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なぜイノベーションチームが必要なのか?日本の大企業が抱える課題とは
最近では多くの日本企業が「イノベーション」を取り入れようとあれやこれやと試しているのが見られる。一方で言うは易し行うは難しと感じ始めている企業も多いのではないだろうか。今までの長い歴史や風習がある中で、自分たちだけで変わろうとするのはなかなか難しいことである。
btraxは今年で創業15年を迎える比較的若い会社だが、イノベーション創出のためにデザインを活用することを様々な業界のプロジェクトで行ってきた。しかも日本国内にとどまらず、サンフランシスコを中心としたアメリカでもサービスの提供をしている。
前述のような日本企業の問題も見てきた我々だから言える、
- 日本企業が抱えるイノベーションにおける課題
- 日本企業がイノベーション組織を構築していくための方法
- イノベーションに取り組む人への提言
を今回の記事テーマとさせていただく。
関連記事:「デザイン経営」宣言を宣言で終わらせないための3つの提言
下記はbtrax主催の年次カンファレンス、DESIGN for Innovationから、Jensen Barnesによる『Why large Japanese companies need better innovation teams – 大企業に求められるイノベーションチームとは』のプレゼンの内容から抜粋したものだ。
1.企業が抱えるイノベーションにおける課題
みなさんは10年前の日本のオフィスの光景を覚えているだろうか?およそ10年前、リーマンショックの前は、ほとんどの人がガラケーを使っていた。名刺は今ではシェアの仕方が大分変わってきたが、この時はまだ紙媒体で交換するのが主流であり、FAXも世の中に溢れていた時代だ。
トム・ピーターズの言葉にこのようなものがある。「素早く変化する競争環境についていくためには、過去に変化を憎んできたのと同じくらい変化を愛することを学ばなければならない」。
我々は、技術や環境の変化に伴い自らが変化していかなくてはならないと思いながらも、実は行動に移しきれていないことの方が多いのではないだろうか。
日本のオフィスにおいても、電話はまだデスクの上に置いてあるし、名刺の交換は依然行われている。FAXですらまだ存在しているのだ。技術は確実に進化しているのに、これらは未だ過去の産物として存在している。
しかし、実際に現在起こっている技術・環境の変化はというと、私たちはスマートフォンを片手に動く絵文字やgif画像を送信してコミュニケーションをとり、オフィスの光景も以前とは全く違う。
このような変化が起こったのは、イノベーションによる力が大きい。Uberはユーザーに車を一台も所有させずに移動を可能にする事で、あっという間に我々の交通手段を変えてしまった。Uberのイノベーションから生み出されたような大きな変化こそ、今企業が求める変化である。
近年大企業は、積極的に企業を買収することはあっても、新しいものを生み出しておらず、一際目立つようなイノベーションは生まれていない。たくさんの企業が素晴らしい取り組みをしているとは思うものの、それは企業が本当に力を入れていくべきことではないように感じざるをえない。
計画とコントロールによるマネジメントの限界
この100年に渡りマネジメントの実践において、予測可能な成果を得るための手段として計画とコントロールが強調されてきた。
企業は変化に適合するためのイノベーションを求めながらも、それを実現するにはあまり有効ではないマネジメント理論で経営を行ってきている。これが現在の企業の成長を妨げているのだ。
関連記事:大企業が知っておくべき イノベーション創出に必要な5つの起業家マインド
この現状に苦しむのは日本企業だけでなく、世界的な大企業も同じだ。下の図を見ていただければわかる通り、ウォールマート、コカコーラ、フォード、ダウ・ケミカル、東芝などといった世界的大企業の4年間の成長率は1%以下に留まっている。
これらの企業が買収などの積極的行為を行っていないわけではない。しかし、成長率の面でスタートアップに太刀打ちできていないのが現状だ。
ここで伝えたいのは、従来のマネジメント方法が悪いということではない。従来のマネジメント方法が重きを置く「計画や予測」といったものは企業の成長を最適化させるためにあった。しかし、今企業が求めているものは最適化ではなく、変化に適合することであり、異なるマネジメント方法が必要だ。
トム・ピーターズはこの企業における問題を80年代前半にすでに予想していたが、30年以上たった今でも我々は未だ変化への適合に奮闘している。
日本企業が今までたくさんの素晴らしいイノベーションの施策を行ってきたのは事実だ。イノベーションラボや、アクセラレーター、インキュベーター、デジタルトランスフォーメーション、COE(センター・オブ・エクセレンス)、デザイン思考、アジャイル開発など。
これらの施策は、企業の変化への第一歩としては有効だが、我々が求めるべきはより大きな変化だ。
会社員の視点だと、イノベーションラボへの配属は出世の妨げになることだと思われている。企業は、どうしたら面白くて魅力的なプロダクトが作れるか、どのように育てていくか、どのように取り扱ったらいいのかわからないという問題に直面しており、適切な人材をイノベーションラボに配置できていない。
実際CEOを含め誰もがイノベーションラボをどう活用すればいいかわからないというのが現状だ。つまり企業は、イノベーションという「小さな成果」への接し方がわからないのだ。
大きな成果より小さな成果を愛する覚悟があるか?
では、日本の大企業がスタートアップのように急激な成長を得るにはどうしたらいいのだろう。それは、企業が「小さな成果」を「大きな成果」と同じように愛する覚悟を持つことである。
ここにおける「小さな成果」とは、企業における新しいイノベーションを指す。それに対して「大きな成果」とは、企業が持つコアのサービス、プロダクトのことだ。
日本企業の問題点は、この成長過程にある小さな成果、つまり新しいイノベーションの将来性を顧みず、企業のコアサービスと比較してしまうことだ。
無意味な比較を止めるために、これらの2つは全く異なるということを企業がきちんと認識しなければならない。まず企業のコアなプロダクト・サービスは大きな成果をより大きくしていくことが必要がある。それに対しイノベーションは、新しいものを大きく成長させることが重要だ。
そのため、社内のイノベーションチームにコアサービスやプロダクトと同じルールを導入してはいけない。イノベーションチームに大きく成長してもらうためには、通常の事業とは異なるルールや判断基準を設けるべきだ。
具体的には、真の起業家精神を持ってチームを動かすことや大企業内でベンチャー方式の投資を行うことで、変化のリスクを強みにするための新しいマネジメント手法を実践していく必要がある。
2.日本企業がイノベーション組織を構築していくために必要な方法とは?
社内スタートアップに権限と独立した環境を与える
企業をイノベーティブにするための解決策としては、少人数で構成された、部署や役職にとらわれないクロスファンクショナルなチームで、社内スタートアップを始めることだ。その際企業が留意する点は2つある。
まず企業は、社内のスタートアップを支援をするために、彼らに独自の権限と独立した環境を与えなければならない。会社が与えるべきタスクは「新規ビジネスを成功させる」ことのみで、基本的に彼らのやり方に任せ、セーフティネットとして彼らの必要な資金と資源を提供する。
これにより、スタートアップチームが望むやり方で、実現可能な新規ビジネスを追求することができる。
次に、イノベーションチームに適切な人材とは、ルールを守り求められる形で成果を出す従来的な「デキる社員」ではない。本来スタートアップに入れるべきメンバーは、今まで居場所のなかったはみ出し者たちだ。
彼らは常識を疑い、自らの頭で考え顧客の潜在的な問題を解決しようとするなど、結果的に会社のためになることを行ってきたにも関わらず、ルールを破ったことではみ出し者として扱われてきた。
関連記事:世界を変えているのは頭の良い不良たちだ
このように、企業のコアな事業部などで評価されることは、スタートアップでは通用しないことが多い。そのためマネジメントは新しいスキルと異なるマインドセットを持つべきだ。
では、具体的に企業がどのようなスキルやマインドセットをもち、どのような行動を起こすべきなのかだろうか。以下で詳しく説明しよう。
3.イノベーションに取り組む人たちへの3つの提言
1. トップマネジメントへの提言:失敗を妨げるマネジャーを追放せよ!
あなたが企業のトップの立場にいる場合、まず最初に、失敗を避けるようなマネージャーを解雇しよう。これは企業のトップマネジメントしかできないことだ。
実際にマネージャーはお金を管理しているし、何より失敗をネガティブなものとして捉えるような環境にしてしまうと、人は失敗を隠そうとしてしまう。平然とした顔をしていても、実は失敗を隠し、平気なように見せているだけかもしれないのだ。
トップマネジメントのネクストアクション
- 保守的なマネージャーの10%を解雇する。
- 会社に合わないミスフィットな社員のチームに投資する。
- アイディアを持つ10つのチームやメンバーに投資していく。
2. イノベーションマネジャーへの提言:「正しい」ことを求めるな!
イノベーションプログラムを実行している、もしくはイノベーションプログラムのマネジャーは、「正しいことに依存している」状態を認め、自分がいつも正しいとは限らないということを認識することが大切だ。
人は正しくあることにこだわりを持ちがちだ。特に日本人は社会的なルールに厳しく、「正しく」あることはもはや義務のように感じてしまうことがある。
しかしながらこれは深い洞察の妨げになるほか、個人のバイアスによってチームメンバーやイノベーションラボに対し意見を押し付けてしまう可能性がある。これではイノベーションラボが階層を重視する大企業のようになってしまい、本末転倒だ。
イノベーションマネジャーのネクストアクション
- 確実なことを求めるのではなく、新しく学ぶ姿勢をもつ。語るのではなく、質問する。
- 何を学んだのか?
- なぜそう思うのか?
- 新しく学んだことから次にどう繋げていくのか?
3. イノベーションチームへの提言:チームの生産性が何より大切!
社内起業家、もしくはマーケティングや新規事業開発など、常に新しいものを生み出すことを託された部門に所属する人は、個人ではなくチームの生産性を重要視すべきだ。
米カリフォルニア州のバスケットボールチーム、ゴールデンステートウォリアーズをご存知だろうか。強豪チームの一つとして有名なゴールデンステートウォリアーズだが、メンバーの中には一際パフォーマンスが良いプレーヤーが数人いて、全員が並外れた能力を持っているというわけでは決してない。
彼らは全員、常にチームであることを念頭に置き行動をしている。つまり彼らは全員がチームで勝つという意識を持ってプレイしているのだ。強いプレーヤーだけを活躍させるようなプレイの仕方ではなく、チームプレイを第一に考えることが結果的に全員の強さを引き出しているのだ。
イノベーションチームもこのように、個人ではなくチームとしての有効性を念頭に置くことで、より良いチーム構築や高いパフォーマンスが期待できる。
イノベーションチームのネクストアクション
- サービスの開発状況を可視化し、自分なりの指標をトラッキングする。
- ピボットするかそのまま続けるか判断する場を設ける。
- リーンスタートアップに関する知識を身につける。
- デザインスプリント
- リーンキャンバス
- プロジェクトプロポーザル
- バリデーション・メトリックス
関連記事:【デザインスプリント入門】話題の高速サービス開発法とは
まとめ
変化に強いチーム作りが鍵
下記の図はコーポレートイノベーションを取り巻く環境を示しているが、企業を取り巻くイノベーション環境はとても広大かつ複雑で、乱雑な状況にある。しかし、我々が、特にCEOが求めているのは企業の成長だ。
イノベーションのトレンドを理解しマインドセットを身につけることは、目の前のプロダクトやサービスを劇的に変えるための短期的な解決策ではなく、その先には、みなさんの会社から世界に羽ばたくイノベーションが起こり、社会に「大きな」影響と変化をもたらす未来があるのだ。
変化のスピードは、これからどんどん速くなっていく。つまり、これから先を考えた時、今が一番変化の速度が遅い時期ということになる。
我々に与えられた選択肢は二つだ。変化に敏感で、素早く対応できるチームになるのか、それとも変化を恐れ、常に緊張した、受け身なチームになるのか。我々としては、皆さんにぜひ前者になってほしいと願うばかりだ。
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