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「この世のネガティブなものはポジティブになり、そしていつかはポジティブを越える」WHILL CEO 杉江理氏インタビュー
JapanNight過去出場者インタビューシリーズ第2弾は車いすの未来を切り拓くパーソナルモビリティを開発・販売するWHILLのCEO 杉江理氏。1人の車いすユーザーから、”100m先のコンビニに行くことも諦める”という話を聞いたのをきっかけにWHILLの製作を開始。拠点を北米、日本、台湾に持ち、パーソナルモビリティにイノベーションを起こそうとしている。歩道を走る乗り物のテスラを目指す杉江理氏。彼の目指すパーソナルモビリティの未来とは?
インタビュー日: 2014年7月25日
インタビュー場所: TechShop (WHILLオフィス)
1. 電動車いすマーケットは大きい?小さい?
2. 歩道を走る乗り物のテスラをめざす
3. 海外展開の核を担う最先端オペレーション – 日本×台湾×アメリカの役割
4. JapanNightの経験
5. 成功の概念
6.もの作りから人作りへ 「面白いものを作るだけ」から「WHILLのために」
1. 電動車いすマーケットは大きい?小さい?
【そもそも電動車いす市場って小さいと思うんですが、どうやって投資を受けたんですか?】
杉江理氏(以下S). 正直、日本のマーケットだけだと厳しいです。ただアメリカのマーケットだと17億ドル、世界規模で見ると40億ドルあります。そう考えると1000億円以上ある市場という意味では投資判断をする上で、十分なマーケットと言えます。
また高齢化というのは世界各地で少なからず起きている問題なので、電動車椅子などのパーソナルモビリティはこれからも伸びていくマーケットです。
つまり、たしかに日本だけで見るとアメリカの15分の1しかない小さいマーケットですが、世界的に見れば投資に値するんです。
2.歩道を走る乗り物のテスラをめざす
【WHILLって、電動車いすの中でもハイクラス、ハイエンドだと思うんですが、他の低価格の電動車いすとのコンペティションはどう考えていますか?】
S) テスラをイメージしてみてください。1000万円台の超高級車を作ってハイエンドなユーザーを惹付けてから、だんだんとコストを下げ、一般層へリーチできるようなプロダクトを開発しマーケットを広げていきましたよね。WHILLも同じように、まずはアーリーアダプタのハイエンドをターゲットに販売、ブランディング。その後量産していきながら、多くの人にリーチしたいと考えています。
川島聖巨(以下K) なるほど。
S) 他の電動車いすと差別化を図る要素としてはまず、24個の小さな車輪を有する前輪のテクノロジー。簡単に小回りがきくことはもちろんのこと、雪道、砂利道も問題なく走行でき、ユーザーの行動範囲を広げることが出来ます。
また体のコンディションって人によって違うじゃないですか。だから、個々人に合わせた適切なスピードだったり、加速度だったり、細かい設定が簡単に出来ると良いですよね。そこで、Iphoneなどの他のデバイスでWHILLアプリを使うことで、その人にあったコンディションを簡単に整えるようにしました。
K) でもソフトウェアは最初からは入れていなかったんですよね?
S) 入れていなかったです。まずはハードウェア中心に完璧なプロダクトを作ることが先決でした。それがしっかり固まった上で初めて、ソフトウェアを作り始めました。今やっとソフトウェアのβ版を始めたところです。
K) それもテスラと一緒ですね。テスラも最初は、ほぼハードウェアだけで、ソフトウェアはあとから充実させましたから。
S) そうですね。そもそもハードウェアがいけてないと何も始まらないので、優先順位の問題ですね。
ソフトウェアを追加して更新することでユーザーが可能なエクスペリエンスを増やしていきます。
K) これからどのようなプロセスでソフトウェアを開発していくのですか?
S) ソフトウェアの開発プロセスとしては、3段階あります。1番最初はユーザーにとって役に立つ、第2にユーザーの周辺の家族、恋人にとって便利になる、第3に環境、インフラまで巻き込むという順番です。
例えば第一だとさきほど述べたような個人個人の使い方に対応する機能です。第二だと、GPSをつけることで家族がユーザーの位置を確認できる機能など。
第三で言えば充電スポットや行きたい場所が分かる機能、案内が外部インフラと連携する機能などです。第二、第三に関してはまだまだ仮想段階で何が必要か見極める必要がありますが、ユーザーだけでなくそれ以外の人にとっても便利になるような方向に持っていったら面白いなと考えています。
3. 海外展開の核を担う最先端オペレーション – 日本×台湾×アメリカの役割
【日本とアメリカの連携はどのように行っていますか?】
S) 実は、日本、アメリカ、台湾の3拠点でやり取りしています。ストラクチャー的には、日本がR&D、アメリカが企画、マーケティング、販売、そして台湾で量産。こういう形をとっています。
K) 日本、アメリカ、台湾の役割を詳しく教えてください。
S) まず日本で、R&Dを行っています。アメリカよりもサプライヤーがやばい。クオリティが良いし、とにかく早い。土曜日でも仕事してくれますし(笑)。
あとはハードウェア関連の優秀なエンジニアが多いです。しかもサンフランシスコの3分の1くらいの人件費ですし、パフォーマンスが高いです。50台程度の少量生産であれば、日本で行っています。
次に、アメリカで企画、マーケティングを行っています。アメリカに市場があることに加えて、ユーザーの感度がとても高い。サンフランシスコという土地柄なのか常に新しいものに敏感ですし、ユーザーテストも非常にやりやすいです。路上でその日であった人が家での使い方見なよって招いてくれる場合まであるくらいで(笑)。
最後に、台湾では量産を行っています。この世の90%の歩道を走る電動モビリティは台湾で生まれているというくらい技術もある。そして台湾は親日ですし、日本との時差もないので、日本からコミュニケーションが非常に取りやすいです。日本で少量生産を行い、そのときに学んだアセンブリのやり方やノウハウを丸ごと台湾に持っていきます。そうすることで、低コストで安定したオペレーションを行うことが出来るんです。またこれから台湾でも従業員も入る予定です。
K) アメリカ、日本、台湾と全てとコミュニケーションを取るのは簡単ではないと思うのですが、そこはどう解決していますか?
S) 日本の開発現場の人間を1人USに常に滞在させます。そうする事で日本の開発側の意見とUSチームの意見とをうまく繫いでいます。もちろんビザの問題もあるので、2ヶ月に1回とかで上手く回しています。
もの作りをやっていない人間がエンジニアに口出ししてもうまく伝わらない時があるので、開発現場の人間を常にアメリカに置く事で意思統一を円滑にしています。また、作る人間がニーズを実際に見た方が納得して効率的に作業できます。プロダクトデベロープメントのポイントは、いかに早く正確にユーザの意見を取り入れる事ができるかですから、チームの流れを円滑にするよう心がけています。
4. JapanNightの経験
【JapanNightはどうでしたか?】
S) ちょうどアメリカで展開を考えていたので、タイミングは完璧でした。しかしアメリカでのピッチが初めてだったこともあり、かなりてんぱってバグりましたが。アメリカでプロダクトを展開する上でピッチは本当に重要なので、JapanNightはとても良い経験になりました。また当時のJapanNightスポンサーだったITVさんも見てくれていて、最終的に出資を受けることが出来ました。
K) プレゼンとても上手ですよね。どのように練習したんですか?
S) 実は死ぬほど練習しています。。ピッチは本当に重要ですから。
500startupsではたった3分間のピッチのために1ヶ月間毎日練習させられました。ピッチの練習見せると、お前のプレゼンまじでファックだなとDaveにいつも言われて。(笑)プレゼン資料の作り方、言い回しなど勉強になりました。
K) 厳しいですね。
S) プレゼンするときって暗記するといけないと思っていたんですが、暗記しすぎるとものすごくナチュラルになるんです。スライドみなくても何秒目でそのスライドが出てくるのかが体感でわかるようになってきて。アメリカ人のネイティブでもアホほど練習してましたね。だから僕はもっと練習しました(笑)。
K) そこまで練習されたんですね。なぜエンジニアの杉江さんがそんなにプレゼンを練習したんですか?
S) 社長の仕事だからです。プレゼン大会とかは1位を取るのが社長の仕事です。1位を取ると、メディアにわんさか載るじゃないですか。最強の0コストマーケティングですよね。
このピッチで負けたら、資金調達出来ない、マーケティングに繋がらない、つまりそれはWHILLって会社がつぶれることになりますよね、最悪。WHILLっていう会社をつぶさないためにはピッチは出たら勝たないといけないんです。
5. 成功の概念
【杉江さんにとって成功とはなんですか?】
S) これは明確にありますね。
WHILLに乗っている人が2人いるとするじゃないですか。その二人が、信号の前で止まったとき、1人だけが立ち上がるっていう世界が生まれたときですね。
K) どういうことですか?
S) つまり、健常者でもWHILLに乗る世の中になったときです。
K) それって簡単なことではないですよね。
S) そうですね。ただ1つ僕が信じている哲学があります。しかもこれは500%あっています。この世のネガティブなものはポジティブになり、そしていつかはポジティブを越えるんです。
例えば僕が子供の頃はメガネをかけている人ってメガネ君とか言われていじめられたりしていたんですよ。それってメガネがネガティブなものだったってことじゃないですか。眼鏡かけたら普通の人より低く見られたんですよ。
でも今はだてメガネもありますし、ファッションの一部として考えられるようになった、めっちゃポジティブですよね。
最近なんて、Google Glassが出来て、ポジティブを越えるようなもうよく分からないすごい次元にたどり着いたじゃないですか。(笑)ネガティブがポジティブになり。ポジティブは超えてきましたよね(笑)
K) たしかに(笑)。
S) だからその仮説を元にすると電動車いすも同じだと思うんすよね。誰もがかっこいいから、便利だから、という理由でWHILLに乗る世の中って来ると思います。これは10年、15年くらいかかるかもしれません。プロダクトも変化していることでしょう。今はまだポジティブへの移行最中です。でも成功はそこじゃないんですよね。そのずっと先にある。おそらくインフラなんかも絡んでくる。いやー考えただけでも面白いな〜。
K) ビジョンが明確に見えているんですね。でも今存在しないもの描いて、それを信じて進むことって、結局は自分の信念にしがみつくしかないじゃないですか。それって不安じゃないんですか?
S) 不安じゃないです。だってこれ出来たらすごいじゃないですか(笑)これに人生をコミットすると決めたから不安はない。細かいプロセスに関する不安はあるんですけど(笑)。アメリカでこのタイミングで欲しい人材をハイアリング出来るかとか、資金調達出来るかとか、スケジュール守れるかとかそういう細かいところでは不安はありますけど、自分が思い描いているビジョンに不安を感じたことは一度もないです。
6. もの作りから人作りへ 「面白いものを作るだけ」から「WHILLのために」
【昔はエンジニアだったんですよね?】
S) はい。僕は、こんなものがあったら良いな、と思うものをひたすら作っていただけです。とにかく面白いものを作れば勝手に売れると思っていたし、誰かが売ってくれると思っていました。でも現実はちょっと違ったけど(笑)だから当時は時価総額とか全く興味なかった。というか時価総額って言葉の意味も知ってたか怪しかった(笑)。
K) でも作っているだけではいられなくなったんですか?
S) はい。作るのは一番重要ですが、作る以外に重要な事がステップがあがるに連れてどんどん増えてくる。量産、ロジスティクス構築、ハイアリング、カスタマーサポート、ファイナンス、法務関係、そしてこれらに必要な資金の獲得。
ステップがあがっていくと、求められる人材のスキルが変わり、ユーザ、投資家も増える。つまり圧倒的に責任が増えます。だから成長しないといけない。毎日髪の毛をつかまれ、上に上がれと言われているような気分で過ごしています。
K) 最後に、そんなWHILLのために最も大切にしていることって何ですか?
S) 人ですね。WHILLのビジョンに共感してくれる人、その時に会社が必要なスキルを持った人。この二点が重要です。
WHILLのカルチャーをつくる人がなにより重要で。これより重要なことってないですから。WHILLのビジョン実現を目指して共に働いてくれる仲間は最高です。
プロフィール
WHILL Inc. CEO 杉江理
1982年生まれ静岡県浜松市出身。日産自動車開発本部を経て、一年間中国南京にて日本語教師に従事。その後2年間世界各地を放浪、新規プロダクト開発に携わる。また第5回JapanNight決勝進出を果たしている。
過去出場者インタビューシリーズ第1弾はこちら:震災から這い上がった起業家 その経営哲学とは
筆者: Mao Kawashima btrax, Inc
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