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バナナは最高のUX – 自然界に学ぶデザイン【バイオミミクリー 】
皆さんはデザインをする際に、どのようなところからインスピレーションを得るだろうか?
他のデザイナーが作成した優れた作品、雑誌に掲載されている広告、歴史的建造物など、多くは人間が作り出したものからだろう。
これからデザイナーを目指す方からの質問で最も多いのが、「優秀なデザイナーになるためにはどうすれば良いですか?」というもの。
学校に行くとか、先輩のデザイナーに教えてもらうとかに加え、自分がオススメしたいのが、自然から学ぶ方法だ。
46億年かけて熟成された仕組み
地球の歴史は38-46億年と言われている。自然界には長い年月をかけて洗練された数多くの仕組みがあり、それぞれの目的に対して、最適な設計がされている。
すなわち、課題に対して最もふさわしいソリューションが生み出されている。
例えば、高い木の葉っぱを食べるために長くなったキリンの首。警戒するために、ハチやスカンクなどの強力な武器を持った生物は、見た目が派手。花の色は引き付けたい昆虫に合わせていたりなど、自然界のすべてに何かしら意味がある。
また、見た目や造詣だけでなく、自然界そのものの仕組みなども非常に勉強になる。
ビジュアルデザインから、UXデザインまで、自然界からは多くのことが学べる。実際、ダヴィンチは黄金比をはじめとして、多くの事柄を生物や自然界から取り入れている。
バナナは最も優れたUXデザインを実現した果物
果物では、バナナのユーザー体験が参考になる。日常でなんの気無しに食べているバナナであるが、じっくりと分析してみると、実はかなり優れた体験を提供している。
まず、手掴みで食べるのに、洗っていない手でつかんでも良い。皮も手で剥けるので、ナイフなどの道具がいらない。
剥く際にも、剥く方向に合わせてラインが入っていて剥きやすい。食べる際にも手が汚れないし、常温保存も可能。そして、いつ頃が食べ頃なのかもその色の変化でわかりやすくなっている。これは、ある意味最強のUXである。
最もバランスの取れた造形 – 雪の結晶
自然界には多くの美しい造形が存在している。代表的なのが雪の結晶。
バランスの取れた六角形の幾何学模様は、水が凍る時に膨張するという現象から生じる。まずは水滴が空中の微小な粒子にくっついて、氷となる。そうしてできた結晶に水分子がさらに付着しながら、6つの方向に向かって広がっていく。
水平面方向へ成長していくときには,酸素の周りの3つの水素が等価になって結合の角度が120度になり六角形の基本構造を作る。氷の結晶には様々な造形があり、同じものが2つとしてないが、その形は周囲の環境と湿度によって決まってくる。
この雪の結晶からインスパイアされて設計されたのが、ハルビン太平国際空港である。
雪の結晶の六角形は、水分と空気との割合のバランスが良く、表面積の最大化もされているので、空港のターミナルにも採用することで、搭乗口の最大化を狙って、この形状を採用した。
自然界からインスパイアされた日本の新幹線
おそらく、自然の仕組みを最もうまく取り入れたプロダクトが新幹線だろう。1989年に最初の100型と呼ばれる新幹線が発明された際には、その騒音が問題となっていた。
特にトンネルから脱出する際、俗に「トンネルドン」と呼ばれるトンネル微気圧波が発生する。
高速で空気を押しやるために風の壁が作られ、砲音のような騒音が発生する。この騒音は400m先まで届いていた。また、風の抵抗で車体が減速するのでエネルギーも無駄になる。
そんな課題を抱えていた新幹線だったが、エンジニアの中津英治氏が、自身の趣味であったバードウォッチングを通じて、いくつかの鳥の造形的特徴からヒントを得て、デザインを改善した。
まず、空気抵抗を減らすために、カワセミの丸みを帯びたくちばしを参考にした。カワセミの流線型のくちばしは先端が尖っているために、水しぶきを上げずとも川の中にダイブできる。水がくちばしに沿って後ろへ流れることで、衝撃が減少する。
また、電車が架線から電気を採り入れるため屋根に設置されているパンタグラフには、静かに飛ぶことのできるフクロウの羽の形状と、スムーズに水の中を泳ぐペンギンのお腹の部分の形状を採用し、抵抗を少なくすることで、騒音を減らすことに成功した。
これにより、新しいモデルの新幹線では、従来のものより速度が10%上がり、消費電力を15%下げ、騒音を70dBに抑えることに成功した。鳥の造形から学ぶことで、現在の新幹線はエネルギーをロスすることなく時速300キロで疾走できるようになった。
カカオの木の実を参考にしたコカコーラのボトル
現在のコカコーラボトルはそのシルエットを見ただけでも認識できるほどにアイコニックな形をしている。
しかしそれまでは汎用のボトルにブランドロゴの入った菱形のラベルを貼り付けていただけで、それだけではコピー製品との差別化が難しくなっていた。
そこでユニークで持ちやすく、消費者にもポジティブな影響を与えるデザインが求められた。
最終的に彼らが参考にしたのがカカオの木の実の形。
真ん中を膨らませることでより持ちやすく、スタイリッシュな造形にたどり着いた。
ちなみに飲料のボトルや缶のデザインは、ブランド価値形成に加え、消費者心理にも具体的なインパクトを与えている。
セブンアップの消費者による味覚テストでは、パッケージデザインに黄色の着色料を15%多く使用した缶を飲んだときに、レモンの風味がより強く感じられたと回答した。パッケージの色や形、フォント、テクスチャーなどのデザイン要素はブランド体験に大きな影響を与えている。
蜂の巣の形状を参考にしたジュースのボトル
ボトル形状のデザインをもう一つ。新興ブランドのSISジュースは、一見不思議な形状をしている。
これは、実は複数のボトルを重ねた際に、より高い収納性を実現するために、蜂の巣の構造を参考にしている。
自然を真似るバイオミミクリーと呼ばれるデザイン手法
このように、自然を学び、そこからインスピレーションを受けてデザインする手法は、バイオミミクリー (Biomimicry) と呼ばれている。
これは「自然」を意味する”Bio”と「模倣」をする意味の ”Mimic” を合わせた造語で、生物学者のジャニン・ベニュスが名付け親だ。
バイオミミクリーには、大きく分けて下記の3つの手法がある。
- 造形や形状 – 自然や動物の形を模倣する。例: より空気抵抗の少ない新幹線
- プロセス – 自然界にある個別の仕組みを活用する。例: 自動運転に採用されている蟻の伝達方法
- エコシステム – 自然界全体の仕組み自体を参考にする。例: 循環経済のモデル
優れたデザインを探しに自然を見に行こう!
このように、自然界にはデザイナーとして学ぶべきヒントが散りばめられている。
一方で、多くのデザイナーは生物学を勉強したことがない。そのギャップを埋めるために、森や海、動物園や植物園に行って、細かいところまでじっくり観察してみると、思わぬインスピレーションが得られるかもしれない。
btraxでは、優れたデザインを通じ、イノベーション創出に貢献するためのプログラムも提供している。ご興味のある方はぜひこちらからお問い合わせください。
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