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米国グローバル企業に学ぶ7つのブランディング戦略とは
世界最大手の広告会社であるイギリスの『WPPグループ』が行ったブランド価値ランキング2013によるとグーグルやマイクロソフト、マクドナルドなどを差しおいて、『アップル』が前年に引き続き世界一の座を維持した。
さらにアップルの競合他社である『サムスン』はブランド価値を前年より51%増加させ、広告に費やした費用は1600億円に及ぶ。ジャパンブランドはトヨタが自動車部門で一位を獲得、またユニクロなどのグローバル展開を急速に進めているブランドの躍進が目立つ。
なぜ私たちは「アップル」を想像したときに「革新・最先端・美しいデザイン」というイメージが思い浮かぶのだろうか。なぜ、グローバルで成功する企業はこのような明確なブランドイメージを持っているのだろうか。これらはもちろん自然の成りゆき任せで生まれた訳ではなくブランドを『最重要資産』として捉え、社内内部におけるブランドの教育・管理、そして明確な戦略を持って人々に強いブランドイメージを伝えてきたからだ。
多くの人が「ブランディングは絶対に欠かせないものだ」という認識を持ちながらも、実際にグローバルで成功している企業がブランドイメージを向上させるためにどのようなブランディング戦略を展開しているか知らない場合が多いのではないだろうか。今回は、どのようにして世界展開で成功している7つの米国企業がグローバルブランドを構築するためにブランドを創り、守り抜き、伝えているのか紹介していきたい。
*ブランド、ブランディングについての詳しい説明については以前、弊社CEOブランドンが執筆した「いまさら人には聞きにくいブランディングとは」を参照されたい。
General Motors|マルチブランド戦略
マルチブランド戦略の筆頭・ジェネラル・モーターズ。2009年に経営破綻に追い込まれたが、世界中に展開するグローバル大企業である。多くの人はシボレーやキャデラックと聞くと「ああ、あの車か」とイメージできる方が多いと思うが、これらの車種名を聞いてジェネラル・モーターズという企業名を意識する人はかなり少ない。ジェネラル・モーターズは創業当時からブランドを並列に継承してきた珍しいブランドで、マルチブランディング戦略の代表的な企業だ。
「マルチブランド戦略」とは、同じ製品カテゴリーに複数のブランドを展開することを指し、一つの企業による市場カバー力を向上させることが可能な戦略だ。
それでは、ジェネラル・モーターズのブランド構造はどうなっているのだろうか。まず、トップに来るのはコーポレードブランドであるジェネラル・モーターズ。次に米国で直接管理されるアンブレラブランドと呼ばれる「シボレー、キャデラック、ハマー」などの製品ブランドがある。
さらに三番目の階層にくるのがセビルやサーブ、ホールデンなど各地域で管理されるブランドであり、ブランド開発も各地域に依存する。例えば、サーブはスウェーデンに本部がありブランド管理もコーポレートブランドの承認なしで自由に行うことができる。
同社のようなマルチブランド戦略を展開する企業は数多くある。しかしながら、その大半が買収や合併によって結果的に「マルチブランドになってしまっている」企業も多いであろう。しかしながら、ジェネラル・モーターズはあえて親ブランドを隠して市場や顧客に強調することなく、顧客所得層別、顧客嗜好別、製品サービス属性別に様々な市場を獲得しており、高度のマルチブランド戦略を展開している。
Starwood Hotels & Resorts|顧客セグメンテーションブランディング
全世界80カ国で展開される世界最大級のホテルグループ・スターウッド。同社みずからが経営権を握るホテル、管理を委託されているホテル、オーナーが別にいるフランチャイズのホテルなど様々な形態のホテルを管理している。一見、多くの買収を重ねた結果からブランドイメージに統一性がないというイメージをもたれる方が多いと思うが、実際は徹底的にターゲットを絞ったマルチブランド戦略である。
同社のホテルは全て、顧客所得層別、顧客嗜好別、サービス属性別に分かれて運営されており、非常に幅広い顧客を獲得している。例えば、同社が所有するウェスティンホテルは若いビジネスマンとレジャー客にターゲットを絞ったホテルであり、ブランドパーソナリティーは非常に丁寧で顧客のわがままを満たす姿勢、エレガント、スタイリッシュ、革新的である。
宿泊客の快適性を追求することに徹底的なこだわりをもっている。ダブリュホテルでは、顧客嗜好に重きをおいたホテルであり、つねに最先端にいたがる革新的な人々をターゲットに絞る。さらに、同ホテルはその街の雰囲気や文化を取り入れ各地域によってデザインが一切異なる。
このように、親会社であるスターウッドのもとにさまざまなブランドが集まり、マルチブランドで市場を席巻している。同社のマルチブランド戦略は顧客に重きをおいたマルチブランド戦略であり、互いに重なることのないようブランドを階層構造にし、幅広い顧客層を取り込むことに成功している。
同社のスターンリヒト会長は収益性の高さだけを考えて買収を行うのではなく、必要なブランドを最適の組み合わせで手に入れる、まさにマルチブランド戦略を深く理解している戦略家だ。
Caterpillar|ワンブランド・ワンボイス戦略
建設機械のグローバルトップブランド・キャタピラー。同社は建設機械の先駆者として知られていると同時に「ブランディング」の先駆者としても有名だ。1990年代のとき、キャタピラー社は中央集権型の経営から分散型の組織体型に移行したことがきっかけとなり、彼らが抱いていた思いや共通の起業家精神などのコーポレート・アイデンティティにズレが生じてきた。さらに意識の面だけでなく、ブランドネーミングやメッセージ、ロゴなどの根本的なコミュニケーションの部分にもたくさんの弊害が存在した。
このようなことから、危機感を募らせたキャタピラー社は他の多くの企業がブランドを単にロゴに関する事柄と捉えていたのに対し、同社はブランドに対するさらに深い理解に務め「ワンボイス・ワンブランド戦略」という概念を作り上げた。これは、ブランドの見え方や印象はつねに同じ色に見え、一貫して同じ音色で聞こえてくるべきだという考え方であり、今現在も多くの企業で使用されている。
具体的にはブランドに関するガイドラインを取り決めたフレームワークであり、それぞれのビジネスユニット(子会社など)はあくまでキャタピラーというコアブランドのもとに運営される。キャタピラーは建設機械分野とレンタルや金融など、非常にコア事業とつながりの深い分野で事業展開を行なっており、ワンボイス・ワンブランド戦略に非常に適した構造となっている。例えば、事業が拡大しすぎてロゴの統一性がないなどが見られる場合は、ワンブランド戦略は効果的に作用するだろう。
このように、「自分が誰であるかわからなくなる」つまり会社の中で皆の思いにズレが生じているのならば、ワンブランド・ワンボイス戦略を参考に会社の立ち位置を再調整するとブランドイメージも自然と良くなるであろう。
Citigroup|少人数によるブランド管理・牽引力
金融界の巨人・シティグループ。1998年にシティコープとトラベラーズグループの合併で誕生し、従業員数40万人を誇る超巨大グループとなった。ブランドイメージは『信頼・安定・グローバル』であり、グループ全体を支えている (ブランドランキング64位)。しかしながら、一体どうやって超巨大グループのブランド管理をしているのだろうか。
驚くべきことに、実はたった『5人』で全てのブランドマネジメントは運営されている。というのも、異なる企業風土が組み合わさった大企業では、強烈な牽引力と指導力が必要であり、中央集権型のブランドマネジメントはとても効果的だ。
企業によっては、社内向けにブランドガイドブックを発行したり、マニュアルを作成したりしているが、シティグループの場合はデイリー・ニュースを通じてのみ企業文化の伝達を行う。少数精鋭の圧倒的なリーダーシップを目標に、誰もがシティグループの一員として仕事を行う。シンプルだがブランドマネジメントにおいてとても大切な要素であり、素早い決断や間違いに早く対応できるという利点がある。
シティグループのブランド価値を活かしながら、そのブランドイメージを少数精鋭で創り、守りぬき、発信していく。大企業ならではのブランド管理手法であろう。
Morgan Stanley|ロゴデザインの重要性
1997年にモルガン・スタンレーとディーンウィッターが合併した当時の社名は「モルガンスタンレー・ディーンウィッター」であった。そして2001年にディーンウィッターを取り除いた「モルガンスタンレー」になった。リ
テール業務中心のディーンウィッターの名前を取るか、投資銀行業務のモルガンスタンレーの名前を活かすか、それとも新しい会社名を作るか、この名称変更の一連の流れには一年の歳月をかけて慎重に決定されたという。最終的に、モルガンスタンレーが持つ「グローバル・高品質なアドバイス・職務遂行能力」などプロフェッショナルなブランドイメージが優先され、現在の名前になった。
さらに同社を体現するスタイリッシュなロゴは彼らのブランドイメージである「信頼・明晰さ・ダイナミックさ」を想像させるには最高のものとなった。彼らが伝えたかったブランドイメージは、控えめな優雅さ、エレガント、清潔感を連想させるブルーのようなまるでヨーロピアンブランドを想像させるものだ。
さらにロゴをみると三角形のエレメントがあり、これは彼らのブランドイメージである「信頼・明晰さ・ダイナミックさ」を表しているのだと言う。また、「顧客・株主・従業員」という意味も含まれている。
ロゴデザインは単に美しさなどのビジュアルデザインではなく、ブランディングに欠かせない要素である。企業のメッセージを伝え、理解を促進し、他社に埋もれず、人々の記憶に印象を残す。まさに企業の存在全てを体現するものである。
FedEx|米国市場を基本に世界各地へローカライズ
全米で急成長を遂げた宅配業・フェデックス。世界中の宅配サービスではなくてはならない存在になっており、紫とオレンジで色付けされた派手なブランドカラーは人々に強い印象を与えることに成功している (ブランドランキング62位)。その成長力の原点とは「従業員こそがブランドを支える最も大切な存在」というシンプルなステートメントである。
つまり、従業員が最も働きやすい環境や待遇を提供すれば、その従業員はお客様に素晴らしいサービスを提供する。さらにそのお客様の満足度は会社に多くの利益をもたらしてくれることを意味する。
実際に、FedExブランド管理ディレクター・クリステンセン氏は従業員が集荷を行う際の勤務態度、街中での行動など顧客が体験するすべてのことがフェデックスブランドを作り上げていることに言及している。
さらに「従業員一人ひとりがブランド」だということを意識させるために、社内ブランディング教育は徹底されていることも、世界最大手の宅配サービスブランドを創りあげる要因になっているに違いないだろう。
それでは、外部に向けてのブランディング戦略はどうだろうか。基本的にフェデックスのグローバルブランディング戦略は米国本社で決定されており、米国市場でのブランディング戦略を基本において他の地域にローカライズされる。うまくそのブランド戦略が適応されない場合は、それぞれの地域ブランディング戦略を練り上げ、ブランドマネジメントを行う。
その際、各地域によってブランドイメージにズレが生じないように、ブランディング戦略の意思決定は全て一箇所のウェブ上で行われており世界各地のマーケッターがビジュアル・アイデンティティなど、最新のブランドガイドラインをつねに参照できるようになっている。つまり、フェデックスブランドで行われるありとあらゆる経済活動は徹底した一貫性を持って管理されており、強固なブランドイメージ構築に役だっている。
フェデックスが誇る従業員を根底においたブランド教育、米国市場を基本としたグローバルブランディングは、昨今のビジネスが複雑化するなかで正統派ブランディングの一つの指標として参考になるだろう。
IBM|ブランドのリポジショニング
「ビッグブルー」と呼ばれる巨大ブランド・IBM、青い色を見ただけで同社を連想させるブランド力はまさに圧倒的だ (ブランドランキング3位)。 一時は業績悪化におちいった同社であったが、1993年のCEOガースナーの時代におけるIBMは、米国ブランド史におけるもっとも輝かしい成功事例として今なお人々の記憶に残っている。
では、どのようにIBMブランドを立ち直らせたのか。それは「ブランドのリポジショニング」である。ターゲット市場の変化などによってブランドの位置が適切ではなくなった場合にブランドの方向性を修正し、再活性化させることだ。
ガースナー氏はまず、明確な市場志向、顧客志向を前提におき、同社が陥っていた柔軟性のない組織を立ち直らせ、「顧客の問題を解決する会社」としてブランドのリポジショニングを行った。
さらに、家庭用コンピューターの市場から撤退し、B to B顧客に絞った戦略を取った。そして、ブランドの方向性を「最先端技術・高品質・信頼・問題解決能力」に設定し、コンサル会社・PWCのIT部門を買収するなど積極的な新しいブランドイメージ構築にかかった。IBMは市場や顧客が求めているものに柔軟に対応し、企業ブランドの方向性を調整したことにより、危機を乗り越えたのである。
ブランドとは一体
以上、グローバル企業のブランディング戦略について取り上げた。いかにしてこれらの企業がグローバル企業に登りつめたのか分かって頂けただろうか。精緻なブランディング戦略によって導き出されるのは短期的な収益ではなく、長期に渡って企業の「最重要資産」となる。さらに、ブランドイメージは企業の存続、競争優位のもっとも大切な要因である。
製品はすぐに時代遅れになるが、成功するブランドは永遠である” – ステファン・キング(WPPグループ)
上記のWPPグループ・ステファンキングの言葉にもあるように、ブランドを創り、守りぬき、うまく伝えていけば「永遠の資産」となるだろう。こうした精緻なブランディング戦略を展開するグローバル企業の成功事例を参考にしながらぜひ強固な自社ブランドを確立し、グローバルブランドを目指して頂きたいと思う。
米国、サンフランシスコに2004年から拠点を構える弊社btraxでは、グローバルブランディングサービスを提供しています。tokyo@btrax.comまでお気軽にお問い合わせください。
https://blog.btrax.com/jp/global-branding/
筆者: Daiki Mochizuki|マーケティングアシスタント, btrax, inc.
参考文献
- パワーブランドカンパニー 山田敦郎著 (グラムコブランドマーク研究班 )
- ブランド・リーダーシップ -見えない企業資産の構築 – デービッド A. アーカー著
- ブランド・エクイティ戦略 – 競争優位をつくりだす名前、シンボル、スローガン – デービッド A. アーカー著
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