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イノベーティブな米国スタートアップ5選
テクノロジーの分野では、VRや360度カメラの一般普及に始まり、ソーシャルメディアなどでのライブストリーミングや、チャットボット、アレクサのような声を用いてインターラクションを図るサービスが多く登場した。また、APIやAI技術を利用したサービスの開発も昨年同様トレンド。
そんな革新的なアプローチでサービスを展開して話題になったスタートアップとして、freshtraxでは以下の5社に注目した。
- Forward:テクノロジーを駆使し、予防医療を浸透させる未来の病院
- Lemonade:もう面倒なことはなし!AIと行動科学を利用した住宅保険
- Aspiration:最新フィンテックが気になる人は要チェック!金融業界不信を払拭するエシカルなオンライン銀行
- Voyage:セルフドライビングカーの普及を加速する無人運転のタクシーサービス
- THINX:社会のタブーに挑戦する女性用下着ブランド
各社の詳細を見ていこう。
1. Forward:テクノロジーを駆使し、予防医療を浸透させる未来の病院
年始から各メディアを賑わせたのは、AIなどの最新テクノロジーをふんだんに取り込んだ全く新しい病院Forwardのオープンだった。2016年に設立したForwardは、2017年1月に最初の病院をサンフランシスコにオープンしたのに続き、11月にはロサンゼルスにも進出した。
Forwardは月額$149で、最新医療サービスが受け放題。アメリカでは、保険の制度が少々面倒だが、Forwardの医療システムには保険会社が存在しない。つまり、支払いを含めた全てのサービスがForwardの中で完結しているため、月会費以上にコストが発生しないのである。
検査を受けた場合でも、従来の病院のように別の場所に検体を輸送することなくその場で結果が出るし、処方された薬もその場で受け取りが可能だ。またアプリを使って、24時間いつでも医療スタッフと連絡が取れるので、ちょっとした不安もすぐに相談できるのが心強い。
これだけ見ると病気になってから訪れる従来の病院が進化しただけ、というようにも見えがちだが、実はForwardが目指すのは、「治療医療から予防医療へ」の世界。2017年から始まった新政権によりオバマケア(Affordable Care Act)が廃止されようとしているアメリカでは、予防医療は特に注目されるキーワードだ。
例えばForwardはコアサービスの1つとして、アプリやデータを用いたパーソナルなヘルスケアプランを対面でじっくり考え、実行に移すのをサポートしている。平常時のデータを蓄積しておくことにより、体に不調が起こった時にはより効果的に診断や治療が受けられる。さらに医師との面会時間は従来の病院では平均15分のところ、Forwardでは45分だそう。
そんなForwardの”店舗”は、まるでアップルストアのような出で立ち。足を踏み入れると、タッチパネルを取り入れたIoT製品が並び、壁に書かれた「Design Your Helath」という文字が目に飛び込んでくる。
入会してまず最初に対面するのがForwardのボディスキャナーだ。その場に立って指で数秒ボタンに触れるだけで、スキャナーが身長、体重、体温、心拍数、血圧、その他の情報をあっという間に検出し、個人データバンクに送信する。このデータは、AIを併用しながら今後の健康管理や医療サービス、診察、判断のために使用され、病気の早期発見に役立たれていく。
また、採血時には血管がどこに走っているかをひと目でわかるようにする赤外線ライトが登場。採血を何度も失敗され、痛い思いをするなんてこともこれで無くなるはず。さらに、Forwardの聴診器なら、洋服の上からでも心音が聞こえるため、もう医師の前でシャツを脱ぐ必要もない。病院を訪れるまでのちょっとした心の障壁も、これらの最新機器が取り払ってくれるようだ。
従来の「病気になってから治療を受ける場所」というこれまでの病院のあり方を「病気になる前にメンテナンスをする場所」という概念に移行させることで医療問題の解決に立ち向かうForward。今後この形態がどこまで浸透するのか、2018年も引き続き注目したい。
関連記事:サンフランシスコのVCも注目! バイオテクノロジー関連のスタートアップ4選
参考:
Forward, a $149 per month medical startup, aims to be the Apple Store of doctor’s offices
Forward brings its personalized healthcare service to Los Angeles
2. Lemonade もう面倒なことはなし!AIと行動科学を利用した住宅保険
今年トレンドとも言えたのがAPI やAIを利用したサービスだ。日本ではまだこれからだが、アメリカをはじめ、ヨーロッパ諸国、インド、オーストラリア、韓国などでは、政府として銀行や保険、支払いの分野でのAPI利用を推進する動きがすでに広がっている(*1)。
LemonadeはAIを組み込む事でこれまでには存在しなかったような気軽な住宅保険サービスを実現し、自社サービスの仕組みをAPIとして提供したことで2017年、注目を浴びた企業だ。
まず申し込み手続きが非常に簡単で、なんと1分で完了してしまう。 申し込み時に打ち込む、利用者の住所や部屋の階、また犬を飼っているかどうかなどの質問の答えをもとにアルゴリズムが、犯罪に遭う可能性等を計算した上で費用を瞬時に割り出すのだ。
損害が出た場合にはアプリを通してチャットボットに状況を伝えることができ、すぐに支払いを受けることが可能。これまでの面倒な、保険会社とのコミュニケーションはAIによって一切省略化された。
また面白いのが、その損害状況の伝え方だ。Lemonadeでは、ユーザーに損害状況を携帯のビデオで自撮り、つまり自分の顔を入れながら撮影して送信させるという手法を取っている。これは、行動科学で示されている「人は鏡に映った自分に対して嘘をつくことが難しい」という研究結果に基づいたものだそう。
インターフェースもとてもポップで、これまでの保険の概念を覆しながらも、その効率性や信憑性をあげることに成功しているLemonade。日本にはまだ対応していないようだが、ウェブサイトを是非のぞいてみてはどうだろうか。
参考:
An Insurance Company That Homeowners Actually Might Love (Seriously)
Kleiner Perkins Fintech Trend 2017 (*1)
3. Aspiration 最新フィンテックが気になる人は要チェック!金融業界不信を払拭するエシカルなオンライン銀行
金融業界に対する信用度は、各業界の中でも最も低い。2017年のEdelman Trustの調査によると、金融業界を信用すると答えた人は56%で、食品・飲料業界の66%、テック業界の75%と比べても明らかに低いだ。こうした「信用できない」イメージの払拭にアプローチするのが新しいオンライン銀行のAspirationである (*2)。
Aspirationは通常のオンライン銀行同様、預金、借り入れなどの業務や投資サポートを行う金融会社だ。従来銀行との大きな違いの1つは、銀行に対して支払う手数料の設定は消費者に任せられる点($0から可能!)だ。
創設者のAndrei Cherny氏は、会社設立以前、政府の金融部門でキャリアを積んでおり、大手の投資銀行等が必要以上の手数料を取っていることを問題視していた。その経験が、手数料設定を消費者に一任するビジネスモデルを実現させた。
また、Aspirationの最大の特徴としてAIM(Aspiration Impact Measurement)スコアが挙げられる。これは、消費者がお金を投じた企業のサステナビリティ度を示すもので、Aspirationの口座の預金を使って商品やサービスを購入するたびに通知される。このスコアは、企業が従業員にどれだけ優しいかを示すPeople score(経営者の収入に対する社員の収入の比率や福利厚生等)と社会や環境にどれだけ優しいかを示すPlanet score(環境への配慮や社会貢献度など)から計算されている。
また、このスコアはそのままサービス利用者のAIMスコアに反映され、利用者はどれだけ自分が社会のサステナビリティに貢献しているかを数値として確認することができる。
「アメリカ人は1日に360億円も消費しているのに、その判断軸は金額、利便性、品質のみだ。これからの時代は、 コンシャスネス(社会への意識)もその判断軸に加わっていく。その判断を簡単にできる方法が必要だ」ーAndrei Cherny氏(Aspiration創設)
ミレニアル世代が支持する価値観として、度々あげられるサステイナビリティという概念。筆者の住むベイエリアでも、自分だけではなく社会にもGOODを還元したいという価値観への支持がどんどん高まっているように感じている。こういった考え方を持つオーディエンスのライフスタイルをAspirationはサポートしている。新しい時代を生きる人々の価値観を先取りしてサポートするAspirationのアクションはまさに革新的であると言えるだろう。ちなみにAspirationは連邦預金保険公社(FDIC)にも承認されている信頼できる銀行だ。
関連記事:【日本はまだまだ遅れている】日米の金融・フィンテック 【対談】マネーフォワード 辻庸介+瀧俊雄×Brandon
参考:
Aspiration Taps $47 Million for Conscientious Banking
A radical finance firm has an app that’ll show you the impact of all of your purchases
Kleiner Perkins Fintech Trend 2017 (*2)
4. Voyage セルフドライビングカーの普及を加速する無人運転のタクシーサービス
乗用車の自動走行は2017年に上がった大きな話題の1つ。昨年秋に自動走行トラックの OTTOがコロラド州で世界初の自動走行車の公道走行を成功させたことに続き、2017年は実社会での実用化に向けた動きが大変盛んだった。
Voyageは、無人タクシーサービスの実現に本気で取り組む2017年設立のスタートアップだ。Voyageは、シリコンバレー発のオンライン大学Udacity からスピンアウトした企業で、AppleやGoogle出身のメンバーで構成されている。(現在Udacityでは、プログラミングやデータサイエンスのみならず、自動走行車のエンジニアを育てるための講義も開講している。)
彼らのサービスが野心的であるとされる理由は、セルフドライビングのメカニズムだけではなく、タクシーが客を拾って目的地まで届けるためのシステムも車内の環境設定を乗客が自在に操れるシステムも全て自社で開発しようとしている点だ。
しかしVoyageは、すでにセルフドライビング機能を搭載した乗用車を展開するTeslaとは異なり、既存の乗用車を改造する形でシステムを組み込む。
Voyageでは、乗客のエクスペリエンスに重きを置いているのだ。彼らはボイスコントロール機能の開発に力を注いでおり、目的地の設定から、車内で聴きたい音楽や室温のコントロール、さらに途中停車などの指示までも乗客の声によって行う可能だ。この機能は、視力に障害がある人も簡単に利用することをサポートしている。
彼らは、すでにカリフォルニア州サンノゼ市にある4000人が住むコミュニティ内での無人走行のサービス導入に成功しており、住人たちからの評価も上々だ。コミュニティ内には、図書館やフィットネスジム、商店などもあり、もちろん通常の車も走行している。
彼らは、”Big Things Start Small(大きなものは小さく始まる)”を信じ、Facebookが大学内コミュニティから始まったように、Voyageを小さなコミュニティからどんどん普及させ、街の特区レベルから、市レベル、そして州レベルへと拡大させることを狙っている。
現在、ライドシェアサービスのUberやLyftがタクシー業界を揺るがせているが、彼らが永遠にその地位をキープできると誰が約束できるだろうか。「自動運転のタクシーなら、その価格をぐっと抑えられるはずだ」とCEOのOliver Cameron氏は語る。
関連記事:老舗自動車メーカー VS 自動運転時代 〜メルセデス、BMW、GMが起こす改革とは
参考:
Voyage’s First Self-Driving Car Deployment
A new self-driving car startup just spun out of Udacity to challenge Uber with its own autonomous taxi service
5. THINX 社会のタブーに挑戦する女性用下着ブランド
最後に、今年を象徴する出来事のひとつとして、1月末のWomen’s Marchが挙げられるのではないだろうか。この動きは世界的に拡大し、多くのフェミニストやそれを支持する人々が女性の権利を主張する大きなデモを繰り広げた。
これに続くように、今年注目されたのが画期的な女性用下着ブランドTHINXだ。THINXでは、女性の生理用下着を主に展開するのだが、彼らの下着はタンポン2本分の経血を吸収することが可能だ。つまり、ナプキンやタンポンといった女性用品が実質不要になる。
THINXがイノベーティブな企業だと言えるのは、この便利な製品だけではない。彼らのマーケティングはかなり革新的だ。例えば、ピンクグレープフルーツを半分に割ったものを、女性器と見立てて広告として、駅の構内に大きく張り出したのは大きな話題になったし、「Real Menstruating Human (生理中の人間です)」とプリントされたTシャツやカバンなども製品として販売したりしている。女性の生理は公にすべきものではないというこれまでの全世界に共通するタブーに挑戦するのがTHINXだ。
また、オンラインストアを覗くと起用されているモデルたちも、従来多かったスレンダーの白人女性ではなく、ごく普通の体型の肌の色も人種的バックグラウンドも異なる女性たちだ。
さらに、THINXのオンラインストアへの流入の半数はYoutubeやFacebook、Instagramからである。彼らは映像や画像で、生理中の女性の生活を一見シュールとも言えるほどリアルに取り上げたり、インフルエンサーたちに製品のレビューをYoutubeで語ってもらったりして、消費者からの共感を呼んでいる。
女性の生理は、当たり前であるのにも関わらずタブー視されるテーマであり、だからこそスタートアップとしてスケールの難しさにTHINXはぶつかったのではないかと想像できる。それを、このような形で話題性をあげながら、社会に問題を呈し、サポーターからも共感を得るという、挑戦的なマーケティング戦略によってTHINXはさらなるスケールアップを企んでいる。
参考:Thinx Promised a Feminist Utopia to Everyone But Its Employees
終わりに
2017年注目された企業は数多く存在したが、今回freshtraxはこれまでの業界のあり方や産業自体の存続を揺るがしかねないニューフェイスたちであるという点で以上の5社を選出した。
イノベーションは、高い技術力や最先端のテクノロジーによってのみ生まれるのではない。社会の状況、人々の考え方の変化を汲み取り、それらをもとに新しい潮流を作ろうとすることで、イノベーションは生まれていくのだ。
2018年はミレニアル世代の下の世代ジェネレーションZ(1998年以降に生まれた世代)が成人し社会に参加し始める。生まれた時にはすでにインターネットが当たり前に存在した真のデジタルネイティブと言われる彼らは、日常的に膨大な情報、価値観、考え方に触れている。様々なものの中から、最も自分が共感できるものを選び出して支持していくのが、彼らのスタイルなのだ。
これまでの、いわゆるメインストリームと言われる考え方にとらわれたアプローチを取るだけでは、通用しない時代が始まっているのは確かだ。来年は、新しい考え方や社会のあり方を率先するようなイノベーションが日本からもどんどん起きていくことを期待する。
参考:
The World’s Most Innovative Companies
The World’s 50 Most Innovative Companies 2017
The 17 best new startups that have launched this year
The 25 Most Disruptive Companies of the Year
CES 2025の革新を振り返りませんか?
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