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なぜデザインはシンプルな方が良いのか – 5つの理由と6つの鉄則
- デザインはシンプルであるべき、5つの理由とは?
- 一方で、シンプルにすることは難しい。その理由は?
- シンプルにデザインするために覚えておいていただきたい6つの鉄則
“Less-is-More (少ない方がより多くを得られる)”。 デザイン業界では遠い昔から使い古されているこの表現、極めて簡単に言い換えると、デザインはシンプルな方が良い、という意味になる。
確かに研ぎすまされたデザインはシンプルであるし、優れたデザイナーになればなるほど、シンプルなデザインをつくり出している気がする。
レオナルド・ダ・ヴィンチはその昔、”シンプルである事は究極の洗練だ” と語った。
近年ではWebデザインやUI、プロダクトデザイン、利用体験、インテリア、そしてライフスタイルにいたるまでミニマリズムに代表されるシンプルなものが良いとされる。
もの作りのプロセスにおいては足し算よりも引き算の方が重要で、どれだけ削れるかが重要とされる。
頭では理解していても、“なぜ” 削ることが大切なのかは直感的に分かりにくい。ついつい“もしかして必要かもしれないので加えておこう” と思いがちである。
しかし、シンプルにすることで非常に多くのメリットを得られる。
デザインはシンプルな方が良い5つの理由
なぜデザインはシンプルな方が良いのであろうか?
それを論理的に説明しているケースが意外と少ない。恐らく様々な理由があるが、それらを分けると恐らく下記の5つの理由のどれかに当てはまると考えられる。
1. コミュニケーション性の向上
脳科学的によると、人間の記憶には表示要素の20%程しか残らない。これは、無駄な要素を極力排除した方が情報伝達がしやすいということ。
例えば、UIの最も重要な役割として、コンテンツを伝えることとユーザーの誘導が挙げられる。その際にはできるだけ無駄な装飾や選択肢と言ったノイズを少なくすることが求められる。
何かを購入してもらう際にも選択肢は少ない方が購入率が上がることが科学的にも実証されている。それがUIやページはシンプルな方が良い理由である。
また、ロゴもシンプルな方が優れているとされる。シンプルな方が消費者に覚えてもらいやすいからである。
例えば、街頭インタビューでブランドのロゴを描いてもらうテストをしてみたところ、実物に近く描けていたのは、Nike, McDonald’s, Appleなどのシンプルなロゴで、複雑なロゴは印象に残りにくいだけでなく、思い出しにくいことも判明した。
シンプルさは、文字コンテンツ作成の際にも効果を発揮する。
長い文章でダラダラ説明するよりも簡潔な表現の方が分かりやすい。下記の、アメリカの大手ブリトーチェーンChipotleによるビルボード広告は、情報伝達においての“Less-is-more” のコンセプトを表している。
最も重要なメッセージだけを抽出したChipotleのビルボード
2. 時間とお金の節約につながる
プロのデザイナーにとって最も重要なのは、手がけた仕事に対するビジネス的結果である。多くの場合売り上げや、ユーザー獲得率の向上などに目がいくが、実はコストの削減もビジネスにとっては非常に重要なファクターである。その点においても、シンプルなデザインは大きな威力を発揮する。
プロダクトであれば、それがつくり出される工程やパーツが少ない方が時間とコストの削減に繋がる。Webページであれば構成要素が少なく、HTMLやCSSのコードがシンプルであればある程ページのロードスピードが抑えられる。
また、シンプルなUIはユーザーの時間を節約する事にも繋がる。選択肢が少ない方が迷わない。
生前スティーブ・ジョブスは、Macの起動時間の時間短縮に異様にこだわったという。これは内蔵ハードウェアの仕組みとプログラムを簡易化する事で、世界中のMacユーザーの時間を節約するのが目的であった。
グラフィックデザインの世界では、利用される画像や色が少ない方がファイルのサイズやメモリー、インクの量を節約することに繋がる。ケチな話の様に感じるかもしれないが、ビジネスの規模が大きくなれば、細かな差が大きな利益を生み出すケースも多い。
例えばスターバックスのロゴは1971年の初代バージョンから、何度かアップデートされる度にシンプルになって来ている。
最新のものは、以前の複雑な2色刷りのロゴと比べると、よりシンプルなラインと色も緑一色しか利用されていない。
世界中に存在する複数の店舗の看板と膨大な数のカップへのロゴの印刷コストを考えてみると、ロゴのデザインをシンプルにするだけでかなりのコスト削減にも繋がっている。
3. 普遍的な存在を生み出す
恐らくシンプルなデザインが素晴らしい最も重要な理由がこれであろう。トレンドを追いかけたデザインは時代と共に廃れ、ダサくなるが、基本に忠実に無駄を極力排除した洗練されたデザインは、何年経ってもその魅力が色あせない普遍的=タイムレスな存在であり続けることが出来る。
世界的に有名なサンフランシスコのゴールデンゲートブリッジが完成後80年以上経った今でも人々に愛されている理由は、機能性を追求し、装飾やギミックを極力廃したバランスの良いデザインの素晴らしさであろう。
また、WebやUIのデザインをとってみても、始めから複数のデバイスや解像度の対応出来るように考え尽くされデザインされたものは、リリース後かなり時間が経ってもその利用価値が下がりにくい。
研ぎすまされたデザインを施されたプロダクトは、同じ時代に創られた他のプロダクトが時間の経過とともに古臭くなるのに対して、いつまでも変わらない輝きを放ち続けるであろう。
1980年代発売されたパソコンの中で今でもリビングルームにおき続けたいと思わせる価値があるのは、Macしかないであろう。
4. 壊れにくい
構成する要素が少なければ、壊れる可能性のある要素も減ってくる。単純な理論であるが、ここでもシンプルさが威力を発揮する。UIはエレメントが少ない方がバグが出にくいし、文章は短い方がスペルミスが起きにくい。
そして、ハードウェアであれば、必要とするパーツが少なければ少ないほどに壊れにくくなるし、該当するパーツがなければそもそも壊れようがないし、ネジがなければゆるむ心配も、外れる心配もない。
小型のプロペラ機がジャンボジェットよりも故障しにくいのは、単純にパーツが少ないのと同じ。
英国の自動車メーカーでF1にも参戦したロータスの創設者のコーリン・チャップマンは、”シンプルに、軽く” をデザインの軸として、アルミ版を接着剤で組み合わせる事でよりパーツの少ない軽い車を創った。
最近では、Teslaがエンジン、トランスミッション、ラジエターなどの既存のエンジン車に必要とされるパーツの大部分を排除し、Model Sを極力シンプルに作り上げ、高い評価を得た。
5. ヒット製品を生み出しやすい
SONYのウォークマン、Mazdaのロードスター、AppleのiPod, これらのヒット商品に共通するポイントもそのシンプルさである。出来る限り機能を絞り、その価値をユーザーに分かりやすく届けることで、絶大なる人気を集めた。
最近のヒット商品も機能を極限まで削り、制限の中で生み出される事が多い。その最も象徴的なのがGoogle. 検索窓のみをページの中央に配置するこれ以上シンプルにする事が不可能なレベルまで機能が削り取られている。
それにより一目でそのプロダクトの価値が伝わるし、ユーザーを迷わせることはまずない。ユーザビリティもシンプルな方が絶対に高い。
それ以外にも実はヒットしているプロダクトは下記の例でみられるように、大きな制約を設け、多くの機能を削り、極力シンプルに作り上げられていることが分かる。
シンプルにすることでヒットしたプロダクト例:
- iPhone – 物理ボタンを極力排除
- MacBook Air – DVDドライブ排除
- Twitter – 140文字まで
- Facebook – 実名プロフィール
- Instagram – 画像のみ
- Vine – 6秒までの動画
- Snapchat – 消える
- Medium – 記事を読むことだけにフォーカス
- GoPro – カメラから液晶を排除
- Kindle – 本を読むだけのデバイス
これからのヒット製品のキーワードは、“Everything you need, Nothing you don’t (必要なものだけ)” これを実現するには極限までシンプルに削り込むことが求められる。
なぜシンプルにデザインするのが難しいのか
こんなにもメリットが多いシンプルなデザインであるが、その難易度は非常に高い。
出来上がったものだけを見ると、”簡単にさくっと創った” ように見えるかもしれないが、それは大きな間違いである。複雑なものをつくり出すよりもシンプルにする方が難しいし、時間がかかる。
その理由は、まずフォーカスを定めなければならない、プロダクト、メッセージ、オーディエンスのそれぞれを極限まで絞り込み、無駄を削る必要がある。
5分のプレゼンが1時間のプレゼンよりも難易度が高い様に、最も重要なファクターだけをエスプレッソの様に抽出するのは、万人ウケするブラックコーヒーを淹れるのとは難易度が格段に違う。
そして、シンプルであればある程全てのディテールが重要になってくるので、ごまかしがきかなくなる。
100ある要素の2つぐらいがずれていても気づきにくいが、それが10の中の2だと全体の20%を占めるので、ミスは許されない。
デザイナーとしての高い技術が必要とされる。そして、シンプルで優れたデザインが偶然に生み出されることは100%ない。シンプルでいて見た目も美しいというのは難易度が高いことだ。
なお、予算を抑えるためにデザイナーに “シンプルで良いんで” のリクエストは絶対的なNGワードである。
シンプルなデザインのための6つのポイント
ではシンプルなデザインを行うにはどのような点に気をつける必要があるのか。そのプロセスに関する6つのポイントを挙げてみた。
1. Less, but Better – 犠牲にするのでは無く無駄を削る
まず基本は、最も重要ではない箇所は削ること。プロダクトやメッセージが持つべき最重要項目を定め、それ以外の副次的な要素は極限まで取り除く。要素を取り除くだけではなく、より良くすることにフォーカスする。そして、犠牲にするのではなく、無駄を削ることがポイント。
2. Neutral – デザインは空気のような存在
コンテンツを読んでもらったり、商品を買ってもらったり、目的を達してもらったり、イメージをふくらませてもらったりなど、デザインはあくまで脇役。従って、デザイン要素自体が目立つのは良くない。UIやレイアウトなどもユーザーに意識させない透明な存在であることがベスト。
3. Meaning – 採用した全ての要素に意味がある
存在価値を説明できない要素は必要のない要素である。逆に、デザインと採用したからには全てのエレメントの存在価値をデザイナーが説明出来なければならない。”なんとなく”とか”かっこいいと思ったから”の要素は採用しない。
例えば日本の寿司。ネタ、シャリ、醤油、わさび、ガリ、お茶、全てに意味があり、無駄な要素が一つもない。その極みがカウンターでの体験。一つずつしか出てこない寿司、その順番、板前さんとの会話、その顧客体験全てに意味がある。
4. Don’t follow trends -トレンドを追わない
流行のデザイントレンドを追いかけているということは、いつかは時代遅れになる可能性がある。それは、シンプルなデザインが持つ大きな利点の一つである”Timeless”な要素が生み出されなくなる。
例えば、数年前に話題になっていた”フラットデザイン”と言う表現は最近随分と聞かなくなった様に、最新のトレンドを追いかけたデザインは危険信号である。
逆にバウハウスやスイススタイルなど、機能性を追求し、普遍的なデザインの基本を抑えたデザインは”クラシック”なデザインとなり、時間が経っても古くさく見えない。
5. Less of Design – “デザイン性”を下げる
デザインは装飾ではなく、機能の実現である。これは、デザインを学ぶ際によく引用されるアメリカの建築家, ルイス・サリヴァンによる ”Form follows function (形式は機能に従う)” にも凝縮されている。
この辺がデザインとアートを大きく分ける要素でり、デザインの役割はあくまで機能性の追求で、”デザインを見せる” 為のデザインには装飾的な無駄が多い。
6. Take Your Time – 時間をかける
シンプルにデザインされたものは、その最終形だけを見ると簡単に見えるが、そこに辿り着くには複雑なデザインよりも何倍もの時間がかかる。デザイナーはそれを理解する必要がある。
シンプルなプロダクトやUIをつくり出すためには、プランの段階で多大なる時間を掛け、その内容を研ぎすます必要がある。出来るだけ多くのオプションを並べ、その中で最も最適なデザインを抽出する。
最終的なデザインに辿り着くためには、多くの時間とエネルギーを費やすことを惜しまない事。じっくり時間を掛け、極限まで洗練されたプロダクトは時間を超えて人々に愛される可能性を秘めているのだから。
まとめ: デザインもビジネスも究極は“シンプル”
かつての日本文化は、「切り捨て」が美であった。作ろうとしている者からどんどん要素を削ぎ取っていき、「これを取ったらもう成立しないかも」というギリギリのところまでそいだものを良しとする文化。
しかし、ここ30年ぐらいで作られたプロダクトは、「これも足して、あれも足して」という感じで、機能や仕様を足しまくることに意識が向きすぎて、本来の日本文化とは反対の方向に進んでいる気がする。
今回取り上げた”シンプル”なデザインの素晴らしさは、プロダクトやUI、メッセージングや広告にとどまらない。
実は全ての人々の日々の生活や、ビジネスにも活用することができる。
例えば、組織もシンプルな方がコミュニケーションミスが生まれにくいし、無駄なやり取りに必要とされる時間的コストも下がる。また、承認のプロセスも簡易化すればする程スタッフの責任感もアップする。
最近のサンフランシスコでは、“Less-is-more”を美徳としたミニマルなライフスタイルが広がっており、若者を中心に所有物を少なく、自由な体験を求めるカルチャーの中で、ヒット商品と世界的なイノベーションをつくり出す企業が次から次へと生み出されている。
Perfection is achieved when there is nothing to take away
– 完璧とはこれ以上削れない状態の事である
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