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フィンテック (FinTech) 10の最新トレンド予測 ~改革は既に始まっている~
ビジネスに関する2016年のトレンド予測において特にアメリカではフィンテック関連の大幅な変革に業界内外から多大なる注目が集まっている。主な理由として、1. これま数年間のフィンテック領域への投資額の大幅な増加, 2. モバイルやクラウド等のインフラの整備, 3. デジタルネイティブの若者マーケットの拡大などが挙げられる。
金融業界に訪れたこの革命は予想以上の規模のインパクトとスピードで消費者の生活と業界の構造を変化させている。これはまるでかつてAmazonによって全米最大の書店チェーンが、Appleによって音楽業界が、YouTubeによってテレビが、そしてUberによってタクシー業界がことごとく駆逐されて来た様に新たなテクノロジーによる業界再編の動きのまた一つの章が始まろうとしている。
現時点で考えてみても、アメリカでの日常生活において銀行の店舗に行く事はかなり少ない。それどころかATMを利用する機会も一ヶ月に一回あるかないかのレベルである。簡単な送金であれば専用アプリのVenmoやFacebookメッセンジャーを通じて行えるし、商取引における小切手の入金も銀行のモバイルアプリで写真を取ってアップするだけ。UberやAirbnbなどのシェアリングエコノミーサービスを利用する際にも、事前に登録してあるカードにチャージされるため、財布を持ち歩く必要すら感じない。
簡単に言うとスマホがあれば、現金もカードも財布も銀行すら存在価値を感じない日々がどんどん増えている。このまま進むと恐らく次の世代に”一昔前はお金がリアルな紙や金属で作られていた“と話す日が来るかもしれない。そしてそれは、”昔の電話は持ち歩けなかった“というのと同じぐらいのスタンダードになっていくだろう。インターネットの出現により様々な事が変革したが、ほぼ世界中の全ての人々に影響のある”お金”に関するこの革命は、想像以上に大きな変化を人々に与える。
Ernst & Young社は2016年にフィンテック系サービスの利用率が前年の倍になると予想している。これまでの数年でじっくり暖められ、2015年に99℃まで上昇したフィンテック熱は、2016年に入り確実に沸点に達するだろう。これまで目に見えなかった蒸気が怒濤のごとく吹き出す時がついにやって来た。フィンテックは今年どのようなインパクトを世の中に与えるか、フィンテック先進国のアメリカやイギリスの状況を元に予想してみよう。
1. 投資・運用がより身近な存在になる
かつてネットを通じたオンライントレードの出現により”誰でも簡単に”株の売買が出来る様にななったが、今後はそれがより一層身近な存在となるだろう。株の取引に加え、投資信託やFXなどの投資・資金運用に掛かる費用が限りなくゼロに近づくだけでなく、特定の未上場企業や個人のビジネスにまで手軽に投資が出来るサービスが普及する。
その多くが自動化されたシステムにより担当者を介在せずにユーザーが直接投資、運用をする事ができる。それにより掛かる費用もこれまでの10分の1程度に抑える事が可能になる。そして、近いうちに人工知能を活用したシステムの導入で、完全自動化したシステムが最適な投資方法を提供する事になるだろう。
2. お金を通じて人と人とのつながりが生まれる
フィンテックが生み出す革命の一つに新しい形での融資や資金調達方法があげられる。これまでの金融機関による既存の審査方法を通じたドライで冷たい融資ではなく、ユーザー間でのお金の貸し借りが可能になる。Lending ClubやKiva, Funding CircleのようなP2P型マイクロファイナンスや、クラウドファンディングを通じての資金調達等、以前までは金融機関からの融資を断られて断念せざるを得なかった事業を進める事が出来る。
ユーザーによる出資であれば、既存の審査方法以外の価値、例えばプロダクトの面白さや、社会に対する価値、起業家の情熱等を評価してもらえる可能性もある。また、ユーザー同士がお金を貸し借りする事により、人と人とのつながりが生まれ、単純なリターンだけではなく”応援してあげたい”という気持ちを伝える事も可能になる。
そもそも自分のお金を金融機関に預けて知らない所で運用される銀行よりも、直接誰にいくら出資し、どのような結果が生まれるかを直に感じられる方が嬉しいというユーザーも増えている。
3. ユーザーエクスペリエンスが銀行にとって最も重要要素に
アメリカの銀行は2016年予算として2兆円前後を確保し、その多くをサイトやモバイルアプリといったデジタルチャンネルにおけるカスタマーエクスペリエンスの改善に充てると予想されている。現状では、オンライン経由での入金プロセスの75%, ローン申請プロセスの95%以上がプロセスを完了せずに終わっている。原因として多くの金融機関がユーザーに対して最適なエクスペリエンスを出来ていないからだと予想される。
米国金融大手のCapital Oneが老舗のユーザーエクスペリエンスデザイン会社、Adaptive Pathを買収した事に象徴される様に、フィンテックの普及によりこれまでデジタルに保守的とされて来た金融機関もエクスペリエンスデザインの改善が急務となっていくであろう。
4. セキュリティの重要性に対する急激な需要増加
フィンテック系サービスが扱うのはお金と個人データという、もっともセキュリティ的に重要な情報である。今後より多くのサービスが市場に普及していくにあたり、利用ユーザーからのセキュリティに関しての不安の声が高まっている。その一方で、シリコンバレーを中心に、フィンテックやビッグデータ向けのセキュリティプラットフォームやソシューションを提供するスタートアップが増えている。
シリコンバレーのVCが2016年に飛躍すると考えているスタートアップの中にも、この領域におけるセキュリティ系の会社が多く挙げられていた。これからフィンテックが発展するにはサービス提供を行う企業と同じかそれ以上に、セキュリティとインフラが重要な要素になる事は間違いないだろう。
https://blog.btrax.com/jp/2016startups/
5. ミレニアルマーケットを中心としたユーザーの拡大
クレジットカードが持てない学生やデジタルネイティブ、銀行よりもモバイルアプリを使いたいと思っている若者など、フィンテック系サービスを利用したいと思っているユーザーのその多くが、ミレニアル世代を始めとした若者達である。パソコン、インターネット、モバイルなどの環境で育った彼らは、日常生活でも違和感無くVenmo, PayPal, SnapCashなどのフィンテック系サービスを使いこなしている。
少子高齢化が進む日本だとあまり実感が湧きにくいが、35歳以下の若者が人口の過半数を占めるアメリカでは、フィンテックのターゲットとなるマーケット規模もかなり大きい。
6. 人気サービスが一気にユーザーを獲得
まだまだ始まったばかりのフィンテックだが、今年からどんどん様々なプレイヤーの出現が予想される。個人間送金プラットフォームだけを見てみてもVenmo, Square, SnapCash, Facebook Messangerなど複数のサービスが利用可能である。今後P2Pサービスは特に人気のあるサービスにユーザーが集まり、それ以外のサービスは淘汰されていくであろう。フィンテック過渡期ともいえる今年は、どのサービスが主導権を握るかに大きな注目が集まる。
ユーザーにとって良いサービス、いわゆるキラーサービスになるその秘訣は使いやすさと面白さ。金融系サービスだからといってお固くつまらない利用体験を提供しているうちはユーザーの心を掴む事は難しいであろう。
7. 金融機関によるフィンテック系スタートアップへの投資,M&A,コラボレーションが加速
フィンテック系のサービスを展開する上で最も不利な立場にいるのが実は既存の金融機関である。下手すると自己の存在価値を否定する可能性があるからである。その一方で、テレビ局とネット系動画配信サービスとの関係の様に、実は全く無視するわけにはいかないレベルにまで来ている。”フィンテックなんてどうせ一部のアーリーアダプターしか使わないでしょう”と言っている金融関係者がいたとしたら、強がりか勉強不足かのどちらかである。
海外では既に銀行やクレジットカード会社などの企業が、積極的にフィンテック系のスタートアップに対しての出資を通じで、建設的なコラボレーションを開始している。金融機関が今後生き残る方法があるとすれば、フィンテックに関する知識を深め、非金融機関のスタートアップとの協業を進める事だろう。
8. GAFA Bankの台頭
英語でGAFA Bankという表現がある。これは、Google, Apple, Facebook., Amazonの頭文字を取ったもので、これらの企業が積極的にフィンテック系の会社へ投資、およびフィンテック系の事業展開をしているという事実から、あえて”BANK”と呼ばれる。実際冷静に考えてみると、世界のユーザー、情報、そしてお金の動きを誰よりも多く掴んでいるのは、この4社になる。
自動車やリテールと同じ様に、彼らが本気で金融系サービスへの参入を行った場合、既存の金融機関に勝ち目は無い。特に若者ユーザーに絶大なる人気を誇っているこの4社が力を合わせれば巨大なフィンテック帝国の設立も夢ではない。
9. アメリカやイギリス以外の国々でも普及が進む
現時点でフィンテックが進んでいるのはアメリカとイギリスである。しかしそれ以外の6カ国でも速いスピードでフィンテックの普及が進んでいる。アメリカの金融系調査機関、Banking Reportsによると、その6カ国とは中国、香港、シンガポール、韓国、オーストラリア、そして日本である。
加えて、既存の金融システムの普及が十分ではないアフリカや南米といった地域にも送金を中心としたサービスに需要が高い。イスラエルやルクセンブルクといったIT系先進国では、フィンテックサービスの開発が進められている。
この事からも分かる様に、フィンテンックはこれから世界中に広がっていく事だろう。日本から世界のユーザーに使われるフィンテック系サービスが生まれたとしたらかなりエキサイティングである。
10. これまでの銀行を使わなくなる (かも)
送金、支払い、資金調達、資金運用などのこれまで銀行が行って来た業務がどんどんフィンテック系スタートアップが提供し始める。それも格段にお得な費用とユーザーにとって最適なエクスペリエンスを通じて。
こうなるとそろそろ”銀行ってそもそも必要か?”説が出て来てもおかしくは無い。これからの銀行は、送金やATMの手数料、店舗でのエクスペリエンス、そしてオンラインバンキングやアプリの改善を急激なスピードで成し遂げない限りは、この大きな革命を目の前にして、生き残る事はかなり難しくなるだろう。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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