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NRIとNTTの若手エースが語る、大企業でイノベーションに挑戦できる環境作りとは【DFI2019】
- 企業として:「大企業としての戦い方」を知り、評価制度等の改革を含めてイノベーションにコミットすることが大切。
- 一社員として:「うまく会社を使う」ことが大切。
- マネージャーとして:「イノベーションの性質を理解し、邪魔をしない」ことが大切。
btraxが毎年開催しているデザインと経営の融合をテーマにしたカンファレンス、DESIGN for Innovationも2019年で4年目になる。この記事では、当日行われた6つのセッションの中で「若手エースたちが語る大企業でイノベーションにチャレンジできる場づくりとは」について、モデレーターである筆者自らがご紹介したい。
このセッションは、こんな課題感から実施が決まった。『ほぼ全てのイノベーションは若者によって生み出されてきた。しかし大企業特有の仕組みの中では、そんな若者の力が十分に発揮できないことが少なくない。』具体的なシーンを想像出来る方も少なくないのではないだろうか。
これは筆者本人の課題感でもある。ここ数年ファシリテーターとして大企業の新規事業部の方々と協業させていただく中で、彼らの優秀さに驚くと同時にその能力が活かしきれない環境を悔しく思うことが多々ある。
本セッションでは若くして活躍するエースたちに話を聞くことで、大企業の中で若きイノベーターを活かしていく際のヒントを探ることができた。
スピーカー紹介
林田敦 NRIデジタル株式会社 ビジネスデザイナー
2012年野村総合研究所入社、SE/PMとして活動。2015年サンフランシスコでのbtrax社研修受講をきっかけに野村HDへ出向、グループ全体のイノベーションマネジメントに携わる。2017年からイノベーション戦略子会社N-Village出向、CTOとして新規事業のPO/PMを担当。2019年NRIデジタル出向、顧客への新規事業提案や社内新規事業のアドバイザリーを行っている。JAPAN MENSA会員。
岩田裕平 NTTコミュニケーションズ株式会社 SpoLive事業グループCo-Founder / プロダクト責任者
2013年NTTコミュニケーションズへ入社後、R&Dや新事業開発におけるUXデザイン・ブランド戦略に従事。2017年よりデザイン経営を推進するプロジェクトにジョインし、社内外へのデザイン普及を行う。 2018年より新事業を立ち上げプロダクト/事業責任者に。同時にスタートアップ協業プログラムを立ち上げ、運営も行う。経産省主催「始動Next Innovator」3期生選抜メンバー。HCD-Net認定 人間中心設計専門家。
僕らがあえて大企業でイノベーションに取り組む理由
Q.イノベーションや新規事業と聞くと、どうしてもメガベンチャーやスタートアップ、起業を想像します。お2人があえて大企業でイノベーションに取り組む理由を教えて頂けますか?
林田氏(以下、敬称略):
やっぱり大企業はアセットをたくさん持っているので、それが魅力的です。例えば、野村ホールディングス出向中にアクセラレータープログラムをやったのですが、営業店やセールスパーソンといった募集テーマに紐づく拠出アセットを明確にした結果、多くのベンチャー企業からご応募いただくことができました。また、知名度、野村の看板もアセットの一つとして魅力的であると思います。
岩田氏(以下、敬称略):
僕も全く同じですね。特にチャネルと技術アセットです。若い企業やスタートアップでは持ち得ないような様々な企業や団体との繋がりや、特にNTTグループは技術系のアセットをたくさん持っています。R&Dの部隊もいたり、基礎研究にリソースを割けたりするのも大企業ならではのアセットかなと。実際に現在の会社への就職を決めた際も、元々の研究領域に近い基礎研究を事業にできていることが魅力的でした。
林田:
あとは、野村と繋がりのあるお客様をPoCに巻き込んでいけるのも大きなメリット。金融庁ともしっかりとしたリレーションがあるので、ちゃんと話を聞いてくれます。設立したばかりのスタートアップだと、そういったこともなかなか難しいかもしれません。
1on1MTGで社内に生息する”隠れイノベーター”を探せ
林田:ところで…社内に「隠れイノベーター」っていません?
岩田:いますね。
林田:
大企業にいる人は、上手い隠れ方を知ってるんですよね。目立たないように動いたり、実は業務時間外でいろいろなことをやっていたり、みたいな。でも、1on1など、上司と部下でちゃんとコミュニケーションする時間を取って、普段何を考えながら仕事してるのかをちゃんと掘り下げると、隠れイノベーターは発掘できるのではないかと。
NRIデジタルでは1週間に1回、30分の枠で1on1ミーティングを行っています。アジェンダは一切無し。ざっくばらんに話します。例えば、仕事で今悩んでいることや、プライベートであったことなど、何でも話せます。まずは開示するということをちゃんとやると、隠れイノベーターは見つかると思います。
そういう意味で大企業は、人材というアセットも豊富ですよね。スタートアップでは人材獲得が問題になりがちですが、大企業だと最適な人材を内部で発掘してアサインすることができます。例えば、NRIのオープンソース部隊で働いていた時は、後ろを振り向いたら世界に数えるほどしか居ない著名なオープンソースのコミッターとかもいて。すごい環境で仕事できていたと思いますね。
多産多死の世界における事業の評価軸とは
Q. 次に事業の評価についてお伺いしたいと思います。事業評価のルールが変わってきているのは間違いない。とはいえ大企業の中でいきなり変えると社内に混乱が起こるでしょう。そんな中でお2人はサービスオーナーとして、どのように事業を進められてきましたか?
林田:
大企業は、いきなり大きな事業投資の判断をするのが苦手です。それに対する解決策として導入されたのが、ステージゲート方式ですね。新規事業の「確からしさ」を確認するため、NRIではまずは小さく始めて徐々に大きくしていく、といった方針をとっています。
それでも直面する課題は、どうしても既存の評価軸で判断してしまいがちだということ。イノベーションに関しては、定量的な評価ってすごく難しいですよね。本来であれば定性的な評価が必要。とはいえ既存の評価軸を踏襲してしまうと、どうしても定量的にならざるを得ない。
そこで、野村グループでは意思決定の主体を分けました。具体的には、別途子会社を作って、そこで新規事業を推進する、という形。その子会社は、新規事業についての意思決定を自ら行うことができる。
それがN-Village(エヌビレッジ)ですね。ある意味守られた空間を作ることによって、そういった評価ができるような制度をつくりました。いわゆる出島ですね。
岩田:
うちも同様です。社内スタートアップ制度は出来たばかりでこれからが正念場ですが、経営企画部の中に出島のような一部署があり、ステージゲート方式にしています。スタートアップと同様にプレシード、シード、シリーズAに類似する評価をしており、ゲートに「PMFしているか」といった条件が敷かれています。
とはいえ、スタートアップのそれと比べるとやはり事業評価をし、継続可否の意思決定をできる人がいないという難しさはあって。本当は組織も分かつべきだとは思いますが、まだ分かれていません。
事業評価のKGIは売上になりますが、KPIはビジネスモデル次第なので自分たちで設定しています。特にアプリケーション系のビジネスですと顧客数で測ることが多いと思います。投資先行であることに対して、特に組織構造によって生じる問題は多いので、そこはこれから改善する必要があると感じています。
意思決定の鍵は未来と過去を紡いだビジョン
Q. スタートアップが定量だけに囚われないに意思決定ができる1つの理由として、軸を「ビジョンに沿っているか」に設けていることがあると思います。大企業の新規事業においてビジョンはどのように機能しているのでしょうか?
林田:
N-Villageは、設立時に自分たちのビジョンを定義しました。「挑戦者を支援する」というものです。色々な新規事業案が出てきますが、その中でもどの新規事業をやるかという意思決定は、この「挑戦者を支援する」にちゃんと繋がってるかどうかが軸になります。
もちろん儲かりそうだ、という軸もありますが、まずはビジョンに引っかかってるかどうかが1つの判断基準です。
岩田:
「挑戦者を支援する」程度の粒度は丁度良いですよね。意思決定ができる粒度であるということは、良いビジョンであるための1つの要素だと思います。
林田:そうですね。大企業だと、分かりづらいミッションやビジョンがありがちなので。やっぱり機能や産業が多岐にわたるので、どうしてもそうならざるを得ないと思いますが、そうなると、なかなかそのビジョンに基づいて意思決定するのは難しくなりますよね。
岩田:
ボトムアップで作ってしまうとみんなの意見が集約されてしまうので、結局、「確かになんでもやれる」というようなミッション・ビジョンに落ち着くことが多いですね。
僕も過去にグループ会社のブランディングのプロセスに関わったことがあって。企業が創設された当初から遡って、歴代の経営者がどういう想いで経営してきたかを見るべきかなと思っています。この意味では、創業者がいらっしゃる会社だと分かりやすいです。
林田:
抽象的にならざるを得ないところをいかに自分たちの部署に落としていくのか。「未来をつくる」だったら「自分たちの部署が描く未来って何だっけ?」みたいところを部署として考えていくことが重要です。
そのために、「自分たちが今まで提供してきた社会価値の本質ってなんだっけ?」と自らを再定義することが必要になります。ファクトとして存在する過去をもとに意思決定ができるビジョンを作っていくことが、KPIを設定できないというところに対しての枠組みとしてワークするのではないかと思います。
Q.「既存事業と被るのでやめてくれ」という声ってなかったですか?大企業で新規事業をやろうとするとぶつかりがちな壁の1つだと思います。
林田:
ありますね。でも、何もしなかったら結局はスタートアップに食われるんですよ。だったら子会社に食われた方が全然マシです。だから、「スタートアップに食われるのと、子会社に食われるのだったらどっちが良いですか?」と問いますね。
定性の世界で絶対評価を下す
Q. 事業の次は人材の評価ついてお伺いしたいです。お二人はイノベーションに挑戦する人材をどのように評価していくべきだとと考えていますか?
岩田:
やはり人材評価であれば定量だけではなく定性も考慮するべきかと考えています。例えば、同じ部署に売上げが1000億円のサービスがあったとして、それと初期の100万円しか稼げないサービスを比較して評価してしまうと全然及ばないのは当然です。
定量的に測ってしまうと、通常の大企業のロジックではどうしても相対評価になってしまうので、定性の世界に持っていくことで絶対評価するとも言いかえられます。事業によってフェーズが異なるのは当たり前なので、そもそも小さな事業同士でも比較すべきではないのですが。
じゃあ定性の世界で何を見るかというと、それはプロセスの部分。特にどのような仮説検証プロセスを踏んできたのかで評価すると良いと思います。
林田:
完全にアグリーですね。大事なのは「仮説検証の量と質」です。そして、評価をする上司がそれを理解することが必要です。
多産多死の世界であることはもちろん知らないといけないですし、仮説検証をどうすれば効率的にうまく回せるのかということを上司が知らないと、その部下の仮説検証の評価をするのはなかなか難しい気がします。
現場=起業家、管理職=投資家の関係性
Q. そうなるとマネージャーに求められることが変わるのは明白です。イノベーションに挑戦する部下を持つマネージャーのあるべき姿とは?
岩田:
確立されたやり方に沿って、ベルトコンベアで何か物を大量生産する形式だとしたら、マネージャーは「何をすべきか」をきっちりと管理すべきだと思うんですよ。ただ、新たな価値を探索をしなきゃいけない部署であれば、そういった管理はできないはず、少なくとも、日本の大企業で行われてきた従来の「管理」という考え方ではない方が良いと思います。
林田:
先程もお話した通り、イノベーションは多産多死の世界。しかし従来の管理のマインドだと、部下が失敗しそうな状況を見ると助けたくなるため、やめておいたほうがいいと言ってしまう。そのため、必要な失敗でさえもさせてもらえない状況に陥ってしまう。
イノベーションの性質やプロセスを正しく学び、「指導者」としてというよりは、「一緒に並走する観察者」として、成功確率を高めるアドバイスができれば最高だなと思います。「善意で邪魔をするべきでない」ですね。
岩田:
最近こういうアナロジーがいいかなって感じるのは、投資家とスタートアップの関係ですね。マネージャーはスタートアップに投資している投資家で、実際に現場で動く人は、スタートアップ、というような関係性の方が上手くいくと思います。
ですので、イノベーション組織のマネージャーは、意思決定をしたり管理をしたりするのではなく、「自分が投資をしている」という感覚でいた方が良いと思います。自走できそうなら見守るし、フラフラしていたらメンタリングや足りない知識を補完してサポートしてあげるというのが理想的なのではないかと。実際のVCと同様ですね。
林田:
となると、経験が必要ですよね。 自分の成功体験や失敗体験に基づいてアドバイスをしてあげることが必要です。机の上に色々な意見を乗せてあげる。でも、過去の経験が今回も活きるとは限りません。最終的に選ぶのはプレーヤーであり現場。これがベストですね。
解釈を捉え直す“攻めのリーガル”
岩田:
あとは大企業ならではですが、バックオフィスの自由度とサポートは、成否を分けるポイントになるのではないかと思います。例えば既存のルールに縛られてしまうと活動スピードにも影響が出てしまう一方で、スタートアップでも同様かと思いますが、リーガルや知財等、現場の人だけで賄いきれない裏側の部分に社内のリソースを使えると強い。
チームは新しい仮説を検証したり、プロダクト開発をしたり、前向きな方向にパワーをかけなければならないので、後ろからのサポートは非常に助かります。
林田:
特に、リーガルのサポートは恩恵を感じることが多いですね。UberやAirbnbもそうですが、新しいものを作る時って法律的にもグレーゾーンを攻めることが多い。
しかし、今までの意思決定の基準で判断してしまうとどうしても守りに入ってしまいがちです。そこで僕らは、リーガルの中でもイノベーションに精通しているリーガルを置いて、「こう考えれば法律に触れないんじゃないか?」と解釈を作っていくようにしています。攻めのリーガルをチームに加えられると、イノベーションの実現可能性がグッと高まると思います。
若手は会社をうまく“使う”こと
Q. 最後にマインドセットについて。特に大企業でイノベーションに挑戦している若手はどのようなマインドセットを持つべきでしょうか?
林田:
現場の人はうまく会社を使い倒すべきだと思います。 その為には会社がやりたい方向と自分のやりたい方向をうまく合わせることが大切ですね。この方向性が異なると、会社のアセットを生かせない上に、評価もされないので。
一方で会社に働きかけることも大切です。例えば、僕が野村ホールディングスにいた時、グループCEOとランチセッションのような形でインプット会をしていました。
そこで僕は、個人的に新しい技術とかすごい好きなので、「こういう技術が最近出てきてるんですよ」というインプットをして、会社としてこういう技術にも投資をしないといけないよねという方向性を作って、会社側をむしろこっち側に寄せてくる、といった逆の動きもやっていました。
自分が会社に合わせることと会社を自分に合わせることと、両方の動きが出来ると良いと思います。
セッションを終えて
一昔前までは成功の象徴とさえ思われていた「大企業」という言葉は、今ではもはやどこかネガティブなイメージを想起させる、そんな時代になった。特にイノベーションや新規事業の文脈では、「意思決定が遅い」「リスクが取れない」「評価の仕組みが無い」などの理由から諦めに近い雰囲気さえ感じさせる。
しかし、それでも我々が「日本のイノベーションは大企業が引っ張るべき」と仮説を持ち続ける理由を、お二人から改めて言語化していただいた、そんなセッションであった。
その為に必要な要点を3つの主語に分けて整理するとこうなる。
- 企業としては「大企業としての戦い方」を知り、評価制度等の改革を含めてイノベーションにコミットすることが大切。
- 一社員としては「うまく会社を使う」ことが大切。
- マネージャーとしては「イノベーションの性質を理解し、邪魔をしない」ことが大切。
これらのヒントも参考に、btraxとしては引き続き、大企業が新しい価値を生み出していくチャレンジを支援していくとともに、サービスデザインのパートナーとして具体的な新規事業の創造に携わっていきたいと考えている。お問い合わせはこちらから。
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