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デザイナーに必要なのはスキルアップではなくアップスキリング
最近のAIツールの発展は目覚ましいものがある。
特に今までデザイナーが数時間かけて行っていた作業がものの数分でできてしまう。それも人力よりも優れた精度で。
特に物事の変化スピードが強烈に速いこちらサンフランシスコでは、既にグラフィック・デザイナーやWebデザイナーといった役職が絶滅の危機に瀕していると切に感じる。
コアの部分を社内、それ以外を外注かAIで
テクノロジーの進化とビジネスにおけるデザインの重要性の高まりに合わせ、見た目を良くする”だけ”の限定的なスキルのデザイナーはよりコストの低い他の地域に外注したり、クラウドソーシングを利用したり。AIツールを活用する事でまかなっているケースが増えてきている。
初期プロダクトの表側の見た目や、ちょっとした広告のデザインなどは海外に住んでいるフリーランサーに発注しているケースも少なくは無い。
また、最新のジェネレーティブAIツールを活用すればかなりの精度のデザインを短時間で生成してくれる。
生活コストの高いサンフランシスコでは企業の”コア”になる部分を内製化し、それ以外の部分をCMSなどのテクノロジーで解決したり、オフィショア発注したりする事でコスト管理をする。
ビジネスにとってデザインの“コア”とは
では企業にとって”コア”となるデザイナーの仕事はどんなものであるのであろうか?
それは恐らく見た目のデザインを超えた、ビジネス全体に対するデザイン的アプローチをし、会社と顧客への利益を創り出す仕組みを設計する事である。
抽象的な表現で分かりにくいが、デザイン思考のアプローチから顧客のニーズを割り出し、求められる体験を自社のプロダクトやサービスに反映する事。
そして、そのプロダクトを世の中に広げブランドを構築する事が今デザイナーに最も必要とされている役割である。
具体的な役職としては、UXデザイナーや、プロダクトデザイナー、クリエティブディレクター、そしてブランドマネージャーなどがビジネスにおけるコアを設計するデザイナー職となる。
見た目だけのデザインは装飾の域を超えず、これまで通りの”Nice to have”的存在で、無いなら無いでも良い、と思われてしまいがちである。
複数のUXデザイナーを面接して分かった事
当社ビートラックスでは継続的にUXデザイナーの募集及び面接を進めている。
この街では幾つかのデザインスクールや大学のデザイン科に加えて、専門分野に特化した短期集中型コースを提供している学校も多く、”UXデザイナー”の肩書きを持つデザイナーは少なく無い。
多くの候補者がUXデザイナーのポジションに応募してくる。その中で良さそうな候補者数名と最終面接を行う。候補者の中には最近学校を卒業した人もいれば、10年近くの経験のある人もいる。
そこで気づいたのは、最近卒業した人は大学やデザインスクールにてUXデザインの勉強を行い、UXデザインのプロセスとメソッドを一通り身に付けている。最新のツールの使い方も学んでいる。
一方で数年以上の経験のある候補者の場合、元々Webデザイナーや工業デザイナーからの”職替え”のケースがほとんど。
他のデザイン領域で活躍していたが、最近UXデザインの勉強を始め、今後はUXデザイナーをキャリアとする事を目標としている。
この場合、今まで何かしらのデザインの経験がある候補者よりも最近学校を卒業、UXデザインに関するインターンを経験している人の方が格段に”UXデザイナー”としてのスキルが高い。
なぜなら彼らはまっさらな状態からUXデザインのプロセスを一通り身に付けているから。
実際、”良いな”と思った候補者の何人かは採用通知を出そうと思った頃には他の企業への就職が速攻決まっていた。
一方で、他のフィールドでの経験豊富な候補者の場合はそうではないらしい。
デザイナーとしてのアップスキリングの必要性
デザイナーとしての経験が豊富なのに何故簡単に就職出来ないのか?
それは恐らく新しいタイプのデザイナー職のスキルへの “アップデート” が完了していないからだと感じた。
以前のデザインスキルに頼りすぎて、UXデザインなどの新しいフィールドのスキルが100%身に付いていない。もしくは”UXデザインなんてちょろい”と思っているのかも知れない。
これはかなり残酷だと感じた。今までデザイナーとしてコツコツと身につけてつたスキルが時代の変化に合わなくなり、経験の少ない若手の方が適切なスキルを身につけている。今までのスキルの向上だけでは間に合わない。
新しいスキルにいちから ”リ・インストール” する必要がある。
もちろんタイポグラフィー、レイアウト、カラーなどのデザイン基礎となる知識とスキルは普遍的なものでありとても重要だ。必要とされるデザイン知識、理論、考え方なども変わらない。
しかし、その重要性が高まるにつれ、デザイナーに求めれる役割がどんどん広がり変化してきている。
ポジションによっては同じ”デザイナー”と付いていても、その仕事内容と求められるスキルが大きく異なるケースも少なく無い。
例えばWebデザインは数年前までは需要の高かったスキルであるが、最近そのニーズは下降している。WebからUIデザイナーに”転職”したいのであれば、スキルの大幅な入れ替え=アップスキリングが必要になるだろう。
航空パイロットから学ぶ既存スキルの危うさ
以前に元パイロットの方からも似たような話を伺った。パイロットの仕事は安全に飛行機を操縦する事であるが、同じ”飛行機を飛ばす”というスキルでも、20年前と今とでは大きく異なる。
なぜならテクノロジーの進化によりその操縦方法が大きく変わったからである。
20年前はアナログ中心だったコックピットの計器はほぼ全てデジタル化され、液晶タッチパネルに。当然その操作方法も大きく変化した。
ベテランパイロットは新しいコックピットで操縦方法を”学び直す”必要がある。さもなければこれまでのスキルでは操縦不可能になる。
そして、パイロットしての”感覚”が重要だった時代は終わり、複数のセンサーから得られるデータを活用する事の方が重要になっている。
そうなってくると職人的なベテランパイロットよりも、パソコンやスマホを触って育って来た新米パイロットの方がより新しい機体の操縦に向いているという。
現在のスキルセットで通用するのはあと3年
航空機の場合は機材のアップデートはそこまで頻繁に行なわれないため、この変化は20年の年月を経て訪れたが、デザイナーへの変化はもっともっと速い。
恐らく現在のスキルセットで通用するのはあと3年程ぐらいで、継続的なスキルアップデートをする覚悟が無ければデザイナーとして生き残って行くのは難しいのかもしれない。
デザイナーは常に新しいスキルを身につける必要があり、それは現在のスキルの延長線上には無い可能性が高い。スキルアップではなく、アップスキリングが必要になる。
そのプロセスは厳しい。なぜなら新しい事を学ぶ事よりも、今知っている事を一度リセットして学び直す方が何倍も労力がかかるから。
そんな点でもデザイナーは残酷な職業である。
デザイナーを目指す前に知っておいてほしいこと: 【対談】上杉周作 x Brandon K. Hill – デザインの裏側
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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