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TikTokはどのようにAIを活用してユーザーを夢中にしているのか?【サービスデザイン】
最近TikTokを使っている時間が半端ない。
寝る前とかにサクッと見ようとしても気づいたら1時間以上も動画を見てしまっている。だって好きなタイプの動画が次から次へとおすすめされてくるから。
「こいつ分かってんなー」と思うくらい、まるで魔法のようにツボを押さえたセレクションを表示してくる。それによりプチ中毒になるくらいに毎日かなりの時間をTikTokに捧げている。
それもそのはずで、どうやらTikTokはAIを最大活用し、それぞれのユーザーが最も喜ぶような内容の動画を表示する。それも恐ろしいことにその精度は日々高くなり、ユーザー体験の品質もうなぎのぼりに。
クリエーター側も一つの動画をアップした瞬間に一気に視聴数が上がり、フォロワーもどんどん増える。これもアプリの裏で動く“したたかな” AIによる仕業だ。
そして、調べれば調べるほどTikTokのアルゴリズムの精度の高さや、AIの凄さに驚愕する。
せっかくなので、TikTokはどのようにAIを活用して自分を含む多くの人々を夢中にしているのかをまとめてみることにした。
この記事の要点
少し長くなるのでまずは要点のまとめから。
- TikTokは世界のSNSユーザーの1/3に利用されている
- TikTokは最もエンゲージメントの高いSNSアプリ
- TikTokはユーザーとクリエイターの両方のユーザーエクスペリエンスを向上させるためにAIを活用している
- TikTokのAIはおすすめされた動画を視聴するユーザーの各行動を徹底的に追跡している
- AIが追跡したデータを元にユーザーの個性や感情ををマッピングする
- ユーザーが動画に対していいね、コメント、シェアなどの行動を一切とらなくても、AIは短時間で好みのコンテンツを察知する
- TikTokが活用するこのAIアルゴリズムはYouTubeやInstagramといった競合他社のものよりも優れている
TikTokとは?
念の為、TikTokを知らない人のために簡単な概要を。
TikTokは中国のByteDance社が運営するショート動画SNSサービスで、Z世代などの若者を中心に日本を含め、世界中で大人気になっている。
数あるコンテンツの中でも音楽に合わせて踊るような動画が人気で、TikTokがきっかけでヒットソングが生まれたりすることもある。TikTokの動画クリエイターの中でも、多くのフォロワーを抱えるユーザーはTikTokerと呼ばれ、TikTokへの動画投稿により大きな収益を得ているケースもある。
その一方で、その中毒性の高さや社会への悪影響、そしてユーザーデータの利用に関しての懸念も上がっており、インドや中国では利用が禁止されている。アメリカの一部の州でも利用ができない措置が取られている。
TikTokに関する凄い統計
TikTokの凄さを理解するために、まずはファクトベースの統計データをいくつか紹介する。
- たった4年余りの間に30億回以上のダウンロードを集め、地球上の全てのSNSユーザーの実に1/3が利用している
- 世界のインターネットユーザー48億人のうち、20.83%がTikTokを利用している
- アクティブユーザー数は月間10億人で、これはTwitter, Telegram, Reddit, Pinterest, Snapchatを上回る
- TikTokは最もエンゲージメントの高いSNSアプリで、平均セッション時間は10.85分で、2位のPinterestの5.06分を大きく上回っている
- 2018年1月から2020年7月までにグローバルユーザーベースが1157.76%増加
- 2021年の上半期だけで383万回のインストール数を記録し、非ゲームアプリの中では最もダウンロードされたアプリとなった
- 2021年におけるソーシャルメディアアプリの中で7位にランクイン
- TikTokの親会社 (ByteDance) は2021年8月に2800億ドルの評価額に達し、世界でも有数のデカコーンである
- TikTokクリエイターは最大1億人のフォロワーを持ち、年間最大500万ドルを稼ぐ
- アメリカの月間TikTokユーザー数は現在1億人を超える。これは、アメリカの2億6760万人のモバイルインターネットユーザーの37.36%に相当し、特にZ世代に大人気のアプリである
- 18歳以上のアメリカ人はおよそ14.3億時間をTikTokに費やしたと推定されている(2020年3月のデータ)
- TikTokユーザーの90%は、TikTokを毎日利用している
ユーザーがTIkTokに夢中になるその秘密
TikTokの凄いのは、一度使い始めたらなかなかやめられないところだろう。少しの時間潰しのために開いたら最後、永遠と見てしまう。
実際のところ、TikTokのユーザー利用時間はInstagramやSnapChatよりも多い。しかしこれは必ずしもコンテンツの品質が高いからではない。
その理由は一つ、TikTokがそれぞれのユーザーが喜ぶようなコンテンツを上手に表示できているからに他ならない。
それを可能にしているのが、AIテクノロジーを活用したアルゴリズムと呼ばれる仕組み。TikTokはこの仕組みを使って精度の高い関連動画をおすすめに表示している。
TikTokのAIアルゴリズム概要
- 動画が最初に投稿されると、TikTokはそれを少人数の視聴者に表示
- そのグループがその動画を好きかどうか、視聴するかどうか、共有するかどうかに基づいて、その動画を他の人に推薦するかどうかを決定
- ユーザーの行動(つまり、コンテンツとのやり取り)と言語、使用されているデバイスなどの基本的なデータを分析
- この分析に基づいて詳細なユーザープロファイルを作成し、そのユーザーの中心となる性格特性と興味をプロファイリング
- プロファイルを使用し最も関連性の高いコンテンツとマッチング
- 関連コンテンツを識別には、キャプションの自然言語処理、動画の内容を識別するためのコンピュータビジョン、ハッシュタグや使用された音声、タグ付けされた人物などのメタデータを活用
このTikTokアルゴリズムをざっくり説明したのが下記の図だ。
TikTok AIとその他の類似アプリとの違い
強力なAIアルゴリズム自体は特に珍しい物ではない。FacebookやInstagram, YouTube, Netflixなどのアプリもユーザーエンゲージメントを高めるために、以前からAIを活用している。
しかし、TikTokのAIはユーザーのエンゲージメントを高めるだけではなく、より “中毒” になるように設計されている。
それはテクノロジーサイドだけではなく、ユーザー体験 (UX) にも及んでいる。TikTokのUXは、極力ユーザーが利用する際に摩擦を取り除くようにデザインされている。
例えば、YouTubeであれば検索、いいねやチャンネル登録をすることでサービス側がユーザーの好みを理解するが、TikTokは単純に好きな動画を好きな長さで視ているだけで、どんどんアプリ側がそのユーザーにとってよりよいUXにアップデートされていくのだ。
TikTokのAIはクリエイターも夢中にさせる
TikTokが夢中にさせるのはユーザー側だけではない。クリエイターにとってもかなり魅力的なプラットフォームになっている。
YouTubeやInstagramとは異なり、TikTokではクリエイターが有名になるためには常にコンテンツを定期的に制作する必要はない。一定の期間コンテンツを作成した後放置していたとしても、TikTokが自動的にそのコンテンツをユーザーに表示し、視聴数やいいね、コメントを稼いでくれる。
それにより自己肯定感はMaxに。クリエイター達もよりバズるコンテンツを作ろう、とどんどん夢中になっていくのだ。
TikTokのAI採用するサイコグラフィック予測モデル
このアルゴリズムがユーザーを夢中にさせる大きな要因となっている。ではその中身をもう少し深ぼってみよう。
TikTokのAIアルゴリズムは、ユーザーのプロフィールやデモグラフィーではなく、心情に基づく予測 = サイコグラフィック予測モデルを活用している。
表示された動画にユーザーがどのような反応を示すかで、そのユーザーの性格や感情を分析・予測し、その時の感情に最適な動画を高精度でおすすめしてくるのだ。
「おすすめ」に選ばれる基準
- 動画情報: 動画のキャプション、音、タグ等
- ユーザー情報: ユーザーの好みや、これまでにいいね、シェア、コメントした動画のタイプ等
- デバイス/利用環境: 言語設定、ロケーション、デバイスの種類等
また、このAIアルゴリズムは、クリエイターの動画に映る顔の表情などの内容も察知し、利用中のユーザーの感情に合わせてリコメンドを選出する仕組みになっている。
そして恐ろしいことにそれは顕在的なニーズだけではなく、ユーザー自身も気づいていない潜在的なレベルにまで達し、文字通りそれぞれのユーザーにとって “心がえぐられる” 動画が次から次へとお薦められる仕組みになっている。
TikTokは恋人よりも正確に相手を理解する?
このTikTokが採用しているAIアルゴリズムは、二人の人間が恋人同士になるまでのプロセスに似ている。
最初は知らない人同士、もしくは友達としてスタート。その後LINEや電話でお互いを知る。そして、数回のデートで相手の特性をより掴み取り、何にどう反応するかを理解していく。
その “データ” を元に自分も相手にとって喜んでもらえる言動を心がけるようになっていく。もしくは、興味がなければ他の人を探し始める。
これは相手の価値観、趣味嗜好、バックグラウンド、道徳的傾向、 癖、好みのタイプ、好感ポイント、感情の起伏、バイオリズムなどの個性を「デート」や「交際」と呼ばれるやり取りを通じて相互に理解していくプロセスだ。
通常人間同士だとお互いを理解していくには最低でも数時間から数日間はかかるものであるが、これをTikTokはいくつかの動画を数十分見せるだけでかなり正確に達成する。
相手を理解し、それに最適な対応を予測する。人間関係において最も重要で最も難易度の高い内容をAIはやってしまっているのだ。
スタンフォード大学の教授ミハル・コシンスキによれば、AIは人間よりも性格特性を正確に予測することができる。AIは無関係な手がかりから外向性、開放性、神経症的傾向、協調性、誠実性を正しく評価できるという。
こちらが積極的に行動しなくても理解してくれる
そしてTikTokのAIアルゴリズムが凄いところは、ユーザーが能動的に行動を起こさなくても、知らず知らずのうちにAIが “察してくれる” ところだ。
ユーザーが何が好きなのかを理解する際に必ずしもいいねボタンを押してもらう必要はないのだ。もちろん押してくれれば明確な意思表示としてちゃんとカウントする。
そうでなくても、動画をどのくらいの時間見たか、何度見たか、シェアしたか等々、ユーザーな細かな挙動を刻一刻と記録し、それが好意的な反応だったかそうではなかったのかをしっかりと理解するのだ。
TikTokはまた、ユーザーが使用しているデバイスの種類、デバイスの言語、地理的な位置も抜かりなく研究し、それらのデータを元により相手の好みに合った動画を推奨してくれ、そしてその精度は利用する度に向上していく。
これだけの気遣いのできるTikTok。これは普段「なんで私のことわかってくれないの!」とストレスを感じている人にとってはかなり嬉しいだろう。
ウォールストリートジャーナルがボットを利用した実験を行った
これまで説明してきたTikTokのAIアルゴリズムの仕組みであるが、これらはニューヨークタイムズの調査によって発見された社内ドキュメントをベースに予測したものだ。
しかしどうやら、その仕組みはもっともっと複雑で、そして精度が高いことが、ウォールストリートジャーナルの実験によって分かってきている。
ウォールストリートジャーナルは、何百ものボットを作成し、TikTokの機能やその背後にある熱狂の要因を分析。これらのボットはそれぞれIPアドレスによる位置情報を有していた、性別や興味などの情報はプロフィールに設定していなかった。
TikTokを初めて利用するボットに対して、まず一連のランダムで人気のある動画とあまり人気のない動画が推薦される。その動画を最後まで視たか、スキップしたか、複数回視たかによってユーザーの属性と動画の価値を判別するのだ。
その後、AIはボットがそれぞれの動画を視聴するのにどれだけの時間を費やしたか、一時停止したか、再度視聴したか、動画が終了する前にスキップしたかを細かく追跡していることが判明。
そのボットを利用し、しばらく実験を続けそのデータを分析。その結果、ByteDance社による説明とは異なり、TikTokは何よりもユーザーの視聴時間を最重要視していることが分かった。
そして、それぞれのボットの動きに対して、次から次へと動画を推奨し、その動画に対する上記の “動き” を追跡することで、より精度の高い動画をおすすめに表示する仕組みである。
ウォールストリートジャーナルが突き止めたTikTokのアルゴリズム
この実験を進めた結果、TikTokのAIアルゴリズムに関して判明したポイントをいくつか紹介する。
- TikTokにはコンピュータビジョン、自然言語処理、典型的なメタデータなどさまざまなシステムを活用した強力なAIアルゴリズムを活用し、投稿された動画の内容を検出している
- 分析した投稿動画のデータとユーザーのプロフィール、位置情報、興味データに基づいて動画を推薦する
- ユーザーがプロフィールの詳細設定をしていなかったり、TikTokアカウントを未作成の状態だったとしても、1-2時間程度でそのユーザーの属性を検知することが可能
- 初めはランダムな人気動画を推奨し、ユーザーがより多くの時間を費やすにつれてそのユーザーが好むよりニッチな物に絞られていく
- ユーザーの好みに合致した動画を表示することで視聴数と視聴時間を伸ばす仕組み
この実験の結果、ウォールストリートジャーナルはTikTokのAIアルゴリズムによってユーザーがどんどん抜け出せない “穴” にはまり込んだ中毒者のようになっていくと結論付けている。
AIを活用した中毒性の高いコンテンツの危険性
この実験を通じてTikTokのAIはまるで魔法のように、ユーザーの最も深い欲望や興味を非常に速く学習していることが分かった。
しかし、この技術には欠点も存在している。例えば、ウォールストリートジャーナルの1つのボットは「うつ病」と「悲しみ」を興味として持っている設定だったが、TikTokはそのユーザーが何を好むかを理解するのに約40分かかっている。
最初そのボットにランダムな人気動画を表示。その数分後、ますます悲しいコンテンツを表示し始め、その中には不安や自殺といった極端なトピックも含まれていた。40分間の間にボットに推薦された全ての動画の93%がネガティブな感情を引き起こす内容であり、残りの7%の大部分は広告だった。
このように、TikTokはユーザーをアプリに夢中にさせるだけではなく、ネガティブな内容を好むユーザーにはとことんネガティブなコンテンツを表示するような仕組みになっている。この点も大きな問題であると懸念されている。
まとめ: TikTokは単なるショート動画SNSサービスではなくAIサービスだ
ここまで読んでくださった方はすでにお気づきかもしれないが、TikTokが実装しているAIアルゴリズムはかなりの精度の高さだ。ユーザーとクリエイターの心を鷲掴みにし、「夢中にさせる」というよりもむしろ「中毒にさせる」レベルである。
YouTubeやInstagramなど他の動画系サービスと比べてもそのユーザー体験は凄まじく、コンテンツの量やクオリティーとは別に、TikTokでしか味わえないレベルの快楽がある。
これはもうTikTokがショート動画SNSサービスというよりも、AIサービスと呼んでも過言ではないレベルにまで到達していると思う。
しかしそれは同時にかなりの危険性も孕んでいる。
このようないわゆる”中毒”ともいえるまでの状態を生み出す仕組みは「ブレインハッキング」と呼ばれ、多くのユーザーの人間関係の希薄化や集中力の低下を引き起こす。クリエイター側から見ても「TikTokでバズる」ことに過剰に執着してしまう危険性もあるのだ。
このような問題に対して、サービス提供側が自主規制も含め、AIをどのように制御していくかが重要になっていくと考えられる。この辺はデザイナーとエンジニア達の良識が問われるところだろう。
いずれにせよTikTokのAIアルゴリズムの精度はかなり高く、世界で最も人気のAIサービスだと考えられる。
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