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日本でイノベーションラボを成功させるために必要なこと【DFI 2019】
はじめに
btraxでは、毎年デザインと経営の融合をテーマにしたカンファレンス「DESIGN for Innovation」を開催し、今年で4年目を迎えた。今回は、当日のセッションのうち、TEPCO Ventures CTOのTim Romero氏、frog General MannagerのIon Nedelcu氏、btrax Executive AdvisorのJensen Barnesを招いたセッションでは、btrax CEO Brandon Hillのモデレーションのもとお話を伺った。
セッションのテーマは、「日本とアメリカ・カリフォルニアのイノベーションラボにおけるトレンドとその未来」。普段から日本、米国において様々な企業のイノベーションの現場に携わっている4人のお話は大変興味深い内容であった。
今回は、日本でイノベーションラボを成功させるために秘訣や、成功を阻んでいる課題、組織内でいかにイノベーションラボを機能させるか、など、イノベーションラボに関して幅広く議論されたセッションのポイントをご紹介する。
ゲストスピーカー紹介
Jensen Barnes btrax, Executive Advisor
デザイナー、技術者、起業家。現在はサンフランシスコのOff the Gridのソフトウエア主幹と同時に、btraxの顧問として活躍中。6年間の東京在住中には、エンジャパンのAIRのクリエイティブオフィサーと創始者として、また原宿のUltraSuperNewのクリエイティブデザイナーとして活躍。ノーザンアイオワ大学でデザインと音楽の学位、イェール大学でMFAを取得。
Tim Romero TEPCO Ventures, CTO
25年以上にわたって東京を拠点に活躍。様々な企業の日本市場への参入を指導。また、Disrupting Japanを創業し、ポッドキャストを発信していると同時に、ニューヨーク大学の東京キャンパスで企業イノベーションを指導。TEPCO VenturesのCTOとして活躍する一方、日本のスタートアップコミュニティへの投資家、創始者、メンターとしても活動。
Ion Nedelcu frog, General Manager
アジア環太平洋、欧州、中東地域の多種のクライアントに対して、顧客体験やプロダクトデザイン、サービスデザインを20年以上にわたってサポートしてきた経験を持つ。
日本企業がイノベーションを生み出すために克服すべき課題とは?
Brandon: 日本企業がイノベーション創出のために直面している課題は何でしょうか?課題克服のために何をする必要があるのでしょうか?そして、イノベーションラボがうまく機能しない背景には、どのような理由や原因があるのでしょうか?
Jensen: 私は過去6年間日本に住み、いくつかの企業でイノベーションラボを立ち上げ、結果も出してきました。また、現に多くの日本企業が、イノベーション創出を進めていることも知っています。イノベーション創出を成功に導くには、正しい目標を設定し、その達成に向かって邁進することに尽きると思います。
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イノベーションには、目標設定と測定方法が必須
Brandon: Timさんはいかがでしょうか?
Tim: 私は、日本のスタートアップと海外のエネルギー分野のスタートアップと協力し、日本で新しいエネルギー関連ビジネスの創出に携わっています。経験からも言えることなのですが、大企業がイノベーションプログラムを設定するときに犯す最大の間違いは、特定の目標がはっきりしないまま進めてしまうことだと思います。
あとは、イノベーション自体が目標になってしまっていることが多いのではないかと。しかし、イノベーションは目標ではありません。イノベーションとは、設定した目標を達成するための、あくまでも手段であると捉えることが重要です。
Brandon: Ionさんはいかがでしょうか?今のお2人のお話から、イノベーションの目標設定に対して、どのように新しく革新的なアイデアを加えていくべきだとお考えですか?
Ion: 私がGeneral Managerをしているfrogは、グローバル展開でビジネスデザインや戦略のコンサルティングを行います。ここ3年ほど電通とのパーティナーシップのもと、日本企業がより成長するために、経営や開発に関する支援も行っています。
私は、お2人がおっしゃったことに賛成です。イノベーションは魔法のようなものではありません。綿密な計画と正確な目標設定が必要です。また、目標と同時に、イノベーションが進んでいるかの測定方法がないと、イノベーションはまったく機能しません。
しかも、測定方法は、1日目、1年目などと短期的な投資収益率を見るのではなく、長期的なものでなくてはなりません。5年ほど先の投資収益率を見ることが必要です。イノベーションがビジネスにすぐにもたらされることを期待すると、すべて失敗に終わります。
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イノベーションは一日にしてならず
Brandon: 本日の別セッションで、イノベーションが成功したかを測定する方法として、自分たちが思いもしなかった新しい体験をユーザーから聞き出すこと、というのがありましたが、Jensenさんはどう思いますか?
Jensen: TimさんとIonさんが指摘したように、目先の投資収益率を測定するのではなく、長い目で見ることはとても重要だと思います。イノベーションによるユーザーのライフスタイルの変化や影響を注意深く観察することが重要です。
イノベーション創出は、種を撒いてそのままにしておくのではなく、なんとか成長させてやるんだという気持ちで水を与えたり、肥料を与えたりしながら世話をしていくことです。種を植えたから勝手に成長していくと思ったらそこで失敗です。
Brandon: Timさん、TEPCO Venturesでは、KPIや目標は設定していますか?
Tim: KPIは必要だと思います。目標を設定し、達成のための過程に対してもKPIを設定し、測定していくことが大切です。
Brandon: Ionさんにお尋ねします。イノベーションを効率良く創出するために、外部組織を利用することについてはどうお考えですか?
外部組織という新しい風を取り入れる
Ion: 大企業は内部に多くのリソースを持っています。私たちはコンサルタントとして、リソースの提供や企業同士の連携など、あらゆるプロセスにおいてサポートができます。
イノベーション創出にかかる時間を短縮するために、外部組織を使う価値は充分にあると思います。外部組織は様々なアドバイスは与える一方で、責任は取らない、なんて話もよく聞きますが、それは大きな間違いです。
外部から入ってイノベーションについて語る人は、その組織内にない観点からのアイディアや経験を持っているケースが多くあります。また、組織内の既存の人間関係や階層をジャンプして意見をすることができるので、より革新的な議論を生み出す可能性があります。
イノベーションラボは社内に持つべきか、切り離すべきか?
Brandon: Jensenさんに聞きます。イノベーションラボを本組織とは別の組織として持つことについてどうお考えですか?
Jensen: 企業内であろうが、外部に切り離したユニットであろうが、すべてはコミュニケーションが上手くとれているかどうかにかかっています。優れたイノベーションラボはこも、コミュニケーションが上手く作動しています。
実際に携わっている人たち全員が、どんな目標に向かって、何を支持し合っているかが理解されていれば、どんな組織形態でも上手くいくと思っています。とはいえ、一番ここが難しいのですが。
Brandon: 私が外部にイノベーションラボを設置する方が良い思う最大の理由の1つは、それぞれの企業にあるルールから外れ、自由に動けることが必要だと思うからです。社内ルールだと実現できないような外部ツールを導入できたり、フレキシブルな対応が取りやすかったりするのではないかと思います。
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本組織とイノベーションラボのコミュニケーションと共通理解が必須
Tim: 企業のイノベーションには2つの部分があると思います。まずは、創造する部分。この成功のためには、ルールを緩和し、様々な実験を自由に行えるビジネスユニットを設置することが有効な策です。
そしてもう1つの部分は、創造のフェーズで生まれたイノベーションを企業が採用し、社内で展開していく部分。企業のイノベーションを成功させるためには、どんな組織構成であれ、本組織との連携が上手く取れているかが重要です。独立したユニットを持つリスクは、多くの場合、その組織にビジネスとして展させる機能までを持ち合わせていないことですね。
Brandon: Ionさんにお聞きします。欧米では、独立的なイノベーションラボを成功させている例もありますが、米国や欧州ではこのような組織内の連携はどのようにしているのでしょうか?
イノベーションラボにも経営発想は必須
Ion: はっきり言うと、イノベーションラボの90%近くが失敗、あるいは閉鎖されているというのが現状です。しかし、成功している企業では、物理的に本社から離れている場合でも、本社との親密なコミュニケーションが出来ているようです。そして、彼らは、イノベーションラボの担当にマネージメントができる優秀な人材を置いています。
イノベーションラボと言っても会社組織の一部ですので、経営という概念を持たないと続きません。経営ができてこそ、本社からの協力や信頼を得られるのだと思います。組織内の縦横の階層を上手くナビゲートする経営センスを持った人がイノベーションラボには必要不可欠です。
イノベーションを創出するチーム作りの重要性
Brandon: ここで人的要因についての話題に移りましょう。私は常に疑問に思っていることなのですが、イノベーターになる素質は先天的なものでしょうか?皆さんにお聞きします。
Tim: これについて私の考えは、長年の経験から変わりました。以前は、創造性や革新性は、持って生まれた個性だと思っていました。しかし、今の私は、こういったものは一種のスキルだと思っています。
誰でも学ぶことができますが、一部の人は他の人よりも上手になります。遊びから始めてあっという間に上手になるバスケットボールプレーヤーと同じです。プロセスを学べば誰でもできるようになりますし、学ぶ姿勢を持つべきだと思います。
Jensen: 私は、個々の学びはもちろん、同じ目標を持った個人が集まるチームの構築や共同作業が上手くできることこそが最も重要だと思います。そして、調和の取れたコミュニケーションや、お互いを尊重し、信頼することがイノベーションの実現に必要ではないでしょうか。
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日本企業が今すぐ始めるべきこと
Brandon: 話は尽きませんが、ここで、これから実行可能なことについて議論しましょう。企業として、より革新的になるために取り組むべきことは何でしょうか?
「環境」≠「場所」
Ion: まず最初に、イノベーションを創出するための場所やスペースで悩むのをやめることです。どんなに小さな場所でも、あるいはデスク、会議室、ガレージなど、どこでもイノベーション創出は可能です。
問題は「誰がやるか」であり、「どこでやるか」ではありませんから。あくまでも、適切な人材が自由に始められる「環境」で、「場所」ではないことを理解すべきです。
Jensen: 私もIonさんに同意です。まずは、適切な人材を集めるかに時間を費やす必要があると思います。サッカーチームや野球チームを作るときに適切な選手を集めるのと同じです。目標に向かって邁進する選手を集めたイノベーションチームを作り、そのチーム作りを企業が全面的にサポートすることから始めるべきです。
Tim: 大企業の社内にはすでに充分な数のイノベーターが存在しています。その隠れたイノベーターを見つけ出すために、コミュニケーションが重要なことは今日のセッションでよく分かると思います。
サンフランシスコなどには、隠れイノベーターを発掘するための環境を整える動きがあります。また、イノベーション創出に成功している企業には、イノベーションの重要性を強く提唱するCEOやCOOが存在します。
あるいは、チームと経営者を繋ぐプログラムも用意されています。日本企業もこのような環境づくりを今すぐ始めるべきだと思います。
イノベーティブな組織作り、キーワードは「多様性」
Ion: チーム内の多様性も重要です。frogでは、デザイナーを採用するばかりではなく、人類学者や心理学者なども採用しています。私自身も元バンカーですし。最高のチームは多様性から生み出されるということです。日本の大企業にも多くの社員がいますが、多様性を持ったメンバーを集めやすい社内環境をつくることも重要です。
Brandon: 様々なバックグラウンドの人たちが、お互いを理解し合って参加できるチーム作りがとても重要だということ、日本企業はそのような環境作りから始めるべきだということ、そして、素晴らしいチームは、素晴らしいイノベーションを創出できるということですね。皆さん、今日は集まっていただきありがとうございました。
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まとめ
社内のイノベーションラボを成功させる秘訣についてセッションを基にまとめた。イノベーション創出には、KPIの設定と測定方法が必要であると同時に、チーム作りと環境作りも重要だ。イノベーション創出を本格的に進めるのは、日米ともにまだまだこれから。今から始めても遅くはない。
イノベーションは、人が創出するものだ。我々btraxも、人、文化、そしてビジネスの順序で、クライアントとの仕事に取り組み、イノベーション創出に尽力している。またイノベーターのマインドセット構築をお手伝いするプログラムも提供している。ご興味のある方は、ぜひお問い合わせいただきたい。
また、本記事は、弊社年次イベント「DESIGN for Innovation 2019」にて繰り広げられたセッションを元にしている。YouTube上に、本年度のイベントの様子やbtraxメンバーからのメッセージをまとめた動画を公開している。こちらよりぜひチェックいただきたい。
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■開催日時:
日本時間:2024年12月6日(金)9:00
米国時間:12月5日(木)16:00 PST / 19:00 EST
*このイベントはサンフランシスコで開催します。
■参加方法
- オンライン参加(こちらよりご登録いただけます。)
- 会場参加(限定席数) *サンフランシスコでの会場参加をご希望の方は下記までお申し込みまたはご連絡ください。(会場収容の関係上、ご希望に添えない場合がございます。予めご了承ください。)
- 対面申し込み:luma
- Email(英語):sf@btrax.com
世界有数の市場規模を誇る日本でのビジネス展開に向けて、貴重な学びの機会となりましたら幸いです。皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。