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オープンソースハードウェア 人々の生活を変える静かな革命
オープンソースという言葉をご存知だろうか。また、知っているという人も具体的なオープンソースのソフトウェアをいくつ挙げられるだろうか?
・「無料」のソフトのことでしょ
・ Firefoxくらいしか使ったことないかな
・ブログラマじゃないから自分には縁遠い
などと思っている人はかなり危険だ。今後起こる世の中の変化に取り残される恐れがある。オープンソースのソフトウェアとは、無料で利用することができ、ソースコードが公開されており、変更を加えることができるソフトウェアのことである。
90年代の後半頃から本格化したオープンソースの流れは、ソフトウェアの世界で広く普及している。オープンソースと言えばソフトウェアのことを指していたが、パソコンやスマホの狭いディスプレイを飛び出してハードウェアにも広がり大きな変化をもたらそうとしている。
ハードウェア、特にIoTは今後爆発的に普及して、大きく世の中を変えることは間違いない。そして、3Dプリンタに代表される新しい工作機械や、高性能で安価なマイクロコンピュータの登場、クラウドファンディングの普及などの様々な環境の変化により、スタートアップや個人までもがIoTデバイスを作れる時代がやってきている。
今回は、この大きな変化の中で見逃すことができないトレンドの1つである、オープンソースハードウェアについて紹介する。
写真はオープンソースロボット poppy photo byBumblebee
ソフトウェアで起こったオープンソース革命
photo byOpen Water Foundation
ハードウェアでこれから起こるオープンソースによる変化を理解するためには、オープンソースソフトウェアについて知る必要がある。まずソフトウェアにおけるオープンソースを理解してほしい。ソフトウェアで起こったことの多くが、ハードウェアでも繰り返されると予想されるからだ。
無数のオープンソースソフトウェア
代表例を挙げると、いまや世界のスマートフォンのOSの8割のシェアを占める「Android」や、高い人気を誇るブラウザ「Firefox」が有名だろう。その他にも、Microftのオフィスシリーズと互換性をもつ「OpenOffice」などがある。しかし、これらの有名なもの以外にも無数にある。
このfreshtraxも、実は多くのオープンソースソフトウェアで成り立っている。サーバのOSはLinuxで動いていて、WebサーバのNginxだ。そしてサイトの構築にはWordpressが使われていて、データはMySQLというデータベースに保存される。
ちなみにWordpressはPHPというプログラミング言語で動作している。これらははすべてオープンソースである。そして、もちろん無料で使える。
Webサービスで用いられるオープンソースの例 photo by Cloud Platform Interoperability
オープンソースにより、よりクオリティが高いサービスを、より早く、低コストで提供できるようになる。もしオープンソースがなかったとしたら、このfreshtraxのサイトの構築に手間がかかり、これほど細部まで作りこんだサイトを作ることは難しかっただろう。
freshtraxが特別なわけではなく、ほぼすべてのWebサービスはオープンソースの恩恵を得ている。モバイルアプリも同様だ。そして、それを利用するユーザーも、知らない間にあらゆる場面で間接的に大きな恩恵を得ているのである。
Firefoxから学ぶ、オープンソースのメリットとは
これほどまでに普及している、オープンソースのメリットとはなんなのか、疑問に思う人もいるだろう。オープンソースには、多くの優れたプログラマが開発に参加するため、開発速度が速く、バグも発見しやすいというメリットがある。
有名なオープンソースになれば、数千人以上のプログラマ(しかも能力が高い)がオープンソースに貢献している。このため、オープンソースを管理するコミュニティが適切に運営され、開発者が集まったときの威力は大きい。さらに、無料で提供されるのであるから利用者が増えるのも当然だ。
先ほど例に挙げたFirefoxブラウザも、MicrosoftのInternet Explorer(以後、IE)という競合がいる。Windowsに初めからインストールされているIEにはシェアでは勝てていないが、Web開発者を中心にIEよりも高い人気を誇っている。このように企業のソフトウェアを、無料のオープンソースが品質で凌駕することは珍しいことではない。
また、Firefoxには、「アドオン」と呼ばれる拡張機能がたくさん提供されており、アドオンもオープンソースだ。オープンソースソフトウェアの機能を拡張するオープンソースソフトウェアが大量に生まれて、元々のソフトウェアの魅力を大幅に増してくれることも大きなメリットの1つである。
なお、Googleの提供するブラウザであるChrome自体はオープンソースではないが、拡張機能を自由に作れる機構を提供している。最近ではこのような仕組みを提供される場合が多い。
オープンソースのデメリット
一方、デメリットとしてまず挙げられるのは、バグや不具合が発生したときに、誰も責任を取ってくれないことだ。オープンソースの利用はあくまで自己責任となる。また、説明書がなく、商用ソフトのようなサポートもないことが多い。
また、コミュニティが適切に運営され、プログラマが集まれば大きな力が生まれるが、そうでない場合もある。コミュニティのコアメンバー同士がもめたり、開発者が集まらない場合は、低いクオリティのまま開発が止まってしまったり、類似のオープンソースとの競争に敗れたりする例もある。このためオープンソースの選定には慎重になる必要がある。ただ、商用ソフトウェアの場合でも、開発会社の都合がよいように仕様が変更されたり、会社が提供をやめてしまったり、会社が潰れてしまうなどのリスクがあるため、オープンソースの採用には状況に応じた適切な判断が求められる。
誰が、なんのためにオープンソースに貢献するのか
それでは、誰が、なんのためにオープンソースを作るのか。金銭が目的でない場合が多く、いろいろな事例があるため、少々複雑だが、いくつか例を挙げる。
・大学が研究成果の社会への還元のために提供
大学や研究機関が、社会への成果の還元としてオープンソースとして公開する場合も多い。論文という形で研究成果を発表・共有する文化のある研究機関ではごく当然のこととも言える。
・企業が自社の製品を広めるため
市場シェアを取るため無料としたり、社外の開発者にも磨いてもらうことを目的として、自社で開発したソフトウェアをオープンソースとして公開することも多い。
・企業が自社で使用しているオープンソースへの還元のため
すでに述べたように、多くのソフトウェアはオープンソースとなっている。このため、オープンソースは当たり前のように企業内で使われている。例えば、ビッグデータ解析に使われるHadoopもオープンソースであり、Microsoftや米Yahoo、日本のNTTなどの企業が、自社で得られた知見をオープンソースに還元している。
・個人が趣味で
終業後や休日を利用して、技術的なチャレンジとしてオープンソースに貢献するプログラマもいる。オープンソースで重要な役割を果たすことは、自分の実力の証明にもなり、他のプログラマからの尊敬も得られる。
これから起こるオープンハードウェア革命
それでは、いよいよハードウェアの話に入ろう。先に述べたように、オープンソースがハードウェアにも広がってきている。ここ15年から20年で起こったオープンソースソフトウェアの急激な普及が、ハードウェアでも起こるだろう。そして、Firefox、Androidで起こったオープンソースによる発展が、ハードウェアでも繰り返される。
オープンソースハードウェアとは、ハードウェアの設計(3D CADデータ等)、エレクトロニクスの設計(基板上の部品配置、回路図)、ソフトウェアなどの情報を無償で公開することを指す。
これらのデータと、3Dプリンターなどの製造機械があれば、製品を自分で作ることができる。さらに自分で変更を加えることもできる。
さらにオープンソースハードウェアが面白いのは、ハードウェアのエンジニアと、ソフトウェアのエンジニア、エレクトロニクスのエンジニアが、会社の枠を超えて協力できるようになることだ。
例えば、同じ会社でも交流することはないだろう、自動車会社で部品を開発しているハードウェアエンジニアと、インターネット企業でWebサービスを作っているソフトウェアエンジニアが協力すれば、斬新なアイデアを生み出すことができるかもしれない。
そして、斬新なアイデアはオープンソースであるためインターネットを通して世界中に届けることができる。企業内で潰されてしまうようなことはない。
成長するMakersコミュニティ
3Dプリンターやマイクロコンピュータの登場により、個人でもIoTなどの製造が可能となってきた。この動きを「メイカーズムーブメント」という。個人が作ったプロダクトは、まるで写真を共有するかのように、オンラインのコミュニティで共有されている。
例えば、3D CADデータの共有サイトであるThingsverseでは多くの投稿者が無償ダウンロードと、改変を認めている。 また、DIY(Do it yourself)の製品とその作り方を共有する、instructableというサイトでは多くのユーザーが詳細に作り方を解説しており、3D CADのデータやマイコンのプログラマを配布している。
オープンソースソフトウェアの力を借りることで個人でも質の高いWebサービスやモバイルアプリが開発できるように、将来は個人でもクオリティの高い製品が作れるようになるだろう。
子供も大人にもメイカーズムーブメントが広がっている。 photo by Jason Kridner
徐々に生まれているプロジェクト
個人の趣味レベルではなく、将来的には製品化できるようなレベルを目指したオープンソースハードウェアプロジェクトも徐々に誕生してきている。
例えば、自動車のオープンハードウェアプロジェクトOSVehicleだ。
オープンソースの自動車 OSVehicle
2013年に誕生したこのプロジェクトは、10,000人のメンバーを抱え、設計とプロトタイプ開発が完了しており、テストフェーズに入っているようだ。目的の1つとしてパーソナライズをあげており、うまくいけば用途に合わせてカスタマイズすることも可能である。
世界的製造企業で広がるオープン化の動き
世界的な製造企業では、オープンソースハードウェアを公開した事例はまだないが、技術を積極的に開放するオープン化の動きは強くなってきている。
photo by Tesla
2014年6月、TeslaがEV関連の全特許を開放したことが話題になった。イーロン・マスクは、「テスラのライバルはEVメーカーではなく、膨大な数のガソリン車だ」と述べたように、特許を公開することで、EV市場全体を大きくすることが狙いだ。
またトヨタも燃料電池車の特許の開放を2015年1月に発表し、話題となった。オープンソースハードウェアの流れが強まれば、企業が公開する例も出てくるだろう。
参考:トヨタ、テスラが特許開放 「自動車2.0」への挑戦 | 日本経済新聞
オープンソースハードウェアの普及を後押しする製造機械の進化
個人でもものづくりができるようになってきたといっても、個人でも入手できるな安価な機械の精度はまだ不完全だ。特に、3Dプリンタは、個人が入手できるような安価なものは、小さなものを作るだけでも数十分かかったり、表面がザラザラだったりと問題はある。しかし、これらが解決されるのは時間の問題だろう。
製造機械の低価格化、高精度化が進めば、オープンソースハードウェアの流れも加速する。まずは試しにネットで見つけたものを3Dプリンタで印刷してみようというように、利用することから始まり、それに改変を加えたり、その中から貢献するエンジニアが出てくる。
photo byMiguel Ángel Alcalde Sebastián
ソフトウェアと同様に、恩恵は間接的にやってくる
オープンソースハードウェアを直接手にすることは、すぐには増えないかもしれない。一般の人がオープンソースの自動車に乗る日はそんなに近くないだろう。ただ、オープンソースハードウェアを利用することで開発が速くなったり品質が上がったりコストが下がったりという恩恵を受けた製品を利用して恩恵を間接的に受ける日はそう遠い未来ではない。
また、購入した製品の中に、オープンソースハードウェアの部品が使われているかもしれない。そう、日常生活でスマホやPCを使いながら、知らないうちに、間接的にオープンソースソフトウェアの恩恵を得て便利な生活を送っているように。
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