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「チェックイン」とは ワークショップで実践する際の狙いとコツ
「1日のワークが始まる前にやるチェックイン、良いですね!」
「今後自分がワークショップを企画するときは、チェックインをプログラムに取り入れてみたいです!」
ビートラックスで提供しているワークショップの参加者から、何度かこのような声をいただいたことがある。
私たちが設計するワークショップには、数週間のあいだ毎日、朝から夕方まで専念して取り組んでもらうものから、週に一度のペースで2〜3時間のワークを繰り返すものまで様々なものがあるが、1日のワークのはじめには「チェックイン」の時間をとることが多い。
しかし、ただ時間を組み込めばいいものでもなく、また、いつも同じ内容、同じペースでやればいいものでもない。
実践する上で意識すべきことや、ファシリテーターとして状況に応じた工夫が必要になる。
今回は、ワークショップで行うチェックインについて、なぜやるのか、実践する際にはどのようなことを意識したら良いのかを、ワークショップを設計する側の目線から紹介してみたい。
チェックインとは
ワークショップで行うチェックインとは、メインのワークが始まる前に、参加者が互いの状況を把握しあったり、ワークに臨むための気持ちを整えたりする時間だ。
日常生活では、ホテルでの宿泊手続きや、空港での搭乗手続きの際に馴染みのある言葉だろう。
カウンターでチケット等を見せながら、スタッフの方へ「チェックインします」と伝える。
「今からこの場に入ります」あるいは「今から私はこの空間ですごすメンバーです」ということを、互いに認識するためのやりとりだ。
ワークショップでのチェックインも同様、メインのワークに入る前に、ファシリテーターから参加者全員へ「これから今日のワークが始まります」と言う合図を送るために行われることが一般的である。
チェックインでは何をするのか
チェックインで行う内容は、とても単純だ。
「今の気持ちは?」あるいは「今日のワークに期待してることは?」などのお題を提示し、1人ずつ1分程度で紹介してもらう。
時間は10-15分程度のことが多いが、参加者にはこの時間を通じて「参加者としての気持ちの準備をして欲しい」と考えている。
これらのお題の他、市民参加のワークショップなど多様な方々が参加する場では「参加のきっかけ」や「最も関心のあること」を交えて紹介してもらうこともある。
チェックアウトも忘れずに
また、ワークショップの終了時には「チェックアウト」も可能な限り組み込むようにしている。
1日のワークの内容・成果を振り返り、得られた学びを1人1つずつ言葉にしたり、その時点で感じている気持ち、ワークではうまく言えなかった発言を受け入れる時間だ。
盛り上がったワークを“やったまま”にせず、数分でも振り返りの時間を持つことで、次回以降につながる学びが得られる。
では、ファシリテーターは、チェックインではどんなことを心掛けて、どのようなことを達成できるように行うべきなのか。
なぜやるのか、チェックインの狙い
大きな狙いは「その日のワークや議論に適した『場』を準備するため」だ。
様々な人がある場所に集まっただけでは、ワークショップやプロジェクトの最終的なゴールである良いアウトプットにはなかなか辿り着けない。
人々が集う場を、より良い気づきやアイデアが生まれる場所、そう感じられるような場所に整えていくための心がけや工夫が、チェックインの設計・実践には必要である。
そうした場を準備するために、私たちが設計するチェックインでは次の3つのことを意識している。
①1人ひとりの気持ちを「参加者モード」に切り替える
初対面の人が多い中では、自分の意見を切り出すのに難しさを感じる人もいる。
特に、オンラインのワークショップでは、つい数分前まで別のオンライン会議に参加しており、今から始まるワークに取り組む姿勢に頭と体をうまく切り替えられていない人もいる。
そんな時、チェックインの時間を使って自分のその時の思いを声に出してみたり、他の参加者の考えに耳を傾けられる時間をとることで、自らを「参加者としてのモード」へと切り替えていくことができる。
その場に参加している他の人のことを知らないまま、第一声で重大なテーマについての意見を求められた場合、発言のしづらさを感じる人は多いだろう。
まずは、全員が正解不正解を意識することなく自由に発言できる時間、そしてそれを他の参加者に聞いてもらえる時間をはさむことで、発言のための心理的ハードルを下げることができる。
参加者1人ひとりをその場で発言しやすい気持ちにさせることで、自発的な発言が増え、活発なディスカッションにつながりやすい。
②進行上、配慮すべきことがないかを汲み取る
参加者の中には、何らかの理由で万全の状態でワークショップに臨むことが難しい人もいる。
実は体調が優れないまま少し無理をして参加していたり、オンラインワークショップの場合だと、使用するアプリやネットワーク環境にトラブルが生じていたりなど、ファシリテーターに見えている範囲からは把握しきれないことがどうしてもある。
そうした時、チェックインの時間があると、ワークショップの途中では言い出しにくい、参加者のネガティブな心情や、配慮が必要な状況を汲み取りやすくなる。
特別な事情を早い段階で他の参加者へ伝えられると、当事者はその後の気持ちが少し楽になるだろう。
日本語を母国語としない参加者から「日本語のワークには不安がありますが、がんばりたいです」との発言があった際には「今日は、みんなが聞き取りやすいペースでの発言を心掛けてみましょう」など、ワークショップの進行に関わる提案もしやすくなる。
ファシリテーターにとってチェックインは、参加者1人ひとりが、その日のワークにいかに前向きに参加できるようになるか、その後のワークショップの進め方を判断するための貴重な時間でもあるのだ。
③ディスカッションのペースを作る
ワークショップに慣れている人もいれば、慣れていない人もいる。
様々な人が集まる場では、その日のワークショップのリズムや議論の進め方を早い段階で共有しておいた方が、本題のワークにおいても序盤からスムーズに進めやすい。
ワークショップでは、ある人の意見に対する他者のリアクションを期待することが多くある。
似た意見を紹介してもらい、グループを作りながら全体像を把握したり、アイディアに便乗しながら新たな切り口を見出したり、その多くの場合は、1人で考えているだけでは到達できない視点・発想へ辿り着くことを目指しているからだ。
そのためのウォームアップを兼ねて、チェックインでは参加者とファシリテーターの間のやりとりだけでなく、参加者同士の会話が喚起される仕掛けを取り入れることも良い。
特にオンラインの場合、初対面の相手との距離を縮めるのに時間がかかるため、例えば「チェックインした人は、次の人を指名する」あるいは「次の人に必ず1つ質問をする」など、半ば強制的に他の人の名前を呼ぶ機会を作るなどの工夫も取り入れている。
また、複数の日に分けてワークを進める場合は、回数や内容に応じてチェックインのリズムを変えることを意識するのも良い。
初回はゆっくりめのペースで進め、なるべく和やかな場の温度を維持しながら参加者のモチベーションを高めていくことに注力する。
一方、中盤から後半にかけて、集中して議論することにより多くの時間を割きたい場合はチェックインは速いペースで回していく、など。
チェックインのリズムに差をつけることで、その日のワークの進め方をより好ましい状態に導くことができるという面もある。
その日のワークのペースメイクのような役割も果たしているのだ。
より上手に行うための工夫
こうした目的を達成するために実践できる工夫を、事例を交えながら紹介したい。
①トップバッター選び – 慣れている仲間に最初に事例を見せてもらう –
時間的に余裕のあるチェックインでは「準備ができた方から順番に」と、参加者からの自発的な発言を促すようにしている。
しかし、初対面の人が多い場合や、自分から手を挙げることにためらいが生じがちなオンラインのワークショップでは、慣れているアシスタントファシリテーターに1人目をお願いするのも良い。
アシスタントがいない場合でも、何度か一緒にワークショップを進行しているメンバーがチーム内にいれば、「今日のチェックイン、1人目に振ることになると思うので。気持ちの準備お願いね。」と依頼しておけば、以降の人は1人目を参考に発言すれば良い。
他の参加者のハードルを下げつつも、全体のペース管理もしやすくなる。
なお、自分がメインファシリテーターを務める際は、チェックインのなかで発言する順番は終盤にまわることが多い。
それまでに多くの参加者の声を聞いた上で、その日に自分がどのようなことを意識してファシリテーションをしたいかを合わせて伝えられる時間でもあるからだ。
②気持ちを教えてもらう
ビートラックスが行うチェックインでは、感情が書かれた8マスのシートを使うことが多い。
ポジティブなものとネガティブなもの、それぞれ複数を予め用意しておき、また余白として自由に書き込めるスペースも作っている。
参加者には「今の自分の気持ちに当てはまるところに人形を置いてください(あるいは、自分の名前を書いてください)」というお題を出す。
すると、自分の素直な感情を共有しながら、なぜそういう気持ちなのか、自分の体験したエピソードや、その日の意気込みと紐付いた会話が自然に誘発される。
「最近自分が体験したこと」を紹介してもらうだけでは、相手がどのような人なのかまでは、よく分からないままだ。
一方、「自分は今こういう気持ちです。なぜならこんなことが起こったので」というように、事象と感情(気持ちの状態)をセットで話してもらえると、初対面の関係だとしても、相手との心理的な距離が縮まる感覚が味わえるはずだ。
③受け入れる、否定しない、焦らない
ワークショップ参加者が「自分の素直な考えを発言しやすい」と思える場を作ることが重要だ。
そのために、チェックインの時間を使い、全員に発言の機会があること、そして、どのような発言でも受け入れられる場であるということを示していく必要がある。そのために、何か特別に準備をして臨む必要はない。
チェックインで参加者が発言している際は、その相手の方に顔を向け、うなずくくらいがちょうど良い。「あなたの話を聞いていますよ」という姿勢を示すだけで十分とも言える。
また、数週間にわたってデザインの考え方を学ぶワークショップでは、中盤に差し掛かるとチェックアウトの時間に、ネガティブな感情や意見が出ることがある。
ただ、そうした時でもファシリテーターは、その場がどんな発言でも受け入れられる場であることを示していくことを意識したい。
ワークが思うように行っていないと感じていることを内に秘めながら進めるよりも、少しずつでも口に出してもらう方が、その後の進め方を改善しやすくなったり、ワークの注力ポイントを選定しやすくなるからだ。
否定的な意見を排除するのではなく、「教えてくれてありがとう」「今後の工夫、ぜひ一緒に考えていきましょう」などの言葉と共に、参加者1人ひとりと同じ視点から物事を捉えていく姿勢を推奨したい。
④慣れてきたら変化を加える
何度か同じメンバーでチェックインを繰り返していると、徐々に慣れが生じてくる。
「その場に入る」「気持ちを切り替える」という意味合いが薄れてくることがある。
そうした時には、参加者の表情を見ながら、状況に応じた工夫を加えていくこともファシリテーターは判断していくことが重要だ。
思い切ってスキップする判断も
もちろん、状況によってはチェックイン自体をスキップすることもあって良い。
既に何度か顔を合わせている仲間同士で、参加者が集まった時点で既に自然と会話が生まれている場合や、限られた時間の中でメインのワークに多くの時間を割きたい時などは、あえてチェックインの時間を省くことも必要な判断だ。
毎朝のチェックインに慣れてきた人にとっては、「今日はチェックインを省きますね」という発言が、参加者にとっての切り替えスイッチになることもある。
あくまでチェックインはその日のワークや議論に適した『場』を準備するための手段の一つであり、タイミングや参加者の表情、場の温度を感じ取り、より適切な方法を選択していくことがとても重要となる。
チェックインの時間によって場の緊張感が極度に失われたり、その後のワークの進行に支障がでることのないよう、状況に応じてチェックインの有無や方法を判断することもファシリテーターの大事な役割なのだ。
おわりに
今回は、ワークショップや会議の冒頭で行われることの多い「チェックイン」について取り上げてみた。
メインのワークに比べて「ちょっとしたこと」のように思える時間でも、そこにはワークショップの設計者からの意図が込められている。
ワークショップ参加者としてチェックインを行ったことがある方や、これから実践してみたいと思っている方は、その時間や問いの狙いは何かを振り返ったり、それによって得られる効果などを考えてみるのも良いだろう。
そして今後、自分がワークショップを設計する側の立場になった際には「その日の議論に適した場づくり」のためにはどのような時間を取り入れたら良いか、考えながら設計することをおすすめしたい。
また、参加者と一緒に時間を過ごしながら自分が感じたことから、どのような工夫ができるのかを考えること、試行錯誤を繰り返しながらも、ぜひ柔軟な姿勢で場を設計していくことにも挑戦していただけたらと思う。
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