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2人のインターン生が与えてくれた事
我がbtrax (ビートラックス) 社では、会社設立の7年程前より、正社員登用を目指すサンフランシスコの地元デザイナーインターンの他に、定期的に日本からインターン生を受け入れている。
通常は夏休みの時期を利用して、大学生が2-3ヶ月の期間で応募してくるケースが多い。その一方で、知人の紹介等やサイトからの問い合わせ経由で不定期に応募を受ける事もある
先日6/28に開催されたJapan Nightは4月から始めた2人のインターン生を中心に企画/運営され、大成功を治めた。今から考えると、彼らがいなければ、イベントの開催自体が不可能だっただけではなく、現在の会社の方向性が変わっていただろうと思える程に、今回の2人の存在は、会社自体そしてその経営者に対して大きな影響を与えた。
対照的な2人のインターン生
今回受け入れたインターン生は2人。それも全く同じ日のスタートで終了日も1日違い。任せるプロジェクトも同じという事もあり2人で一つのプロジェクトチームを組んでもらう事にした。実は面白い事にこの2人は何もかもがあまりに対照的であり、結果としてその違いがお互いを補い合い、多大なるシナジーを生み出す事となった。
完全無欠のエリート: T
2011年初頭に日頃よりお世話になっている留学サポート業社よりインターン希望生の履歴書が送られて来た。通常は在学中の学生や社会人経験者が多いのだが、今回の応募者は春に大学院卒業予定で内定先も決定している。それも慶応大学>東京大学院である。今までも慶応大学の学生をインターンとして何人か受け入れて来たが、大学院卒それも東大は初めて。
アメリカの企業向けには珍しく彼の履歴書には本人写真もバッチリ添付され、それがかなりのイケメン。通常はSkype等で面接を行ってから採用の有無を決定するのだが、履歴書に記載されている今までのインターン経験や、本人の写真から伝わってくる自信と真剣さを感じ、”うちの会社なんかでよろしければ、採用させて頂きます。” と伝えた所、”本人は御社でのインターンを希望しています。” との返事が来た。異例の面接無しでの採用をしたのは、経営者としての”勘”であったが、後日それが全くを持って正しかった事に気づかされる事ととなる。
あか抜けない叩き上げ: F
上記の非の打ち所がないTと対照的なのが、もう1人のインターンF。2月の末頃に大阪でベンチャー企業を経営している知人より、”面倒を見てほしい人間がいるから一度話を聞いてやってほしい” とのメールが入った。どうやら3月12日に開催されるJTPAシリコンバレーカンファレンスに参加するので、そのタイミングに合わせて面接を希望しているとの事。
実際に社会人経験が数年あるので、面接の際には彼が会社に対し何が出来るのかをプレゼンしてもらう事にした。こちらに来るのが初めてという彼がどれだけのガッツがあるかを見定める為に、空港に到着後その足で会社に来てもらうという、無茶振りをした。実は彼は僕が日本語が出来る事を知らされておらず、機内での10時間英語でのプレゼンの練習をしていたらしい。
実際の面接の際にあか抜けない雰囲気の彼から伝わって来たのは、”真剣さ”。数年勤めて来た会社を退社した程の覚悟が感じられたので、面接直後に採用を即決したが、その時はその後のトンデモ事態は想像できなかった。
そして運命の3ヶ月が始まった
4月初頭より上記2人を受け入れたのだが、去年の後半よりスタッフの数が急激に増えたので、スペースの問題で、やむを得ず彼らは社長室にて勤務してもらう事にした。初日よりエリートのTはバッチリスーツ。事前に服装は自由である事を伝えてあったが、さすがこの辺は抜かりがない。
彼はオンラインマーケティングにとどまらず、経営やイノベーションを起こせるプロジェクトに関わって行きたいとの事。彼には僕の横でまずは会社のサービスやビジネスモデルを知ってもらう事にした。
一方Fは当初1ヶ月と考えていたインターン期間を3ヶ月に予定変更し、奥さんと7ヶ月の赤ちゃんもアメリカに連れて来た。全体ミーティングにてスタッフに紹介した際に発覚したのだが、彼は英語が苦手である。それは恐らく日本人の平均英語力よりも低く、スタッフとのコミニュケーションがままならないレベル。
これでよくアメリカに来る気になったのが不思議な位。英語力はともかく、Fは日本の制作会社でWebディレクターとしての経験やデジタルハリウッドに通ったりもしているので、まずはサイトの制作や更新に関わるプロジェクトをお願いした。頼んだサイトを見てみると、レイアウトが1ピクセルずれている。
それを指摘した際に返って来たのが、”俺、デザイン出来ないんっすよ” の一言! また、彼によるとこの位の”ずれ”は前職では許容範囲だったとの事。アメリカの職場だと通常WebディレクターのポジションはWebデザイナー職を一通り経験しているので、基本的なデザインやコーディングの技術はあるのが一般的で、当然彼にもそれを期待していた。
仕事のプロセスやスピード、クオリティー等、この辺では常識とされている事がとにかく彼には驚きだったらしい。仕方無いので、彼には社内のデザイナーと一緒に仕事をしてもらったのだが、とにかく英語が話せないので、何度と無く僕が通訳として呼ばれるはめに。正直この時は完全な人選ミスだと思った。
好対照なスタート
考え方が超ロジカルで無駄を嫌うTが、会社における既存のビジネスモデルを一通り吸収した後で、新規事業開発を始めるにあたりまず始めたのは、オフィスにあるホワイトボードを全て利用する事。点在するホワイトボート3点を全て社長室に持ち込み、これから海外進出を目指す日本の企業向けサービスに関するアイディアを書き留める。
経営者としての僕の意見やアイディアに対しても、臆する事無く沈着冷静な姿勢で、”それは違いますね”の一言。こちらはこの仕事を10年近くやって来た自負があり、間違っていないはずだと思うが、冷静に聞いてみると彼の意見が正しい事が理解出来る。彼が長けているのは理論的思考だけではなく、その行動力である。
必要となれば、がんがん電話でアポイントを取り、場合によっては日本に対しても速攻コンタクトをする。イベントスポンサー獲得に対しても、電話一本で日本の企業との商談を成立させてしまった男なのである。頭脳明晰+行動派。世の中にこんなに凄い奴がいるのかと思った。大手外資系コンサルに内定が決まっているのも不思議は無い。
一方で日本でのサラリーマン経験があるFは、経営者に真っ向から反論するTを見てかなりヒヤヒヤだったらしい。しかし、アメリカでは意見に対して反論しないスタッフは無能だと判断される為、Tは社内では大好評だった。Fは英語に苦労をしながらも慣れない環境に少しずつ馴染みだしていた。
最初の一ヶ月間は比較的おとなしくしていたが、大手企業や投資家とのミーティング等が入ると必ず “僕も行っていいっすか?” と便乗。この辺はさすが大阪から来た男である。その彼が滞在一ヶ月程経つ頃に一言、”俺、明後日から滞在する場所無いんっすよ。” 確か彼は家族連れである。
短期滞在用の物件をCraigslistで探し、メールを出していたが返事が全く来ない。内容を見てみると文章が固過ぎる。切羽詰まっていたので、代わりにメールを書き、アポイントを取った。土曜日の早朝から一緒に物件を見に行き、即決で部屋を決めた。この一連のプロセスの中で彼は完全に傍観者だった。
社長室がスタートアップに
彼らが社長室で仕事をしてくれたおかげで、会社の経営や新規サービス開発やイベント企画に対し、じかに手伝ってもらう事が出来た。特に日本の企業向けサービスに関しては、Fが2ヶ月目頃からめきめきと実力を発揮し始めた。日本のネットベンチャー業界や、新鋭Webサービスの知識とネットワークが豊富な彼は、有益な情報やコネクションを紹介してくれたりした。
彼は相手の言う事をしっかり聞き取り、完全に理解した上で、日本の企業が求めるサービスに対し鋭いアイディアを提供する。Tはビジネス的な側面から、レバレッジの利くロジックを組み立てて行く。コンサルバックグラウンドの彼は、”インセンティブが無いっすねー。戦略的シナジーが必要です。”等の業界用語を駆使している傍ら、Fは”やっぱザギンが良いですかね?” と別の業界用語を使っていた。
3人でのブレインストーミング
新規サービスやイベント開催に関して3人で話しているうちに、一日の時間は一瞬で過ぎ去っていた。日本の企業をどのように世界に羽ばたかせるかというかなりチャレンジングな目標に対して、3人が本気でぶつかりながら、あらゆる角度から考える日々はいつの間にか、全ては可能である、と思い込んでた会社立ち上げの頃の感覚を思い出させてくれていた。
他のスタッフが帰っててしまい静まり返ったオフィスで、ブレインストーミングが繰り返し行われた。彼らのおかげで、タコ部屋状態になってしまった社長室で、まるでスタートアップのファウンダーがディスカッションを行う様な濃密な時間を過ごす事が出来た。
不器用なFに気づかされた事
完璧な学歴で、無駄を嫌う希有な天才戦略家Tと比べ、一見多少見劣りするFから得た物は実は大きい。彼は不器用ながらも、仕事に対しては誰よりも純粋な姿勢で取り組み、些細な事でも会社に取って良い事があれば、”それかなり来てますね” と、自分の事のように素直に喜び感動する姿は、経営者として大きな励みになった。そしてなにより、この会社の日本に対してのプレゼンスアップに多いに貢献してくれた。
サンフランシスコの街に誰よりも憧れの強い彼は、ここでWeb関連のビジネスを展開している事、この会社のサービスが日本の企業に対してどれほど大きな価値があるか、そして彼自身の素晴らしい日々を (多少美化しながらも) ネットを通じて日本に伝えて行った。
恐らくこのブログを多くのユーザーに読んで頂けるのも、彼のおかげである。彼のWeb系ビジネスに対する誰にも負けない情熱を見ていると、世の中に仕事に対してこんなに真摯な奴がいるのかと思った。また、実はかなりの勉強家であり、特にこの業界の事に関しては、誰も知らないような情報も知っている。結果的にFは僕を経営者として成長させてくれた。
会社を羽ばたかせた左右の翼
彼ら2人が来るまでは、このbtrax (ビートラックス)という会社の主要クライアントはアメリカ企業であり、日本国内での知名度はほとんど無かった。これは経営者としての能力不足が故にしっかりとしたビジネス/サービスプランが確立されていたかったのが原因である。彼らは経営者に欠けていた部分を補い、ビジネスに対する考えを研ぎすます事も教えてくれた。
また、サンフランシスコ/シリコンバレーの地元の投資家や起業家にも積極的にコンタクトをしてくれた事により、ネットワークもかなり広がった。それにより会社の日本に対する大きなプレゼンスアップや、より魅力的なサービス提供が可能になった。SF New Tech Japan Nightに多くの応募者、スポンサー、メディアを獲得出来たのも言うまでもない。
おそらく2011年4月からの3ヶ月間は僕自身にとっても、人生で最も濃厚な期間であったことは間違いない。3人が集まった時の、パズルのピースがバッチリハマったような感覚は、この世に不可能は無いのでは無いか思える程だった。ここはインターン生を特別扱いしない主義の会社ではあるが、仕事を通してここまで大きな絆を持てたのは、これ以上ない喜びである。
今後仕事を通しクライアントに対してより良いサービスを提供することで、彼らが与えてくれた多くの事柄に恩返しをして行く所存である。そして近い将来また一緒に仕事が出来る事を楽しみにしている。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
ps. 上記で紹介したFとは、現在GoodpatchのCEOとして破竹の勢いで活躍している土屋尚史である。
【イベント開催!】Beyond Borders: Japan Market Success for Global Companies
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■開催日時:
日本時間:2024年12月6日(金)9:00
米国時間:12月5日(木)16:00 PST / 19:00 EST
*このイベントはサンフランシスコで開催します。
■参加方法
- オンライン参加(こちらよりご登録いただけます。)
- 会場参加(限定席数) *サンフランシスコでの会場参加をご希望の方は下記までお申し込みまたはご連絡ください。(会場収容の関係上、ご希望に添えない場合がございます。予めご了承ください。)
- 対面申し込み:luma
- Email(英語):sf@btrax.com
世界有数の市場規模を誇る日本でのビジネス展開に向けて、貴重な学びの機会となりましたら幸いです。皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。