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米国ブランドに学ぶ、D2Cブランディング戦略3選
経済産業省のレポートによると、2019年のEC市場規模(BtoCの物販分野)が年間10兆円を超え、前年からの伸び率は約8%となった。新型コロナウイルスの影響もあり、この数字は更に伸びていくことが予想されている。
EC先進国である米国でも、その市場規模は引き続き拡大していくことが予想されているが、D2Cブランドに限定したビジネス・インサイダー社のレポートによると、伸び続けてきたマーケットの天井が見えつつあり、まさに生き残りの明暗が分かれるフェーズとなってきた。
2020年は日本でもD2C元年と呼ばれるほど新規ブランドが立ち上がったが、CAC(=顧客獲得コスト)が上がったこともあり、D2Cが台頭した初期と比較してスケールする難易度が高まったように感じる。
日本のD2Cブランドにとっても2021年は勝負の年になると予想される今、D2C先進国である米国ブランドから、日本でD2Cブランドを成功させるためのヒントを紹介したい。
- プロダクトではなく世界観を構築する(AWAY)
- 圧倒的なブランドミッションへのコミット(PANGAIA)
- カスタマーサービスの強化(Andie)
プロダクトではなく世界観を構築する
体験を優先したブランド構築が重要である点については以前の記事でも紹介しており、日本のD2Cブランドでも基本要素となってきたように思うが、改めてブランドのストーリーやブランドが発信する世界観の重要性を強調したい。
スーツケースD2CブランドのAWAYがプロダクトを販売する前に、旅を通じたライフスタイルや世界観を伝える雑誌「HERE」を販売したことは既に知っている方も多いのではないだろうか。
AWAYは2015年の創業以来、ブランドにとって世界観が重要であることを自覚し、発信を続け、その美しくデザイン性の高いクリエイティブに共感し憧れるファンを増やし強力なユーザーコミュニティを創ってきた。
$1.45Bの企業価値があり、コロナ前はスーツケースの新しい型や旅行用の新商品を続々と出してたAWAYだが、コロナ禍では売上が一時9割減少し、従業員の半数を一時解雇する危機的状況に陥った。
しかし、これまで通りの旅が出来ない状況でAWAYがビジネスを続けられている要因の一つは、間違いなく強力なユーザーコミュニティのお陰であろう。
飛行機を使った旅が突然できなくなり、更には再開時期も未知数となったとき、AWAYが実施したことは、ブランドの世界観を支持してくれているコミュニティの声を聞くことであった。
ユーザーへの旅に関するフォーカスグループインタビューやプロダクトテストを通じ、昨年のホリデーシーズンには飛行機でなく、車移動の旅に適した軽くて撥水性のあるバッグ、家での収納にも役立つシューズ入れやガジェットケースなど15点以上の新商品をローンチし、徐々にビジネスを回復させてきている。
予測不可な危機的状況となっても、発売するプロダクトが変わっても、AWAYが発信する世界観は変わらない。
HEREというストーリーを発信する場所を持ち、他社と差別化できるブレない世界観を発信し続けることで、ブランドとユーザーの繋がりを継続させていくことができる。
ユーザーからのインプットを基に生まれた新商品のローンチ後も、ブランドの世界観が変わらないということは、感度の高いユーザーがそのものがブランドの世界観の一部を担っているとも言える。
コロナ以前(左)と最近のAWAYのInstagram。変わらぬ世界観を発信している
圧倒的なブランドミッションへのコミット
スピード勝負のD2Cの中で、素材開発にかなりの時間を費やし、サステナブルアパレルブランドの中でも唯一のポジションを獲得しているのがUK発・米国での人気が高いPANGAIA(パンガイア)である。
100%自然な服を目指すPANGAIAは、バイオテックに基づいたリサイクルできる素材、自然由来の素材・染色などに拘り、同時にスタイルにも妥協のない “everyday life style product”を生産、販売している。ブランドスタートから約1年で$4.84M(約5億円)の収益を出したブランドだ。
PANGAIAの強さは、なんと言っても服作りを素材開発から実施し、エシカルを徹底している点だ。
PANGAIAが特許を取得している花から作られたダウンはアニマルフェザーや合皮ダウンの代替として、野生の花がもつ微細構造を生体高分子(天然由来の化合物)と組み合わせて熱を引き出すことのできる素材である。
PANGAIAのフラワーダウン(公式サイトより抜粋)
素材開発に費やした年月はなんと10年。開発した素材はオープンソース化し、ゆくゆくはあらゆる業界の誰もが使えるようにすることを目指している。
もはやD2Cブランドの枠にとらわれず、「気軽に環境に配慮した素材を使ったものづくりができない」というファッション業界の課題に取り組み、メーカーやブランドに向けた素材開発を通じてB2B領域でもビジネスを展開している。
PANGAIAのビジネスモデル(ビートラックス資料より抜粋)
一見手広く見えるPANGAIAのビジネスだが、全て「よりよい未来をデザインする」というミッションに基づいたアクションであるため、ユーザーからは賛同の声が多い。PANGAIAのアクションはすべて、社会に対する責任感とブランドのミッションに紐付いたアウトプットなのである。
開発した素材や実施したアクションがどれほど環境によい影響を与えているのか明示し、分かりやすく伝えている点もPANGAIAの強みだろう。
圧倒的な技術と行動力に加えて、PANGAIAを購入するというユーザーのアクションがどんなポジティブインパクトを及ぼすか、より身近でわかりやすいもので伝え、ときにはユーザーを教育する姿勢を持っていることもまた、ミッションへの思いの強さを表している。
PANGAIAのプロダクトを1つ購入すると1本の木を植林できる(公式サイトより抜粋)
カスタマーサービスの強化
D2Cブランドの強みの一つは、データを使って顧客の行動特性や好みを理解し、よりよい体験を提供できることである。
2017年に創業し、昨年収益$20M、成長率600%と勢いが止まらないスイムウェアブランドのAndieは、いち早くカスタマーサービスを「コストセンター」ではなく「新しいマーケティング」と位置づけたブランドである。
女性の水着購入体験は、見ず知らずのスタッフに相談しにくいが故に、オフラインでも満足度の高い体験にならないケースが多い。この状況を変えたいという思いで生まれたAndieは、ブランドを友達のように感じてもらえるようにと親しみのある名前が名付けられた。
20名弱という少ない従業員数にもかかわらず、約8名がFit Expertと呼ばれるコンシューマーサービス専任となり、ユーザーはカレンダーより希望の時間を指定し、彼女たちに直接相談ができる。相談はサイズやデザインのことから家での試着アドバイス、次の旅行先など多岐に渡る。
「直接相談するまででもないな…」という場合でも、”Fit your Quiz”を通してwebサイト上に用意された12個の質問に答えるだけで、ニーズに合ったデザインとサイズを提案してくれる。Fit your quizは30万件以上のユーザー情報から設計された高性能のレコメンデーション機能だ。
Andieは、こうしたユーザーとのコミュニケーションで得た声をプロダクト開発やマーケティング戦略に反映している。
バケーションニーズが急激に減少したコロナ禍では、ユーザーの声を活かし、水着をフィットネスやアウトドア時に使えるウェアとしてプロモーションした。
結果、コロナ禍にも関わらず昨年6月には当時過去最高売上を達成、リピート顧客の購入も以前の2倍となり、さらには$6.5Mの資金調達までも達成した。
まとめ
今回ご紹介したブランドに共通していることは、揺るがないブランドのミッションやバリューを持っていること、そしてそれがプロダクト開発やマーケティング、ユーザーとのコミュニケーションなど全てのブランド行動の指針となっていることだ。
ブランドの姿勢や世界観をつくり、そのブランドに共感したユーザーコミュニティを確立し、継続的なコミュニケーションを取れているブランドは強い。
ビートラックスのミッションはこういった企業やサービス、プロダクトのブランドをデザインし、日本発グローバルで活躍するブランドを支援することである。
ブランドのプロダクトやサービスそのもののデザインだけでなく、ブランドのミッションやバリューなどのブランドコアを定めるフェーズからサポートをさせて頂いている。ご興味のある方はぜひこちらよりお問い合わせいただきたい。
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