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シリコンバレーは一攫千金を狙ったドロップアウト達のステージ【対談】大前研一 × Brandon K. Hill
いまやビジネスがものすごい速さで生まれ続ける、世界のなかでも特殊な地域、サンフランシスコ・ベイエリア(以下「ベイエリア」)。
ここでビジネスを行うbtraxのサンフランシスコオフィスに日本のビジネス界のゴッドファーザー、大前研一氏が来訪し約2時間の対談でbtrax CEO、Brandon K. Hillとディスカッションを行った。
対談は、大前氏とともに訪れた日本企業のトップ層約70名からの質問に2人が答えていくという形式で進められ、非常に熱気溢れるものとなった。
今回はその対談の様子をまとめてお伝えする。なお、こちらの対談の全編に関しては、後日動画として放送される予定。
ベイエリアは一攫千金を狙うクレイジーな人が集まるステージ
上場したら日本だと「おめでとうございます」だけど、アメリカは「次は何やるの?」
ーこのエリアにおけるスタートアップ企業の生存率は?
Brandon: 肌感覚だと5%~10%かな。
大前: 母数がわかんないけどね。
Brandon: でも投資家は1,000社投資して、999社ぽしゃっても、残りの1社がFacebookやGoogleになってくれればそれでいい。あと投資するときは、企画書だけ見て判断というのは意外と多い。狂ってるけど(笑)。
大前: だけどボノなんかが投資して大成功してるんだから気楽な世界だよね。
Brandon: 何が当たるかはわからないけど当たればものすごく大きい。同じ当たるんだったら、1,000万の宝くじよりも50億の方が買い甲斐がある。
ところで今回いただいた対談のテーマは、最新のテクノロジー、たとえばFintech、AI、ロボテックス、ビッグデータとかもろもろありましたけど、そのあたりのスタートアップについて大前さんの見解はどうですか?
大前: 今回ベイエリアにある会社23社を訪問したけど、インパクトは非常に大きかったね。なんでもかんでも勝手気ままにやってる印象。やるとしたら世界を奪ってやろうという感じでね。
前はシリコンバレーでテクノロジーがあって、「こういう技術があれば大丈夫だろう」「ビル・ジョイのようなエンジニアがいれば安心だな」という感じがあってお金が出てきていたけど、今回はコンセプトだけでお金が出てきちゃう。
今回、農業をデータベース化して、農家を大企業みたいに経営させるようにする会社なんかも見たけど、それも生まれてまだ2年のサービス。しかもビジネスの領域がもうシリコンバレー的ではない。そしてよく見たらグーグル・ベンチャーズがそれに投資している。それがすごい。
Brandon: 怖いのは、ソフトウェア系があらゆる業界を侵食し始めてるということですね。GoogleやApple、Amazon、Facebookなどがやり始めると既存の企業がやってきたことを一気に凌駕することになる。
アナログでやってる業界は農業しかり、ヘルスケアしかり、イノベーションやらないと食うか食われるかという状況になっている。イノベーションは生き残るために必要になってきてるんですね。
大前:Agri-techとか、Medi-techとか、そこらじゅうに「tech」をくっつけて新しいことをやってるね。そうすると金がついてくる。でもこのサイクルはアメリカのなかでも他の都市ではうまくいかない。
一方でここはそういうサイクルがまわりやすい反面、淘汰されるのも早い。前回来たときに訪問した16社のうち、8社はもうつぶれてるんだから。
あとの8社は馬鹿でかくなってるけど。そういう意味では勝負が早い。あと、イーロン・マスクやジャック・ドーシーのように、何かをやって成功したら金にして次のことをやるというのが特徴。
日本の起業家はみんな松下幸之助スタイルで、一度起業したら死ぬまでそれをやる。こっちはあっさり売って、スーパーエンジェルになるか別のことをやるか。この「諦め」が日本企業にはないところ。
Brandon:「What’s next?」というのがここのスタイルなんですよ。上場したら、日本だと「おめでとうございます」だけど、こっちだとエクジットあとは「次は何やるの?」が続く。
大前: ところでbtraxの資本調達計画は?
Brandon:うちの会社はこの辺では珍しく、始めたときの資本金が5,000ドル。それから12年経っていますけど、今まで一度も外部資本を入れていないんですよ。この辺だと10年以上会社を続けるというのは、外部投資を受けると基本的にできない。
5~6年経ったときに、ポンポンと肩叩かれて、「エグジットするのか、IPOするのか、止めるのか、どれか選べ」となる。選べなかったら社長がクビになる。うちは外部投資や投資を受けてない分、プレッシャーがなく続けています。
一攫千金に失敗した場合、出資者の運命と失敗した本人の運命は?
Brandon:それは基本的には恨みっこなしのチャラ。法人に対しての投資なので、外部投資とか契約で揉めたのときに、訴えられるのは個人でなくて法人。投資家と企業は最初にそれを約束している。なので、「50億集めて3年やってダメでした、すみません」でOK。
出す方も、1つがぽしゃっても他が上がって辻褄が合うケースが多く、あまり大きな問題にはならない。むしろ失敗が1つの経験となって評価の対象になる。それが日本は「会社イコール社長個人」ってなってるから、すごい怖いんだろうなと思う。
大前: 代表取締役っていう概念がこっちにはないからね。日本のように銀行から借りるという融資型だと、自分の家を抵当に入れるとかそういうことになるけど、エンジェルやベンチャーの投資はそういうのじゃない。
でも次回は金を集めるのが難しくなるかもしれない。成功してからまた始めたらトラックレコードになるけど。
Brandon:日本人の友人で3つ会社をやってそのうち2回自分の会社をクビになったという人はいます。でもまたやってる。そういう何度もチャレンジできる人はこちらが向いていると思います。
同じところから投資を受けられなくても、他を当たっていけば、誰かがビジョンに共鳴してお金を出してくれるんですね。
また、会社があれば失敗しても基本、個人には負債がふりかからないのでリスクを取りやすいです。アメリカで法人登記するメリットの一つとして、「もしうまくいかなくてもお前は逃げられるから」と言われたほど。
ーそもそも一攫千金は日本人の哲学とは合わない気がするが?
大前: 日本人どころかアメリカ人でもそういう人は少ないんだから。ここは世界中の野心に満ちた奴が集まる街。一攫千金を狙う人が集まるステージなんですね。日本は聴衆ばっかり多くてステージに上がる役者がほとんどいないんだけど。
Brandon:日本だとステージに上がると逮捕されちゃったりしますしね(笑)。この街は自由と一攫千金っていう、日本人が嫌いなテーマが大好き。日本でいうとその象徴はホリエモン。
Tシャツ着てうまいことやったら大きな金が入ってきたとなると、ここの人だったら「最高じゃん!」って言ってくれる。日本で「楽して一攫千金」というのは文化に合っていないのかもしれない。
大前: これはアメリカというよりもサンフランシスコ・ベイエリアの特徴になってきている。で、ますますアメリカ中、そして世界中から一攫千金を狙った奴狂った奴らがくると。そういう意味ではこのあたりが登龍のための非常にユニークな場所になっちゃった。
コワーキングのWeWorkがなぜサンフランシスコを出てニューヨークに出たのか僕には解せないんだけど、最近出てきた大きいマーケットキャップもっている会社や資本調達している会社はほとんどこのエリアにある。だからこれはアメリカ全体の話じゃなくて、このあたりの特異現象。
Brandon:もう一つの特徴としては、一攫千金したらそれを社会に戻すという哲学もこの街にありますね。たとえばマーク・ザッカーバーグは、稼いだお金の99%を子供のために寄付しているし、ジャック・ドーシーはTwitterの株をスタッフに還元している。一攫千金に成功したら、そのお金を後輩に戻すというのもいい循環にはなっている。
ーベイエリアでのビジネス展開はコスト面で不利なのでは?
Brandon:コストは世界で一番不利ですね。家賃も人件費も生活コストも高くて、だいたい日本の4倍。でも当たったときの倍率が10倍位なので、差し引きでこっちが有利だと思ってやってる人は多い。
でも当たらなかったときのお金のかかり具合はすごい。サンフランシスコの家賃平均は、1ベッドルームで3500~4000ドル。ということは、年収10万ドルでも決して裕福ではない。
この間、シリコンバレーの中心の街、パロ・アルト市が低所得者向けのアパートを作ると発表していたんだけど、その基準がなんと年収25万ドル以下という(笑)。
ちなみにここのスタッフの若い人たちはシェアハウスに住んで、1人あたりの家賃が1,000ドル程度で済むようにしている人が多いです。
大前:大体そうだよね。Airbnbの創業者も初めは3人でシェアハウスに住んでいたんだから。
ーコカ・コーラやマクドナルドなど、アメリカのエスタブリッシュメント企業はこのエリアを一体どう見てるのか?
Brandon:そういう会社は中西部にあって、こことはまったく違うエコシステムでまわっている。ここにそういう企業はないし、あったとしても「いけてない」と思われるから来てもしょうがない。
ただ、オープンイノベーションみたいな形で、こっちのスタートアップと協働してプロジェクトをやってるケースは結構多い。
ベイエリアに小規模のサテライトオフィスを作って、そこを拠点にスタートアップを回って、投資するなり協働するなりやっている。自動車業界しかり、エネルギー業界しかり。うちの会社も同じビジョンで日本企業向けにコワーキングスペースのD.Hausを提供しています。
大前: ただそういうエスタブリッシュメント企業のなかで育った人が、投資の目利き鼻利きが本当にできるのかどうか。100億でそういうファンドを作っても、投資先を見つけてアドバイスする力まで持ってるかどうかは別問題。まあでもどの企業もいい学習してますよ。
活躍する原動力は「生きるか死ぬか」の覚悟
偏差値という概念を叩き壊さないと21世紀に入れない
ーインド人はこの10年位のうちに、ベイエリアにある世界を代表する企業で活躍するようになった。日本人との差はどこから来るのか?
大前:育ちですね。今ここで成功している非アメリカ人を国籍別に見ると、数の上ではインドが多い。各国の人口に占める割合を見ると、1位がイスラエル、2位が台湾。言っちゃなんだけどこういう国は全部将来が危うい。
たとえばイスラエルと台湾は徴兵制があるが、大学院でエンジニアリングを学ぶと徴兵を逃れられる。だから、生きるか死ぬかの状況に追い込まれている。
インドは、いい生活をしようと思ったらエンジニアになるしかない。インド工科大学を卒業したらアメリカで15万ドル位もらえて、その給与水準でもってインドで生活するとアメリカの50倍位いい暮らしができる。
だからやっぱり、生きるか死ぬかなんですよ。そういう人たちが切羽詰まってこっちに来ると、やっぱ根性入ってるじゃないですか。
日本で大切に育てられていい学校行った人はsink or swimなんてやったことないんだから。やっぱり生まれ育ちと国の運命、これが大きい。
ついでに言うと、私は『ボーダレス・ワールド』とか『マインド・オブ・ザ・ストラテジスト』とか書いたけど、ああいう本を書いて反応が鋭かったのは日本の会社よりもグローバルコーポレーションが多かった。
日本の企業はグローバルになりたいという気持ちは強いし、商品がグローバルに通用した時代はよかったが、ソフトの部分や人間、メッセージの部分については弱い。
今の日本で大きな会社は今までのシステムで大きくなっきたんだから、それをゼロベースにして再構築するというのは難しい。
あと悪いのは、偏差値。偏差値で育った人は自分の分際が若いころにわかっちゃう。自分の可能性は無限だと思ってやっていかないと、人生っていうのは絶対損をする。
でも偏差値が低いと言われたらそれを受け入れてしまうし、高いと言われたらそれ以上勉強しなくなる。百害あって一利なし。僕はやっぱり偏差値という概念を叩き壊さないと、21世紀にオールクリアして入れないと思っている。
ーベイエリアにおいて、果たして日本人であることの優位性はあるのか?
Brandon:日本はベイエリアに比べるとコストが安いので、そういう点で日本と繋がっていることはメリットになります。エンジニア1人雇うのも、こっちだと最低10万ドル。
日本の人材コストはシリコンバレーの3分の1位。メルカリのように開発拠点を日本に置くと、こっちでエンジニア1人分の給料で3人雇える。しかも、日本は他国に比べるとクオリティが高いから、そこを抱えているのは武器になる。
日本人特有のチームワークも素晴らしいです。おそらくチームのクオリティとしては世界トップレベルだと感じます。
大前:日本の優れた家庭に育って、優秀な大学を出て、親や先生や上司の言う通りにやってきた優秀な人がここに来たら路頭に迷うしかない。
答えのない世界で自分で答えを見つけていかなくてならないときに、そういう人はものすごい不安を抱く。だからやっぱり、Brandonみたいなドロップアウトがいいんですよ。
Brandon:ちなみにうちは日本から累計50~60人位インターンを受け入れていますけど、そのほとんどが東大、慶応、早稲田などのトップスクール出身。そのなかで日本で起業した子が2人だけいる。
1人は100人規模の会社、もう1人は20~30人規模のデザイン会社をやっているけど、共通してるのは高卒だということ。意外と非エリートの方が向いてるのかもしれない。
日本企業のネックは人材
人材は「英語が喋れるけど優秀じゃない」か「英語が喋れないけど優秀」になりやすい
ーベイエリアに来て大きくなった日本企業はあるのか?
Brandon:昔で言うと京セラとか。最近はスタートアップがちょこちょこと来ている状態ですね。メルカリやスマートニュースなどもサンフランシスコにオフィスを出していて、世界拡大中だったり。
大前:ゲーム会社なんかはここに来てみんなぽしゃってる。
Brandon:4~5年前は破竹の勢いでこちらの会社を買収していたんですけどね。
大前:今は破竹の勢いでぽしゃってる。結局こちらに来てうまく仕事ができているところは非常に少ないんだよね。日本の経営者のなかには海外でも活躍できる能力を持ってる人はいるんだけど、どういうわけか日本のなかで事業をやってると、海外事業がうまくいかない。
これは海外事業がいかに難しいかということを表している。あとは人材の問題が大きい。たとえばアメリカの会社が別の地域に進出しようとするときに、社内募集をかけるとその地域が得意が人間が必ずいる。
僕のマッキンゼー時代でも、どこかに事務所を開くとなると、社内で「俺にやらせてくれ」という奴が何十人もいた。日本の場合は日本でできた人間をその国に派遣するからうまくいかない。会社のなかの多様性がないのが問題。
Brandon:日本だと人材募集しても、「英語が喋れるけど優秀じゃない」か、「英語が喋れないけど優秀」かという、どっちかになるケースが多い。両方できる人はそんなに多くないっていう話はよく聞きます。でも、こっちの非アメリカ人の英語レベルは、実はそんなに高くない。
イーロン・マスクだって、南アフリカの訛った英語なんですよ。本人もコンプレックスを持っている。移民の起業家も非常に多いです。だから英語のレベルというのは実はそんなに関係がない。でも日本の人は、「英語が喋れないから海外に行けない」もしくは「海外の仕事をやらない」と決めてしまっている。
日本の英語の教育レベルというのは実は高くて、中学生で学んだことが全部できていればまったく問題ないはずなんだけど。僕は日本の高校に行ってたけど、高校で習った英語は家庭で使ってないものばかりだったんで点数がめちゃくちゃ低かった(笑)。聞いたことのない単語ばっかり出てくるから。しかもイギリス英語の。
ー日本でグローバルな人材を育てても、海外に出たらもう日本に戻ってこないのでは?
Brandon: それは俗に「アフターアメリカショック」と呼ばれるらしく、一度アメリカに来るとその体験が良すぎちゃって、日本でもう働けなくなるとか。中国人は成功して自国に帰る人が多い。
シリコンバレーのノウハウをそのまま自国に持ち帰ってソフトウェアハウスを作ったり、コールセンター事業をやったり。でも日本はそもそもこっちに仕事をしに来る人が少ないし、日本からの留学生も減っているから、こっちのノウハウを日本で展開するような実例はまだまだ少ない。
でも知人でもある武田君なんかは、サンフランシスコにしばらくいてサービス案を考えてから日本に戻ってRettyという会社を立ち上げた。そういう話は何件かは聞いている。
ーマネジメントとリーダーシップの点における日本との違いとは?
Brandon: まず、社長が言うからしょうがないなと言って動く文化はまったくないですね。社長という肩書は何の意味もなさない。自分が従業員に対して出した指示には、従業員が納得できる説明を付随させないと動いてくれない。
従業員からしても、「こいつと働いててもしょうがないな」という見切りが早い。だから常にビジョンを語って、従業員に自分の会社を売り込み続けないと、従業員はいなくなっちゃう。
そういう意味で従業員を惹きつけ続けるのが日々本当に大変な仕事。経営者としてのが魅力を常に鍛え続けないと、会社が成り立たなくなる。
イノベーションを起こすのは自由な労働市場とマインドセット
シリコンバレー型の会社は従業員が「この会社はやばい」と思うとアリの子散らすようにいなくなっちゃう
ーベイエリアの人材流動性の高さもイノベーションを生む一因となっている?
Brandon:それはまさにそうですね。エスタブリッシュメント企業や、政府の人がスタートアップに転職するというのはとても多い。そういうパターンは2つあって、1つはある程度お金を稼いだ後に、第二の人生として面白いことをやってでかく当ててみたいと思う人がスタートアップに転職するケース。
もう1つはコネが欲しいスタートアップ側がそういう人を採用するケース。スタートアップ企業は政府や役所とのつながりがないと、なかなか一歩上に上がれないから。
Squareなんかは、ある段階で元財務長官の人を入れたし。そうやって彼らは東海岸との太いパイプを作って、自分のスタートアップにとって動きやすい法規制に変えてもらうなんてことをすごく無邪気にやっている。
大前:急成長のシリコンバレー型の会社にしても、従業員が「この会社はやばい」と思うと、アリの子散らすようにいなくなっちゃう。「勤めた以上はずっとこのお城に」なんて考えは働く方も持ってない。そういうメンタリティだから、本当にこの会社にコミットしてやろうというのは、「自分もこの会社にコミットしてれば間違いない」という信念が続いている限りなんだよね。会社も個人も常にオポチュニティをキョロキョロ見てる。
Brandon:その点においては、アメリカで経営するのは非常に難易度が高いですね。
Brandon:日本の企業が従業員を解雇できないっていうのはどうお考えですか? こっちはダメならいつでもクビ。どんな理由でもいい。日本はそれができない。
大前:今、日本政府は非正規雇用をなくすなんて言って、それとは逆のことをやろうとしている。ドイツは15~6年前に大革命をやって、経営者が従業員をクビにできるようにしたし、スウェーデンもそうして、再トレーニングの機構を国が作るというふうにしている。日本はこういう国が15~6年前や20年前にパーにしたシステムをこれから強固にしようとしている。
Brandon:クビにできないと、AIとかテクノロジーが進化して人間がやる仕事がなくなったあとも従業員を雇い続けなきゃならない。それは企業にとって負債でしかないから、そうすると雇い渋りが始まると思う。
大前:日本企業が国内での雇用に慎重になっている理由は、まさに「一度コミットしたらフォーエバー」という発想。だから「雇うんだったら海外で」というメンタリティになっている。意外に「国がどうなっても俺は海外で生き残る」という企業は結構最近多いからね。
ーbtraxのイノベーションプログラムを通じてマインドセットが変わった例はあるのか?
Brandon:うちの会社が提供してるイノベーションプログラムは、デザイン思考とサービスデザインのプロセスで新規事業を生み出すプログラムなのですが、プログラム期間中にマインドセットはどんどん変わっていきますね。
たとえば長いチームだと2~3か月ここに滞在して、フィールド・トリップに行ったり、起業家に会ったり、スタートアップのイベントで自分もピッチしてみたり。でもそこで参加者がびっくりするのが、「ベイエリアでやってる人たちって意外と大したことないな」ということ。
100社中99社がやってることは、日本でも10年前にやってたというようなことが多いから、みんな自信がつく。ただ、じゃあなんで、日本で10年前にやってたことを、10年前に世界に出せなかったのかという悔みもそこで生まれる。
iPhoneが出たときに、「こんなものうちの会社の社内実験プロジェクトでやってたわ」と言ってた人がいるけど、それを世界に出すか出さないかが大きな問題。
大前: btraxのサポートを経て革命的に変わった会社ってあるの? そういう会社があるなら、そのきっかけは?
Brandon: いくつかありますが、守秘義務的に言えないことも多いです。中小企業は社長レベルで大きく変えられるからまだいいんです。以前、自動車部品の会社が新しいビジネスモデルを考えたいということで、AIを使って何ができるか考えた。
このようにビジネスモデルを大幅に転換するっていうことをやってるケースはある。問題は大企業。
この場合、こちらに来るのはだいたい経営の本筋から離れた人。たとえば「活きのいい若手がいてめんどくさいから海外で何かやらせてみよう」ということで送られてくるとか。あとはR&Dの異端児とか。
僕はそれをすごく心配している。グローバルにイノベーションを起こすのはやるべきことだと僕たちは信じてるけど、日本の大企業はイノベーションプログラムに対して、「商売になる期待はしてないけど予算も余ったからちょっとやらせてみるか」っていうケースとか、考えの古い幹部が「あいつらなんか面白いことやってるけどどうせモノになんないだろう」という風にシニカルに見てるケースが多い。
でも、YAMAHAみたいに社内の異端児の人がガンガン改革を進めながらシリコンバレーでイノベーションを生み出している様なケースも少なからず増えています。また、MAZDAも日本の優れた技術とこちらのスタートアップのカルチャーを上手に絡めていると思います。
大企業に対してはもう少しメイン筋の人たちに対してイノベーションプログラムをできればというのがうちの希望。ただ、大企業の方で、こちらで合宿したあとにマインドセットが変わって、その企業を辞めて起業した人はいますね(笑)。クライアントに怒られたけど、プログラムの成果としてはたぶんそれも成功。
ーデザイン思考を学ぶにあたって、初心者向けのいいリソースがあれば教えてほしい。
Brandon:デザインの本質はユーザーを理解することで、これは日本でいうとおもてなし精神にすごく近いものなんだけど、日本で学ぶのはなかなか難しい。アメリカだと8週間でそういうのを学べる社会人向けのコースがあったりするけど。ただ、UdemyとかLyndaなど、オンラインで学べるものはある。
Udemyは5年前に500 Startupsに入っていた小さな会社だったのが、オンライン教育で大きくなって、今は日本市場展開も始めている。コンテンツはユーザーが提供していて、それを学びたいユーザーが受講するというかたちで、ユーザー同士を繋いでいるサービス。LyndaはLinkedInが買収したエディテックの会社で、うちでもたまに使っているけど、日本語では受講できない。
まとめ
今回、大前氏とBrandonによってサンフランシスコ・ベイエリアのリアルな現状について生々しい話が展開されたが、対談を聞いていた日本企業のトップ層の方々にとって、それは少なからずショッキングな内容であったようだ。
日本企業の国際的競争力の低下が言われ始めて久しいが、今回の内容はそれを生で感じてしまうような内容であったのではないだろうか。日本企業が今後、ベイエリアの企業と戦うために必要なものは何なのか、気づきの多い非常に有意義な対談であった。
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