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-変革する航空業界- 空の上のイノベーション
様々な産業が新たなイノベーションを通して革新的なサービスや商品を提供しているのに対し、航空業界は10数年前と比べてみてみても、あまり大きな変化が無い様に感じられる。もちろんWebやアプリを通しての航空券購入やチェックイン対応などは進んでいる。
一方で、機内でのエクスペリエンスや、飛行時間に関しては大きな変化は見られない。エコノミークラスの座席の大きさは多少大きくなったかもしれないが、東京-サンフランシスコ間の飛行時間は数十年前と全く変わっていない。しかし、その航空業界にもそろそろ大きな変革が訪れようとしている。
終わりの無き価格競争
航空券を予約する時に最も重要視するポイントは何であろうか?恐らく多くの人は、価格と答えるだろう。同じ区間のフライトであれば、より安いチケットを購入する。
これは、ユーザーとしての素直な気持ちであろう。それに対応するかの様に、航空各社は、より安い価格でのフライト提供を実現すべく、努力を惜しまない。
しかし、様々な産業が新たなイノベーションを通して革新的なサービスや商品を提供しているのに対し、航空業界は10数年前と比べてみてみても、あまり大きな変化が無い様に感じられる。
もちろんWebやアプリを通しての航空券購入やチェックイン対応などは進んでいる。一方で、機内でのエクスペリエンスや、飛行時間に関しては大きな変化は見られない。
エコノミークラスの座席の大きさは多少大きくなったかもしれないが、東京-サンフランシスコ間の飛行時間は数十年前と全く変わっていない。しかし、その航空業界にもそろそろ大きな変革が訪れようとしている。
航空業界が変革のときを迎えている。
近年、あらゆる航空会社では価格競争が中心となっていることにより、価格以上のエクスペリエンスを生み出すサービスの発展が見込まれていない。つまりイノベーションが生まれない傾向に陥ってしまった。
この現状を問題視する業界人は増えており、新しい航空業界、飛行機での移動体験の在り方を見つけ出そうと、日夜議論が繰り返されている。
果たして、今後の航空業界は何を改善し何を生み出していくのだろうか。また、現状を打破するための新たな取り組みとは一体どのようなものがあるのだろうか。まずは、現在の低価格競争の実態を指し示す事例をみてみよう。
■増える長距離便、伸びる飛行時間
進歩しているのは航空会社だけではない。航空機メーカーも新しい機体を開発し、低燃費、フライト効率化による飛行距離の拡大を進めている。2015年現在で、もっとも飛行時間の長いフライトTop 10は:
10. ドバイto サンフランシスコ: 15時間50分
9. アブダビ to サンフランシスコ: 16時間15分
8. ダラスto 香港: 16時間20分
7. ドバイto ヒューストン: 16時間20分
6. アブダビ to ロスアンゼルス: 16時間30分
5. ドバイto ロスアンゼルス: 16時間35分
4. ヨハネスバーグto アトランタ: 16時間40分
3. ロスアンゼルスto ジェッダ: 16時間55分
2. ダラス to シドニー: 16時間55分
1. ドバイ to パナマ市: 17時間35分
■米国主要エアラインも低価格戦線に参戦!
先月、American Airlinesは基本オプション(機内食、飲料水提供など)をすべて排除した格安キャンペーンを2016年に行なうことを発表した。このキャンペーンはspritやPeachのような格安航空会社 (LCC) らとの低価格戦線に本腰をいれたことを意味する。現状のAmerican Airlinesは機内サービスを含めてspritと価格が同等だ。
今回発表したキャンペーンは、機内サービスを取り払うことでさらなる低価格を可能にし、顧客の獲得を目指すというものだ。AirefarewatchdogのGeorge Hobicaがいうように、もはや航空券の予約は「席選び」と「払い戻し」はできないことが基本となってきており、どんどんとサービスの質が低下すると述べた。長時間の飛行では空腹はもちろん多くのストレスを抱えることになる。
そういった移動が果たして好まれるのだろうか?いや、誰も求めているわけではない。欲を言えば現状のサービスで満足するかといえば、そういうわけでもないだろう。しかし、低価格競争は航空業界が望んでいるというわけでもなく実際のところ航空業界自体を苦しめている。具体的に航空業界の現状はどのようなものであろうか。
■「膝が、前の背もたれにつく…。」、コモディティ化する航空業界のジレンマ
今の航空券の価格では経営を成り立たせるためには、”密度”が求められる。簡単な話だが、1便に、より多くの人をに乗せなければ利益を生み出せないのである。「私の膝が前の背もたれにタッチしているのですが…。」というような状態も少なくない。
ここまで、席の感覚を縮めても、ある航路ではビジネスクラスのチケット1枚分の利益しか得られない。というのだから、低価格競争がどれほど熾烈なのかがわかる。
このように、コモディティ化が進行する航空業界ではあるが、乗客はこれまで通りのサービスを求めているのが現状だ。
航空業界の管理職として何十年も働き引退した方へのインタビューの記事でも、”顧客はWalmart (格安店) の価格でNordstorm (高級デパート) のサービスを求めているようなものだ”と述べた。
日本でイメージしやすいところで言うと、ドン・キホーテの価格で伊勢丹のサービスを求めているようなものということだ。さすがに無理があること一目瞭然だろう。
しかし、Emiratesでは低価格航空券でもサービスの質を保証させるために、政府から援助を受けているという。だとすれば、まだ話は優しい。しかし一方で、アメリカの航空会社には政府による援助がない。飛行に必要なコストの90%は原油価格にもかかわらず、その価格が高騰しようが、それに対する処置もない。
さらに、ロサンゼルスからセントルイスまでの1,500マイルの価格は$69。この驚きの価格は、もはやUber(タクシー配車アプリ)を利用して移動した場合と同じ価格だった。これではタクシー会社が飛行資格をもっているようなものだと揶揄されてもおかしくない。
このような状況でも顧客を獲得するためには低価格戦線に乗り込まなければならないのだから、低価格化を実現する方法がおかしくなってくることもわからなくもない。
■乗客を上下に配置してスペースの有効利用
左右、前後でどんなにギリギリまでスペースを詰めても、載せられる乗客の数には限りがある。それであれば、上下に配置してみたらどうだろうか? エアバス社が提出した特許申請書類には驚くべき図表が掲載されていた。なんと縦横席乗客の上部分にもう一段座席が配置されているのだ。ここまで来ると、どうにかしてでも、より乗客を積み込みたい航空会社の悲痛な叫びが聞こえてくる様だ。
ユニークなアイディアで差別化
そんな価格競争の激しい航空業界にあって、航空各社からは差別化をはかる為のユニークな施策アイディアが次々と出て来ている。新たなコンセプトで顧客に新しいエクスペリエンスと価値を提供するアイディア例をいくつか見てみよう。
■痩せていたら安いチケット代を買える!? 乗客は小包なのか?
機体重量を1kg減らせば、年間$100の燃料費用を削減できるという事実をもとに、Samoa Airは乗客の体重によって料金を変動させる施策を打ち出したことがある。(悪評がつきなかったが…。)これについてCEOのChris Langton は「重さは重さであり、どこまでいってもkgであるのだから、それは事実で最もフェアな考えである。」と。これには思わず、「人間は小包か何かか?」とツッコミをいれたくなる。
たしかに、USPS(unique selling proposition:ユニークなPR)ではあることは認める。しかし、”荷物を運ぶこと”と”人の移動”で求められる価値の在処は違うのではないだろうか。移動をデザインし、エクスペリエンスを与えることを求められる今の客室乗務員は、一体どのようなサービスを提供しているのだろうか。
■美女が耳元で囁くファーストクラス
客室乗務員によるサービスの質は旅行や移動で顧客が満足するためのエクスペリエンスを創出する為には不可欠だ。では、一体どのような工夫がなされているのだろうか。
Virgin Atlanticのファーストクラスでは、客室乗務員は乗客に、”こしょこしょ話し”をするように指導しているという。さらに、Singapore airlineでは、カレンダーのモデルになるほどの美人ばかりをキャビンクルーとして集めて運航しているという。
Emirates では客室乗務員に美しく若い子を採用し、色気のある制服を着せる。需要はあるのかもしれないが、これだけ読むと、果たして移動にこのエクスペリエンスが最適なのかということに疑問を持たざるおえない。こういったサービスが一般化してきていること自体が航空業界の変革を急がせているのかもしれない。
■3Dカプセル型の客席コンセプト
前出のエアバス社による乗客を上下に配置するコンセプトに近いが、高級感が全く異なるデザインとして、ロンドンのデザイン会社、factorydesignが考えた、エアバスA380機向けAir Lairのコンセプト案もある。こちらは、カプセル型の客席を上下に配置する事でプライバシーを保ちながらも、客席数を稼ぐ事が可能だ。
今後より顧客の満足度を高める為には、格安チケットを販売するために、まずいご飯を提供したり、スナックをなくしたりするなど、コストダウンで利益を生み出すだけでは将来性は高く無い。
これからの航空会社は現状を見直して、これまでにはない価値を生み出していかなければならないのではないだろうか。航空業界の革新を目指す人達は、一体どのような議論をしているのだろうか。
航空業界を変える5つのアイディア例
1926年からあらゆるインテリアをデザインし、数々の革新的な価値を提供し続けて来たTEAGUEの現ブランド戦略長Devin Liddellは、「0から航空会社の在り方を創れるとしたら、どうする?」と現代航空産業界の人々に問いかけた。
コンセプトは「航路をより楽しみめるような価値を生み出す」といこと。それは未来の航空業界のありかたを深く考えさせるものだった。Liddellが実現可能と考える、新たな仕組みはどのようなものだろうか?本人が提案した直近に”実現できる3つの対策”を紹介しよう。
■キャリーバックの持ち込みは禁止に
TEAGUEはキャリーバッグの持ち込みを廃止したシミュレーションで71%もの時間を短縮することを実証した。これは航空会社にとっても乗客にとっても価値がある。
航空会社は乗り換え便を増やすことができ、乗客は席に座るまでのトロトロと歩く時間をなくすことができる。さらに、小さい物入れにすることで重量を3,000ポンド減らすことで、年間2,500万ドルの燃料コストを削減できる。
実際、航空会社は一人につき平均$18の補助的な支出をしいている。それはドリンク等ではない。Liddeleは、このお金を使い、もっと生産的なサービス提供ができるとした。手荷物は検査場で乗客に取らせることなく、ホテルまでおくることくらいはすべきだともいう。
■最新のVRデバイスで異次元の飛行体験を
オーストラリアのカンタス航空は、シドニーとメルボルン発の国際線フライトに対し、空港ラウンジとファーストクラスの乗客向けに、様々な疑似体験を可能にするヘッドアップ型VRデバイスを提供している。
このデバイスはサムスン社が提供する者で、ゴーグルとヘッドフォンがセットになっている。長時間フライトの乗客に対して、まさに異次元のフライト体験をしてもらうのが狙いである。
■中間座席はプロモーションシートに
窓側でも通路側でもない、誰もが嫌がる真ん中の席はプロモーションシートにして、企業の協賛を募り、お得感を味わえる施策を始めるべきだという。例えば、ユニクロは機内を快適に過ごせる衣類、ナイキは機内で靴の注文を行なえば20% offになるとか、SONYであれば未発売のゲームが出来るとか。企業のプロモーションにもなり、奇しくも同価格で中間座席を買うはめになったかわいそうな乗客にとっても楽しめる空間に様変わりする。
■可変型座席でフレキシブルなニーズに対応
それぞれの乗客の体格の違いに対して、座席が適切なフォーム可変する新たなコンセプト。例えば体格の大きな大人と子どもが隣になった場合、座席の幅を大人向けに大きく変更する事が出来る。また、航空会社にとってみても、となりの空いている座席を広く使ってもらうプレンを提供することで、乗客に追加料金をチャージする事も可能になる。
■オープンイノベーションを通し、外部の会社との協業を行う
外部のプレイヤーと組む事で、Amazon primeやMy Starbucksが生み出されたように、航空会社も工夫次第ではオープンイノベーションが実現可能だという。900万の会員数を誇るマイスターバックスはインターネットだけで数億円を稼ぐことに成功し、amazon会員は2日のプレゼント旅行というプライオリティだけで約4億円の売り上げを獲得した。
これらの成功例を航空業界に当てはめてみる。たとえばスポーツリーグのファンのように、メンバー・業界を構成する一人であるという幸福を与えるのだ。それを真っ先に実行に写したのが、Poppiだ。PoppiはNFLやNBAのチケット売買ページに存在するプラットフォームを例に、他の乗客と席を交換できる仕組みづくりをした。
これらの取り組みのいくつかは、すぐにでも実行可能だ。しかし、これらは航空業界を革新させるための最初の一歩でしかない。5年、10年後には、飛行機を利用した長距離移動に対する人々の意識、関わり方は確実に変わっていくだろう。
それをみこして誰が先手をうち、イノベーションを起こせるかが今後の航空業界での明暗をわける鍵となってくるのかもしれない。イノベーション創出サービスを提供するbtrax社でも、他の業界に加え、航空会社との共同で次世代のフライト体験を提供する事を一つの目標としている。
まとめ
これまで述べて来たように、航空業界には変革が求められている。顧客が知らない価値、エクスペリエンスを創出していくことが、その産業を担うということであり、自らを低価格競争という悪夢から解放する事にも繋がるからだ。
今後、長距離での移動が生活の一部として、より密着してくることだろう。航空業界も乗客も単なる移動をどうやってデザインしより価値のあるものにするのかを考え行動していくことができれば新しいエクスペリエンスを得られる日も近いかもしれない。
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