変わることなく、時代に合わせて事業の転換(ピボット)を繰り返しながら、その軸を保ち続けてきた。
そして何より、現在でも花札を製造し続けていることが、その初志貫徹の精神を象徴していると言えるだろう。
任天堂の歴史は、単に事業内容が変化したというだけでなく、時代や社会の変遷を捉えながらも、根底にあるビジョンと原点を大切にしてきた歴史である。
その柔軟性と原点への忠実さが、任天堂を現代においても世界中から愛されるブランドへと成長させたのである。
企業の平均寿命15年時代 – 事業転換なくして生き残れない
失敗するのは怖い。これは、人間であればどの国でも文化でも共通している感覚だろう。でも、変化の激しい現代においては、企業自体も変化し続けない限り生き残ることはできない。
実際のデータでも、1955年当時の企業の平均寿命は75年だったのに対して、60年後の2015年の時点では15年にまで短縮している。実にアメリカの大企業トップ 500のうち、過半数が過去15年以内に消滅しているのだ。
参考: 現代における大企業の平均寿命は15年 – 生き残り戦略としてのイノベーション
世界的に見ても日本企業の寿命なかなり長い。しかし今後は顧客の声に耳を傾け、社会の変化と共に常にピボットし続けなければ、生き残るのはかなり厳しい時代になってくると思う。
外部の変化の速度が内部の変化の速度を超えるているのであれば、その企業の終わりは近い – ジャック・ウェルチ, ゼネラル・エレクトリック社 CEO
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■開催日時:
日本時間:2024年12月6日(金)9:00
米国時間:12月5日(木)16:00 PST / 19:00 EST
*このイベントはサンフランシスコで開催します。
■参加方法
- オンライン参加(こちらよりご登録いただけます。)
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