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“シリコンバレー” の次は“クラウドコリドー” — SFの新ブランディング
“Silicon Valley in the USA”(アメリカのシリコンバレー)—そんな見出しの記事が世界を揺るがしたのは1971年,約40年前のことである。
スタンフォード大学を中心として1950年代後半から半導体分野の産業を集中させてきたサンフランシスコの南に広がるベイエリア地域。この地域は”シリコンバレー”の愛称を得ることで世界中に認知され爆発的な発展をとげた。
Intel, Apple, Google, Facebook…20世紀後半から現在にかけて,シリコンバレーで生まれたテクノロジーは私達が働き,生活し,遊ぶスタイルを確実に変えてきた。
“シリコン”から”クラウド”へ
21世紀が始まって14年。私達の住む世界は20世紀の世界から大きく変化している。同時に,技術革新の中心地も40年前にシリコンバレーという言葉が指していた地域からどんどん広がってきている。
“クラウドコリドー”—そんな中で生まれたのがこの言葉。サンフランシスコを指す新しい愛称だ。
世界を変える新しい技術,“クラウド”。クラウド・コンピューティング技術とは情報やデータの在り処に関わらずアクセスできる環境を作りだす技術である。クラウド・コンピューティング技術によって,私達はWebメールサービスを使ったり,仕事で使うファイルを共有したり,プライベートでスケジュールを管理したりすることが可能になっている。現在では,クラウド・コンピューティング技術を使わずに不便なく生活することは難しいと言っても過言ではない。
この技術の名前と“クラウド”(雲)が多いサンフランシスコの気候をかけたのが,今回の“クラウドコリドー”というわけだ。
シリコンバレーから北上すること約50km。”クラウドコリドー”と呼ばれる地域はサンフランシスコの中心街の大通り,マーケット・ストリートから野球場AT&Tパークまでの約3km×3km四方の小さな区画だ。この歩いて回れるくらいの狭小なエリアに,50ものクラウド・コンピューティング,クラウド・サービス関連の会社が集中して立地している。
道を挟んで左右にクラウド関連のテックカンパニーが立ち並ぶ様子は,まさに“コリドー”(廊下)という言葉がぴったりだ。ちなみにbtrax社もこのエリア中に存在する。
クラウド関連のテックカンパニーをプロットしたサンフランシスコの地図
クラウド・ストレージのサービスDropboxや,クラウド・コンピューティングを利用してつぶやきを保存するTwitterも,シリコンバレーと呼ばれる地域ではなくこの“クラウドコリドー”の一角に立地している。
クラウド・コンピューティングのサービス・プラットフォーム最大手のSalesforceもサンフランシスコに本社を構える。先月行われた主宰イベントDreamforce 2013にはYahoo!のCEOマリッサ・メイヤーやFacebookのCOOシェリル・サンドバーグが登壇し,13万人もの参加者が集い大きな盛り上がりを見せた。
このイベントは毎年秋に行われているが,10年間で参加者が100倍以上に増えたという。この人気も,クラウド・コンピューティング技術がサンフランシスコを中心に発展していることを示しているといえよう。
ITの新しい時代 良質な人材確保を狙う
恣意的なブランディングが地域をあげて行われるのは,何も今回の“クラウドコリドー”が初めてではない。過去にもサンフランシスコでは様々なニックネームを流行らせようとする動きがあったーフリスコ,ゴールデン・シティ,フォグ・シティなどなど。だが,どれも失敗に終わってきた。
ただ,今回のリブランディングには今までと違う点がある。それは,地元の不動産会社や政治家ではなくテックカンパニー自身が主体となって活動している点だ。
シリコンバレーを超える新しい世代を作ろうといくつかのクラウド技術関連のテックカンパニーが自らウェブサイトやLinkedInページを整備したり,SNSにおけるハッシュタグ”#CloudCorridor”をプロモートしたりしているのだ。
今までサンフランシスコは,シリコンバレーの“影”の存在とされてきた。特にITの分野で,サンフランシスコは優秀な人材の確保や経済成長においてシリコンバレーに引けを取ってきた。そんなサンフランシスコにとって,今回のリブランディングはプラスのアイデンティティを得る良い機会となりえる。テックカンパニーはこのリブランディングを通じて,クラウド・コンピューティング関連技術を持った優秀な人材を引きつけようとしている。
しかし,”クラウドコリドー”に対してはプラスの意見ばかりではない。
場所のない技術に場所?
そもそも地理的な制約を受けないことが特徴であるクラウド技術をひとつの場所に集中させるというアイディアはナンセンスなのではないか?
これが反対意見の最たるものだ。
鋭い指摘ではあるが,クラウド技術のテックカンパニーにとって,“クラウドコリドー”が各地で生まれる事自体は危惧すべきことではない。サンフランシスコにひとつのクラウド技術の中心地を作ることが今回のリブランディングの肝なのである。
実際に既に,ニュージャージーでも同じ名前“クラウドコリドー”を名乗ろうとする動きは生まれているが,本家“クラウドコリドー”は寛容だ。
“色んな街がクラウドコリドーを名乗ったっていい。むしろ,他の地域のクラウドコリドーも歓迎したい。”テックカンパニーの推進派,ServiceSourceのシニア・ディレクターは言う。
ニューヨークには有名なファッション・ディストリクトがあるけれど,他の地域にもたくさんファッション産業が栄える地域は存在するだろう。だからといってニューヨークのファッション・ディストリクトのブランディングが意味をなさないわけではない。それと同じことなのだ。
関連技術を持った企業が密集すると,優秀な人材を引きつけるだけでなくリクルーティングやネットワーキング,技術に関する知識の交換など,産業を盛り上げる様々なメリットが発生する。シリコンバレーの現在の成功もこうした地理的な集中の恩恵を受けてこそ成り立ってきた。
“Silicon Valley is so last century.”—シリコンバレーはもう過去の世紀のものだ,”クラウドコリドー“を推進するテックカンパニーは主張する。
ITバブル崩壊後,伸び悩みを見せはじめたシリコンバレー。それに対して今年1090億ドル(約10兆円),来年には1520億ドル(約15兆円)まで成長するといわれるクラウド市場は確実に勢いを増している。”クラウド・コリドー”はシリコンバレーに対する新たなブランドとして発展を遂げることができるのだろうか。
Yuzu Saijo– Guest Contributor Yuzu Saijo is an undergraduate student at the University of Tokyo, currently studying Media Studies at the University of California, Berkeley as an exchange student. Influenced by her parents, who work in the comedy industry, Yuzu is passionate about entertainment, especially Japanese comedy. Also she is eager to learn something new; now struggling with programming. Back in Tokyo, Yuzu organized a TEDxTodai conference at UT this year as a core member. Contact her at y.saijo@tedxtodai.com, @rubberyyuzu |
Photos by SouceTalk ,Franco Folini
参考記事:
- “Can a Cloud Corridor in SF compete with Silicon Valley?” SF Examiner, Oct 20th 2013
- “Don’t call it Frisco: The History of San Francisco’s Nicknames” The Bold Italic, Jul 1st 2013
- “Here Comes the Cloud Corridor” techie.com, Nov 25th 2013
- “Tech Companies Are Trying To Rename Downtown San Francisco The “Cloud Corridor”” BUZZFEED FWD, Oct 23rd 2013
- “The New Silicon Valley: San Francisco’s Cloud Corridor” CiO Zone, Oct 13th 2013
- 「13万人集結『ドリームフォース人気』のナゼ」東洋経済オンライン,Nov 19th 2013
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