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こんまりはなぜアメリカでヒットしたのか – ローカライズの秘訣
アメリカで今一番ホットな日本人はおそらく、片付けコンサルタントの近藤麻理恵(アメリカではKonMariの愛称で知られる)氏ではないだろうか。
2019年1月にアメリカの動画ストリーミングサービスNetflixで「Tidying Up With Marie Kondo」(邦題「KonMari~人生がときめく片づけの魔法~」)が世界190カ国で配信されてから、彼女の活躍はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
アメリカのコミュニティ向けサービスを行う非営利団体のGoodWillでは、いらなくなった物や服の寄付を受け付けている。彼ら曰く、このリアリティーショーをみてきた客が増えているという。片付けして不要になった衣類が寄付され、通常より40%増加したそうだ。
さらに最近では近藤氏が40億ドルの資金調達をしているということがニュースがあり、Eコマースへの拡大が予測されるなどさらなる活躍が期待されている。
彼女はなぜここまで広がることができたのか。
もちろん彼女の片付けコンサル手法であるこんまりメソッドが多くの困りごとを解決する優れた商品だったのだろうが、この社会現象を紐解くと彼女が(主にアメリカで)成功するまでに様々なローカライゼーションを行っていたことがわかった。
近藤麻理恵からKonMariへ。アメリカ社会現象を巻き起こすまでの軌跡
まずは日本で生まれ育った彼女が、アメリカでここまでのトレンドになるまでの歴史を振り返る。
彼女のキャリアは幼少期から始まっていたようだ。5歳の時には主婦層向けの生活雑誌ESSEを愛読し、片付けに関する研究を進め、大学在学中には片付けコンサルティングを仕事として開始。そのころに彼女独自の片付け方法である「こんまりメソッド」を発案したそうだ。
大学卒業後は株式会社リクルートエージェントに就職したが、退職を機に片付けコンサルティング業に専念され、それ以降の活動と活躍は以下の通りだ。
2010年 『人生がときめく片づけの魔法』を出版(日本)。2013年にはドラマ化もされ、日本で片付け旋風を呼んだ。
2014年 アメリカで英語版『人生がときめく片づけの魔法(洋題:The Life-Changing Magic of Tidying Up: The Japanese Art of Decluttering and Organizing )』を出版。この本は、世界40カ国以上で翻訳出版され、シリーズ累計1000万部を超える世界的大ベストセラーになっている。
2015年、米『TIME』誌で「世界でもっとも影響力のある100人」に選出
2019年 Netflixにてスタートした冠番組『KonMari—人生がときめく片づけの魔法—』が190カ国で放送中。
現在彼女はアメリカに移住しており、こんまりメソッドを使った片づけレッスンを提供する「こんまり流片づけコンサルタント」の育成も強化している。日本を含め世界30カ国以上ですでに約300名が布教活躍中である。
このようにみていただいてもわかる通り、アメリカには2014年本格的に進出し、ここまでの成功を納めた、まさにスタートアップ的なスケールを達成してきたのである。
こんまり流アメリカ市場向けにローカライゼーション
1. ニーズの背景を理解してこんまりメソッドを提供
こんまりメソッドはユーザー(クライアント)の状況も理解して、コンサルティングをしている。例えば日本の場合、片付けの背景にある多くの悩みは家が小さく、十分なスペースがないという悩みもあったという。なので片付けの際にスペースの有効活用ができるメリットは大きい。
一方でアメリカでは日本よりも住宅は大きく、スペースが主な問題になることは日本より少ないと考えられる。ゆえにアメリカ市場に向けて「狭い空間を利活用できる」という同じメッセージを押し出しても日本と同じ結果は得られない。
むしろ、アメリカの一般的な家庭は、スペースこそあるものの、子供のおもちゃが日本の家庭よりも多いと彼女はいう。基本的にアメリカの方がモノが多くなりすぎているという悩みがはびこっているようだ。
このように、なぜこんまりメソッドを必要としているのか、ニーズの背景を理解することでユーザーへのメッセージやアプローチを変えていけると考えられる。
2. 日本のスピリッツを醸し出す雰囲気・デザイン
アメリカで配信されている彼女のNetflix番組を見ていると、禅の精神やスピリチュアルさを感じるシーンが多々ある。筆者が日本でこんまりメソッドを知った時には全くなかった印象だ。片付けの依頼人と一緒に、掃除する前に正座して、部屋に向かってお辞儀をする。この姿はなかなか趣あるシーンに仕上がっていると感じる。
実際にアメリカの多くのメディアがこんまりメソッドと日本の禅や仏教などの精神と絡めて、その良さを語っている。
アメリカなど西洋の文化の人や日本文化に馴染みのない人にとって、日本の文化が影響したこんまりメソッドは一風変わった、自分たちも取り入れて見たいと思うものだったのではないだろうか。この様ははまるで、日本の消費者が「海外セレブが使うXX」「海外発」といったものに魅力を感じるもののアメリカ版に近いのかもしれない。
また、こういった禅の精神やスピリチュアルな感じは、彼女の本のデザインにも見ることができる。以下は日本(左)とアメリカ(右)のブックカバーデザインである。
日本では魔法のような片付けということで魔法使いがデザインされている。それに対してアメリカ版は青空に日の丸を思わせる赤い丸のデザイン。
アメリカ版タイトルにもMagic(魔法)とあるが、日本語とは若干異なり、魔法使いに限らず、マジシャンも連想される。また、魔法使いは悪行に魔法を使うという印象も強いため、魔女をデザインすることは誤解を招きかねない。
その代わりアメリカ版は、禅のようなメディテーションをしたあとの爽やかさに近い感覚を持てるのではないだろうか。こんまりメソッドを通して片付けし終わったあとの感覚を表しているとでもいう感じだ。
ちなみにこんまり本は40以上の国で翻訳・発売されているが、そのデザインはほとんど異なっている。
3. こんまりブランドの強化とアメリカ市場向けにアジャスト
彼女のアピアランスはかなり徹底されている。まず服装。彼女はファッションの中に必ず白を取り入れている。片付けコンサルとしてクリーンなイメージを保ちたいからだそう。日本でコンサルしていた際は黒いジャケットをきているシーンもあったが、Netflix番組では一度も見ない。
また、彼女は必ずスカートを履いている。彼女自身がズボンにときめかないかららしいが、着ないものを決めることでよりこんまりスタイルが確立しているように思う。いつも〇〇を着ている人というのはその人物をキャラクター化・ブランド化しやすくなり認知に繋がる。
(ドナルド・トランプ大統領にも片付けコンサル。特徴を捉えている)
服装のスタイルとしては、非常に日本人らしい。筆者はサンフランシスコに住んで約4年。アメリカのファッションスタイルに関してもリサーチをしたことがあるが、日本ぽいスタイルという風に位置付けることができると思っている。これは結構日本のキュートな雰囲気を受ける。
面白いのは彼女の、片付けコンサルタントとキュートキャラのバランスだ。白でクリーンなイメージを保ちつつも、日本っぽいキュートなキャラクターも垣間見せる。
また、彼女のメイクもキャラクターをはっきりさせたのと、アメリカの思うアジアらしさを強調させたように感じられる。
もちろん彼女自身が30代の女性になったという部分もあるが、それ以外に加えられた変化もわかる。一番わかりやすいのはつけまつげ。片付けコンサルティングとして、シンプルに、クリーンなイメージを強く押し出しているので過度なメイクは好まないはずだが、つけまつげは例外だったようだ。
これは目元をはっきりさせ、コンサルタントとしてはっきりと意見をいい、アドバイスできるような印象を多少なりとも持たせることができるのではないだろうか。
少なくとも日本時代の写真では子供がアメリカに迷い込んだとも思われかねない。個人の主張をはっきり伝えることが多いアメリカでは、コンサルタントという立場上、プラスに作用したアップデートだったように思う。
また、歯並びも整っている。アメリカでは歯科矯正が日本よりも一般的だ。さらにテレビに出る人ともなれば一層ケアをしている。彼女の歯も、片付けコンサルタントとして、アメリカで人目にでる人として歯科矯正をすることは納得の行動だ。
ちなみにアメリカで生まれ育ったbtrax社員に彼女のアピアランスが「アメリカ化」していると思うか否か聞いたところ、そもそも「アメリカ化」したアピアランスが様々ありすぎるということもあったが、総じてアメリカ向けに日本・アジアの良さが強調されているという印象を受けた。
アジア人が西洋メイクとして行う顔に立体感を持たせるようなメイクではないが、黒目、黒髪や若々しい肌などアジア人・日本人らしさがあるという。
メイクに関しても、全てアメリカの真似をする訳でもなく、日本をそのまま持っておく訳でもない、バランスよく、キャラクターがわかりやすくなるようなローカライズがなされていた。
まとめ:ローカライズの答えはユーザーにある
今回は彼女の今までの成功からアメリカ市場に向けたローカライズのヒントをまとめた。彼女自身もここまでのヒットに驚いているそうで、いくら当事者が新しい市場に向けて準備をしても結局正解はユーザーによるところが大きいことがわかる。
もちろんリサーチなどから自分たちの仮説を持っておくことも必要だが、必ずユーザーに向けてテスト・検証する必要がある。
また、ローカライズは現地に完全に合わせるか、もしくは既存のものを残すかのバランスが問われる。彼女の場合はアメリカ市場にとって意味が通じない、響かない、誤解を招く可能性があるものは変更し、日本的な部分やキャラクターなどはより濃くして残した部分もあった。
このバランスにも正解はないためとにかくユーザーに試してもらい、小さく初めて素早く調整していくことをおすすめしたい。
btraxではサンフランシスコのテクノロジーや新しいサービスに対して感度の高いユーザーにテストを繰り返すことで、商品のマーケットフィットからサービス開発、プロモーションなど行っている。
日本とアメリカの文化やデザインへの理解と共に、一貫した海外展開向けマーケティング戦略が強みだ。ご興味をお持ちの方は、お気軽にこちらまでご連絡いただきたい。
おまけ:今後のKonMari
ここからは筆者の妄想も含むが、彼女の今後の活動からも目が離せない。注目の点は3つある。
①スタートアップのビジネスコンサルへの進出
②ファッション業界への進出
③KonMariコミュニティの拡大とプラットフォーマーへ
①はこんまりメソッドが、スタートアップが活用するアジャイル開発に似ているという意見がすでに出ている。所有しているものを全て見える化し、ときめくものだけを残すというのが、アジャイル開発の「タスクを全て洗い出して、ユーザーにとって一番価値のあるものを優先していく(仕事の簡素化と組織のスピードアップを狙う)」という部分が似ているという。
ベンチャーキャピタルとの接触が増えている中、彼女がスタートアップに対して片付けコンサルする日はそう遠くないのでは。
②に関してはすでにアパレルD2CブランドのCuyanaとコラボしているあたり、ファッション感度の高さが伺える。こんまりメソッドが実現するミニマリズムはファッション業界でもトレンドの1つなので、今後のタイアップの可能性も幅広いと考えられる。
③実はすでに巨大なコミュニティを抱えている。こんまりメソッドサーティフィケートプログラムを受講することで、公認片付けコンサルタントになることができる。公式ウェブサイトでは公認コンサルタントを探すことができ、2019年4月現在、すでに231人(英語圏と見られる)のコンサルタントが登録している状態だ。
さらにコンサルタントたちはそれぞれのストーリーを動画としてサイトに載せている。さらにインタラクティブな要素が加われば、今後、KonMariコミュニティー向けの巨大プラットフォームになるのではないだろうか。
KonMari帝国の今後が非常に楽しみである。
参考:
・15 Facts You Don’t Know About Marie Kondo
・Marie Kondo and the fantasy of a tidy life, explained
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