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リーン | アジャイル | デザイン思考 その違いと使い分け方
新しいサービスをより速い速度で開発する手法として、リーン、アジャイル、そしてデザイン思考のキーワードが巷で飛び交っている。
これら横文字のバズワードは、スタートアップっぽく、使うだけでそれっぽく聞こえると思う人もいる。それもあって、あまり意味もしっかりと理解しないまま乱用されているケースもあるだろう。
しかし、それぞれに内容は異なり、利用するべき最適なシーンも違う。今回は、混合されがちなリーン、アジャイル、デザイン思考のそれぞれの役割と、利用するべき目的などについてまとめてみた。
それぞれのプロセス自体は結構近しい
まず初めに、これらの手法が混合されがちな一番の理由として、それらのプロセスに共通点が多いからというのがあげられる。ざっと見てみると、どれも下記のようなプロセスを踏んでいる。
- 課題を定義する
- 課題を理解する
- 解決策としての仮説を立てる
- 解決策のテスト用にアプトプットする (スケッチ、モックアップ、プロトタイプ、MVP等)
- アウトプットを元にテストを行う
- 結果を分析する
- 結果によって今後の方針 (テストを繰り返す、調整する、方向転換する) を決める
これら全てに共通するのは、なるべく簡単な方法で、迅速に課題解決案のテストを可能にしようという考え方である。ここで重要になってくるのが、何をどのような手法で検証しようとしているかだ。
一つめの違いはアウトプット手法
リーン、アジャイル、デザイン思考の違いの一つは、どのような手法でアウトプットを生み出していくかのプロセス部分だと考えられる。
まずは、それぞれのプロセスで生み出される最も一般的なアウトプットを見てみよう。
- リーン: サービスLPやオンライン広告など、テストマーケに繋がるもの
- アジャイル: 操作可能なソフトウェアやMVP
- デザイン思考: スケッチ、UIモックアップなど、見た目的にイメージが伝わるもの
なぜアウトプットが異なるのか?
なぜそもそも3つのプロセスでアウトプットの種類が異なるのだろうか?その理由は、それらのプロセスが生み出された背景にある。それぞれが検証するべき課題や利用シーンが異なることが多いからだと考えられる。
- リーン: スタートアップ起業家を中心に、ビジネス的課題や消費者ニーズの実証測定を行うためのプロセスとして生み出された
- アジャイル: ソフトウェアエンジニアを中心に、エンジニアリングに関する課題を解決するためのプロセスとして生み出された
- デザイン思考: デザイナーを中心に、一般的なユーザーにおける課題を検証するためのプロセスとして生み出され
ちなみに、補足として、デザイン思考はユーザーのニーズ、テクノロジーの可能性、ビジネスの成功に必要な要件を統合すすることによって、人々に求められる実現可能なイノベーションを生み出すためのプロセスとなっている。
解決したい課題に応じてプロセスを選ぶのが基本
したがって、リーン、アジャイル、デザイン思考のどのプロセスを選ぶかは、何を検証したいか、そして解決しようとしている問題の種類で決めるのが良いだろう。
慣れているプロセスを採用するのもアリ
また、チームメンバーの構成によってどのプロセスを採用するかを選ぶ時もある。(例: エンジニア中心のチームはアジャイル型で進める等)
これは意外と理にかなっている。というのも、新規サービスは多くの場合、不明瞭な点が多く、慣れない方法で進めようとすることで、よりリスク要因が高まる。
普段利用していないプロセスを採用したことで物事を複雑にし、余計に時間がかかってしまい、結果が見えにくくなる可能性もある。
それよりも過去にやったこのあるプロセスを適用した方が、より効率的にプロジェクトを進めることができたりもする。
起業家がリーンを好むのも、エンジニアがアジャイルを好むのも、デザイナーがデザイン思考を好むのも、すべては彼らのバックグラウンドと、彼らがすでに慣れ親しんだ手法を利用して課題解決を検証しようとしているからでもある。
参考: 現代のスタートアップチーム構成における6つの役割とは
それぞれのプロセスで価値測定のフォーカスも異なる
リーン、アジャイル、デザイン思考は全てサービスの検証に利用されるプロセスだが、3つの方法は、それぞれ異なるタイプの価値に焦点を当てている。
- リーン: 市場におけるバリデーションに焦点を当てている。つまり、自分たちのアイデアに対して十分な市場があるかどうかを判断する
- アジャイル: 製品の利用価値の検証に焦点を当てている。つまり、お客様がすぐに使用し、メリットを得られるような実用的な製品であるかを検証する
- デザイン思考: ユーザーにとってのサービス価値の発見に焦点を当てている。つまり、人々が実際に望んでいることを読み解く
現代においては重複するエリアも多い
上記の説明では、それぞれの検証ゴールがキッパリと分かれているように見えるかもしれない。しかし、実際のサービス開発の現場では、この3つはかなりの重なりがある。
例えば、自分のアイデアにお金を払ってくれる市場があるかどうかを判断するためにリーンのプロセスを使ったとしても、その市場にいるそれぞれの人が具体的に、何を求めているのかを明らかにし、それを理解するためには、デザイン思考のプロセスが必要となる。
また、サービスコンセプト的に受け入れられそうでも、実際に利用してもらえるか、そしてそれ以上に利用し続けてもらえるかを検証するには、アジャイル型で開発したサービスに触れてもらうことも必要になるかもしれない。
サービスデザインにおける下記の図においては、Desirebilityをデザイン思考が、Viabilityをリーンで、Feasibilityをアジャイルで検証することが一般的。その一方で、重複エリアはそれらを複合して利用するのが良い。
形にこだわらずに臨機応変に利用するのがオススメ
どのプロセスを活用してサービスの価値を検証していけば良いか迷うケースもある。でも実は、どのプロセスを選択するかは大きな問題ではない。
いずれにしても、自分のスキルや経験に合ったプロセスをまずは選ぶのが良いだろう。
ソフトウェアの新機能を実現するためにアジャイルを使用し、それを潜在的な顧客が購入するかどうかを測定するためにリーンの手法で市場の検証を行う。など、組み合わせて使うこともアリ。
また、その逆のやり方もありえる。例えば、サービスができる前にまずはオンライン広告を走らせ、消費者の反応をみる。その中で反応のよかったもののプロトタイプを作ってユーザーテストを行うなど。
重要なのは、適材適所で臨機応変に対応できる仕組みだろう。
参考: デザイン思考のプロセスだけでは革新的な製品が生まれない?説
組織のカルチャー変革が求められる事も
我々、ビートラックスがデザイン思考のプロセスをクライアントに提供する際の多くは、組織のカルチャー変革もセットで行うことが多い。
というのも、例えば、従業員が顧客と直接話すことを嫌がったり、できなかったりするような組織では、顧客から直接フィードバックを得ることが重要な要素であるため、デザイン思考を導入しようとしてもうまくいかないから。
したがって、3つのプロセスのどれを採用するかは、会社や組織の状況によることもある。言い換えると、自分たちの強みや組織文化に合致していないプロセスを採用してもうまくいかない。
まとめ: 重要なのはどのプロセスかよりも最終的な結果
リーン、アジャイル、デザイン思考は、実は全て速いスピードでサービスの価値を検証するためのプロセスである。
その一方で、それぞれ検証するエリアが少しづつ異なるため、何を測定したいかで使い分けるのが良い。
- ユーザーの潜在的なニーズを理解し、アイデアを視覚的に伝え、ユーザーの反応を得たい時はデザイン思考を
- サービスに対して十分な市場があり、サービスのビジネスポテンシャルを測りたい時はリーンを
- 動く製品を段階的にユーザーの手に渡し、実際に使い始めてもらう必要があるなら、アジャイルを
このように、それぞれの目的と、検証するために作り出すアウトプットが異なるので、何を検証したいかによって使い分ける。スタッフの経験値や組織のカルチャーに合わせて。どれにするかを選択する。そして多くの場合は、その3つを複合して使うことが最も有益な結果が得られるだろう。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.