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ファシリテーションとは?議論を前進させる基本のメソッド
- ファシリテーターとは何者?基本をおさらい
- ファシリテーション成功の極意は、「ラポールの形成」にあり!
- 入念な準備とチームへの共感が鍵
- ワークショップ中、3つの「日本人あるある」と、ファシリテーターの打開策
- ファシリテーションはチームで仕事する人全員が持つべきコラボレーションの姿勢・考え方
近年「ファシリテーション」というスキルがにわかに注目を集め始めている。多様な価値観や複雑で予測不可能な社会に対応すべく、チームで物事を作り上げていく「チームでのデザイン」に対する価値が浸透してきたことに起因するだろう。
多くの人々との対話を通し、本質的な課題を定義し解決へと導いていくデザイン思考の考え方はこのような「チームでのデザイン」を円滑化するルールやプロセスを包括している。
しかし、デザイン思考を軸に会社のプロジェクトを牽引していきたいが、思うように成果を出せずに頭を抱えている人も少なくない。これは、デザイン思考がしっかり身についていても起こりうる事象である。
なぜなら「チームでのデザイン」を成功させるためには、デザイン思考実践において重要な「創造的な議論」をサポートする、「ファシリテーション」というスキルが別に必要だからである。
この記事では、主に日系企業を対象にデザインワークショップのファシリテーションを経験してきた筆者が、数々の失敗と先輩からの指南を経て学んだ、ファシリテーションの価値と心得を共有する。
ファシリテーターとは?
ファシリテーターと聞いて、皆さんは何を思い浮かべるだろうか?おそらく、会議やワークショップの司会を想像されるだろう。ファシリテーションを専門に行う人のことをファシリテーターと呼び、日本語では「促進者」と訳される。
ファシリテーションとは、会議やプロジェクトなどの集団活動がスムーズに進むように、また成果が上がるように支援すること(コトバンク)。
つまり、「ファシリテーター」は単なる司会とは一線を画している。彼らは、ワークショップや会議などでの議論をリードし、チームの一人一人の力を最大化させながら、チームの議論をまとめ、アウトプットへと導く。オーケストラでいえば「指揮者」のような役割がファシリテーターだ。
特に、デザイン思考を軸としながら、新たなものを作り上げていく「創造的な議論」をチームで行うには、このような役回りの存在が欠かせないだろう。
しかし、実際は、「ファシリテーター」という名前で働く人は決して多くない。サンフランシスコのデザイン界隈では、サービスデザイナーやUXデザイナーがその役割を兼任することが多く、重要なスキルとして見なされている。
ファシリテーターが提供する価値
チームの力を最大限に反映した議論を促し結論にまで行き着くには、多くの課題が存在する。例えば、どんなに鋭い考えを持つメンバーがいても、チーム内の力関係などによっては、あまり強く発言できないことや、軽視されてしまうこともある。
また、本来はとても価値のあるアイデアでも、本人がそれに気づいていなかったり、的確にチームに伝わらないままスルーされてしまったりすることも有り得る。
このようなことが発生すると、一人一人の力を最大限活用できているとは言い難い。チームとしての最高のアウトプットが生み出すことはできないだろう。
そのため、ファシリテーターは、このようなチームの状況を敏感に察知し、メンバーの発言の意図をより明確にさせるための質問やアイデア発散のサポート、チームダイナミクスを調整するための議論への介入も行う。メンバー全員が100%の力を出せるように、発言しやすい環境づくりも重要な仕事の一つだ。
また、ファシリテーターは客観・中立的な立場を守るため、自分の視点や意見を提供することはないと一般的に言われる。しかし、チームの目指すゴールや状況に応じて、議論に対する自己の見解やチームの議論を活性化するような情報を提供することは、時として必要である。
btraxのファシリテーターは、デザイン思考の考え方やアメリカ在住ならではのインサイトを提供をしながら、議論をリードする。
日本人同士だけでは気づかないような多角的な視点で議題の本質を考えることが、グローバルなサービスデザインにおいてとても重要だと考えているからだ。
また、デザイン思考を企業カルチャーに取り組むためのブートキャンプ型プログラム「Innovation Booster」では、参加者がデザイン思考やグローバルな視野を身につけられるよう、支援する役割も担う。
ファシリテーションの明暗を分ける「ラポールの形成」
ファシリテーションは、正直とても難しい。筆者自身、「高度な技能が求められるなあ」と日々痛感する。 というのも、議論はナマモノであり、ライブであるため、その場その場で瞬時に判断して振舞う必要がある。さらに、議論をリードする立場でありながら、自分よりずっと経験のある人や普段一緒に働くことのないクライアントが相手になることもある。
しかし、萎縮したり不安になったりして狼狽えるのは、ファシリテーターNG行為ナンバー1である。自信を持って堂々と振舞い続けることが、最も基本であり最も重要なポイントだ。なぜなら、自信ある振る舞いがラポール形成において重要になるからだ。そしてラポール形成こそ、その後のファシテーションの明暗を分ける。
ラポールとは、共感に基づく相互信頼の関係のこと。「どんなことでも打ち明けられる」「言ったことが十分に理解してもらえる」とお互いが感じられる関係のことである。
つまり、ラポールを形成することで、チームメンバーが安心感を持って自らの意見を発言しやすくなるのである。それぞれのメンバーが異なる意見を持っていても、非難を恐れずに発言することで、チームの議論に多様性が生まれ、より創造的な議論が可能になる。
逆に、ファシリテーターの自信なさげな態度は、「この人について行って大丈夫だろうか…」とメンバーを不安にさせてしまう。
その結果、メンバーが議論に集中できない、自由に発言できない、場合によってはファシリテーターの指示を無視してしまい、チーム自体が破綻してしまうことも少なくはない。特に、年齢の若いファシリテーターが経験あるチームを引っ張っていく場合には注意が必要だ。(何を隠そう、筆者自身がその失敗歴の持ち主である。)
入念な準備と共感でラポールを形成する
それでは、チームメンバーとラポールを形成するにはどうすれば良いのだろうか。若いとダメ?知識や経験がメンバーに追いついていないとダメ?もちろん、経験があるに越したことはない。
しかし、悩んだ結果、スキルや経験には関わらない、2つの重要かつ基本事項をまずは徹底することに落ち着いた。それは、「入念な準備」と「共感」である。
1. 徹底準備でチームにコミット
ファシリテーションは、瞬時の判断ができる頭の回転の速さやアドリブ力に大きく依拠すると考える人は多いかもしれない。少なくとも筆者はそう考えていた。しかし、ファシリテーターのパフォーマンスの8割は準備で決まると考えるようになった。
チームをどこに引っ張っていくか、どんなことが起こりうるか、不測の場合はどう対処するか、あらゆる可能性を考慮し入念にシュミレーションすることが成功には不可欠だ。そうすることで、予定外の状況でも、自分の出せる最善の判断ができるという自信を持つことができる。
また、アイデアの発散と収束のどちらが得意か、ファシリテーター自身の思考のクセを把握しておくことも準備のひとつになるだろう。
例えば筆者の場合は、様々なアイデアを考える「発散」の方が得意なため、気をつけないと参加者のアイデアの引き出しに注力しすぎて、「収束」が弱くなってしまう傾向がある。自分自身のクセを理解することで、本番も客観的な状況判断がしやすくなる。
さらに、チームのゴールだけではなく、チームメンバーのバックグラウンドや関係性を出来るだけ知っておくことも非常に役立つ。それぞれの立場を想定しやすくなるため、チームが議論しやすい環境設定の工夫が前もって考えられるからだ。
当然のようだが、このような入念な準備こそが、自信のある堂々とした振舞いや信頼関係につながり、ラポール形成に大きく貢献する。
2. チームとの共感を高めるオープンマインド
ただし、自信を見せることが重要といっても、自分がいつも正しいと信じて偉そうに振舞うという意味ではない。チームの成功のために全力であることに自信を持つ。
最善を尽くしても間違うことはあるし、わからないことや知らないことに出会うことは当たり前にある。そんなときに、それらを隠そうとするのは逆効果だろう。むしろ、チームと一緒に成功にコミットする等身大の自分を見せる方が、チームからの信頼を得られるように感じる。
また、どんな意見も受け止めるオープンな姿勢を貫くことは必須だ。そのような姿勢をファシリテーターが率先して体現することで、「どんな意見も発言できる」チームの雰囲気が醸成できる。
参加者一人一人の目線に立ち、メンバーを真に理解しようとする姿勢は当然のことながら、議論の進め方について「このように進めていきますが、いいですか?」と承認をとったり、長期のプロジェクトであれば、ファシリテーターに対する不満について、定期的に確認する機会を取るのも効果的だ。
不信感が大きくなる前に、話し合って解決することで信頼関係を構築しながら進めることができる。
つまり、常にチームの先を見越したリーダーでありながら、チームに歩幅を合わせ、一緒に物事を作り上げていくコラボレーターであることが、ラポールの形成に繋がっていく。
日本人はデザイン議論が苦手?よくある問題と打開策
さて、日本人は創造的な議論が苦手だと言われることがある。デザイン思考のプロセスにおける議論は、まさに「創造的な議論」であるため、ここで壁を感じる人も多いようだ。
そもそも議論とは、異なる意見をぶつけ合って鍛錬し、より良い考え方をチームとして導き出そうとすることである。
しかし、日本の学校教育は試験対策に最適化されたもので、小論文を書いたり、討論をしたりといった、自分の意見を伝える経験は、諸外国に比べ極端に少ないのが現実だ。つまり、日本人は議論に慣れていない。
こういった背景から、白か黒かで物事を考えがちになり、違う意見を言う人を敵のように感じてしまう人が多い。そのため、別の意見を述べることに対して億劫になってしまったり、他人の意見が正しそうであれば違う視点から考えてみることをやめてしまったりするのではないだろうか。
ここからは、そんな日本人で構成されたチームがデザイン議論中に遭遇しがちな、あるある問題3つとその打開策を少し紹介する。
あるある問題① 上下関係や立場が気になって、発言がしにくい
年功序列の考え方がまだ一般的な日本では、上下関係や立場を気にして、空気を読んでしまうことが多々ある。そのため、チームメンバーが考えを自由に発言しきれないという問題だ。
この問題に対しては、環境設定が重要だ。ワークショップの場だけでも、普段の力関係を持ち込まない、出来るだけフラットな関係性になるようにする。また、異なる意見を共有する価値を再度確認するのも効果的だ。
ちなみに、btraxのファシリテーションでは、お互いのパーソナルな面も知れるようなアイスブレークを行ったり、参加者にニックネームをつけて呼び合ったりして心理的距離をグッと近づける工夫をしている。
あるある問題② 真面目すぎてアイデアが広がらない
日本人は真面目だと言われる。特にビジネスの場では、予算や様々なしきたりといった制約に縛られ、硬く考えすぎてしまう傾向がある。結果、新しいものを生み出そうとしても、ありきたりなアイデアしか生まれてこない。
これに対してファシリテーターがすべきことは、メンバーが安心して常識から外れたようなアイデアを出せるような環境と、そのための刺激の提供だ。例えば、あえてちょっとクレイジーなアイデアを例として提供する。このとき、メンバーが持っていなさそうな視点をさりげなく盛り込めると最高だ。
一見ふざけたアイデアは、それ自体がすぐに使えるものでなくとも、そこから連想して今まで思いつかなかったようなアイデアに行き着くことができるため、とても有効だ。
「こんなアイデアでも良いんだ」という安心感と楽しさを醸成しながら、真面目な頭をもみほぐし、チームの創造性をブーストする。
あるある問題③ 「正解」を探して停滞してしまう
いつも「正解」がある世界で生きてきた日本人は、その「正解」が保証される論理が通るまで、延々と考えて議論が停滞してしまうことがある。しかし、新しいものを生み出すデザインの議論では「正解」が存在しないことも多い。また、チームメンバーの視点の多様性が足りていないがために、気づかないこともあったりする。
こんなときは、デザイン思考のプロセスを意識して、「一旦アイデアをテストしてみましょう!」と行動に移すことを促す。アイデアが完全な形ではなくても、コンセプトを試すためのユーザーテストやチーム外の人と対話することで、停滞していた議論の突破口が見つけられることはかなり多い。
btraxでは、サンフランシスコの立地を生かして、インターナショナルな人々との対話を促すこともある。仮に、デザインしているものが日本向けであっても、彼らとの対話から日本人同士では気づきづらいような、物事の本質を考えさせてくれる視点に出会うことができるからである。
日本人チームのデザイン思考、成功の鍵は?
日本人のデザイン議論でのあるある問題について触れた。しかし、「デザイン思考」という言葉と共にその概念が普及するずっと前から、使い手の目線に立った優れたデザインを生み出してきたのが日本である。
ファシリテーターがチームメンバーのバックグラウンドを前もって理解することの重要性は「徹底準備」のパートでも触れたが、この場合では、ファシリテーターが、日本人の国民性や文化的・社会的背景による傾向を理解することが重要だ。
そうすることで、チームが本領を発揮できるような最適なファシリテーションを行うことができる。つまり、日本人のチームが素晴らしいデザインを生み出せるかどうかは、ファシリテーターの腕に掛かっているとも言えるだろう。
ここでは、日本人と言う括りで語ったが、多国籍であったり、違った業種を専門とするメンバーで構成された多様性のあるチームの場合は、なおさらこのチーム理解とそれに合わせた最適なファシリテーションの提供が価値を発揮する。
ファシリテーターはチームの力を引き出すリーダーでありサポーターであれ
冒頭でも述べたように、個人ではなく「チーム」による創造的な議論を通して、 物事をデザインすることに価値を見出されるようになってきた。議論の進行整理をしながら、チームとしてのパワーが最大化されるようにサポートをする「ファシリテーター」の存在が注目され始めているのはそのためだ。
ファシリテーションを成功させるためには、チームとのラポールの形成が最重要であり、そのための入念な準備と共感が鍵になる。創造的な議論を行いやすくなるオープンマインドな姿勢を自らリーダーとして体現することも大切だ。
また、チームの持つ性質や苦手な事項について理解することでより効果的なファシリテーションをすることができる。
日本人は創造的な議論が苦手だと言われることもあるが、文化や社会背景を理解した優れたファシリテーターがいれば、メンバーの力を引き出した生産性の高い議論が可能だろう。
今回は、ファシリテーションを上手くこなすテクニック面についてはあまり触れず、ファシリテーションとは何か、またその価値と心得に注目してきた。
改めて考えてみると、ファシリテーションスキルはデザインに限らず、チームで仕事する人全員が、持つべきコラボレーションの姿勢であり考え方とも言えそうだ。
様々な問題で混沌としているこの時代、チームのコラボレーションによって、一人ではできないような、新しくかつ豊かな価値を社会に提供するようなデザインが、どんどん生み出されると明るいなと思う。
「ファシリテーション」というスキル、役割が、より多くの人に認知・理解されることが、その一助になるのではないだろうか。
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この内容に関するポッドキャスト
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日本時間:2024年12月6日(金)9:00
米国時間:12月5日(木)16:00 PST / 19:00 EST
*このイベントはサンフランシスコで開催します。
■参加方法
- オンライン参加(こちらよりご登録いただけます。)
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