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主要メディアが伝えないCES 2019で感じた5つのポイント
これまでに複数のメディア経由でご存知だと思うが、今年のCESでは、5G, AI, VR, AR、MaaSなどなどの最新のテクノロジーと、それらを活用した商品やサービスが展示された。
CESは毎年ラスベガスで開催される世界最大のテクノロジーカンファレンスで、世界中の企業が最新テクノロジーを活用したプロダクトの発表を行う。その中には、家電だけではなく、自動車やヘルスケア、そして各国からのスタートアップなどのエリアもあり、大変エキサイティングなイベントでもある。
このイベントに毎年参加することで、テクノロジーだけではなく、ビジネスやデザインの世界の潮流を学ぶことができるメリットは大きい。ちなみに去年の様子は「CES 2018で見た3つのパラダイムシフト」にて紹介した。
元F1チャンピオンも参加するイベント
実はこのイベントには、2016年にF1でワールドチャンピオンになったニコ・ロズベルグも参加している。それもオーディエンスとして。彼は翌年F1を引退したのちに、投資家となり、出展している何社かにも投資を行っているとのこと。いくつかのセッションにも客席にさりげなく座っていたのを覚えている。
Vegas for business. first time 😉 #CES2019 pic.twitter.com/sTZCYstsVs
— Nico Rosberg (@nico_rosberg) January 6, 2019
各企業が未来へのビジョンを語る注目のプレスカンファレンス
今年のCESも、例年の通りメディア枠で参加することで、一般のオーディエンスが見ることのできないプレス向けカンファレンスをはじめとしたスペシャルセッションの多くを見ることができた。
その内容等に関しては、恐らく日本でもすでに多くの報道がされていることもあり、今回は”あえて”主要メディアが伝えてないと思われる個人的な感想を5つほど書いてみる。
1. テクノロジーで生きることの課題を解決する
Is technology making your life better?
人間の歴史の中では、多くの場合、テクノロジーの発展は人々の生活を楽にすることとイコールと考えられてきた。しかし本当にそうなのであろうか?
掃除や洗濯などの家事を例にとってみよう。洗濯機や掃除機の登場で、確かに以前と比べると、そこにかかる労働力は格段に低くなった。それにより、その時間を有効に使うことが可能になった。
しかしその一方で、1970年ごろより、肉体労働の量は減ったが、頭脳労働は格段に増えている。それにより人々が感じるストレスが増え、必ずしも「豊かな」生活を送れていない可能性もある。
現代の日本の30歳以下の死亡原因の第一位、アメリカでも第二位になっているのが自殺であり、大きな社会問題になっている。この背景には過剰なテクノロジーの発展が関与していると唱える人たちもいる。
このような問題に対し、今回のCESでは、人の”心”のケアに関わるようなプロダクトの発表も目立っていた。癒し系のぬいぐるみ型ロボットや、自殺を抑制するサービス、そして眠りの質をあげるソリューションなどがそれである。
それらは、現代に暮らす人々の「テクノロジー疲れ」からくる「生きることの課題」をサポートしてくれる存在なのである。
これは前回の「2019年からデザインが提供する3つの新しい価値」の一つで紹介された「より使わせないためのデザイン」にも共通するコンセプトだろう。
LGのI.P. Park博士によるプレゼン: テクノロジーで人々の体は楽になるが、心は疲れている
2. ラストワンマイルからラストワンメートルへ
シャアリングエコノミーや自動運転などで、物流に大きな革命が起こり始めているが、未だ課題となっているのは、家の前まで来た車からどのようにポストまで配達するかである。
以前にドミノピザが自動運転技術を活用してピザの配達を実験してみたところ、ユーザーの多くが「家の前に停まった配送車まで取りに行きたくない」と言うフィードバックがあり、このサービスアイディアの実用化を断念した。
自動車で家の前まで来たのは良いが、そのあとでどのようにドアまで届けるかが解決されていない問題。これはいわゆる「ラストワンマイル」はクリアできても、最後の最後である「ラストワンメーター」がまだクリアできていないという課題が残されている。
その最後の1メートル=ラストワンメートルを解決するために、サムスン電子やヨーロッパの自動車部品メーカーであるコンチネンタルやなどが、イヌ型のロボットを開発し、発表している。
意外と近い将来、この「ロボ・ドッグ」君が住宅街を闊歩する姿も見られるかもしれない。ただ、そのルックスはもう少し可愛くしないと、結構強烈な光景になってしまう危険性も残されている。
Continental社によるデリバリー用ロボットドッグ
3. 日本企業は完全に助手席から後部座席へ移動
CESには世界中から多くの企業が参加しているが、その中でも日本企業の存在感は年々下がるばかりだ。今年のプレスカンファレンスの最大の目玉であるキーノートスピーチは去年のIntelに変わりLGが、そしてその他の大型キーノートも、サムスン電子、IBM, Verizonが行い、そこに日本の企業はほとんどない。
もちろん中規模のプレスカンファレンスには何社か参加されてはいるが、去年度肝を抜かれたTOYOTAによるE Paletteのコンセプトのような、その内容に心躍るものは多くはないと感じてしまった。
なぜか?恐らくそこに会社としての一貫したビジョンの説明と、それをオーディエンスに届ける、巧みなストーリーテリングがされていないのが大きな原因であろう。
一昔前なんかは、家電や自動車などは、日本が最も得意とする産業であった。しかし、それらをメインで発表、展示するはずのCESであるが、イベント全体で見ても日本企業のプレゼンスは年々低くなってると言わざるを得ない。(オーディエンスにはめっちゃ多いんだけどね)
例えば、プレスカンファレンスを行なっていた日本の某メーカーも、その内容はそれぞれのプロダクトごとの紹介で、会社全体で解決したい課題への一貫したビジョンが感じらない。
コンテンツ的にも、難しい言葉を使った技術自慢や、他の有名企業とのパートーナーシップ発表に終始していた事もあり、ストーリーテリングを通じた、消費者にどのような世界観を作りたいかがあまり伝わって来ない。むしろ、消費者向けブランドではなく、まるでB2Bの技術屋さんの説明にすら感じてしまった。
実は、日本企業は技術力も資金もあり、イノベーションも生み出せているのに、それが上手に伝えきれていないのは非常に残念すぎる。もしかしたら、日本企業は実直すぎるのかもしれない。
逆に例えハッタリでも、みる人をワクワクさせる内容さえ伝えることができれば、その後の展開にも期待ができるし、ブランドとしてのプレゼンスも上がるだろう。良いものを作りさえすれば気づいてくれる時代はずいぶん前に終わっている。
これを実現するためには、企業のトップが全体を包み込む大きなビジョンを掲げ、そこにコミットする。そして、それを社内外に伝えるためのストーリーを作り、自らがステージに立って伝える必要があるだろう。そこで、世の中をおっと驚かせるほどのプレセンを行うべきである。
今さら英語が苦手だとか恥ずかしがっている場合ではない。多くの企業のプレゼンターは英語がネイティブではないが、プレゼンの熱量でブランドとしての情熱はしっかりと伝わり、オーディエンスの心を掴んでいる。
この辺を上手にやっているのが、去年も紹介した新進気鋭のEV自動車ブランド、Bytonだろう。彼らは自動車に乗っている「時間」のクオリティーにこだわり、本来人間が持つべき時間を”Time to be”のタグラインで表現し、全てのストーリーをそのビジョンと連動させたプレゼンを行った。
この会社は「厳密には」中国企業であるが、トップにBMWからドイツ人の2名を採用し、そのビジョンとストーリーテリングが非常にうまい。そして、去年のコンセプトモデルと今年発表されたプロダクションモデルとのダッシュボードの対比も包み隠さず発表している。
オーディエンスにブランドが持つビジョンの進捗をしっかりと伝えて巻き込んでいく姿は圧巻であった。
ビジョンの進捗説明をクールに行うBytonの創業者たち
4. ElectronicsからExperienceへ
CESはもともと”Consumer Electronics Show”と呼ばれていたが現在はCESの名称に統一されている。これは本来は家電の展示会であったのが、モビリティーやヘルスケアなど、家電の枠をゆうに飛び越えるプロダクトが目立ってきている事が理由であろう。
それもあり、ここ数年でこのイベントは「世界最大の家電市」から「世界最大のテクノロジーカンファレンス」にそのイメージも一新した。
その一方で、実は最近ではテクノロジーだけではなく、消費者に対して新しいエクスペリエンス=体験を通じて価値を生み出すサービスも増えてきている。
それもあってか、わざとかどうでないかはわからないが、P&Gのプレスカンファレンスでは、プレゼンターの男性が「Consumer Experience Show」と言っていた。
この表現は実に的を射ていて、彼らが今回発表したLife Lab構想では、まさに消費者に新しい体験を通じて、ブランドの価値を届ける商品が目白押しであった。
例えば、刃の部分に温める機能を実装することで、髭を剃るときにより心地よい体験を届けるGilletteの髭剃りがまさにそれである。そして、彼らはもう一つの新しい体験方法として、クラウドファンディングを上手に活用している。
まずはラボでコンセプトを立案し、その後のプロトタイプをクラウドファンディングプラットフォームのIndiegogoで発表、販売する。そこでの手応えとフィードバックを元に、最終的に商品にするかどうかを検討し、詳細を改善する。そしてCESでプレスに初お披露目する。
まさにこのプロセス全体が、商品の新しい作り方、売り方の体験であり、本事業との連動性を考えてみても、実に理にかなっているだろう。
一方で、これまでは、多くの場合、ラボ的な場所で作る新規事業は花火の打ち上げに終始してしまい、P&Gのような中身のある実事業には繋がりにくかった。この辺はP&Gの今回のやり方から学べることもあるだろう。
新規プロダクトを実事業に上手に合流させるP&GのLife Lab
5. テクノロジーが急激に進化しているからこそ重要な「フューチャー・プルーフ」の概念
今回のいくつかのカンファレンスで使われていた普段耳慣れない言葉に「フューチャー・プルーフ」というものがあった。これは未来を表す”Future”とそれに対する対応策としての”Proof”を合わせた表現である。
これは、「将来も使い続けられる」「将来もなくならない」という意味。
新しいプロダクトを作る際に、それがリリースされた後も、ある程度の期間、しっかりと使ってもらえる価値があるかどうかの検証をしようとい考え方。
例えば、次世代の自動車のナビの開発に長い年月を費やし、ハイテク機能を満載し、リリースする。しかし、その頃には、スマホ連動、Google MapsやAmazon Alexaの存在により、その利用価値は非常に低くなってしまう。こうなると、それ単体がどれだけ素晴らしいプロダクトであったとしても、失敗に終わってしまうだろう。
これは実は盲点になりがちなので、自社のテクノロジー追求と同時に、世の中の変化をしっかりと加味する必要がある。この辺は「未来のユーザー体験をつくり出す「未来予測」のすすめ」を参照すると良いだろう。
テクノロジーの進化のスピードの速い現代においては、マーケットや他の企業など、社会全体の変化を見据え、未来になっても、ちゃんと使ってもらえるようなプロダクトを企画しなければならない。
この辺も、ついつい自前主義になりがちな日本企業は結構苦手なところで、オープンイノベーションを推進しようとしても、どうしてもうまくいかなかったりしてしまう。
Future Proofの重要性について語る主催社CTAS, CEOのGary Shapiro
番外編: キャンギャルの消滅
今回の展示会に行かれた方の中には気づいた方もいるかもしれないが、ここ数年で大きな変化が起きている。
数年前には多くのブースにいたセクシーな女性がほとんどいなくなっているのだ。これは、世界的にムーブメントとなっている、ジェンダー中立性の流れの一つを意識した、主催側からのポリシー変更と展示企業の自主規制が理由。
ただでもおっちゃんが多いイベントが、より一層色気がなくなってきている気もするが、F1でもレースクイーンが廃止されたりしている通り、グローバルな潮流を見据えた動きだろう。
これも一つの時代の最新トレンドと理解できる。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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