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〜 なぜ欧米人はマスクを嫌うのか 〜 世界の文化によるデザインの違い
様々なもののデジタル化が進む中で、デザイナーの役割も大きく変化し始めている。
特にインターネットを介したサービスにおいては「design, Design, DESIGNの違いを知っていますか?」でも紹介されている通り、世界中の不特定多数のユーザーを念頭にデザインしなければならない時代になってきている。
それは同時に、受け取り側の趣味嗜好や価値観を十分理解した上で、プロダクトやメッセージングを考える必要があるということでもある。デザインコミュニケーションとして、単純に言葉を翻訳しただけでは不十分なのである。
目で表情を伝える日本人、口で表情を伝える欧米人
日本と欧米では絵文字の表現方法が大きく異なる。特に日本では「目」を主な表現として利用しているのに対し、欧米では主に「口」の形の違いで感情を伝えている。
この違いの原因の一つが日常生活における人々の生活習慣の違いだろう。
ご存知の通り、花粉症の時期をメインに、日本ではマスクをしている光景が日常的だ。
その一方で、アメリカやヨーロッパではサングラスをかけているケースが珍しくない。これは、色素の薄い人種の目がアジア系の人々よりも太陽光線に弱いのが理由。
この違いで、日本人は「サングラスしてる人怖い」となり、欧米人は「マスクしてる人怖い」となるのである。
また、日本では昔より、目は口ほどに物を言う、という表現があるが、その感覚にも近いだろう。日本のアニメキャラの目が大きく、アメリカのアニメキャラの口が大きい理由にもこれかもしれない。
ハリウッド映画もヒーローは目を隠し、悪役は口を隠す
欧米では口を隠されると怖く感じるこのイメージとして、映画でみられる悪役をみてみるとわかりやすい。多くの悪役キャラは口を隠すことで表情がわからないので、非常に不気味な印象を与える。一方で、ヒーローとされるキャラの多くは、目の部分を覆っていることが多い。
それぞれの文化で異なる色の解釈
そして、異なる色に対しての捉え方も国や地域によって異なってくる。日本の生活では雑誌の表紙や街の看板に様々な色が利用されているケースが多いが、アメリカでは同じ系統の色でまとめるのが一般的である。これも、アニメを見て育ったかどうかなどの社会的背景に関係すると考えられる。
ちなみに、日本、アメリカ、フランス、中国、エジプトのそれぞれの国で、青、緑、赤、黄色のそれぞれの色がどのように捉えられるかは下記の通り:
社会的背景によって異なる価値観
そもそも、異なる地域では社会的背景や、日常生活におけるスタンダードも大きく異なるため、ユーザーの価値観が多種多様になるのは当然である。ここでは参考として、Geert Hofstede教授が提唱する下記の6つの価値基準に対する、日本、中国、アメリカの価値観を紹介したい。
階級差
社会における権力や下級の差。形式的な階級制度ではなく、いわゆる「勝ち組、負け組」の概念や、企業や家庭における権力の差などを示す。
個人主義
それぞれ個人の違いを尊重するか、学校や企業において個人プレーを優先するか、組織として動くことを尊重するかなどの考え方。
競争性
社会における個人同士や企業同士の競争的概念。競争社会かどうかではなく、偏差値教育や、画一的な評価基準など、個性を認めるか否かにも影響する概念。
不確実性への回避意識
新しいことや、不明瞭な事柄に対してどのように感じるか。不安や不満を元にそれを回避しがちなのか、それとも果敢にアプローチするかの差。
長期的な考え方
現在と過去や未来との繋がりを感じているか。人生や生活に対してYOLOのような一時的な喜びを優先するのか、長期的なインパクトを重視するか。
子供に対する寛大さ
どのような価値観で親が子育てをするのか。ある程度違いや要求を理解し、寛大に接するのか、それとも規律を重んじた教えをするのか。
異なる文化による心理的属性差
そして、それぞれの国によって、人々の心理的感覚や、それに紐づく行動に関する傾向も異なる。ここでは、対立性の高さと、感情の表現の有無に関しての違いを下記のグラフで示している。
Yelp vs 食べログ
それを顕著に表した一つの例が、日本とアメリカのそれぞれの国で人気のあるグルメサイトの構成とコンテンツの違いだろう。
日本ではもちろん食べログが使われるケースが多いが、アメリカではYelpが人気がある。下記のUI比較からも、例えばユーザーが一番優先するのが、自身の希望に対する検索性か、ブラウズ性やオススメコンテンツなのかが異なるのが分かる。
メルカリも実施しているハイパーローカリゼーション
以前に「最近のスタートアップのロゴのスタイルが似通ってきている問題について」で紹介したように、メルカリは、そのサービスを提供する地域ごとにロゴを変えている。それもかなり大幅に。
それどころか、実はアプリのUIからコンテンツの見せ方、そして、その機能性に関しても地域ごとにローカライズを施している。
これは同社によると「ハイパーローカリゼーション」という概念を採用しており、特にデジタルとアナログが融合するメルカリのようなサービスにおいては、ユーザーの日常生活に基づく価値観が非常に重要な要素となるため、日本、アメリカ、イギリス、それぞれの国に対して、異なるブランディング、アプリ、メッセージングを施しているとのこと。
これは、Google, Facebookなどの純デジタルなサービスがほぼほぼ同じ内容のサービスを提供している中でも興味深い事例である。
異なる文化に対してデザインする際のポイント
では、異なる文化背景を持つユーザーに対して適切なデザインをするには、どのような点を考慮する必要があるだろうか。抑えておくべきポイントをいくつか紹介する。
1. デザインの基本はユーザーとの対話
これはどのようなデザインをする際にも最も重要なプロセスであるが、必ずユーザーとの対話を怠らないこと。正しいデザインの答えは、デザイナーではなく、ユーザーが持っている。特にデザイナーの文化的背景とユーザーのそれが異なる際には、徹底的なユーザーインタビューやフォーカスグループ、そしてエスノグラフィーリサーチを通じたユーザー理解が求められる。
2. 翻訳ではなくあくまでローカリゼーション
同じ英語であっても、アメリカとイギリス、オーストラリアではその言葉の意味する内容が異なる。例えば「チップス」はアメリカではポテトチップスに代表されるお菓子なのに対し、イギリスではフライドポテトを指す。同じものはオーストラリアでは「フリスケット」と呼ばれたりもする。
3. 検索重視かブラウズ重視か
Yelp vs 食べログの項目でもあった通り、アジア系のユーザーは「誘導される」ことを好むのに対し、欧米では自分で「検索」することを望むケースが多い。これはアプリを設計する際にも、どのようなユーザー体験を施すかの参考になるだろう。
4. ユーザーの利用環境を理解する
世界中ではスマホがメインのデバイスになりつつあるが、パソコンの利用率は地域によって異なる。また、ブロードバンドが基本の先進国に対して、発展途上国は、まだまだネットのスピードが遅いなどの環境の差がある。
5. 色に頼りまくるのはNG
これは日本におけるかなり特殊な状況なのだが、世界的に考えると「色」に頼ったUIはかなり危険。なぜなら上記でも紹介した通り、地域によって異なる色のとらわれ方が異なるのに加え、色盲率の高い地域も結構存在するから。この辺の認識が、楽天市場とAmazon.comのUIの差にもなっていると考えられる。
これからの時代に求められるインクルーシブデザイン
今後デザイナーの仕事もどんどんグローバル化されることが考えられる。それに伴い、異なる地域のユーザーがどのような価値観を持っているのかを理解し。ダイバーシティーを意識したデザインの手法が求められていくだろう。
これは、多くの異なる価値観やバックグラウンドを持つ人のためにデザインを行う「インクルーシブデザイン」にも共通する概念である。
我々、btraxでも、クライアントのプロダクトやサービスがグローバル規模に利用されることを目標に、ターゲットユーザーの価値観をきっちりと理解したUXデザイン、サービスデザイン、ブランディングサービスの提供をしていくことを目標としている。
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