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自動車メーカーのリブランディング分析: Nissan, VW, BMW
- 多くの自動車メーカーがリブランディングを進めている
- Nissanの事例紹介
- VWの事例紹介
- BMWの事例紹介
- 3社のリブランディングにおける主な共通点と展望
- ブランドにおけるロゴの真の役割とは?
デジタルメディアの普及により、UIデザインやブランディングにおけるフラットデザインの採用が進んでいる。その波は最も”物理的”なプロダクトを提供している自動車メーカーにも影響を与え、複数のブランドが軒並みリブランディングを進めている。その中でも今回は、Nissan、VW、BMWの事例を紹介する。
Nissanのリブランディング事例
先日、Nissanが大胆なリブランディングを行った。最も象徴的なのが、ロゴの大幅な変更。このリブランディングプロジェクトでは、これまで20年近く利用されていたブランドロゴを大胆に刷新した。
デジタルファーストのデザインスタイル
それまでデザインは、グラデーションやエンボス等の立体エフェクトを活用し、車両のボンネットに載っているエンブレムを彷彿させた。そのデザインテーマを踏襲しながらも、立体的な物理デザインから、一色によるフラットなデザインに変更された。
このリブランディングプロジェクトは、日産自動車株式会社のグローバルデザイン担当専務執行役員、アルフォンソ・アルバイサの主導によって2017年にスタートした。キーワードは「細さ、軽さ、柔軟性」。
同氏はプレスリリースにて、今回のリブランディングでは、“科学、技術、コネクティビティにおけるブレークスルーによる顧客への根本的な変化からインスピレーションを得た” と語っている。
コネクテッドなライフスタイルに対応
過去20年間で人々の生活が大きく変化した。インターネットを中心に、我々の生活においてスクリーンやデジタルデバイスに接する機会が格段に増えた。
自動車のコネクテッド化もどんどん進んでいる。それに対応するために、Nissanも、デジタルタッチポイントに強いブランドを象徴するのをゴールとしたアプローチである。
例えば、今回新しくデザインされたロゴは、車内でLEDイルミネーションとしてロゴが光った際に美しく見えることも重要視されている。
時代と共に大きく変化をしてきたNissanブランド
今回のリブランディングはかなり大きな変化のように思える。しかし、下記の通り、Nissanはこれまでも時代の変化に合わせて、幾度となくロゴのリデザインを行っている。
他の自動車ブランドと比べてみても、その変更の頻度はかなり高いと言えるだろう。
Nissanの新しいロゴを分析
Nissanのこの新しいロゴは、全般的にかなりポジティブな印象を受ける。時代のトレンドであるデジタルメディアに上手に対応しているし、ロゴに求められる最も重要な要素の一つである、複数の利用シーンでの可視性も高くなった。
細かいポイントを中心に分析をしてみる。
1. メタル感から未来感へ
一つ前のロゴと比べて最も大きな違いは、ロゴから受け取るイメージ。これまでのロゴが3Dっぽさを演出したことで、自動車メーカーっぽいメタルな感じだった。今回のリデザインでは、フラットになったことで、より未来的なイメージを醸し出している。
2. オープンさを上手に演出
これまでは“NISSAN”の文字部分が閉じられた空間内にデザインされていたのに対し、新しいロゴでは開いた空間となったことで、オープンなイメージが演出されている。同時に、“円”の部分との間に絶妙なスペースを設けたことで、無意識のうちに前ロゴとの共通点を確保している。
3. シンメトリー“N”のバランスが良い
このロゴの最も優れている点の一つが、NISSANの最初と最後の“N”とその周りのスペースと、円のエッジ部分とのアラインメントのバランスが共通していることで、Nで始まりNで終わる同ブランド名を優れたデザインに落とし込んでいる。
4. Nの上下の曲線の角度が不安定に感じる
その一方で、気になる点が全く無いわけでもない。では、新しいロゴの懸念点を“あえて”指摘してみる。
一番大きな問題なのは、Nの上下の円から直線をつなぐカーブの曲線が内側と外側で異なることで、微妙に“ズレている”感覚を与え、見る人を少し不安な気持ちにさせること。これはデザイン理論でいう“Tangent”という状態を発生させている。
5. シンプルにしたことで汎用性の高さと環境への配慮を実現
今回のリブランディングでロゴの構成要素を減らしたことで、車両自体以外のより多くの場面で活用可能になった。それによりアナログでもデジタルでも使いやすくなった。また、3D効果を廃止したことで、制作にかかる工程やコストも下がるので、環境にも優しくなっている。
VWのリブランディング事例
フォルクスワーゲン (VW) も2019年に大幅なリブランディングを通じ、ロゴのアップデートを行った。その方向性はNissanと同様に、立体的・メタル感のあるものから、シンプルでフラットなものになった。
New Volkswagenと呼ばれるこのリブランディングプロジェクトには、実に9ヶ月の時間と19の社内チーム、17の外部デザインエージェンシーが関わっている。
プロジェクト責任者でもある同社CMOによると、今回のリブランディングのゴールは、全てのタッチポイントにおいて、より総合的なグローバルブランド体験の創造であるとのこと。新しいロゴは、より人間的で生き生きしたものになり、顧客の視点をより多く取り入れ、本物のストーリーを伝えたいと考えているとも語っている。
自動車のロゴからアプリのアイコンスタイルへ
VWのロゴはその構成要素を極端に減らすことにより、モダンでシンプルなものとなった。それにより、利用における汎用性は格段に上がり、特にデジタルメディアでの利用性は非常に高まっていると言える。
この新しいをロゴ見ると、まるでモバイルアプリでも提供しているアメリカ西海岸のスタートアップっぽい感じがする。以前の記事でも紹介した通り、最近のスタートアップロゴは共通して、アイコン感を演出し、ロゴタイプよりも、ロゴシンボルの方を重要視する傾向にある。
それもそのはず。VWはこれからWeb、モバイルアプリ、Apple Watchアプリなどのデジタルプラットフォームにおいて、複数のブランド展開を進めていく予定なのだ。これは、デジタル・アナログの両方でユーザーに体験を届けようとする同社のモビリティーカンパニーとしての方向性を感じさせる。
VWのロゴ遍歴
ドイツ語で「国民車」を意味するフォルクスワーゲンのブランドの歴史は1939年より始まる。設立当初から、円の中に”V”と”W”の文字を縦に配置しするロゴのモチーフは共通。
そして、時代と共に微調整を重ね、2000年より、メタリックさと立体感を打ち出したロゴに変更し、2012年には、より金属感をました先代のロゴに辿りついた。
VWのこれまでのロゴの変更遍歴を見てみると、そのブランドの一貫性の高さは、自動車ブランド随一と言っても良いだろう。
VWの新しいロゴを分析
では今回新しくなったVWのロゴを少し分析してみる。全体的に最も大きな変化としては、アウトラインスタイルに移行し、フラットになったこと。採用されている色も一色のみで、これ以上削れる要素がないほどに洗練されている。
全体のコントラストが強くなり、可視性も高まった。それにより、利用シーンを選ばない汎用性の高さを獲得したと言える。
加えて、その他の細かいポイントを分析してみる。
1. 重厚感よりも可愛らしさを演出
今回のリデザインでユーザーがイメージ的に最も変化があったとすれば、その可愛さだろう。細いラインを採用したことで、より繊細に雰囲気が醸し出されている。同時に、一つ前の重厚感は無くなり、軽さ、柔軟さ、可愛らしさを演出している。
2. 少し未完成な感じが親しみやすさを感じさせる
このデザイン、プロの視点から見ると、少しアンバランスな部分がある。VとWの間のわずかな隙間や、円の部分と文字の部分のアウトラインの太さの微妙な違い、そしてWの下の隙間などがそれである。おそらくこれはあえてそうすることで、少し不器用な感じで、親しみやすさだしたのではないかとも感じる。
3. “動くフレーム”のコンセプトを上手に活用
ロゴのリデザインに加え、今回のVWのリブランディングで最も特質すべき点は、ブランド全体の異なるタッチポイントを上手につなげたところだろう。自動車ブランドはどうしても、車両とデジタルでユーザー体験が分断されがちであるが、下記のコンセプト動画でも表現されているように、VWは”動くフレーム”のコンセプトで、そのギャップを上手に埋めたと言える。
BMWのリブランディング事例
最後に紹介するのはBMWの事例。同社は2020年の3月にリブランディングを行い、ロゴのアップデートも行った。その結果は、前出の2つの事例と同様に、メタリック、立体的なものから、フラットなデザインになった。
加えて、BMWは、ロゴの背景を透明にするという大胆なデザインを採用した。そして、このアップデートに対して、世界のデザイナーの間で議論が広がっている。
BMWのロゴ遍歴
BMWのブランド名は、Bayerische Motoren Werkeの頭文字を取ったもの。元々は軍用飛行機のエンジンを製造しており、その歴史は100年以上も前の1917年に遡る。その当時はBtoBのビジネスモデルであったこともあり、当初ブランドロゴはなかった。
一般的には、ロゴのモチーフは飛行機のプロペラだとされることが多いが、実は、本社のあったブラビア州のシンボルカラーの青と白を採用したとのこと。ある日、飛行機を掲載した広告を採用したことで、そのロゴがプロペラをモチーフとしているという噂が広がったという。
その後、時代と共に微調整をかけているが、初期のデザインから大きな変更はない。
BMWの新しいロゴを分析
今回のリブランディングでは、デジタルネイティブの若い層をターゲットにし、その層によりアピールするスタイルを採用している。具体的には、立体的なグラデーションを廃止し、思いっきりフラットなスタイルに振った。
そして、顧客に対して自動車メーカーよりも、リレーションシップブランドとしてのポジショニングを優先した事によるリデザインである。同社の100年以上の歴史の中でも、最も大胆なリブランディングと言っても良いだろう。
下記に細かなポイントを掘り下げていく。
1. オープンさと透明性の高さをロゴにも反映
このロゴの最もユニークなところは、BMWの文字が記載された円のエリアが透明になっていること。これは、オープンさと透明性の高さをモチーフとしている。
その一方で、この試作はかなりギャンブルでもある。というのも、ロゴが置かれる背景によっては、ブランド名が読みにくくなったり、ロゴの一貫性が下がるからだ。デザイナー的な視点で見ると、まるでデザインファイルから背景レイヤーを誤って削除したまま出力したようにも見える。
2. 伝統よりもモダンな未来を想起
今回のリブランディングでは、フラットなデザインを採用することでこれまでのBMWのブランドを大胆に刷新した。それにより、100年以上続く同ブランドの伝統を武器にするよりも、より現代、そして未来に向かって進んでいるイメージを与えることができるだろう。
既存のBMWファンの中には多少残念に思う人もいるかもしれないが、これからブランドに接し始める新規ユーザーに対しては、よりフレッシュなイメージを届けられるだろう。
3. インスタ映えを優先
実はこの新しいロゴ、背景などを入れ替えることで、めっちゃインスタ映えする。BMWの公式インスタアカウントでも、動画がアップされている。デジタル時代に最適化されたロゴであると言えると同時に、自動車メーカーの枠にとらわれない同社の意気込みを感じる。
3社のリブランディングにおける主な共通点:
今回大胆なリブランディングを行った3つの自動車ブランドであるが、新しいロゴのデザインディレクションはかなり共通点が多い。この3社の狙いを理解すれば、これからの自動車ブランドの進んでいく方向性も理解できるだろう。
1. デジタルに対応したフラットなデザイン
最もわかりやすい共通点としては、ロゴが全てフラットになっているということ。2000年前後から多くの自動車メーカーはグラデーションを多用し、立体的、メタル、物理的なロゴを採用していた。
それから20年ほど経ち、デジタルが消費者の生活の大部分を占めるようになったことで、ロゴもデジタルに最適化され、フラットになってきている。今回のロゴ全てがデジタルファーストの概念でデザインされている。
2. 重厚感からEV、コネクテッドを連想させるデザインに変化
新しいロゴに利用されている線は3社とも細く、洗練された感じになった。自動車という重厚なプロダクトのイメージから脱却し、より電子的なイメージを想起させる。
これは、自動車ブランドとして、これからはEVや各種センサー、コネクテットといった、デジタルテクノロジーが主流になっていくことを見据えてのリデザインと思われる。
3. 環境への配慮をしたシンプルスタイル
また、ロゴに利用される構成要素を少なくし、利用される色も少なくすることで、環境に配慮しているというメッセージにもつながる。シンプルなロゴは、印刷などの出力を行う際に必要とされるインクや素材を極端に少なくすることができる。
それにより、消費・廃棄するマテリアルを減らすことで、より地球に優しいブランドイメージを与える。
4. 自動車メーカーからモビリティーカンパニーへの進化を伝える
自動車という物理的なプロダクトよりも、デジタルでの利用を最優先したデザインにすることで、自動車メーカーからの脱却を図っている狙いがあると思われる。
同時に、ユーザーとのタッチポイントをよりデジタルに振ることで、新しいファン層の開拓と、モビリティーカンパニーとしてのビジネスモデルの構築を狙っている可能性は高い。
5. 完成よりも常に進化を感じさせる
今回のリブランドにおいて漠然と感じていた共通点が、“発展途上”感。これは決して悪いことではなく、ソフトウェアを中心に、多くのプロダクトが継続的にアップデートがされる現代においては”完成”という概念は無い、自動車ブランドも常に進化していることをユーザーに伝える良いデザインだと感じる。
逆に言うと、“完成した”というイメージは、同時に“進化しない”というイメージを与えかねない。この点においても、今後のデザインの役割も大きく進化していくと感じる。
ブランドにおけるロゴの真の役割とは?
結局、ロゴの進化の真のインパクトは会社の進化と、新しいサービスの価値が消費者に受け入れられるかどうかで決まってくる。
それがうまくいけば、誰も新しいロゴに文句を言う人はいないだろう。一方で、期待値に答えられない場合は、新しいロゴと一緒にブランド価値が大きく下がる可能性もある。
現状における新しいロゴは、それ自体のクオリティーや価値に関係なく、新しい時代の明確なシンボルでもある。それは、最近のネガティブな情勢に対して、より軽く、楽しく、明るい未来を連想させる、ブランドの意思表示としても読み取れる。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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