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シリコンバレーの次はシリコンアレー!NYの特徴と注目の理由
アメリカのスタートアップメッカはシリコンバレーだけではない。アメリカ東海岸はニューヨークを中心に広がる、シリコンアレーエリアにも注目してほしい。そこにはシリコンバレーとは異なる特徴と独自の成長がある。
シリコンアレーとは
シリコンアレー(以下SA)は、ニューヨークのスタートアップが盛況なエリアを表すニックネームである。西海岸の北カリフォルニアを中心に広がるシリコンバレー(半導体の素材、シリコンと谷・盆地のバレー)に対して、東海岸ではシリコン「アレー(路地・小道)」でスタートアップやテクノロジーの広がりがあることを表して派生した造語だ。
また、1990年代中頃マンハッタンのフラットアイアン地区周辺に存在した新進気鋭のメディア・テクノロジー系スタートアップを他の企業とは分類する言葉としても使われた。今では、ニューヨーク市の5区全てとニュージャージー州の一部さえもSAに含まれる。
(シリコンアレーの発祥地であるマンハッタン、フラットアイアン地区。画像転載元はこちら)
グローバル・スタートアップ・エコシステム・レポートによると、ニューヨークは世界のスタートアップ・エコシステムの中で第2位の業績を誇り、7,000以上のスタートアップが存在するという。
実はコワーキングスペースのWeWork、自宅ミールキットのBlue Apron、ハンドメイドのマーケットプレイスのEtsy、ファッションサイトのGilt Groupeといった世界でもトップのスタートアップの多くがニューヨークに本社を構えている。メジャーなスタートアップの拠点としてSAを無視できないことは明白であろう。
(大手スタートアップのオフィスマップ。画像転載元はこちら)
シリコンバレーとシリコンアレーの違い
SAは、シリコンバレー(以下SV)同様スタートアップの聖地であり、ハブである。しかし、それぞれ異なる特徴を持っており、特に注目すべき相違点が3つある。SVとの違いに触れながら、SAにはどのような特徴があるのかを紹介する。
1. トラディショナルな業界の問題に取り組むスタートアップが多い
SVは、Google、Intel、Facebookといった超高速チップや先進テクノロジーシステムの開発に焦点を絞ったテック系大手スタートアップが多い。
一方、SAはSVほどテクノロジーのリソースが潤沢ではないが、不動産・金融といったトラディショナルな業界が根強く、これらの問題に対して取り組んでいるスタートアップが大きなインパクトを生んでいる。
又、SAは既存プロセスの改善など、既存のビジネスに存在している問題に取り組むスタートアップが多い。ニューヨークが多くの産業においてリーダーであるということを考えれば、SAのスタートアップがビジネス革新をテーマにしていることは驚くに値しない。
WeWorkは不動産業界へ切り込んだ
WeWorkが格好の例である。そのコンセプトは、ニューヨークの高密度で高額な商業用不動産市場の中で、起業家又は小規模企業が手頃な価格でオフィススペースをみつけなければならないというニーズの中から生まれた。
従来、オフィスを借りるためには、年間もしくはそれ以上の期間での契約が必要とされていたため、フレキシビリティを必要とする個人や小規模企業はオフィスを借りるのに苦労していた。
ただでさえ、ニューヨークの家賃は駆け出しのスタートアップや起業家個人にとって高いため、フレキシブルな契約に加え、リーズナブルな家賃のニーズは十分あったのだ。
この問題を解決する為に、WeWorkが15〜20年の長期契約を直接不動産会社と結び、短期フレキシブルリース契約を起業家又は小規模企業に提供すると言う革新的なアプローチを行った。
これは一例にすぎないが、このようにしてSAのスタートアップは、それぞれの業界が直面している複雑さや問題からヒントを得て、既存ビジネスのあり方を変えようとしている。
2.「現金こそ王様」のマインドセットが残る
SVのスタートアップは、世界を変えるような、より大きい問題に取り組んだり、より壮大なビジョンを掲げることで、急成長や高額投資を達成してきた。
例えば、2017年創業の人工魚肉スタートアップのFinless Foodsは、サステナブルなシーフードを世界中に提供することをミッションにしている。
一方、SAは極端な利益度外視のビジネスを好まない傾向がある。「現金こそが王様である」という考え方は、ビジネスをやる人にとって最初に学ぶことの1つだが、SAのスタートアップにもこの考え方が残っているということだ。
ゆえに、SAのスタートアップのスコープやゴールの大胆さ、既存価値の破壊という本質は、利益に重点を置くことによって和らげられている。
つまり斬新なゴールを追いかけ、何期も連続で巨大な損失を生んでいるような状態は好まれない、現実的な傾向があるのだ。
ニッチなマーケットに絞り、確実に利益をだすことを狙うThe Lobby
(The Lobbyのウェブサイトより)
The Lobbyは、求職者をウォールストリートの銀行家と繋げる、ニューヨークに拠点を置くアーリーステージのスタートアップである。
同社は現役の銀行員と求職者をマッチングし、オンライン電話をアレンジするというとてもシンプルなサービスを提供している。
学歴、経歴などのバックグランドに関わらず、普段コネクションが作りにくい銀行員と話せるという点で、私も個人的に気に入っている。
The Lobbyは金融業界の求人サポートというニッチなマーケットに焦点を当ているが、非常に現実的な収益プランを持っている。
その収益プランというのは紹介料からくる。登録は無料であるが、マッチングする度に紹介料がかかるという仕組みだ。つまり彼らは壮大なビジョンを持つことよりも、対象となるマーケットとビジョンを絞り、現実的な収益モデルを採用することで、早い段階で利益を出せるスタートアップを目指している。
このように、SAのスタートアップが持っているビジョンと利益のバランスに対する考え方はSVのスタートアップと著しく異なる。
3. 株式報酬の支払いが少ない
SAの人員ダイナミックスは、SVとは大きく異なっている。主な違いは報酬方式である。SVはテクノロジーを強みとしたスタートアップが非常に集中しているため、各スタートアップの報酬の方法と方針はかなり似通っている傾向がある。
株による報酬の支払いが盛んなのも特徴の1つだ。
一方、SAには、金融、メディア、ヘルスケアといったように、多様な産業があり、報酬に関するアプローチは業界ごとに異なる。この結果、SAで職を探す従業員は、本質的に同じ職種であっても様々な報酬方式があることに気付くであろう。
また、平均的には、SAのスタートアップは株による報酬の支払いがSVより少なく、基本給に重きが置かれている。
それぞれの報酬構成を見ると、以下の通りだ。
新人エンジニアの典型的な報酬の場合
シリコンバレー: 基本給87%、ボーナス5%、長期的奨励(株など)8%
シリコンアレー: 基本給96%、年間ボーナス4%
この違いの理由は、それぞれの地のスタートアップの平均的なエグゼクティブのプロフィールに由来すると言えるかもしれない。
SAのエグゼクティブは年齢が高めで、テクノロジー以外の業界から来ている確率が高い。彼等はスタートアップに共通して見られる報酬慣例には今一つ精通していなく、株による報酬を支払わない。
ニューヨークというお土地柄を生かした注目のシリコンアレーとその今後
スタートアップの聖地というと、SVが1番最初に思い浮ぶ。しかし、上に述べたようなSAの特徴を考慮すると、SAもイノベーション創出の拠点として注目されるべきである。SVのような、世界トップクラスの自動運転やAIなどの技術力を競争し、持ち合わせている訳ではないが、SAは既存の業界の基準を押し進め、変革を起こしている。
これは何を隠そう、ニューヨークに様々な産業のトップが集まっているビジネスエコシステムのおかげでもある。
とはいえ、SAはテクノロジー分野の競争を諦めた訳ではない。より多くのテック起業家を育てようと教育機関設立も進んでいるのだ。コーネル大学は2017年にマンハッタンのルーズベルト島に5ヘクタール近い、テックに特化したキャンパスを開設した。
いずれは西海岸のスタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校などと競合するような教育機関を目指している。スタートアップをはじめとするハイテク企業は、創業者の出身大学の近くで始まる傾向があり、その意味で、SAは今後、間違いなく競争力を高めていくと期待が高まっている。
(コーネル大学テック・キャンパスの外観。クィーンズボロー橋の真下に建設された。画像転載元はこちら)
現在、SAは「シリコンバレーの弟」のような存在であろう。しかしながら今後、SAが独自のスタートアップ拠点として認識される日はそう遠くない。そして長年のニューヨーカーでありスタートアップ熱狂者として、今後もSAのスタートアップ動向に注目していきたい。
参考:
・It Started With a Jolt: How New York Became a Tech Town
・The mysterious origins of the term Silicon Alley revealed
・Here’s why New York’s tech sector will surpass Silicon Valley’s
・Silicon Alley vs. Silicon Valley: Comparing and Contrasting Compensation Practices
槙野 太介 -Guest Writer- アメリカのスタートアップ・アイデアを紹介するニューヨーク発メルマガFrom the Alleyのクリエーター。注目すべきアーリーステージスタートアップのビジネスモデル、アイデア、ターゲット市場などを解説。アメリカで大手日経企業のM&Aを担当してきたニューヨーク育ちの日系人。市場リサーチ、英語サポートなど、コンサルティングの経験あり |
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