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寿司職人から学ぶUXデザイン 6つの極意とは
ユーザー体験のデザイン、いわゆるUXデザインのフィールドは、どうしても欧米が進んでいると思われがちである。
しかし、実は、日本的なおもてなし精神こそが、最も優れたUXデザインに直結しているのではないかという説がある。
まあ、その説は自分自身が提唱しているのであるが。
こちらアメリカ西海岸では寿司レストランがかなり定着しており、食事自体だけではなく最近ではそこで得られる体験に注目が集まっている。
特にカウンターに座り、板前さんとのやりとりをしながらゆっくりディナーを楽しむ仕組みは、アメリカでもかなり評価され、生前のスティーブ・ジョブスもかなり楽しんだと言われる。(参考: ジョブズが毎週通い続けた、日本人が経営する寿司屋)
シリコンバレーのVIPから絶大な支持を受ける日本の寿司エクスペリエンス
一言で寿司といっても、アメリカの場合カリフォルニアロールなどをカジュアルに食べる比較的安価な店舗と、本格的な寿司を本場の板前さんが握ってくれるオーセンティックなお店で二極化さされている。
手頃なお店であれば寿司ディナーセットをオーダーするが、高級店の場合はカウンターで寿司職人が提供する総合的な体験を受けることになる。
その場合、平均的な価格は日本の2~3倍になることも珍しくない。
しかし、それでも高級店は予約が取れないほどの人気で、シリコンバレーのお偉いさんだったとしても、例外ではない。
この辺だと上記のジョブスに加え、オラクルの創始者のラリー・エリソンやセールスフォースのマーク・ベニオフ、Metaのマーク・ザッカーバーグ、Googleのラリーとセルゲイなど、著名人のファンは多い。
彼らが評価するのは、寿司自体だけではなく、そこで得られるエクスペリエンスなのである。
寿司職人から学ぶUXデザインのポイント
では、エクスペリエンスデザインの側面から見た。お寿司屋さんが提供する優れた体験のポイントを6つに要素分解してみる。
1. 究極のシンプルさ
まず、寿司の素晴らしいところはそのシンプルさであろう。
素材の良さを最大限に引き出すために余計な物を極力廃し、本当に最高レベルの材料で勝負する。
寿司職人の動作のその一つ一つにも無駄がなく、洗練されている。
寿司を作るプロセス、そしてその寿司自体にも一切のごまかしがなく、本質を見抜く人々にも通用する一流の体験となっている。
この素晴らしさ「なぜデザインはシンプルな方が良いのか」で語られている通りで、透明性の高さや ”Less-is-more” をモットーとする事の多いシリコンバレー地域の人々の心を掴むことに成功している。
その一方で、料理もデザインもシンプルであればあるほどその難易度が高まるので、そこに求められるスキルレベルは非常に高くなってくる。(参照: シンプルにデザインする事の難しさ)
“シンプルさは究極の洗練である” と言われる通り、デザインをする際にも余計な要素を極力減らすことで、よりユーザーの目的に沿った洗練された体験を提供することができるようになるだろう。
2. ストーリー性
究極のシンプルさの裏には歴史に裏打ちされたストーリーが隠されており、寿司体験のファンを魅了する大きなポイントとなっている。
店舗のレイアウト、魚をさばくために使われる包丁、湯飲み、職人の服装などのハード面から、ネタやワサビなどの素材、そして調理方法一つ一つにストーリーが隠されており、それを聞きながら食事をすることが楽しい体験となる。
そもそも、寿司を食べる一連の流れ自体が一つのストーリーにもなっている。
以前に「デザインと経営に関する5つのトレンド予測」でも紹介されている通り、Googleではスタッフに文字ベースのプレゼンテーションを禁止し始めたという。
これは、数字やファクトを並べるよりも、ストーリーで伝える方が理解しやすく、人々の記憶に残りやすい。
また、ディズニーもデザインチームに対して「アイディアをストーリーにせよ」「ストーリーは1つづつ伝えよ」と提唱している。
(参照: ディズニーランドから学ぶ究極のUXデザインとは)
UXデザインにおいても、そこにストーリー性を導入することで、より深みのある体験を生み出すことができる。
3. 細部へのこだわり
おそらく世界で寿司ほど細部にこだわった食事は無いであろう。
最高の体験を提供するために、寿司職人は細部までこだわる。
それは、仕入れの際のネタ選びから始まり、どの部位をどのようにさばくかの判断、温度の調整、シャリの量、提供する順番、タイミングなど、顧客の満足度を高めるための努力を怠らない。
この点はデザインにも共通しており、ジョブスが最もこだわったポイントとされる。
彼は単に、こだわりを持つだけでは足りない。こだわりまくるレベルまで追求する必要がある。ユーザーに「そこまでやるか!」と思わせるほどの「狂気じみた」こだわりをプロダクトに忍ばせることを追求した。(参照: Appleを3兆ドル企業に成長させた6つのデザイン哲学)
俗に「神は細部に宿る」英語だと”The devil is in the detail (悪魔は細部に宿る)” とも表現されるが、デザインにおいてもどれだけ細部にこだわることができるからが、一流とそれ以外を分けるポイントとなってくる。
4. ターゲットユーザーに合わせた調整
寿司がグローバルな市場で市民権を得ることができたその理由の一つにその柔軟性があげられる。
もちろん歴史に裏打ちされたこだわりはあるが、それぞれの地域のユーザーや素材に合わせた「ローカリゼーション」が施されている。
例えば、以前に訪問したサンフランシスコ屈指の寿司屋さんであるKusakabeでは、シャリが少しピンク色がかっている。
板さんによると、アメリカの顧客の嗜好と地元の素材を考慮した結果、通常の寿司酢ではなく、ワインビネガーを利用することで、より美味しくなることがわかったからとのこと。
顧客のニーズを理解し、与えられた制限の中で最大の効果を生み出す。
これはまさにデザイン思考における最初のステップである、エンパサイズ (共感) にも共通しているプロセスである。
こだわる部分と、柔軟に調整する部分の目利きがUXデザイナーにも求められる能力だろう。
5. プレゼンテーション手法
カウンターで寿司を楽しむ醍醐味の一つが、目の前で繰り広げられる職人によるプレゼンテーションだろう。
特にあまり見慣れていないアメリカの人々にとってすれば、それはマジックを見るようなエンタメ性がある。
そして提供される寿司の色や是造形も、まるで芸術品を提供されてるかのよう。
板さんは優秀な職人でありながらも、実はプロのエンターテイナーでもある。職人ごとにプレゼン方法が少しずつ異なり、それぞれの個性が顧客の心に響く。
サムライのような無駄のない、静かな動きで顧客を魅了する職人もいれば、ダイナミックな動きと炎を使った演出で驚かす板前さんもいる。
プレゼンの神であったジョブスが夢中になった寿司職人のプレゼン能力。
デザインの世界でも、何を届けるかと同じぐらい、どう届けるかが、ユーザーの心をつかめるかどうかを左右する要素となってくる。
6. そして、ちょっとした隠し要素
寿司職人から学ぶUXデザインのポイントのOne more thingとしては、ちょっとした隠し要素が挙げられる。
ネタの品にちょっと仕込まれたワサビもそうだし、ガリや醤油に散らす食用菊の役割、そして帰りしなにさりげなく渡されるお土産寿司 Boxなど、気づきにくい部分にも驚きの要素が隠されている。
これこそがおもてなしの精神であり、ユーザー体験を設計するときも、是非活用したい演出要素になってくる。次回寿司屋に行く際には、是非参考にしてみると良いと思う。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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