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日本企業の課題へのデザイン思考活用方法【dely 坪田氏 x btrax Brandon対談】
近年重要性が高まっていると聞き、イノベーション・デザイン思考を学んでみた、実践してみた。しかし、イマイチスッキリしなかった、そんな経験をお持ちの方は多いのではないだろうか。
その原因には、日本企業独特の共通する課題があるようだ。では、課題を解決するためにはどうすれば良いのだろうか。この分野のエキスパートたちによるイベントの登壇内容から、そのヒントが得られるかもしれない。
今回は『Technovate Night Produced by GLOBIS #1 ~テクノベート時代における「思考」にデザインシンキングが必要になるワケ~』に、Basecamp代表、dely株式会社のCXOの坪田 朋氏と、btrax CEOのBrandon K Hillが登壇した内容を基にしている。日本企業が抱えるデザイン思考の課題、そしてその解決策を中心に掘り下げていく。
登壇日:2019年7月10日
場所:TECH PLAY SHIBUYA(東京都渋谷区)
登壇者:Basecamp 代表 / dely株式会社 CXO 坪田 朋氏(@tsubotax)
btrax CEO Brandon K Hill(@BrandonKHill)
モデレーター:学校法人グロービス経営大学院 常務理事 村尾 佳子氏(@muraokeiko)
デザイン思考、その定義は?
まず二人に、デザイン思考と呼ばれているものをどのように定義しているのかを聞いてみた。
Brandon「そもそも定義したことがない。」
Brandonは、改めて定義を考えたことがない、との回答。というのも、彼がこれまで拠点としてきたシリコンバレーは「デザイン思考」と体系立てた名前をつけなくとも、「デザイン思考」がネイティブ言語のように当たり前のように実践されている環境だからだ。
とはいえ、あえて定義するならば、キーワードとして「ユーザー視点で考えること」「答えはユーザーが持っていると認識すること」「ユーザーが発する言葉だけに捉われず、彼らの内面を深く洞察すること」の3つが挙げられると述べた。
坪田氏「定義はさまざま。重要なのは流れを理解すること。」
また、坪田氏は、デザイン思考には定義がさまざま存在するという。しかし、ユーザーやクライアントの本質的なインサイトを読み取り、それらをベストな形のアウトプットにする流れがデザイン思考だと定義づけている。
この例として、Brandonが、ユーザーが欲しがるものを考え抜いてプロダクト化したものだ、と絶賛するスーパーカブを挙げる。
誕生の背景には、出前の際にそばが伸びないうちに届けたいというそば屋の声があった。つまり、安全性とスピードが求められたということ。このニーズをプロダクト化した結果、片手でも運転ができる乗り物として、スーパーカブが開発されたのだ。
正直、スペックの高さや見た目の良さはイマイチかもしれない。それでも、「安い」「使いやすい」さらに「故障しにくい」と三拍子揃った乗り物であるスーパーカブは、ユーザーが本当に何を求めるているのかを考え抜いた結果だと言える。
日本は「デザイン思考先進国」だった?
スーパーカブが誕生した当時、当然日本には、いわゆる「デザイン思考」という言葉自体は存在していなかった。しかし、ユーザーのインサイトを掴み、アウトプットにするという流れを実施していたという意味では、近年で言うところの「デザイン思考」的アプローチだった。
この概念をフレームワークとしてデザイン思考という名前で体系化したのは、デザイン・ファーム、IDEO。日本で近年重要性が叫ばれる「デザイン思考」は、まさにこれだ。
しかし、実際は、「デザイン思考」という名前がつき、なんだかイケてる西海岸フレーバーと共に日本に導入された、ただそれだけのこと。「デザイン思考」は、もともと数十年前から日本が先行して実践していたと言えるかもしれない。
日本企業特有の「守りの姿勢」がイノベーションを阻む
ここからは、対談を通して見えてきた、二人が共通して持つ日本企業が課題について。シリコンバレーに代表される企業にはない、日本企業独自の文化や、組織体制が原因となる課題がいくつか見えてきた。
1. イノベーター不足
まず、日本はイノベーションが起きにくい環境であるということ。そもそも、イノベーターがいないことが原因だ。日本企業はイノベーションに飢えていると坪田氏は述べる。イノベーションを起こしたい、起こさなければいけないと思いつつ、それを実現する力を持っていない。
また、新規事業とイノベーションは同じではないことを理解する必要がある。単に新しいことを生み出せば良いというわけではない。イノベーションとは、新しいモノを創ることではなく、新しい価値を創ることだ。
例えば、既存のプロダクトの販売方法を変えたり、既存のサービスでも、新しいタッチポイントをつくってユーザーに新しい価値を体験させたりすることも、イノベーションと言える。イノベーションは、必ずしも破壊的である必要はないのだ。
新規事業以外にも、イノベーションを技術革新と同じものとして認識している方もいるかもしれない。そんな方には、ぜひ以下の記事を読んでいただきたい。
関連記事:イノベーション=技術革新はもう古い!新たな価値を創造した9事例
日本企業にも松下幸之助や本田宗一郎などのイノベーターが存在した。しかし、残された今の世代は、彼らの功績を目にしていない。イノベーターのロールモデルを知らない今の従業員は、保守的でリスクを冒さない行動をとるとBrandonは指摘する。
また、イノベーションをイノベーションと捉えていないケースも存在するという。例えば、プロダクトの内部に日本製の部品が使われていても、見た目が海外製であるために、それに気がつかないというパターンだ。
かつて、アップル社のiPhoneやiPodの内部にも日本製の部品が使われ、大きなシェアを占めていたことがある。しかし、アップル製品はイノベーティブと言われる一方で、内部部品を造っていた日本は脚光を浴びることが少なかった。
イノベーションを自覚する機会が少ないことは、組織の体制や従業員の仕事への取り組み方にも少なからず影響を及ぼしているようだ。
2. 現在の業績に満足し、未来への投資を怠る
ここ数年の日本企業にみられるように、会社の業績が良く、経営が上手くいっている場合、そもそもデザイン思考に必要性を感じていないケースもある。わざわざ新しいことにチャレンジをせずとも、組織を維持できるという発想を持っている可能性がある。
しかし、そのまま未来への投資を先送りにしていると、そのツケは必ず企業の衰退という形で現れてくる。
関連記事:現代における大企業の平均寿命は15年 – 生き残り戦略としてのイノベーション
3. リスクに対するインセンティブが設計されていない
日本の大企業でイノベーションが起きないのは、インセンティブが見込まれないからだと坪田氏は指摘する。インセンティブとは、会社が設ける報酬や昇進のような施策のこと。インセンティブがあることで、業務に対する社員のモチベーションが上がることが期待される。
多くの日本企業で働く人は、新しいことをやって成功した時の“ご褒美”よりも、失敗した時の“ペナルティー”の方を恐れている。
また、自社が持つアセットを使うことができる場合でも、最終決定までに多くの人に許可をもらわなくてはならない組織構造が課題だ。自分の身が守られている状況で、さらにはインセンティブが見込まれないと分かっていながら、わざわざ攻めの姿勢をとることは、ほとんどないだろう。
さらに、高齢化問題も存在する。日本企業の経営陣など、意思決定部署に所属しているのは、あと10年もすれば定年を迎えるといったところの比較的年齢層の高い人たちだ。そのような人たちがわざわざリスクをとってまで新しいことに手を出すことは稀だ。
リスクを冒して成功するのかどうかわからないことをやるよりも、この先の10年、トラブルなく進めば良い、彼らはそう考えているのかもしれない。だからこそ、デザイン思考やイノベーションなどとカタカナの並ぶ「よくわからないもの」を持って来られても、必要性を感じず、ゴーサインも出さない。
関連記事:なぜ日本の大企業にイノベーションチームが必要なのか?
デザイン思考がワークし、イノベーションを生むには
では、さまざまな課題を抱える日本企業で、デザイン思考を通じてイノベーションを起こすためにはどうすべきなのだろうか。対談から、そのヒントが見えてきた。
自社が持つアセットを理解すること
自社の理解なしに自社を成長をさせることはできない。幸いにも、日本の大企業には歴史とともに蓄積させてきたアセットが豊富にある。それ活かすために、Brandonは「クロス構造」でのアプローチが効果的を提案する。
「クロス構造」とは、顧客と事業、新規と既存という視点で分け、それぞれを掛け合わせてビジネスを考えること。具体的には、「新規顧客×既存事業」「既存顧客×新規事業」だ。
「既存顧客×既存事業」では言うまでもなくイノベーションを起こすことは不可能。反対に、「新規顧客×新規事業」はリスクが大きく、守るものが多い大企業がチャレンジするメリットが見込みにくい。これはスタートアップが取るケースでもあり、大企業の勝ち目は少ないだろう。
自社の持つアセットを理解し、新規と既存のバランスを取ることで、大きなリスクを冒さずともイノベーションを起こすことができるかもしれない。
日常的なトレーニング
2つ目は、日頃から取り組むことができるものだ。デザイン思考はマインドセット、一日にして成らず。日常的なトレーニングで感覚を養うことができる。
Brandonは、日常生活の中で、マイナスを我慢しないことから始めるべきだと述べる。不満に思うことや、こうなったらいいのにと思うことに敏感になること。そして、そのマイナスを解消する策を考える姿勢を持つこと。
例えば、サンフランシスコのスタートアップが提供する「MealPal」というサービス。サブスクリプション型で、レストランのランチを平日限定でお手頃な価格でテイクアウトできる。
これは、生活コストが高騰するサンフランシスコエリアで、ランチにかかるコストも高くて困る、という悩みを解消するために生まれた。また、出来上がったものをテイクアウトするため、待ち時間を無くしたり、1店につき1メニューという制約があるおかげで、必要以上に迷わなくて済む設計になっている。
このように、不満を解消したいという思いから、イノベーションのアイデアが生まれ、サービスとして誕生した事例もある。
関連記事:【UX分析】ランチの格安サブスクサービス MealPal
また、坪田氏は、デザイン思考の際は、自分が思い入れを持たなければならないという。一方、その思い入れが強すぎると失敗する可能性も指摘する。物事をフラットに捉えることが大切なのだ。日常生活で抱く不満に目を向けてみるのと同時に、それらを客観的に捉える冷静な視点を持つことを心がけるべきだ。
デザインへの情熱を持つ
最終的に大切なのは、デザインを使ってイノベーションを起こしたいと本当に思うかどうか。やっているフリをしているだけ、浅い意識ではイノベーションを起こすことはできない。
Brandonは、大学時代にデザインの勉強を始め、その価値を知った。当時は、デザイナーの地位がまだ認められておらず、歯がゆい思いをしたと同時に、デザインをもっと理解し、活かしていくべきだという気持ちを抱いたという。
坪田氏は、日本企業が培ってきたアセットとその功績の大きさは間違いないものだと断言。そのアセットを活かしきれていない現状を打破し、盛り返したいと述べる。多くの人が使うサービスをつくり、その先に彼らの人生を変える経験をつくりたいと語った。
デザイン思考を、単にメソッドとして捉えるのではなく、マインドセットだと認識すること。そして、デザインやユーザーへの興味を持ち、熱量を持つことが重要だ。
関連記事:ここがちゃうねんデザイン思考。5つの違いを理解してモヤモヤを解決
まとめ:自社の理解とイノベーション・デザイン思考の正しい理解が必須
Brandonと坪田氏の対談をベースに、日本企業がイノベーションやデザイン思考の活用について抱えている課題と、その解決のヒントについてまとめてきた。
デザインの力を信じている二人だからこそ、今の日本企業が持つ課題をシビアに指摘した。自社を理解した上で、ユーザーやクライアントが抱える問題を本質的に見極め、情熱を持って取り組む姿勢を持つことが重要だと言えそうだ。
デザイン思考は、スピード感を持ってプロセスをこなし、失敗をもポジティブに捉えるマインドセットを持つ。日本企業にとっては新しい試みとなるかもしれないが、その力は効果を現し始めている。
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